あたり一面が真っ赤だった。
視界全てを埋め尽くす赤い影。それら全ては全く同じ赤い装束に身に包んだ同胞たちだ。その全員がクナイや鎖分銅など、各々1番得意な武器を持ち、たった1人の、銀色の侍に立ち向かう。
ガチャリ
両手が重い。
まるで幼稚園児くらいの私の手にはしっかりと小太刀が握られている。
———そうだ、私も彼らの一部だった。
私たちはまるで一つの生き物かのように動き、そして、死んでいく。しかし、恐怖はない。私たちはただの道具なのだから。
◆
目が覚める。右手を顔の前に持ってくると、そこは大人の手だ。酷く変な夢を見た気がするが、思い出せない。いつものことだ。
ベットから起き上がり、パジャマから着替える。ジーンズとシャツ、没個性な地味な服だ。手櫛で肩口まで伸びた髪を手探りで直しながら部屋を出た。
「ん?」
その瞬間、不快な臭いが鼻をついた。
嫌いだが嗅ぎ慣れてしまったものだ。臭いはリビングの方から漂ってきており、他にもガチャガチャと聴き慣れた音が聞こえてくる。
しかし、この家には私1人しかいない。便宜上、養父と2人で暮らしているのだが、私が15歳を超えてから仕事に行ったきり帰ってこない。チャットアプリでやり取りはしているが、かなり忙しいみたいだ(私が大きくなるまで無理して帰ってきていたのだろう)。
そのため、本来なら誰かいるはずは無いのだが……。
「フィン、何やってるの?」
リビングに入ると日本から取り寄せた座卓ではんだ付けをしている少女がいた。長い黒髪は
彼女はフィン・メイソン、私の数少ない友人だ。何故かこの家の合鍵を持っており気がついたら半分居候状態となっている。
「これ、拾ったの」
フィンは作業していた機械を右手首につけると、リビングの壁に掛けてあるダーツの的に向けて手を伸ばした。そして、ピュッと、白い糸が放たれ、的から大きく外れて壁にへばりついた。まるで蜘蛛の糸……。いや、
「スパイダーマンの?」
「そう、ゴミ捨て場に落ちてたから。貰ったの」
いや、貰ったって……。それ犯罪じゃ……。
まぁ、本物なわけ無いし、大丈夫かな?
「だから、ゴミ捨て場に落ちてたってことは要らないってことでしょ?だったらわたしが貰っても問題ないわ。」
……フィンは頑固だ。こうなっては説得は厳しいだろう。
それに、スパイダーマンというのはフィンにとって
「バレないようにね。まぁよく出来たオモチャみたいだけど、流石にステイシーさんにバレたらまた怒られちゃう。」
「ええ、分かっているわ」
私の言葉にフィンは小さく笑った。ステイシーさんはこの辺りに住んでる警察署長だ。もともとは養父と友人で信用できる警察として紹介された。それ以来、口うるさく怒られている。
こないだも夜中にドローンを飛ばして遊んでいたら怒られた。
「けど、怒られた方がいいかもしれないわ。これ、多分、本物よ。」
「は?」
「これでも、わたしも驚いてるわ。気がついた時、30分くらいフリーズしたもの。」
無表情で淡々というフィンだが、付き合いの長い私からすると、かなり動揺していることが分かる。しかし、スパイダーマンの装備が捨ててあるなんて思えない。
「メグが昨日寝た後、実はこの部屋は蜘蛛の巣だらけになったんだけど。約2時間で糸は消失したわ。この意味分かる?」
スパイダーマンの蜘蛛糸は2時間で消える。それはニューヨーク市民であれば周知の事実だ。この5年間、街を守り続け、言葉は悪いが蜘蛛糸を撒き散らして来たのだから、その性質は広まっている。
しかし、一方でその蜘蛛糸の性質を解明して模倣出来た人は現状いないらしい。
「……けど、誰かが作ったのかも。街中に残ってる蜘蛛糸を解析してさ」
「それでも、よ。
「そんなに?」
「ええ。元スーパーヴィランの助手が言うんだから間違いないわ。それに厄介ごとはごめんだわ。サンプルも取ったし、早く警察に任せましょ」
そう言ってフィンは機械をボロボロのリュックサックに入れた。リュックの中からは赤いスパイダーマンのスーツが見える。
てか、サンプルは取ったんだ……。面倒ごとは避けたいのにサンプルはって、なんか、そういうとは彼女らしいのだろうか?
「……まぁいいや。警察ならステイシーさんに渡すんでしょ?署まで送るよ」
「ええ、お願いするわ」
警察にも犯罪者はいる。
いや、むしろ警察の内部だからこそいるのだ。警察に政治家に、大会社、ありとあらゆる場所にヴィランは潜り込み、市民を狙っているのだ。だからこそ、信用できる人というのは大切だ。
この人なら大丈夫、この人は嘘をついていない。たとえヴィランであっても自分のことは売らないだろう、そう信頼できる相手を見つけることが大切なのだ。
その点、ステイシーさんは父の紹介だし問題ない。
「……………ステイシーさん、電話に出ないわ」
スマホを耳に当ててフィンは首を傾げる。ステイシーさんは署長なのだから電話に出られない時もあるだろう。
「メッセージだけ送って、先に署に向かっておきましょう。最悪、署長室に忍び込んで置いておけばいいでしょ。ヘルメットはある?」
戸棚からフルフェイスのヘルメットを取る。その隣にはジェットタイプのヘルメットが置いてある。どちらも私用だが、フィンも使えないことはない。
「ええ、問題ないわ。今作るから」
そういうとフィンは首のチョーカーを操作する。すると、ピピピという音と共に紫色の光がフィンの頭を包み、実体化、フルフェイスのヘルメットとなった。
これは彼女が開発したフォロシステムだ。彼女曰く、特殊エネルギーを物質化するものらしい。エネルギーはすぐに霧散してしまうため、チョーカーで特殊な電磁波を送って維持し続ける必要があるとか無いとか。
作れるものは全て紫一色というのが本人曰く気に入らないみたいだが、それでもすげぇ便利だ。売ればかなり儲かるのだろが、本人は面倒くがってやらない
「じゃあ行こうか」
バイクに乗り街を走る。後ろにはフィンがしっかりと捕まっている。私もフィンも慣れており、なんの問題もなく街を駆け抜ける。
見慣れた道、乗り慣れたバイクで駆け抜けけ、警察署へと辿り着いた。警察署へとたどり着き、フィンは再度、ステイシーさんに電話する。
「………あ、ステイシーさん。私、フィンです。実は……え?はい、はい。…………………はい。」
電話を切るとフィンは静かに言った。
「………グウェンさんが、意識不明で見つかったそうよ。今、病院だって」
グウェンさん。グウェン・ステイシー。ステイシー署長の娘さんで、大学生だ。とても優しく、明るい人だった。試験勉強から家事のやり方まで、私達の、そう、姉のような人だ。
「………お見舞いいく?」
「………そうね。」
バイクの後ろでフィンは力強く私の腰を掴んでいた。
キャラ紹介
メグミ・ハラダ
日本人。10歳の時に養父が仕事の関係でニューヨークに移住。小さい頃は2人で暮らしてたが、今は養父は仕事でほとんど帰って来ないため、事実上一人暮らしである。
※苗字は養父のものである。
フィン・メイソン
メグミの友人。
発明好きの高校生。感情の表現が苦手で、友達は少ない。父が犯罪者であり、スパイダーマンの手によって牢屋の中である。