迫真スカーレット部 果てしなきウラワザ   作:迫真スカーレット部

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迫真スカーレット部 生のウラワザ 5

 見果てぬ場所へと続く聖なる山の麓には巨大な市場が開かれている。

 これから山へと登る人々に必要な物を売る為に幾千もの露店が開かれており、1つの街の様になっていた。この場所にスカーレット達が辿り着いた。ということは、クローディアス王の耳にも入っていた。

 

「王よ。出立を。我々と精鋭だけで向かいましょう」

「そうだな」

 

 皆をせき止めている王が一足早く『見果てぬ場所』へと向かった。等と言えば、麓に待機している連中が暴動を起こして攻め込んで来るので、誰に知らせることも無く向かうことは当然のことだった。

 宰相の『ポローニアス』と彼の息子『レアティーズ』と共に、クローディアスは静かに城を発っていた。この危機管理能力は彼が王たる所以の物と言えた。

 

~~

 

 市場の様子は圧巻的と言えたが、特に金銭を入手していた訳でもないスカーレット一行には縁のない場所だった。

 漂う飲食物の香りや人々の喧騒を無視してズンズン進んで行くと、程なくして。人々が市場に留まっている理由が分かった。

 

「壁か」

 

 見果てぬ場所へと続く道は隔壁によって閉ざされていた。更に、クローディアスの兵士達が剣呑な空気を漂わせていることもあって、人々は歯噛みするしかなかったのだが。

 

「田所」

「おかのした」

 

 もはや、ここまで来た彼女達が止まる訳も無かった。田所が前に出る。兵士が叫んだ。

 

「止まれっ! 止まらないと撃つぞ!」

「行きますよ!」

 

 駆けだした彼は砲弾の様だった。立ち塞がる兵士を跳ね飛ばし、彼に向けて放たれた矢は、薄皮1枚貫くことすらなかった。

 

「ヌゥン!ヘッ!ヘッ! ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!! ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!! フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!! フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!」

 

 大気を引き裂くほどの咆哮を張り上げ、至近距離で音響兵器の一撃を受けた兵士達は全身を弛緩させ、体の穴と言う穴から液体を流して崩れ落ちた。

 田所の進撃は止まらない。隔壁に張り付いたかと思えば、すさまじい勢いで腰を振り始めた。彼がぶち当たる度に壁に亀裂が走って行く様は、さながら処女の終わりを表している様だった。そして。

 

「壁が割れたぞっ!!」

 

 田所の激しい腰打ちに耐えきれずに、隔壁は崩れ去った。兵士達が逃げ惑う中、留まっていた者達が歓声を上げた。そして、彼らを鼓舞する様にスカーレットも声を張り上げた。

 

「皆! あの男はありとあらゆる理不尽を砕く野獣だ! 我々も野獣となって、暴虐の王! クローディアスを蹴散らそう! あの男に続け!」

「粋スギィ!!」

 

 この旅路で培ってきたスカーレットの王女たる素質に田所も感嘆の声を上げていた。こうなれば、人々を留める物は何も無い。皆が粗末な武具とやる気、勇気、元気を引っ提げて一斉に山を登り始めた。

 

「スカーレット。何をそんなに急いで……?」

 

 話題から置いて行かれている聖は大量の?マークを浮かべていたが、とりあえず皆と一緒に山を登り始めた。死者の国最後の戦いが始まろうとしていた。

 

――

 

 クローディアス王の下に集まった兵士達は強者揃いだった。もしも、この暴動が不和が膨らんだ末に起きた出来事であれば、十分に対応できただろうが。

 

「ヌゥン!ヘッ!ヘッ! ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!! ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!! フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!! フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!」

 

 攻め込んで来る人々は独特な咆哮を上げて突っ込んで来るんだから、兵士達に混乱が広がり、ついでに男が男に襲い掛かる(性的)光景もそこかしこで繰り広げられており、死者の国に相応しい地獄絵図が拡がっていた。

 

「待て! このガキがどうなっても良いのか! キズ物にしちまうぞ!」

「お前がキズ物になるんだよ!!」

 

 どうやら、市場に留まっていた兵士達の中にも多数の田所候補が潜んでいたらしく、少女を人質に取っていたローゼングランツとギルデンスターンの脅しもむなしく、因果応報と言わんばかりに彼らがキズ物になっていた。

 

「叔父の兵士達は皆。腰抜けの集まりだ! 捕まえたら好きにしろ! 野獣である我々が戸惑う必要はない!!」

「きっと、君のお父さんは草葉の陰で泣いているよ」

 

 聖の諫言むなしく、スカーレットは瞳をキラキラと輝かせながら戦場を突き進んでいた。残念ながら、彼女を抹殺しようとしたクローディアスの正当性ばかりが増していくのだが、気にした風もなかった。

 とは言え、戦闘団もヤられっぱなしという訳ではなかった。好き勝手に暴れる人々を遠慮なくぶった切り、矢で射殺し、銃殺しまくっていた。

 

「お兄さん許して」

「やめてくれよ……」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!ワアアアアアアアア!!!!!」

 

