しっかりとそういうことを書くのであれば、ある程度は吹奏楽の曲もわからないといけないなぁと思い、どうするか悩み中です。
【初出】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24584440
4月。それは、出会いの季節。
学校、会社――どれもこの月から新しい年度が始まり、それに伴う出会いがある。
私も例にもれず、この4月から新社会人。1週間前から通っている学校へと、今日も歩みを進めている。
7年前、新しい環境へ飛び込み、「高校生」としての人生が始まった。その始まりに胸を躍らせながら歩いた道。そして、激動の3年間を過ごした道でもある。
4年経っても景色はほとんど変わらず、当時のままだ。変わったことといえば、私の代が卒業するときに記念樹として植えられた桜の木くらいだろうか。劇的な変化ではないものの、桜の木は確かに成長し、美しい花を咲かせている。
今日は始業式。新任教師として、生徒たちの前に立つ初めての日でもある。
体育館に整然と並ぶ生徒たちを教師として外から眺めると、高校2年生や3年生が、こんなにも幼く見えるとは……。
数年前まで私もあの中にいたなんて。そう考えると、不思議な気分になる。
「それでは、本年度より新しく本校で教鞭をとる先生を紹介します。」
教頭先生の言葉に促され、体育館の壇上へと向かう。横に備え付けられた階段を上り、中央に設置されたマイクの前に立つ。目の前には生徒たち――
うわ、こんなにいるんだ……!
500人弱と数字では理解していたものの、実際に目の前にすると圧倒される。緊張で喉が渇き、ごくりと唾を飲み込む。そして深呼吸。
「初めまして。黄前久美子です。今年より国語科の教員として赴任しました。よろしくお願いします。」
京都府立北宇治高等学校の国語科教員――
それが、私の新たな肩書だった。
§
2022年4月1日――時は少しさかのぼる。
今日から、私は正式に北宇治高校の職員となる。
新年度のスタートにあたり、今年から同僚となる先生方と職員室で顔合わせを行うことになっていた。卒業してからまだ4年とはいえ、すでに半数近くは知らない顔ぶれとなっている。
そんな中、恩師である二人がまだ北宇治に残っていると知り、私は心からほっとした。
全体への挨拶を済ませた後、すぐに顔なじみの二人の元へと向かった。
「また、お世話になります。よろしくお願いします。」
「北宇治へお帰りなさい。黄前……いや、黄前先生と呼ばねばだな。同じ教員を目指してくれていたからいつかは…とは思っていたが、まさかこんなに早くなるとはな。」
松本美知恵先生。高校時代に3年間、私のクラス担任だった先生だ。
鋭い眼光、威勢のある声色、そして厳格な言葉遣い――その威圧感から、『軍曹先生』の異名を持つ教師だ。
前からやや白髪が混じっていたけれど、それもだいぶ増えてきたように見える。心なしか、しわの量も増えている気がする。それら全てが、彼女が長年の経験を積み重ねてきたことの証だ。
「えへへ……私もまさか北宇治に配属になるとは思っていませんでした。美知恵先生も滝先生もまだいらっしゃったので、とても嬉しいです。」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。私も、また黄前さんと一緒に音楽に携わることができるのは楽しみですよ。」
そう告げるのは、身長180cmを超える男性教師だった。
私が生徒のころから、その甘いマスクは一部を除いてとても人気だった。そして、40代にさしかかった今でもその人気は健在らしい。
滝昇先生。北宇治高校吹奏楽部の顧問教師を務めて、今年で8年目を迎える。
赴任してわずか3年で吹奏楽部を全国大会金賞へと導いた敏腕指導者として、吹奏楽界隈ではかなり有名になっていた。もちろん、その後も順調に結果を出し続けていたわけではない。全国大会金賞は、私の代とその次の年の2回だけに留まっている。それでも、赴任前の北宇治吹奏楽部のことを思えば、強豪校として完全に生まれ変わったのは間違いないのだった。
「さて、懐かしむのはこのくらいにして。先ほど教頭先生からも話があったように、黄前先生には、吹奏楽部の副顧問と、私のいる2学年の副担任をお願いすることになります。国語科教員として必要なことは同じ国語科の先生方に教えてもらうとして、それ以外の北宇治高校の教員としてやるべきこと、そして吹奏楽部副顧問としての仕事は、私がレクチャーすることになっています。よろしく頼みます。」
「はい!」
高校時代を思い出し、美知恵先生に思わず大きな声で返事をしてしまう。
生徒たちが同じように返事をしているのを見慣れている職員室の先生方は、その光景を微笑ましく眺めていた。
「ところで黄前先生。あなたなら音楽教員の免許を取れるほどの音楽知識を大学で学ぶ機会があったはずですが、なぜ国語科の教員に……?」
滝先生の質問に、私は思わず視線をそらしてしまう。そして横で呆れたような仕草をする美知恵先生。
私が音楽科の教員にならなかった理由は…至極当然のものだった。
「あのですね……実は大学にいる時、音楽教員になるために必要な単位を取り損ねてしまいまして……あ!成績が悪くてではなくてですね、単に必要な単位を見落としておりまして……」
「私も教育実習に来た黄前からその話を聞いたときは思わず頭を抱えましたが……まあ、もともと黄前も『音楽の教師になりたい』という考えで大学を選んでいたわけではないですし、仕方がないでしょう。」
「なるほど、そういうことでしたか。でも、ある意味、それは幸運だったかもしれませんね。」
「どういうことです?」
私の大学時代の失敗を『幸運』だと表現した滝先生に、疑問を抱いて尋ねる。
