迫真スカーレット部 果てしなきウラワザ 作:迫真スカーレット部
死者の国においてすべての物が目指すという『見果てぬ場所』。何があるかも分からない場所だというのに誰もが向かうことを止められない。
その場所へと続くと言われる山々の8合目付近に豪奢な城が建っている。古今東西、あらゆる時代からやって来た強者達を束ねている王の名を『クローディアス』と言い、スカーレットの叔父であり仇でもあった。
「つまり。お前の報告によれば、スカーレットを捕えようとした所。割って入って来た男に妨害された挙句、暴行されたと?」
「……はい」
コーネリウスは屈強な老将であったが、見る影もない位に打ちひしがれていた。
コレには折檻を加えようとしていた宰相の『ポローニアス』と彼の息子『レアティーズ』も戸惑う他無かった。
もしも、コーネリウスが失敗したとなれば罰を与えるつもりだったが、失恋したばかりの町娘の様に衰弱しきった男を嬲るのは、いかにクローディアスが暴君と言えど躊躇われる話であった。
「もうよい、下がれ。湯浴みでもして来い」
「すいません……」
背中を丸めスゴスゴと退室していく男に老将と言われる面影は何一つとして残っていなかった。入れ替わる様にして現れた男は厚い胸板を毛で覆い尽くした、これまた屈強な男だった。
「一体、コーネリウスはどうしたんだ。アイツがあんなに腑抜けるとは」
「どうやらスカーレットは恐ろしい手下を手に入れたらしい。ヴォルティマンド! 奴が余計なことを考える前に始末して来い!」
王からの勅命を賜り、ヴォルディマンドは直ぐに兵を率いて城を発った。彼が出て行ったのを見計らって、クローディアスは呟いた。
「まさか、スカーレットの奴。殺すだけでは飽き足らず、私を辱めるつもりか。そうに違いない。ガートルードへの意趣返しも含めているに違いない。やはり、奴も殺しておくべきだった」
「王が殺したから、奴もここにいるのでは?」
宰相がいらんツッコミをして来たので、クローディアスは堪らず彼の頬にビンタを食らわせていた。クローディアスが見果てぬ場所へと辿り着くか、スカーレットが彼の元に辿り着くかという死者の国レースのオッズや如何に。
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「ぬわぁああああああん。疲れたもぉおおおおお」
だだっ広い砂漠みたいな場所を歩くにしても、コンパスも何もあった物ではないので歩き慣れていない田所は真っ先に不満を漏らしていた。
もしも、聖が似たような不満を漏らしていれば、スカーレットは悪態を吐く所だったが、頼りにしている男が言うなら無碍にする訳にもいかない。
「仕方がない。休憩を取ろう」
「助かった」
どうやら、聖も似たような状態だったらしい。と言っても、碌に水もないので腰を下ろしている間も体力は奪われて行く。田所は特に気にした様子もなく砂を食っていた。
「聖。田所は何者なんだ?」
「俺も分からない。ただ、俺がこの世界に降り立った時に近くにいたから一緒にいたんだけれど」
全裸で寝転がったかと思えば、胸に矢を受けても平気だし、類まれなる暴力の持ち主かと思えば、男にも襲い掛かる男色で今は砂を食っている。人間と言うよりもモンスターと言う方がしっくり来る。
「だが、お前達の見た目は似ているじゃないか?」
「俺が田所さんと似ている?」
「え、いや……」
聖としても余程嫌だったのか、道中で見たことが無い程の剣幕で詰め寄られたのでスカーレットも閉口せざるを得なかった。この王女は復讐の為にリソースを割き過ぎたせいでコミュ力は低かった。
「誰か―!」
「見ろ! 聖! あっちで何かが起きているぞ!」
「何だって!?」
非常に運が良いのか悪いのか。一般通過盗賊こと遊牧騎馬民族の匈奴が砂漠を渡っていたキャラバンに強盗を働いていた。
荷物を奪い、ついでに隊商の人間に危害を加える人間の屑ぶりを見て、先程まで砂を食っていた田所は立ち上がった。
「なっ…お前やりませんねぇスギィ!!! SCLはんコイツ殺しましょうよ!!」
「よし! やれ!!」
まるで迷うことなく誅殺命令を下すスカーレットは王女としての資質を備えていた。流砂に足を取られるということも無く、匈奴に接近して必殺の一撃を放とうとした所で、別の方から声が上がった。
「待て! 田所さん! 殺すな!!」
「おかのした」
柔軟に選択を変えるキャリアマンの鑑であり、王女の命令を反故にする兵士の屑ぶりを発揮しながら、彼は真っ先に匈奴達を馬から引きずり降ろしていた。
「落ちろ!」
どうやら、彼は打撃だけではなく関節技も使えるらしく、瞬く間に匈奴達を絞め落した後、彼らの衣服を剥いでいた。匈奴が性奴にクラスチェンジさせられようとした所、聖が止めに入った。
「田所さん。人を犯したりしては駄目だ。相手のことも考えて」
「クゥーン……」
犬に躾をするように言い聞かせている聖は傍から見れば、変人と言う外ないのだが、暴力の化身である田所が頭を俯けていることから効果はあるらしい。
襲撃が去ったことを確認すると、隊商の長と思しき男がスカーレットに声を掛けて来た。
「助かったよ。何もかも奪われる所だった。貴方達にお礼をしたい」
