巡る獣暦   作:ギガマツタケ

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第11話 センタク×モン×ジュウニニン

 最終試験へ向かう道は、静かだった。

 

 四次試験を終えた十二名は、協会スタッフに案内され、岩場の奥にある古い石造りの建物へ進んでいた。

 

 誰も大きな声を出さない。

 

 先ほどまでの岩迷路の熱気も、札を奪い合う気配も、もう遠いもののようだった。

 

 だが、終わったわけではない。

 

 ユズルの首には、まだ自分の守札がかかっている。

 

 二百四十一。

 

 それは、ここまで残った証だった。

 

 けれど同時に、ここまで来るために消えていった者たちの重さでもあった。

 

 ヒソカは失格になった。

 

 トンパは試験を降りた。

 

 ボルドは負傷で続行不能になった。

 

 シアンは出口まで歩き、自分の口でリタイアを告げた。

 

 そのどれもが、ユズルの中に残っていた。

 

 黒い子牛は、隣を歩いている。

 

 隠で姿を伏せたまま、黙って。

 

 ユズルは小さく息を吸った。

 

 最終試験。

 

 ここを越えれば、ハンターライセンスに手が届く。

 

 そして、ヤクモを探すための正式な資格を得る。

 

 そう思うと、胸の奥が少し熱くなった。

 

 けれど同時に、怖かった。

 

 あと一つ。

 

 その「あと一つ」が、一番遠く感じる。

 

 先頭を歩くガドルが、石造りの大扉の前で止まった。

 

 そこは、岩山をくり抜いて造られたような建物だった。

 

 外から見ると低く広い。

 しかし、入口の奥は暗く、どこまで続いているのか分からない。

 

 ガドルは受験者たちを振り返った。

 

「ここが最終試験会場だ」

 

 十二名が足を止める。

 

 乾いた風が、建物の入口を抜けていった。

 

「ここまで残った者は十二名」

 

 ガドルの視線が、ひとりひとりをなぞる。

 

 ユズル。

 

 ニカ。

 

 グラン。

 

 三次試験でニカと組んでいた無口な大柄の女。

 

 槍を持った細身の女。

 

 筋肉質の男。

 

 眼帯の男。

 

 口の軽そうな情報屋風の男。

 

 老練な女受験者。

 

 若い男。

 

 冷静そうな長身の男。

 

 そして、臆病そうな少女。

 

 名前を知っている者は少ない。

 

 だが、ここまで残ったという事実だけで、誰もただの受験者ではなかった。

 

 ガドルは言った。

 

「最終試験では、五つの門を用意している」

 

 その言葉に、受験者たちがわずかに反応した。

 

 五つ。

 

 十二名に対して、五つの門。

 

 ユズルは、無意識に丑を見た。

 

 丑は何も言わない。

 

「受験者は、この五つの門から一つを選べ。門に入った後の変更は認めない」

 

 ガドルは淡々と続ける。

 

「各門には、それぞれ異なる試験がある。内容は入るまで分からない」

 

 ニカが小さく鼻を鳴らした。

 

「嫌な言い方」

 

 彼女の声は小さかったが、近くにいたユズルには聞こえた。

 

 ガドルはさらに言った。

 

「各門で合格できるのは、一名のみ」

 

 空気が変わった。

 

 十二名に対して、五つの門。

 

 最大でも、合格者は五名。

 

 しかも、門ごとの試験を突破できる者がいなければ、その門から合格者は出ない。

 

 つまり、合格者は五名未満になる可能性もある。

 

 受験者たちの目が鋭くなる。

 

 誰がどの門に入るか。

 

 それだけで、合否が大きく変わる。

 

 ガドルは言った。

 

「同じ門に複数名が入った場合、その門の中で選別される。相手を倒せば合格とは限らない。門ごとに合格条件は異なる」

 

「一人で入ったら?」

 

 筋肉質の男が聞いた。

 

「一人で入っても、条件を満たせなければ失格だ」

 

 ガドルは即答した。

 