「黄前先生が音楽の教員を目指していたのであれば、申し訳ない話ではありますが……もし音楽の教員になっていたら、私と松本先生、すでに2名の音楽教員がいる北宇治には配属されなかったでしょう。その場合、私は再び黄前さんと音楽をする機会を得られなかったかもしれません。だからこそ、『幸運』と表現させてもらいました。」
「なるほど…そういう考え方もあるんですね。」
「私としては、可能性を減らさないためにも、『見落としていた』なんてことは避けてほしかったですが。黄前、今後は生徒に教える立場ですよ。そのこともしっかり自覚してもらわないと困ります。」
「は、はいぃぃ……!」
美知恵先生からの軽いお叱りを受け、私は背筋を正しながらも少ししょんぼりしてしまう。
こうして、恩師二人への挨拶は幕を閉じたのだった。
§
「では、そろそろ行きましょうか。黄前先生」
「はい」
始業式後の部活が始まり、少し時間が経ったころ。基礎合奏の練習が終わる時間帯だ。
音楽室の方向から聞こえてくる音は、高校生だったころと変わらない基礎練習の音。その響きに懐かしさを覚える。
今聞こえているのは、確か終盤に行っていたものだ。
「基礎合奏は私がいたころと変わっていないんですね」
「そうですね。ただ、少しずつ細かい変更はしているかもしれません。今度、改めて楽譜を共有しますね」
「ありがとうございます」
職員室から音楽室へ向かいながら、滝先生に今日の部活のスケジュールを確認した。
基礎合奏が終わった後、私は部員に紹介される。その後はパート練習で今日の活動は終了する予定とのことだ。
パート練習の時間には、私が各パートを回り、今の北宇治の練度を確認することになっているらしい。この件はすでに幹部とパートリーダーの間で合意済みだそうだ。
新入生を迎える準備に入る前に、少しでも今の部の状況を知ってほしいという生徒たちの強い希望によるものらしい。
音楽室に到着した時点で、基礎合奏はまだ終わっていなかった。
昔から変わらず、途中で引っかかりがちな扉を開け、顧問と副顧問の3名で入室する。
合奏隊形の最後列に配置されるパーカッション隊のさらに後ろ側で、邪魔にならないよう控えた。
前方で基礎合奏の指示を出していたポニーテールの生徒がタクトを置いたのを確認し、滝先生、美知恵先生、そして私の順で部員たちの前へと進む。
滝先生は指揮台に上がり、副顧問の二人はその隣に立った。
「冴羽さん、基礎合奏練習ありがとうございました。私から話をする前に、部長から何か連絡事項はありますか?」
滝先生の問いに応じて、ホルンを持った女子生徒が立ち上がった。
つけているスカーフの色は青――3年生だ。
「いえ、私からは特にありません」
背筋を伸ばしたその姿は、私より少し背が高く、艶やかな黒髪のボブカットが印象的だった。
彼女の視線はまっすぐに私へと向けられている。いや、それだけではない――吹奏楽部全員の目線が滝先生ではなく、私へと注がれていた。
「ありがとうございます。皆さんも気になっていると思いますので、早速紹介します。午前中の始業式でも挨拶いただきました黄前先生です。今年から松本先生に加えて、黄前先生にも吹奏楽部の副顧問を担当していただきます。」
「それでは黄前先生」と促され、滝先生が指揮台から降りる。
軽く頷き、私は指揮台へと上がった。
部長や1年生指導係として前に立った経験はあったが、その緊張感とはまるで違う。
あの頃は生徒同士で近い立場だった。しかし今の私は教師――生徒とは一線を引かれた、大人という存在なのだ。
ふぅ、と一呼吸置き、70名ほどの生徒たちへ視線を向ける。
「皆さん、改めまして初めまして。黄前久美子と言います。今年から教師になったばかりの1年目です。担当教科は国語ですが、この吹奏楽部の副顧問を務めることになりました。よろしくお願いし――いてっ!」
挨拶を終え一礼した瞬間、譜面台に頭をぶつけてしまった。
しょっぱなからやってしまった…。
焦る私を見て、またしても頭を抱える美知恵先生。
生徒たちもその光景を見てクスクスと笑い出す。
部長であるホルン奏者は不安げな表情を浮かべ、「本当にこの人大丈夫なのだろうか」と言いたげな顔をしている。
「では、私から補足説明をさせていただきます」
簡単な挨拶を終えた私を微笑みながら見守りつつ、滝先生が再び話し始める。
「黄前先生は、私が北宇治高校に赴任した年に吹奏楽部に所属していた1年生でした。まだ部活に慣れない中、私が大幅に変更した部活の方針に、先輩以上に困惑し、苦労を掛けたと思います。それでも彼女は真摯に演奏に向き合い、1年生の頃からコンクールメンバーとして活躍してくださいました。そして3年生の時には部長を務め、全国大会で金賞受賞を目指して尽力してくださいました。私が北宇治で初めて3年間共に過ごした生徒と、皆さんと音楽を作り上げていけることを、とても楽しみにしています。」
「滝先生……ハードル上げないでください……」
「黄前先生。全国大会金賞は、あなたが部長をしていた年とその翌年以外では取れていません。今年も生徒の皆さんがそれを目標にするならば、当時の経験を活かしてご協力をお願いします。」
「は……はいぃ」
滝先生の言葉に、ますます高くなったハードルを実感しつつ、私は自信なさげに返事をするのだった。
「もしかして……伝説の黄前部長ですか……!?」
「えっ?伝説?」
ホルンの部長から出てきた「伝説」という言葉に、私は思わず口をあんぐりと開けてしまった。
1人称視点か3人称視点か、どっちで書くのがスムーズにいくかなかなか決められず、視点が話によってふらふらすると思います。
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