迫真スカーレット部 果てしなきウラワザ   作:迫真スカーレット部

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迫真スカーレット部 生のウラワザ 3

「あぁ。良い気持ちだ……」

 

 スカーレットを引き連れた聖は集落を回りながら、老人や怪我人の介護に回っていた。彼女にも医術の心得はあるが、素人目にも彼の処置は迅速で的確と言わざるを得なかった。

 

「慣れた物だな」

「看護師だからな」

 

 聞いたことがない職業だったが、恐らく医師の様な物だとは察した。

 この集落に足を踏み入れた時は余所者として怪訝な目で見られていたが、聖が人々の傷や疲れを癒していく内に、彼らの態度が軟化して行った。

 

「こんなことをして何の意味がある?」

 

 死者の国は現世で命を終えた者達が辿り着く場所だ。

 いうなれば、自分達は死に損ないの様な物で、彼女はこの世界で生き永らえることに意味を見出せずにいた。

 

「意味はある。俺は人を助ける為に看護師をしている」

「感謝されるから。だろう? もしも、お前が助けた奴が、お前を殺そうとして来たらどうするんだ?」

「それが、助けない理由にはならない」

 

 スカーレットは言葉に詰まった。彼女にも王女としての観察眼は備わっている。故に、聖が言っていることが強がりでも何でもないことが分かった。

 

「じゃあ、何の為に?」

「俺が助けたいからだ。逆に聞くけれど、スカーレット。君はどうして復讐なんて考えているんだ? お父さんや周りの人から言われたから?」

 

 賢王であり、心優しい父がそんなことを望んでいるハズが無いことも分かっていた。では、復讐は自分の願いかと言われたら。

 

「……許せないからだ。父上を、国を、私を貶めた叔父が」

 

 誤魔化す様に理由を並べ立てた。だけど、それはまるで借り物の様な言葉で、自分の中から出て来た物とは到底思えなかった。

 

「だったら、それは理由にならない。君が言う様に、この世界が『死者の国』だとしたら。君の叔父は既に死んでいるじゃないか」

「私の手でやらねば意味が無いんだ!」

「田所さん任せで?」

 

 そう言われたら、いよいよ彼女も言葉を呑み込むしかなかった。

 大層な理由を掲げた復讐を始めるも、いざとなれば他人任せだ。この目的にどれだけの信念が残っているというのだろうか?

 

「さっきから、文句ばかり付けて! 何が言いたい!?」

「俺には君が復讐をしたがっているように思えないんだ。……いや、田所さんが抑えてくれたというのもあるかもしれない」

 

 チラリと視線を送ってみれば、いつの間にか子供達の輪の中に入って、器用にリュートを弾き語りしている田所がいた。

 

「Y-A-J-U-&-U ヤジュウセンパイ One-one-four-five-one-four いいよこいよ Y-A-J-U-&-U ヤジュウセンパイ」

「ギャハハハハハ」

 

 本来は団欒とした光景のハズなのだが、どうにもそうは思えない位の醜悪さ……と言うほどではないが、見苦しさと下劣さが漂っていた。

 

「アレの何処に……?」

「もしもだけどさ。この旅が俺と君の2人だけだったら。君は復讐の為に本気で動いていた様に思える。だって、他にやってくれる人が誰もいないんだから」

 

 彼の言うことは何となくだが理解できた。類似した経験を思い出していた。

 アレは父が存命していた頃の話だ。一度、お菓子を作ってみたくてコックに手伝いを頼んだのだが、まるで上手くいかなかった。

 結局はコックが作ってくれたのだが、彼が手際よくやっているのを見ている内に、自分もやりたいという気持ちが消え失せていた。――自分がやらなくてもいいじゃないかと。

 

「じゃあ、お前は。私に復讐なんてやめろと?」

「やめろ。とは言いたいけれど、俺には君の因縁のことはよく分からないから止めることまではできない。でも、それしか目的が無いと思っているなら言うよ。やめろ」

 

 田所の傍にいるだけの男。と思っていたが、信念という面では自分とは比較にならない程、確固とした物を持っている男だった。

 

「おー! ヒジリ! お前も弾いてみろ!」

 

 いつの間にか子供に囲まれていた田所は、他の大人達にも囲まれ、彼らが料理や酒を持ち寄って来たこともあって宴会の様になっていた。

 

「え? 俺もですか?」

「俺もやったんだからさ」

 