「門を選ぶ時点から、試験は始まっている」

 

 その言葉で、誰も口を開かなくなった。

 

 ただ五つの門を選ぶだけではない。

 

 自分に合う門を選ぶのか。

 相手が少ない門を選ぶのか。

 強い者を避けるのか。

 あえて同じ門に入るのか。

 

 選択そのものが、もう試験だった。

 

 石の大扉が開いた。

 

 重い音を立てて、左右にゆっくりと開いていく。

 

 その先には、広い円形の部屋があった。

 

 天井は高く、壁には古い灯りが並んでいる。

 奥には、五つの門が弧を描くように並んでいた。

 

 一つ目は、黒い金属で覆われた巨大な門。

 

 表面には剣や鎚の傷跡のようなものが無数に残り、見るからに重い。

 

 ガドルが言った。

 

「鋼の門」

 

 二つ目は、細く暗い門。

 

 縁は黒い石でできていて、近づくだけで音が吸い込まれるような気がした。

 

「静寂の門」

 

 三つ目は、奇妙な彫刻が施された門だった。

 

 歪んだ笑顔。

 こちらを見下ろす目。

 悪趣味な仮面のような意匠が、門全体に彫り込まれている。

 

「笑う門」

 

 四つ目は、古い木製の門だった。

 

 他の門に比べると地味で、どこか入口というより出口に見える。

 門の上には、かすれた文字で「戻」と刻まれていた。

 

「戻りの門」

 

 五つ目は、何もなかった。

 

 白い門。

 

 装飾もない。

 文字もない。

 傷もない。

 ただ、白い石でできた長方形の門が、静かに立っている。

 

 ガドルが言った。

 

「空白の門」

 

 ユズルは、その門から目を離せなかった。

 

 何もない。

 

 だからこそ、怖かった。

 

 鋼の門は力を試されそうだと分かる。

 静寂の門は慎重さを求められそうだと分かる。

 笑う門は嫌な精神攻撃がありそうだと分かる。

 戻りの門は道を読み直す試験かもしれないと想像できる。

 

 でも、空白の門だけは何も教えてくれない。

 

 分からない。

 

 何を試されるのか。

 

 何に気をつければいいのか。

 

 何が危険なのか。

 

 何も書かれていない。

 

 それが、他のどの門よりも不気味だった。

 

 ガドルが手を上げた。

 

「選択時間は十分。相談は自由。妨害は禁止しない。ただし、門を破壊した者、試験官へ攻撃した者は即失格とする」

 

 十分。

 

 短い。

 

 それでも、長すぎるとも思った。

 

 考えれば考えるほど、迷う。

 

 受験者たちは、それぞれ門を見比べ始めた。

 

 筋肉質の男は、真っ先に鋼の門を見た。

 

「分かりやすくていい」

 

 彼はそう言った。

 

 槍を持った女も鋼の門を見る。

 

「力だけの門とは限らない」

 

「だったらなおさら面白い」

 

 筋肉質の男は笑った。

 

 グランも鋼の門を見ていた。

 

 ユズルは、その横顔を見た。

 

 グランなら、鋼の門が似合う。

 

 力で進む門。

 

 壊してでも突破する門。

 

 けれど、グランの顔は思ったより真剣だった。

 

 ただ力任せに突っ込む顔ではない。

 

 彼は、ヒソカを見た。

 

 トガリが倒された場面を見た。

 

 そして、沈黙の回廊で、ユズルと共に進んだ。

 

 その経験が、少しだけ彼を変えたのかもしれない。

 

 グランは低く呟いた。

 

「力だけじゃねぇんだろうな」

 

 ユズルはそれを聞いて、少し驚いた。

 

 グランは気づいたようにこちらを見る。

 

「あ?」

 

「いえ」

 

「見るな」

 

「すみま……」

 

 言いかけて、止めた。

 

 グランは鼻を鳴らした。

 

「鋼に行く」

 

「はい」

 

「お前は来んなよ。向いてねぇ」

 

「たぶん、行きません」

 

