迫真スカーレット部 果てしなきウラワザ 作:迫真スカーレット部
「今、ちょっと開いたような気がする。もう少しアプローチを変えれば行けるか?」
バカデカい門に縋りついているおじさん。という、絵面は芸術的でもあった。そんな彼の懇願に報いるかのように扉がちょっぴり動いている。
「贖罪。……懺悔か。懺悔が必要なのか」
後ろに姪っ子と一般通過看護士がいるのに気付きもしないまま、ひたすらに許しを乞うていた。必要だからやる懺悔にどれだけの価値があるかは微妙だが。
「スカーレット。この人が、君の?」
聖が想像していたのは傍若無人の輩であったが、扉の前で懺悔し続ける男に威厳の類は存在していなかった。ただ、矮小で憐れな男の様に映った。
「そうだ。クローディアスだ」
もしも、この旅路が復讐一辺倒であれば、スカーレットの心は大いに揺れ動かされていただろう。
クローディアスは邪知暴虐の王であり、彼を討つことこそが仮初の命で真っ当すべき使命だと。だが、そんな男が1人の人間として後悔し、懺悔していたとなれば、自身の正当性が揺らぐことは間違いなかった。
「我を許したまえ……。見果てぬ場所に憧れる多くの悲しき者達の為に、我は力を尽くして来た。そんな我を助けたまえ……」
嗚咽を零しながら扉の前で懇願し続けている。ちょっとだけだが、扉が開き始めている気がする。クローディアスの懇願に応じてのことかどうかは、スカーレット達にも判別はできない。
「君は、どうする?」
聖から問いかけられた。この叔父を許すか、あるいは復讐を敢行するか。
と言っても、今の彼女に命を取るつもりはなかった。それはそれとして、父を謀殺された恨みもしっかり覚えていた。歩み寄った。
「叔父さん。貴方の真意はしかと聞き届けました」
「……うん?」
「ですが、ケジメは付けて貰わねばなりません。父上と私は未来を閉ざされてしまったので、叔父には肛門を閉ざして貰う必要が……」
スッとラムロッド(使用済み)を取り出した辺りで、クローディアスがスカーレットの顔面に渾身の喧嘩キックをぶち込んでいた。
まるで、予想していなかったのか気持ちいい位にぶっ飛びゴロゴロと転がって行った所を聖に受け止められていた。
「スカーレット大丈夫?」
身体的な意味か、先程の言動的な意味か。恐らく、両方だと思いながら彼女は死者の国で培ったタフさで立ち上がった。
「叔父さん。どうして……」
「どうしてもクソもあるか。この変態が! 真っ当に首を取りに来るなら相応の相手をしてやろうと思ったが、嬲ることしか考えていない魔女め! お前にはここに来る資格がない!!」
「すごいな。否定できる要素が無い」
聖としてもなんとか擁護してやりたかったが、クローディアスの意見は全く正当だった為、言い返すことができなかった。
「言いたいことを言わせておけば。王の位を簒奪した分際で片腹痛い! やはり、お前は私が討つ!!」
「ほざけ! 貴様の様な小娘にやられる程、落ちぶれておらんわ!」
クローディアスも護身用に持って来ていた剣を引き抜き、血縁者同士の血生臭い最後の戦いの火ぶたが切って落とされた。スカーレットが声を上げた。
「やれ! 田所!!」
「は?」
「ヌッ!!」
もはや、専用のセンサーでも搭載しているのかと言いたくなるほどの感知力でスカーレットは田所に命じた。階段を駆け上がって来た田所は跳躍して、クローディアスに覆いかぶさるように着地した。
「おい! よせ! やめろ!」
「FOO↑ 気持ちいか~?」
先程まで巨大な門に謝罪していたが、今度は自分の肛門の為に謝罪することになっていた。門番として置いて来た臣下達はどうしたというのか。……いや、ここまで来られている時点で言うまでもないが。
「スカーレット! 止めろ! この男を止めろ!!」
「それが人にものを頼む態度ですか?」
立場が逆転した瞬間、尊大になる所は正に姪っ子と言わんばかりの血筋を感じる所ではあった。そうしている間に衣服を引き裂かれ、たっぷりと贅肉を蓄えた不健康な体が晒された。
「行きますよ~。イクイク」
だが、クローディアスは王へと上り詰めた男だった。こんな土壇場でも諦めない心を持っていた。
「スカーレット! お前の父上は! 私の兄はこんなことを望む人間だったか! 敵対より友好と信頼を。と言っていたではないか!」
尻の間に何かを乗せられた辺りでいよいよクローディアスの焦りは最高潮に達した。覆いかぶさっている奴も達しそうな勢いだ。
「そう言えば、そんなことも言っていた様な」
「きっと。このような醜い争いをしているお前を見て言うぞ! 許せ! と。人を許すことこそが、始まりなのではないか!?」
「この人の面の皮。すごい厚さだな……」
ここまで自分のやって来たことを完全に棚に上げて助命できるのはもはや才能と言えた。聖がやんわりとスカーレットの方を見た。彼女は言った。
「分かった。許そう」
「おお!」
「田所。お前が貫通することを許す」
「やりますねぇ!」
王女の悲願は達成された。彼女の指図と共に、邪知暴虐の王クローディアスは貫かれた。その剛直ぶりたるや天にも昇らんばかりの勢いで、彼を担ぎ上げていた。さながら、ヴラド3世の串刺しの様であった。
悲鳴と嬌声を掻き消す様に雷鳴が轟き、皆より高い位置に突き上げられていたクローディアスに向かって、雷が降り注いだ。ついでに地上部にいた田所も落雷を食らっていた。慌てて聖が救命に向かった。