 田所の威を借りてイキっていた死者の屑のやる気が折れて、助命を試みていたが、当然聞き入れてもらえる訳もなく虚無化させられていた。

 そんな争いを巻き起こした田所達は何食わぬ顔で順調に山を登り続けて行くと、巨大な建造物が見えた。城だ。

 

「スカーレット。もしや、あそこに叔父さんが」

「アイツがこんな状況を察しない訳がないだろう! 既に出たに決まっている!」

 

 変な所で察しは良かった。城の探索に時間を割くことも無く進んで行く最中も田所が兵士達を手籠めにしていたが、それは一旦置いとく。

 雲を掻き分け、進んだ先で開けた場所に出た。どうやらここが頂上であるらしいが、見果てぬ場所。と思しき物は見当たらない。

 

「ここが?」

 

 ポツリと漏らした刹那。乾いた音が響いた。何が起きたか一瞬理解できなかったが、田所が覆いかぶさっていた。

 続いて、何度も乾いた音が響いた。田所はうめき声の代わりに『ヌッ!』という声を上げるだけだった。特に効いて無さそうだ。

 

「スカーレット!」

 

 ここに至るまで特に存在感の無かった聖が声を上げた。田所は急いでスカーレットを彼へと放り投げると、襲撃者達と向かい合った。数は4人。

 

「お前を殺す……!」

「ぶち殺してやる」

 

 顔面に血管が浮かび上がる程にブちぎれたコーネリウス。何本ものホイールロック式の拳銃を提げて、殺意を漲らせたヴォルディマンド。そんな二人にややドン引きしながらも、交戦の構えを崩さないポローニアスとレアティーズ。

 

「徒に戦いを呼び、死体と血を流させ続ける。貴方はさしずめ『果てしなきスカーレット』と言った所か……」

「父上。急にどうしたんですか?」

 

 急に変なことを言い出したが、極度の緊張状態にある人間は意味不明なことを口走ることもある。だが、精神的優位に立っているスカーレットは動じなかった。

 

「クローディアスは何処に行った?」

「貴女に教える必要があるとでも?」

 

 こういう時、勝利を確信するがあまり勝手に情報を漏らさない当りがポローニアスが宰相たる所以だった。……が。

 

「スカーレット! こっちに階段が!」

「でかした!!」

 

 あまりにワザとらしいタイミングだった。恐らく、クローディアスは先に向かったのだろう。そもそも、ここに4人もの将軍が残っている時点で答えは出ている様な物だが。田所が親指を立てた。

 

「田所! 任せたぞ!」

 

 スカーレットと聖は階段を上って行く。田所はクローディアスの懐刀とも言える4人と向かい合った。

 

「臆するな! 野獣は人間に従わされるのが運命だ! 我々で、この獣を服従させてやるぞ!」

 

 3人に号令を飛ばして勇敢に立ち向かうポローニアスは宰相と呼ぶにふさわしい気概と勇気の持ち主だったが、果たしてこの戦いがどうなるか。

 

――

 

「どうしたんだ、スカーレット。何をそんなに急いでいるんだ」

 

 市場に着いてから、今に至るまでの流れはあまりに突飛過ぎた。彼女が慌てていることは明白だった。

 

「クローディアスに逃げられる。……それに」

「それに?」

「何でもない」

 

 慌てて言葉を引っ込めった。スカーレットの中に浮かぶのは、昨晩に見た光景だった。田所はアホの極みと言うしかないので流すが、知識の乏しい自分にも聖が生死を彷徨っていることは分かった。

 階段を上った先。水しぶきを上げて海中から出た。聖と2人で周囲を見回すとこれまでの争いと汚物から解き放たれたかのような幻想的な光景が広がっていた。サンゴが拡がり、アオウミガメがじゃれ合っている。

 

「この世界にもこんな場所があったなんて……」

「まだ先がある」

 

 スカーレットが指差した先には鬱蒼と茂る植物に覆われた小径があった。

 2人で掻き分けながら進み、石造りのトンネルを抜けた先には大階段が続いていた。この先にいる。確信があった。

 

「なんだろう。不思議な感じだ」

 

 聖の中に奇妙な感覚が湧いた。本来の自分はここに辿り着くことはできなかった。そんな気がしていた。

 

「ここまで来たんだ。最後まで付いてこい。……お前は帰るんだろう?」

 

 励まそうとする労りの中に僅かに寂しさが混じっているように見えた。

 どちらにせよ別れが近付いているのは2人も分かっていた。階段を進んで行く。何となく話した。

 

「聖は帰れたら何をしたい?」

「そうだな。甘い物でも食べたいな。この世界で食べた物も悪くはなかったけれど。……スカーレットは?」

「私は田所と一緒に世界を巡ってみるよ。お前が来るまでに、アイツと一緒に国でも築いておくよ」

「それは心強い。死後も安泰だ」

 

 カラカラと笑いながら階段を進んでいく二人に緊張は見当たらなかった。階段を上り切ると開けた場所に出た。彼らの目を真っ先に引いたのは巨大な扉だった。……そして、そこに縋りつく1人の男がいた。

 

「大いなる門よ。見果てぬ場所へと続く扉よ……」

 

 クローディアス。スカーレットの叔父であり、忌むべき仇。そんな男が弱弱しくも、扉の前で跪いていた。

 

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