「だろうな」

 

 グランは鋼の門の前へ歩いていった。

 

 筋肉質の男がそれを見て、口元を吊り上げる。

 

「お前もか」

 

「邪魔すんなよ」

 

「そっちこそ」

 

 槍の女も無言でその近くに立った。

 

 鋼の門には三人。

 

 ニカは静寂の門と笑う門の間で迷っているようだった。

 

 無口な大柄の女が、静寂の門の前へ立つ。

 

 ニカはそれを見て、少しだけ目を細めた。

 

「そっち行くんだ」

 

 大柄の女は小さく頷いた。

 

「なら、私もそっち」

 

 ニカが静寂の門へ向かう。

 

 ユズルは思わず言った。

 

「ニカさん」

 

 ニカは振り返る。

 

「何?」

 

「気をつけてください」

 

 ニカは少しだけ笑った。

 

「二百四十一番に言われるとはね」

 

「すみません」

 

「謝るところじゃない」

 

 ニカは静寂の門の前に立った。

 

 そして、少しだけ声を落とす。

 

「あんたは、自分で選びな」

 

 ユズルは頷いた。

 

「はい」

 

「人の顔見て決めないこと」

 

「……はい」

 

「それと」

 

 ニカは少しだけ間を置いた。

 

「落ちないでね」

 

 いつもの軽さで言ったつもりなのだろう。

 

 でも、その声は少しだけ柔らかかった。

 

 ユズルは答えた。

 

「ニカさんも」

 

「私は落ちないつもり」

 

 そう言って、ニカは前を向いた。

 

 笑う門の前には、口の軽そうな男が立っていた。

 

「こういう見るからに罠っぽい門って、逆に当たりだったりするんだよな」

 

 彼は隣の眼帯の男へ話しかける。

 

 眼帯の男は答えない。

 

 ただ、笑う門の彫刻をじっと見ていた。

 

「無視かよ。まあいいけど」

 

 口の軽い男は肩をすくめる。

 

 二人はそのまま笑う門の前に残った。

 

 戻りの門の前には、老練な女受験者が立った。

 

 髪に白いものが混じり、顔には深い皺がある。

 だが、背筋はまっすぐだった。

 

 若い男が、その横で迷っている。

 

「戻りって……不合格っぽくないですか」

 

 若い男が言う。

 

 老練な女は答えた。

 

「そう思うなら、別の門に行けばいい」

 

「いや、でも、逆に罠じゃないかもしれないし」

 

「考えることは良い。だが、決めるのは自分だ」

 

 若い男は唇を噛み、結局、戻りの門の前に立った。

 

 老練な女はそれを見ても、何も言わなかった。

 

 残るは、空白の門。

 

 ユズルはまだ動けなかった。

 

 空白の門の前には、冷静そうな長身の男が立っていた。

 

 彼は腕を組み、五つの門を見比べている。

 

「情報が少ない」

 

 男は独り言のように言った。

 

「鋼、静寂、笑う、戻り。どれも名称による誘導がある。つまり、名称自体が罠である可能性が高い」

 

 彼は空白の門を見る。

 

「唯一、名称が意味を持たない門。逆に、最も情報の偏りが少ない」

 

 ユズルは、その言葉を聞いた。

 

 確かに、そういう考え方もある。

 

 何も書かれていないからこそ、余計な先入観がない。

 

 ただし、それは同時に、何も頼れないということでもある。

 

 臆病そうな少女が、空白の門の近くで立ち止まっていた。

 

 年齢はユズルより少し下に見える。

 手には短い杖のようなものを持っている。

 顔色は悪く、何度も周囲を見回していた。

 

 彼女はユズルに気づくと、小さく頭を下げた。

 

「あの……」

 

「はい」

 

「あなたも、ここに入るんですか」

 

 ユズルはまだ答えられなかった。

 

「まだ、決めていません」

 

「そうですか」

 

 少女は俯いた。

 

「私、どこに行っても駄目な気がして」

 

 その声に、ユズルは少しだけ胸を突かれた。

 