 スッと田所からリュートを渡されたが、聖は慣れない手付きで弦を弾いていた。もちろん、演奏なんて器用なことができる筈もなかったが、その初々しさが受けたのか、周りの大人達から囃し立てられていた。

 ただ、1人。輪の中に加われなかったスカーレットは人目を避ける様にして、宛がわれたテントの中に帰って行った。

 

――

 

 早朝の涼しい内にキャラバンは出発した。スカーレットは目の下に深い隈を浮かべ、聖も少し疲れた様子ではあったが、田所はイキイキとしていた。

 

「我らは、この先の街で荷を下ろす。君達の目的地はあの道だ」

「お世話になりました」

 

 一同を代表して聖が礼を言うと、リュート弾きの女性から包みを渡された。形からして、昨晩演奏に使った物が入っていることは直ぐに分かった。

 

「ちゃんと練習してね」

「あー、いいよ、いいよ」

 

 田所が感謝の意を示す様な鳴き声を上げていたが、キャラバンの者達は笑いと共に見送ってくれた。

 

―――

 

 彼らと別れて、暫く歩き続けていると遺跡へと辿り着いていた。死者の国にも一定の文明があったという名残ではあるが、3人の間で流れる空気は重かった。

 

「これもう分かんねぇな」

 

 田所からすればいきなり仲違いを起こしているので、首を傾げるばかりだった。……と言うより、スカーレットが拗ねている。と言った具合だろうか。

 

「(私に復讐をする気が無いだと? そんなバカな。クローディアスは父上を謀殺し、国を疲弊させ、私を貶めた暴君だ。奴を討つことが間違っているハズがない。いや、死者の国にいるということなら既に死んでいるということで……)」

 

 改めて考えても、この復讐に正当性や大義は存在していない。私怨以外に何も無い。では、そんなことに執着している自分は何なのか?

 では、何の為に彷徨っている? 何の為の復讐か? 昨晩から考え続けても出ない問をずっと繰り返していたが故に、彼女にしては信じられない位に隙だらけだった。

 

「死ねぇ!!」

「え?」

 

 遺跡。というのは遮蔽物も多く、身を隠せる場所はあちこちにある。物陰に潜んでいた兵士がスカーレットの首を目掛けて短剣を突き出していたが。

 

「ヌッ!」

「殺すな!」

 

 常人では考えられない程の反射速度で動いていた田所は、兵士が突き出して来た短剣を握り潰し、代わりに自分の短け……もといロングソードを兵士の中に突き出していた。地獄絵図が生まれていた。

 

「ウゥ“!」

「行きますよ。イクイク」

「田所さん。こんな所で肛門裂傷になったりでもしたら虚無化してしまう。そこまでにしておこう」

 

 目の前でホモレイプが行われているというのに、異常な位な適応力の高さを見せる聖も同類の様に思えてきたが、改めて自分が殺されかけたことを実感し、彼女の中で揺らいでいた答えは急速に固まりつつあった。

 

「聖。あったぞ。理由が。クローディアスが私を殺そうとするなら、私も奴を辱めて心を折ってやる必要がある!」

「スカーレット……」

「お前のことが好きだったんだよ!」

 

 聖の表情が陰る中、注意が逸れたことをいいことに兵士は可哀想な目に遭いつつ、尋問されていた。喘ぎ声と情報が同時に引き出される中、彼は『ヴォルディマンド』麾下の兵士だということが分かった。

 

「言え! 奴は、この近くにいるんだな!!」

「うぅ、それ以上は……」

「田所!!」

「おかのした」

「あぁ、言います!」

 

 調教され過ぎた結果。括約筋と同じ位にゆるふわになってしまった彼の口からベラベラと情報が出て来た。さながら、下痢便の如き濁流ぶりにスカーレットは目を煌々と輝かせていた。

 

「聞いたか。ヴォルディマンドの奴もいるそうだ。コーネリウスと同じく父を裏切った男だ。私の目の前に連れて来て、奴と同じ目に合わせてやれ!」

「FOO↑」

 

 田所はテンションを爆上げしながら、ヤモリの様に遺跡の壁を這って行った。

 気のせいでなければ、彼の体が砂塵に塗れ、カメレオンめいた迷彩効果を発揮していたが、今更気にする2人でも無かった。

 

「君は本当にそれで良いのか?」

「そうだ! 復讐をしなければ、私がやられる! だから、コレは正しいことなんだ!」

 