死者の国に来てから久しく見る厚意だったが、スカーレットは信じ切れずにいた。もしかして、この男達も自分のことを騙そうとしているのではないかと。
田所に命令して、彼らが持っている物品を奪えば良いのではないか? どうせ、自分は死んだ身で守るべき体裁等存在していないのだから。柄に手を掛けようとした時だった。
「助かります」
「おい!」
自分の代わりに聖が返事をしていた。隊商の長は快く頷き、暫く共に砂漠を歩いて行くと遊牧民達のテント集落に辿り着いた。
スカーレット達の目を引いたのはポツンと佇む井戸だ。砂漠をずっと歩いて来て、喉も乾いている。先客であるラクダ達に混じって頭を突っ込む勢いで水を飲もうとしたが、田所が割って入った。
「ジュル! ジュルル!!! グッポ! グッポ!! グッポグッポ! グポッ!! ジュッポジュッポ!! グポッグポッ!! ンジュルルルルル!!!!ジュポジュポジュポボ!!! ズロロロロロロロ!!!」
汚らしい水音を立てながら、バキュームカーもかくたるやと言わんばかりに吸引していた。怒りのあまり、ラクダがこぞって田所の頭に唾を吐き掛け、スカーレットと聖は一旦井戸から離れて話を聞くことにした。
「ここは?」
「交易路や旅路。それから『見果てぬ場所』へと向かう中継地点に位置していて、俺達みたいなキャラバンや旅人達にとっての宿となっている場所なんだ」
「見果てぬ場所?」
隊商の長が言うには。死者の国にあるという『見果てぬ場所』へと辿り着いた者は現世へと帰れる。と、まことしやかに噂されているらしい。
「じゃあ、そこに行けば俺達も!」
「眉唾だがな。それに、今はデカい城が建って道が塞がれている。自分達だけが『見果てぬ場所』へと行く為にな」
「何故、塞ぐ必要があるんだ? もしや、入れる人数が限られているのか?」
「知らねぇよ。ただ、その為に城を建てたり、兵士を集める奴の考えなんか分かりもしねぇ」
何があるかも分からない物の為に、そこまでやるのは異常と言う外なかった。ただ、城と言う単語や襲って来たコーネリウスの件もあって、1つ。スカーレットには聞いておかなければならないことがあった。
「その城の主。名前を何という?」
「確か。クローディアスって名前だったハズだ」
フツフツと自らの中で感情がうねるのを感じた。見果てぬ場所へと行けば、必ず仇と相対できると。
「すみません。その場所への行き方は?」
「俺達も途中まで一緒だから案内してやるよ。とは言え、今日は色々とあったから出発は明日だ」
ここまで歩き詰めで日も暮れて来ている。無理をする理由がないのでスカーレットもこの集落で一夜を明かすことにした。とは言え、まだ時間はあった。
「スカーレット。この集落を少し見て回ろうと思うんだけど、君はどうする?」
「……そうだな。少し見て回るか」
ここに至るまで、荒事の全てを田所が引き受けていたこともあり、彼女には体力的、気力的余裕があった。で、その前に肝心な田所はどうかと言うと。
「ねぇ、ウンコが転がっているよ」
「違うよ人だよ。埋めとこう」
「ウーン……」
往来で横たわっていたので、子供達に砂を掛けられ埋められていた。当の本人は御満悦な顔をしていたので、誰も損はしていなかった。
「田所さんは不思議な人だよね」
「不思議と言うか。珍妙だな……」
散々彼の暴力をアテにしておいて、珍妙呼ばわりするスカーレットの無礼さは一旦置いとくにしても、やはり珍妙と言う他無かった。
「でも。彼ほどの人も死んでしまったのかな?」
「不思議ではないだろう。どう見ても、田所は戦場に身を置いている人間だ。いつ死んでもおかしくない様な」
平生の中に生きている人間があの様な暴力を身に着けるハズがない。それこそ、血の滲むような研鑽の末に獲得したのだろう。
「彼の様な心優しい人が」
「お前の目は節穴か?」
今だけを見れば子供達の遊び相手をしているが、ここに至るまでやってきたことは武術による惨殺と男性への暴行と。人間の屑要素ばかりが目立っていた。
「それでも。俺はアレが田所さんの本質だとは思いたくないよ」
「ふん。だったら、お前が手を汚さない『いい子ちゃん』でいられたことを田所に感謝していればいい」
どうにも聖の物言いはスカーレットの癪に障った。謀略も悪意も知らない、生娘の様な無垢な善意が疎ましく思えたのだ。ただ、彼も言われっぱなしの男ではなかった。
「スカーレット。誰かの想いを跳ね続ければ、いずれ君は誰も信用できなくなる。人を信じることを思い出すべきだ」
「……私を信じてくれる人はもういない」
聖は目を見開いた。彼女が荒んでいるのは相応の人生を歩んで来たからだ。その前提を顧みないで掛ける言葉は独り善がりであり、傲慢とも言えた。……だが、それでもと。彼はスカーレットの手を引いた。
「それなら。俺が善意の見せ方を教えるよ」
「お、おい」
田所と言う力の化身に付随して来ただけの男。自分のことを何も知らないし、何もできないというのに。彼の目は不思議と力が漲っていた。何をするつもりだろうかと思っていたが、不思議と今までの様な不安や疑念は浮かばなかった。
――
「ねぇ、おっぱい盛っちゃおうよ」
「盛っていい?」
「ヌッ!!」
「良いってさ!」
それはそれとして田所は御満悦な表情で砂を盛られていた。日は暮れて来ているので、焼けないことに気付くのはもう少し先になる。