迫真スカーレット部 果てしなきウラワザ 作:迫真スカーレット部
「なに? ヴォルディマンドもヤられたのか!?」
「そのようです。今は、部屋に引きこもって出てきませんが」
宰相のポローニアスが気まずそうに述べていた。勇将と言われた男でさえ、悲恋を遂げた小娘の様になってしまう程に嬲られたことを考えると、いよいよクローディアスも正気を保つのも困難となって来た。
「一刻も早く見果てぬ場所を目指すぞ! いつになったら見つかるというのだ!」
「クローディアス王。あと少しです。我々が、この場所に至るまでに数多くの犠牲を出しましたが、ようやくここまで来たのです。焦ってはなりません」
彼は権力欲に塗れていたが知恵者でもあった。現在に至るまでクローディアス王の聡明な判断を称えると同時に彼の狂乱を収め……同時に自分達にお鉢が回って来ることをさりげなく防ごうとしていた。
「はい。父の言う通りです。クローディアス王は売国奴である先王を放伐した賢君。焦ってはなりませぬ。ガートルード王妃殿下もお待ちしております」
ポローニアスの息子であるレアティーズも便乗していた。頼れる忠臣達の進言もあり、クローディアス王は一旦落ち着いた。
「そうであった。結局、外様のコーネリウスもヴォルディマンドも役立たずよ。私には、この国に仕え続けて来た真の忠臣がいるのだ」
「その通りです。所詮、スカーレットは無知蒙昧な小娘にしかすぎません。奴如きの為に心を荒げてはなりません」
そんな小娘が将軍を2人も退けているのだから、事態は悪化の一途をたどっているのだが、対処させられるのも嫌なので効かない麻酔をたっぷり塗り付ける処置をする臣下の屑二人とクローディアス王は笑っていた。
――
「最期の言葉が『許せ』か。スカーレット、君はどういう意味だと思う?」
ヴォルティマンドをたっぷりと嬲った後、3人は『見果てぬ場所』へと向かっていた。その折、尋問で得た情報について議論をしようと聖は投げかけた訳だが。
「ヴォルディマンドからラムロッドを奪って来たが。これをクローディアスに挿せば関節チ……」
「あぁ。良いっすね」
スカーレットが顔を赤らめていたが、これまでの行いを鑑みれば許される訳もない少女仕草であった。隣では田所が満面の笑みで同意している。
「君のお父さんの遺言だぞ。気にならないのか?」
「え? あぁ、いや。それはもう気になって仕方が無いな」
心ここにあらず。おじさん凌辱がよっぽど気に入ったのか、もはや復讐は口実程度に落ち着いている気がした。何も良くない。
かと言って、復讐を止めさせた所で命は狙われるんだから、彼女は報復をするという選択肢以外が取れないという袋小路を感じさせた。当の本人は全く思い悩んだ様子が無いが。
「じゃあ、仮の話だけれど。もしも、君が叔父さんの報復を止めさせたとして。その後にやりたいことは?」
言われてから考えてみた。今までは、父を殺した憎き仇を討つことこそが生きる意味だと考えていたが、田所と言う怪物のおかげで容易く達成されるであろう。と予想できたので、その後のことを考える余裕さえ生まれていた。
「特に無いから、暫く。田所達と一緒に旅をしたい。お前はどうだ?」
「俺は……」
珍しく、聖が口ごもった。彼がここに来た経緯は未だに語られていない。それ所か、本人も分からないと言った様子だった。
「なんだ。お前もやりたいことが無いんじゃないか」
「うるさい。そもそも、俺だって本当に死んだかも分からないんだ。ひょっとしたら、何かの事故で仮死状態になっているだけかもしれないし」
「カシジョウタイ?」
「死んでいるけれど、完全には死んでいない。って状態」
スカーレットの知識は16世紀の物なので、そんな概念が理解できる訳も無かった。……ただ、何となく希望らしいものがある。ということは分かった。
「だったら、聖は生き返ることを目的にすればいい。きっと、私と違ってお前は皆に必要とされているだろうからな」
初めて会った時を思えば、随分と朗らかな笑顔を浮かべてみせたが、吐いた言葉はあまりに悲しい物だった。
「そうだな。うん、俺はまだ死んだと決まった訳じゃないからな」
「そうだよ」
田所からも励まされた。3人の結束を強める為に犠牲になったヴォルディマンドのことは置いとくにしても、この旅路は幾らか楽しい物になっていた。
~~
暫く、歩き続けて日も暮れていた。火を起こし、スカーレットと聖が寝る準備をしている頃。田所は自生しているサボテンを食っていたが、この程度の奇行では2人は反応することすらしなくなっていた。……眠気はまだやって来ない。
「田所は、何を考えているんだろうな」
「分からない。俺達は彼のことを頼りにしているけれど」
屈強な肉体、類まれる鳴る性欲と暴力。しかし、彼はほとんど会話をしない。
偶に反応を返してくれるが、それはまるで動物の鳴き声の様に定型句を話すだけで、彼自身のことは何も分からなかった。
「この辺にぃ。美味いラーメン屋の屋台。来ているらしいんすよ。じゃけん、夜行きましょうね」
「田所さんにはサボテンがラーメンに見えているのか?」
類まれなる吸引力でサボテンの果肉と棘を啜っているが、ひょっとしてラーメンに郷愁を覚えたが故の食し方なのだろうか?