 まるで、自分に言い聞かせているかの様な必死さが痛ましく映った。これはちゃんとした理由なんだと。無い物を取り繕っている様だった。

 ……本当に痛ましいのは、床に転がされて尻を押さえている兵士なのだが、今の2人には気にするだけの余裕が無かった。

 

――

 

 ヴォルディマンドは勇将であった。得物であるホイールロック式の短銃と共に幾多物戦場を駆け抜けて来た。

 見た目は粗野であるが思慮深く、遺跡を巡回していたハズの兵士達が帰って来ないことから、例の連中が来ていることを察した。

 

「(やって来たか。だが、俺はコーネリウスの様な腑抜けじゃねぇ。あの王女諸共、全員始末してや――)」

 

 彼の意識はそこで途絶えた。何が起きたか、薄れゆく意識の中で見上げてみれば。浅黒い肌をした男が何かを染み込ませた布を押し当てて来たことだけが分かった。勇将と言われた男は戦うことすらさせて貰えずに拉致された。

 

 

「起きたか?」

 

 ヴォルディマンドが意識を取り戻した時、目の前には討伐大将である王女。スカーレットがいた。隣には印象にも残らない男性、そして自分を拉致して来た男。――見渡せば、全裸に剥かれて俯せに倒れた兵士達の姿。

 

「まさか、これは」

「そうだ。田所がやった。お前の命と貞操は私が握っているんだ」

 

 兵士達は死んでいる訳ではなさそうだが、もう今後。戦うことができなさそうな位に折られていることは分かった。だが、ヴォルディマンドは勇将だった。

 

「くっ。殺せ!」

「お前に命令する権利があるとでも思っているのか」

 

 彼女が田所に目配せをすると、亀甲縛りにされているヴォルディマンドの鎧と衣服が引き裂かれた。

 露わになった胸板に敷き詰められた毛が太陽で燦燦と照らされていた。一思いに殺されるより酷いことが起きそうなのは直ぐに予想できた。

 

「ま、待て! よせ! やめろ! そうだ。取引だ。取引をしよう!」

「取引?」

 

 さっきまで殺せとか強がっていた癖に一転守勢。命乞いをする姿は無様と言う他無いが、プライドで貞操は守れないんだから仕方がない。

 

「そうだ! 俺は王が処刑されるときに呟いた言葉を聞いたんだ。お前も知りたくは無いか? きっと、酷い暴行を受けたら、聞けなくなるぞ!!」

 

 屈強な勇将が全てを放り投げて命乞いする様は、スカーレットを芯から震わせた。……一旦置いておくにして。

 

「何て言ったんだ?」

「『許せ』と言ったんだ。何を意味していたかは分からないが、あの王がそんな無様なことを言う訳がない。と思って、俺も剣を振り下ろす手を止めていた」

 

 ここぞと言わんばかりに自分は処刑に加わっていないアピールをする辺り、彼がプライドも何もかも投げ打った保身に走っているのは一目瞭然だった。暫く、考えこんだ後に言った。

 

「お前はもう用済みだ。田所、やれ」

「FOO↑」

「そんな! 話が違う! いやだ! 助けてくれ! お前のお父上はそんなことを望んでいない! 許せ!!」

 

 早速、先王から賜った言葉を謝罪に使う臣下の屑による嘆願は聞き入れて貰えることはなく、彼は田所に転がされてしまい、彼のお乳上は白日の下に晒された。

 今まで、ホイールロック式の銃を扱っていたことから弾を弄ることも多かった彼だが、まさか自らのタマを弄られる日が来るとは思ってもいなかっただろう。

 

「ホラホラホラホラ」

「やめてくれよ……」

 

 銃士である彼は先込めの為に装填棒(ラムロッド)を使うことも多かったが、まさか自らのモノに使われる日が来るとは思わなかっただろう。殺さないからって何をしても良い訳ではない。

 屈強で勇将な男が、さながら父からの折檻に対して許しを請う様に儚く、説懐く呟いている様は、一種のグランギニョルさえ感じさせた。

 

「スカーレット。これが君のやりたいこと?」

「かもしれない」

「否定してくれ」

 

 この時、聖は始めて昨日の問いかけを後悔した。もしかして、自分が問い詰めてしまったが故に、彼女は早まった行動をとってしまったのではないか。

 

「許せ……許せ……」

 

 後悔はするが目の前でハッテンする事態を止めるという発想に至らない当り、聖も田所と同類なのかもしれない。……かくして、クローディアスが放った二人目の刺客も見事に手籠めにされていた。

 

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