「すごい。田所さんの性器が雷を分散させたおかげで、2人共無事だ」
「おお」
落雷を受けて無事で済むなんてありえないことだが、田所がいるのだし多少の異常で動じる段階は過ぎていた。とりあえずの処置を済ませた後、門の前に立つと1人でに開かれて行く。
「どうやら時間が来た様だ」
門のあった方から老婆が歩いて来た。聖と田所は首を傾げていたが、スカーレットには見覚えがあった。自分が死者の国にやって来た時、概要を話してくれた老婆だ。
「時間とは?」
「この死者の国は生と死が入り混じる場所。決して対立する場所ではない。この中に生きている者が2人もおる。……いや、もう1人か? 微妙だが、まぁいい。その者達が帰る時が来たのだ」
スカーレットは聖と田所の方を見た。聖が生きていたのは分かっていたが、田所まで……と思うと、不安で胸が満たされそうになった。それでも。言った。
「聖、田所。お前達が来るのを待って――」
「帰るのは、お前の方だ」
ドンと聖とスカーレットの背中を押す者がいた。田所だった。
「田所!?」
「良い世。来いよ」
クローディアスの体の上に座りながら2人が門を潜るのを見送った。
見れば、階段にはたくさんの人達が登って来て、こちらに手を振ってくれていた。自分の人生は終わってなどいなかったのだ。
門を潜った先には通路が続いていた。スカーレットは聖と並んで歩いていたが、彼女も信じられないと言った具合だった。
「私は死んでいなかったのか」
「良かったじゃないか。生きていれば、どうにかなる」
聖は励ましてくれているが心許なかった。この旅も自分の足で歩いて来たとは言い難く、田所と言う超状的な男に頼りっぱなしだった。
「でも、生き返っても私には田所や聖はいない。それに、恐らくだがクローディアスも死んでいる……」
16世紀当時の政治に関しては聖も分からなかったが、王家に連なる人間として彼女が国を治めて行くことになるのだろうか。だとしたら、途方もない責務だ。
恐らく、これが彼女の物語であるならば。このまま自分達は別れて、彼女は王女として生きていくのだろう。もう二度と交わることはないだろう。が。
「じゃあ、こっちに来る?」
この物語には自分がいる。という、不思議な自信が聖の中にはあった。
そんなことをしたらどうなるか。タイムパラドックスやバタフライエフェクトなども起きそうだが、知ったことではなかった。彼女も戸惑っている。
「でも、私は……」
「スカーレット。俺は君に生きろ。とは言わない。どうやって生きたいかを聞かせて欲しい。田所さん的に言うと。こっちは良い世だ、来て欲しい」
差し出された手を握って全てを捨てて新たな世界へ行くか。それとも、自分の進むべき道を行くか。彼女の答えは――。
~~
「目を覚ましました!!」
エルシノア城に声が響く。医師から将軍まで大量の人間が走り回る。何が起きたかと周りを見回せば、自分に抱き着く女性が1人。
「良かった。生きていた」
「ガートルード……」
そこにいたのは最愛の妻『ガートルード』だった。この日、毒薬を誤飲したクローディアスは息を吹き返したのだ。
だが、目を覚ました彼の脳には嫌という程に刻み込まれた凌辱の記憶があった。そして、無理矢理扉を潜らせて来た男が言ったのだ。
「頭に来ますよ~」
もしも、生きて戻ってまだ悪徳を尽くすのであれば、再び死者の国に訪れた際は更に苛烈に責めてやろうという嗜虐に満ちた顔だった。思い出すだけで全身の体温が下がった。
「……スカーレットは」
「それが。死体が、何処にもないのです」
――
聖が目を覚ましたのは、昏睡してから3日程経った頃だった。
そこから容態が安定して、一般病棟に入ってからは家族や仲間が入れ替わり立ち代わり、見舞いに訪れては状況を説明してくれた。
「医者の見立てとしては厳しいって言われていたけれど、そこから持ち直したって聞いた時は本当に驚いた。生きていてくれてよかったよ!」
どうやら自分は通り魔から子供を庇って、生死の境を彷徨っていたらしい。つまり、死者の国は本当に存在していたということらしい。
思い出すのは別れ際の言葉。自分がスカーレットに掛けたのはあまりに無責任な言葉だったが、彼女はどうなったのだろうか?
「(やっぱり、彼女は王女として生きていくのかな)」
家族や仲間の見舞いも少し落ち着いて来た頃、看護士から不思議なことを言われた。
「聖さん。ご家族でない女性の方が来られているのですが」
ドクンと心臓が跳ね上がった。まさか、どうしてこの病院にいることを知っているのだろうか? いや、単なる勘違いかもしれない。それでも確かめずにいられなかった。
「ひょっとして、緋色の髪をした子でしたか?」
「はい。もしかして、知り合いですか?」
頷いた。本当に彼女に会えたなら、なんて話そうか。死者の国でのできごとか。これからどうするか。いや、それよりもここに居ない彼のことについて話をしたい。
外からはセミの声が聞こえる。真夏に見た夢の様なできごとの話だ。病室の扉が開く。彼女がいた、
「来てやったぞ」
「いらしゃい」
死者の国を超えて、2人の度は続く。きっと、彼女には果てしなき未来が広がっている。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。