だとしたら、意外と感傷的な所もあるのだとは思うが、やはりやっていることが化け物過ぎて一つも人間扱いできる要素が無かった。
「……寝るか」
「そうしよう」
聖はリュートの弾き心地を試していたが、田所withサボテンに気を取られ過ぎて、マトモに曲を弾ける状態ではなかった。2人は静かに目を閉じた。田所も気を遣って、バキューム音のボリュームをちょっとだけ下げていた。
――
「(ここは?)」
見たことのない光景だった。行き交う人の多くは白い衣服を着ており、偶に聖と似たような恰好をした人間を見掛ける。
「(もしかして、聖がいた世界か?)」
あまりに自分の知っている世界と違い過ぎて、受け止めきれずに思考が停止していた。それでも、彷徨う。まるで何かに導かれるように扉の前に立っていた。
扉に触れることも無く、中に入ることができた。部屋にはベッドがあった。自分には理解できない線状の物が幾つも伸びていて、ベッドの中にいる者に繋がっている。不思議な確信があった。
「聖。か?」
覗き込んだ。顔面は青白く、呼吸も小さい。彼の命が消え掛かっていることはスカーレットにも分かった。彼の言っていた仮死状態という物か。
「死ぬな。お前は、まだ生きようとしているじゃないか。……私と違って」
全てを諦めてしまった自分と違って、彼はまだ続いて行く。だから、彼女も声を掛けずにはいられなかった。
「助けるんだろう。皆を。まずは、お前がお前を助けるんだ」
グラリと視界が揺らいでいく。見せられるのはここまでと言った所だろうか。
場面が切り替わる。自分は屋外にいた。敷物の上に下着を履いただけの男性2人が寝転がっている。片方は田所だったが、もう片方は爬虫類の様な印象を受ける男だった。
「見られてないですかね?」
「多少はね?」
もしや、自分のことを指しているのかと思って一瞬緊張したが、いつも通りの奇行だろうということで納得した。
「(もしや、下着だけで寝転がる。という文化が聖や田所の世界か、あるいは彼らの国にはあるのだろうか?)」
全日本人から抗議されかねない偏見だが、それはそれとして拍子抜けした所はあった。
「(田所の手練れぶりから考えて、戦場に生きていると思ったが)」
ミンミンとやかましい音が響いているが、戦場とは程遠い世界だった。寝転がっている2人の肌には汗が浮かび上がっていた。
「何か飲み物取って来る」
「(あ。普通に喋るのか)」
死者の国に来てから一番驚いた。彼の後を付いて行けば、見たことのない建築様式の建物に入って行き、グラスに茶色い液体を注いでいた。ここまでは何の変哲もない。
「(うん?)」
スカーレットが奇妙に思ったのは次の瞬間だ。田所は片方のグラスに白い粉を大量に入れていた。砂糖と言った雰囲気ではないが……と、ここに来てゾワリとした悪寒がした。
「(毒?)」
もしや、田所はあの爬虫類の様な男を殺そうとしているのか。かつては、自分もクローディアスを暗殺しようと目論んでいたから分かる。
「お待たせ。アイスティーしかなかったけど。良いかな?」
「(アレ?)」
だが、田所が爬虫類の様な男に私のは白い粉を入れていない方のグラスだった。2人は中身を一気に飲み干した。
「ファッ!? ウーン……」
「田所さん!?」
あの、暴力と性欲の化身である田所がコロリと倒れてしまった。ピクリとも動く気配が見当たらない。
「???」
まさか、この男は毒殺の為に用意した物を自ら飲んでしまったというのか。そんな、間抜けな死に方をする奴がいるのか。
「もしかして、田所は……バカなのか?」
もしも、この旅路を見ていた傍観者がいれば誰もが思っただろう。
お前は今まで何を見て来たんだと。視界がグラリと揺らいで、意識が浮上する。死者の国にも陽が昇っていた。