シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス   作:メリーさんのアモル

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 大変お待たせ致しました。
 前作『シェリーの助手君』の続編『シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス』開幕です。

 本作は本格ミステリの類ではありませんので、推理要素はあまり期待しないでください。


序章「ファーストキスはムードが大事」

「あ! 助手君助手君!!」

 あなたが電車を降りて高校の最寄駅に到着し、改札を抜けるとシェリーがあなたに向けて手を振って駆け寄ってくる。

 ホッとするいつもの光景。

「おはよう、シェリー」

「はい、おはようございますー!」

 ニコニコと笑顔のシェリーを見ていると、あなたも自然と笑顔になってしまう。

 並び立って歩くと、なんだかそれだけで幸せだ。

「そういえば、もうすぐ夏休みじゃないですか」

「そうだね」

 シェリーの言葉にあなたは頷く。

「思い切って、温泉旅行とか行きません?」

「この暑い夏に?」

 突拍子もない提案だが、あなたは特に動じずに応じる。シェリーと付き合っていたら、いつものことだからだ。

「はい! だって、温泉旅館で殺人事件って定番じゃありません?」

「もしかしてなんだけど、昨日の夜やってた刑事もの見た?」

 そこでふと思い出した。そう言えば昨日の夜、温泉旅館で殺人事件が起きる刑事ものドラマをやっていたな、と。

「はい、助手君も見てましたか?」

「見たよ」

「そうでしたかー。どうせなら、推理し合いながら見ればよかったですね」

「あぁ、それ楽しそうだね。今度ミステリドラマやってたら連絡するよ」

「はい、そうしましょう」

 そう話していると、見覚えのある後ろ姿が見えてくる。

「あ、ハンナさんです。おーい、ハンナさーん」

 シェリーがその後ろ姿に向けて、手を振りながら駆け寄る。

 あなたはその可愛らしい様子にふっと笑みをこぼしながら、それを追う。シェリーと恋仲になったあなたにとっては、ハンナは決して恐ろしい存在ではない。むしろシェリーの貴重な親友だ。あなたにとっても大切にするべき存在だった。

「あら、シェリーさん、それに助手さんも。偶然ですわね」

「またまたー。いつもタイミング合わせてくれてるの知ってますよー」

「そ、そんなわけねぇですわ!?」

 ハンナは、シェリーやあなたの通う煎夏(べいか)高校とは違う高校に通っているが、意外にも通学路が近いため、こうして時間を合わせると通学のタイミングで会うことが出来た。