 分かる。

 

 自分もそう思っている。

 

 どの門も怖い。

 

 どれを選んでも間違える気がする。

 

 少女は続けた。

 

「誰かと同じ門に入れば、少しは安心かと思ったんです。でも、一つの門で合格できるのは一人だけで」

 

 彼女は手の中の杖を握った。

 

「それなら、同じ門に入った人は、敵ですよね」

 

 ユズルはすぐに答えられなかった。

 

 敵。

 

 そう言えば、そうなのかもしれない。

 

 同じ門に入れば、合格できるのは一人だけ。

 

 協力しても、最後にはどちらかが落ちる。

 

 それでも、最初から敵と決めてしまうことに、ユズルは抵抗があった。

 

「分かりません」

 

 正直に言った。

 

「敵かもしれません。でも、それだけではないと思います」

 

 少女は不安そうに見上げる。

 

「それだけではない?」

 

「はい。少なくとも、門の中で何があるか分からないうちは」

 

 少女は黙った。

 

 ユズルは、自分の言葉が正しいのか分からなかった。

 

 でも、シアンのことを思い出していた。

 

 助けることと、背負うことは違う。

 

 誰かを助けたいと思うことと、その人の合格まで背負うことは違う。

 

 この少女を安心させるために、自分が「一緒に行きましょう」と言うことはできる。

 

 でも、その先で、彼女の答えまで自分が選ぶことはできない。

 

 ユズルは門を見た。

 

 空白の門。

 

 何も書かれていない門。

 

 あの門は、何も教えてくれない。

 

 だから、自分で決めるしかない。

 

 ユズルは気づいていた。

 

 自分は、もうこの門を選び始めている。

 

 理由を探しているだけだった。

 

 怖いから。

 何も分からないから。

 他の門より向いていそうだから。

 誰も教えてくれないから。

 

 違う。

 

 そうではない。

 

 自分で決めなければならない門だからだ。

 

 ユズルは一歩、空白の門へ向かった。

 

 少女が息を呑む。

 

 冷静そうな長身の男が、ユズルを見た。

 

「君もここか」

 

「はい」

 

「理由は?」

 

 ユズルは少し考えた。

 

「何も書いていないからです」

 

 男は眉を動かした。

 

「それは理由として弱い」

 

「そうかもしれません」

 

「情報がない場所を選ぶのは合理的ではない」

 

「でも、情報があっても、全部が本当とは限りません」

 

 ユズルは五つの門を見た。

 

「ここまで、何度もそうでした」

 

 標識。

 案内人。

 トンパの言葉。

 試験官の説明。

 ヒソカの笑顔。

 

 見えるものも、聞こえるものも、全部が正しいわけではなかった。

 

 だが、何も信じないままでは進めない。

 

 だから最後は、自分で決めるしかない。

 

 長身の男は少しだけ目を細めた。

 

「感覚型か」

 

「たぶん、違います」

 

「では何だ」

 

 ユズルは答えられなかった。

 

 自分でもまだ、分からない。

 

 その時、丑が隣で短く言った。

 

「決めろ」

 

 ユズルは小さく頷いた。

 

「決めました」

 

 長身の男はそれ以上何も言わなかった。

 

 少女は迷っていた。

 

 彼女は他の門を見て、最後に空白の門を見る。

 

 そして、小さな声で言った。

 

「私も……ここにします」

 

 ユズルは彼女を見た。

 

「本当に?」

 

「はい」

 

 少女の声は震えていた。

 

「怖いです。でも、何が怖いのか分からない門なら、全部怖いのと同じだから」

 

 その言葉は少し乱暴だった。

 

 でも、彼女なりの理由なのだろう。

 

 ユズルは頷いた。

 

「分かりました」

 

「一緒に進んでもいいですか」

 

 少女が聞いた。

 

 ユズルは、すぐには答えなかった。

 

 言ってはいけない言葉がある気がした。

 

 必ず助けます。

 絶対に一緒に合格しましょう。

 大丈夫です。

 