 そんな経緯なので、どう考えてもそんなわけあるよなぁ、とあなたも思うが、まぁハンナ本人が否定しているのを暴くほどあなたも鬼ではない。

「えー、そんなわけあるでしょー?」

 が、シェリーは鬼だったようだ。恐らく無自覚だろう。

 この二人は放っておくとこうしてずっと仲良くお喋りを続ける。

 それはそれで微笑ましいのだが、流石にずっと自分だけ放置されていると、ちょっとだけ妬いてしまう。

 ので。

「ところで、シェリー。温泉旅行にはハンナさんも誘うの?」

 などと、ハンナも混ざれる形で最初、二人で話をしていた時に話題を振る。

「温泉旅行? なんの話ですの?」

「さっきまで二人で、夏休みに温泉旅行に行こうよって話をしてたんですよ」

「この暑い夏にですの?」

 やっぱそうなるよなー、とあなたも思った。

「はい。あ、聞いてくださいよ。調べたら、ここから一番近くにある温泉旅館には、身内だけで一緒に入れるお風呂があるらしいですよ」

「そ、それは、ちょっとボクらには早くない?」

 ってかそれって所謂家族風呂だよね、と思ったが、シェリーとあなたは家族がやや地雷ワードなのであえて口に出さない。

「早すぎですわ! あなた達、キスもまだでしょうに」

「えー、そんな順番は関係ないと思いますけど。昔はよく二人並んでシャワーとか浴びましたよ、ねぇ助手君?」

「え、あー、まぁ、……確かに……」

 あの施設は色々雑だったので、小さい頃には色々あった。それはあの施設が異常だっただけなのだが、なんとなく、あなたはトーンダウンしてしまう。

「ありますわ。物事には順番というものがありますの」

 だが、この場にはハンナがいる。幸い、ハンナが代わって反論してくれた。ここはハンナに任せて、とあなたは水分補給を始めた。

「じゃあ、その順番を守ればいいんですか?」

「……えぇ、そうですわね」

「じゃあ、助手君。キスしましょう」

 ぶっ。と思わず口から水が噴き出る。

「うわ、ばっちいですわ。気持ちは分かりますけど」

「え、なんで驚くんですか。私達恋人同士ですよね? キスくらいしてもおかしくないんじゃありません?」

 シェリーが心外、といった声色を作ってあなたを非難する。

「いや、それはもちろんその通りだけど」

 けれど、これまでキスをしてこなかったことにだって理由があるのだ。

「だって、ファーストキスだよ。こんな往来でなんとなくいきなりするんじゃなくて、もっと重要なタイミングでやりたいよ」

「ふーむ、そういうものですかー」

 それがあなたの偽らざる気持ちだった。

「というか、シェリーだってこれまでキスを求めてきたことなんてなかったんだから分かるんじゃないの?」

「いえ、私は……」

 僅かな逡巡の末に、シェリーが応える。

「あんまりキスの意味が分からなくて……。だってただ唇と唇を重ねるだけですよね?」

「あぁ……」

 ハンナとあなたは同時に納得の声を上げる。実際、そう言われれば、あなただってキスなんてしたことないのだし、唇と唇を重ねるだけと言われればその通りだ。

「ともかく、ファーストキスはもっと大事な時に取っておきたいよ」

「むー、それっていつですかー」

 シェリーが意図的にむくれて見せるので、あなたはふと考えてみる。

「それはえーっと……、まず、周りに人がいなくて」

「二人っきりの時ってことですね!」

「それで、何かこう、特別な場所で」

「ほう、どんなところでしょう?」

「まぁ、初めての自宅デート、とかがよく聞く気がしますわ」

 なんだかんだ話に付き合ってくれるハンナは優しい。

「それから、何か意味のある日で」

「記念日ですね!」

「後は、ムードが高まった時、かなぁ」

「ムードですか……、よく分かりませんね」

 前から知っていたことだが、シェリーは定量化できない感覚についてはやや苦手気味だ。

「でも分かりました!」

 しかし、シェリーはしばしの思案の末に、そう言って応じた。

「つまり、もうすぐ来る私の誕生日に、助手君の家で二人っきりでデートして、そこでキスしましょう! これで四分の三はクリアーですよね」

 そう言って、シェリーはにっこりと笑った。

 可愛い。

「あ、いや、そうじゃなくて、一番大事なのはムードで……」

「初キス、こうして予定を決めるとなんだか楽しみになってきました!」

 その様子がなんとも可愛くて、あなたは何も言えなかった。

「絶対何か言った方がいいですわよ。事前に予定の決めた初キスなんてムードもへったくれもないですわ」

「……それはそうだよね……」

 けれど、元気一杯のシェリーを見ているとなんだかそれで満足してしまうあなたなのだった。

「また、そうやって甘やかして、知りませんわよ」

 そんな話をしていると、もう分かれ道のようだ。

 シェリーとあなたは煎夏高校へ、ハンナはまた別の高校へ、それぞれ違う道を行く。

 

 それから程なくして、七月二十九日、シェリーの誕生日がやってくる。

「おぉー、ここが助手君の部屋ですかー!」

 部屋に案内すると、シェリーが嬉しそうに笑う。

「早速部屋漁りをしましょう! やっぱり定番はベッドの下でしょうかー?」

「そんな分かりやすい場所には隠さないよ」

 ウキウキとベッドの下を覗き出すシェリーに、あなたは苦笑する。

「お、と言うことはどこかに隠してはいるんですね?」

 これは探し出すしかない、とシェリーは部屋の中をノリノリで探し始めた。

 その様子を微笑ましく見守りながら、あなたはケーキと紅茶の準備を進める。

「見つけましたー!」

「うそ、もう!?」

「ふふん、助手君の考えくらいすぐ分かっちゃいますよ!」

 かなり分かりにくいところに隠したつもりだったが、シェリーにはお見通しだったようだ。

「ほほう、幼馴染ものに探偵もの、こういうのが助手君の好みですかー。ちょ、ちょっと照れますねぇ」

 と、分かりやすく頭を掻くシェリー。

「も、もういいでしょ、ほら、ケーキ食べようよ」

 あなたも恥ずかしいので、話を切り上げて準備を終えたケーキと紅茶を食べるように促す。

「はい、その後はファーストキスですね! キスは直前に食べたものの味がするというので、やっぱりファーストキスはケーキの味になるんでしょうか!」

「う、うん、そうだね……」

 あなたはちょっと複雑そうに苦笑する。

 やはりファーストキスにはもっとムードがある特別なタイミングにしたい、と言う思いがあなたにはあった。

 

 そうして悩んでいるうちに、シェリーはケーキを食べ終えて、あなたがケーキを食べ終わるのを待っていた。

「どうしました? 何か悩み事ですか?」

「え? あぁ、ううん。そうじゃないよ。ごめんね、折角の誕生日に」

 急いで、ケーキを片付けるあなた。

「わわ、そんなに急いで食べなくても」

 そんな様子にシェリーが思わず目を丸くする。

「まぁでも、食べ終わったなら、いよいよキスの時間ですねー!」

 嬉しそうにシェリーが笑って、あなたの隣に移動してくる。

 一気にシェリーとの距離が近づき、あなたの鼓動が飛び跳ねる。

 それに気付いているのかいないのか、シェリーはその可愛い顔をあなたに近づけて、目を閉じる。

 シェリーの顔が近づいてくる。やや上気して見える頬、目を閉じてわずかに唇を突き出した姿は色っぽくて、あなたをドキドキさせる。

 今からシェリーとキスをするのだ、と思うとあなたの鼓動は暴れるのをやめてくれない。

 確かに、少しムードはでてきた気がする。

 けど、けれど、けれども。

「や、やっぱりだめー!」

 あなたは、シェリーを押し返して距離を取る。

「わぁ、な、なんですか」

「やっぱりムードが足りないよ」

「ムードってなんですかー。私のパートナーなら、私にも分かるようにもっと定量的な言い方をして下さいー」

 数カ月付き合って、シェリーは自分の苦手をあなたには隠さなくなった。

「う……」

 それを受けてあなたも可能な限りシェリーにあわせた言い方をしたいところであったが、ムードという言葉を定量的に表すのは、今のあなたにはまだ難しかった。

「無理なんだったら、今からキスして下さい」

「そ、それは……」

 あなたはファーストキスを記憶に残るキスにしたかった。今のこれは記憶には残るかもしれないが、あなたの理想とするものとは違うのだ。

 そこでふと、あなたの脳裏に閃くものがあった。

「温泉旅館!」

「え?」

「ほら、前にシェリー行きたいって言ってたよね。二人っきりで行こうよ。それで消灯後の夜寝る前とかに、きっとムードが高まってる、はず!」

 そういう話はよく見かけるし、とあなた。

「そういうことですか! 分かりました!! じゃあ、温泉旅館で今度こそキスですね!」

 気合を入れるシェリーを見て、あれ、これだと結局予定されたキスには違いないのでは、と不安に思いながら、あなたは頬を掻くのだった。

 温泉旅館でファーストキスどころではない事件に巻き込まれる、などということには、まだ想像もしていない二人であった。

 

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