 どれも言えなかった。

 

 この門で合格できるのは一人だけ。

 

 その事実をごまかすことはできない。

 

 ユズルは言った。

 

「途中までは、できると思います」

 

 少女の目が少し揺れる。

 

「途中まで」

 

「はい。でも、最後にどうするかは、自分で決めてください」

 

 少女は唇を結んだ。

 

 そして、小さく頷いた。

 

「分かりました」

 

 それが本当に分かったという意味なのか、ユズルには分からなかった。

 

 でも、それ以上は言えなかった。

 

 ガドルの声が響く。

 

「選択時間、残り一分」

 

 各門の前に、受験者たちが並んでいた。

 

 鋼の門。

 

 グラン。

 筋肉質の男。

 槍の女。

 

 静寂の門。

 

 ニカ。

 無口な大柄の女。

 

 笑う門。

 

 口の軽い男。

 眼帯の男。

 

 戻りの門。

 

 老練な女受験者。

 若い男。

 

 空白の門。

 

 ユズル。

 冷静な長身の男。

 臆病そうな少女。

 

 十二名。

 

 五つの門。

 

 それぞれの選択。

 

 ユズルは、ふとニカの方を見た。

 

 ニカもこちらを見ていた。

 

 彼女は軽く手を上げる。

 

「二百四十一番」

 

「はい」

 

「その門、似合ってるよ」

 

「そうですか」

 

「うん。何考えてるか分かんないあんたには、何も書いてない門がちょうどいい」

 

 褒めているのか、からかっているのか分からなかった。

 

 でも、ユズルは少しだけ笑えた。

 

「ニカさんも、気をつけてください」

 

「だから、私は落ちないつもり」

 

 ニカは前を向いた。

 

 グランもこちらを見ていた。

 

「おい、ユズル」

 

 初めて、自然に名前で呼ばれた気がした。

 

 ユズルは少し驚く。

 

「はい」

 

「変なところで潰れんなよ」

 

「グランも」

 

「俺は潰れねぇ」

 

 グランは鋼の門を見た。

 

「潰す側だ」

 

 そう言ってから、少し間を置いて、付け加える。

 

「……まあ、力任せにはやらねぇよ」

 

 ユズルは頷いた。

 

「はい」

 

 ガドルが片手を上げた。

 

「時間だ」

 

 五つの門が、同時に低い音を立てた。

 

 石と金属と木が軋み、それぞれの入口が開いていく。

 

 鋼の門の奥からは、重い機械音が聞こえた。

 

 静寂の門の奥は、音がまったくなかった。

 

 笑う門の奥からは、誰かの笑い声のようなものが漏れた。

 

 戻りの門の奥には、薄暗い下り坂が続いている。

 

 そして、空白の門の奥には、白い通路があった。

 

 何もない。

 

 ただ、まっすぐ伸びる白い通路。

 

 ユズルは喉を鳴らした。

 

 何もないことが、怖い。

 

 ガドルの声が響く。

 

「門に入れ。ここから先は、それぞれの試験だ」

 

 受験者たちが動き始めた。

 

 グランたちが鋼の門へ入る。

 

 ニカたちが静寂の門へ消える。

 

 笑う門の前では、口の軽い男が何か冗談を言っていたが、眼帯の男は無言で中へ入った。

 

 戻りの門では、老練な女が迷わず進み、若い男が慌てて後を追った。

 

 最後に、ユズルたちの番だった。

 

 長身の男が先に歩き出す。

 

「行こう。止まっていても始まらない」

 

 少女が震えながら続く。

 

 ユズルは一歩遅れて、空白の門の前に立った。

 

 丑が隣にいる。

 

「怖い」

 

 ユズルは小さく言った。

 

 丑は答えた。

 

「進め」

 

「うん」

 

 ユズルは頷いた。

 

 怖いまま。

 

 分からないまま。

 

 それでも、自分で選んだ門へ。

 

 ユズルは、空白の門をくぐった。

 

 背後で、門が閉じる音がした。

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