シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス   作:メリーさんのアモル

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第一章「見知った宿泊客」

「到着しましたねー」

 崖沿いの狭い道を進む専用のシャトルバスに揺られることしばし、二人は温泉旅館に到着した。あなたはシャトルバスの荷台からキャリーケースを取り出し、転がしながら温泉旅館に向かう。

 温泉旅館の敷地に入ると立派な日本庭園が広がっている。

「見て下さい、助手君。ししおどしですよ! この辺、鹿とか出るんでしょうか?」

「どうだろう。前に調べたことがあるんだけど、一乗寺にある詩仙堂ってところがししおどしを設置して以来、日本庭園で風流な演出のために使われるようになったらしいから」

「これはあくまで演出用に設置されてるだけってことですねー! さすが助手くん、よく調べてますー」

 そう微笑むシェリーの背後で、ししおどしがかぽーんと風流な音を立てる。

「エントランスは南向きなんですね」

「うん。西から入ってきて庭園を抜けてエントランスだなんてちょっと風情があるね」

「庭園に入ってすぐの木っぽい壁で覆われてた場所、湯気がたくさん出てましたね。ちょっと独特の匂いがしましたけど、あそこが露天風呂でしょうか」

「そうだね、腐卵臭って感じの匂いだった。衣服に匂いがつくと簡単には落ちないらしいね」

「だから、旅館のパンフレットに匂いがついても気にならない服で、なんて書いてあったんですねー」

 そんな話を交わしながら、二人はエントランスに入る。

 エントランスから見てすぐにロビーがあり、その右手には小さな庭園があった。

「わぁ、屋内にもししおどしがありますよ、助手君」

「風流だね」

 エントランスで靴を脱いでロッカーに入れて、鍵となる木札を抜く。

「ようこそいらっしゃいました」

 二人の騒ぎ声が聞こえたのだろうか、女将が廊下の奥から出てきて出迎えてくれた。

「シェリー様とあなた様ですね? お二人の部屋は二階の突き当たり、201号室になります。食事の時間は18時です。食堂はこの廊下を真っすぐ進んで途中の丁字を左に曲がって頂くと左手に見えますので、後ほどご確認下さいませ」

 そう言って、女将はあなたに部屋の鍵を渡してくれる。

「ありがとうございます。じゃあ、早速部屋に行きましょう、助手君」

「うん。ありがとうございます」

 あなたとシェリーはロビーに上がる。

「あ、お待ちください」

 女将がキャリーケースをロビーに上げる前に静止する。

「あ、ごめんなさい」

 キャリーケースのキャスターが汚れているのだ。

 従業員がすぐにやってきてキャスターを拭ってくれた。

「ありがとうございます」

 もう一度二人でお礼を言って、ロビーに入ってすぐ右手に見える階段を登る。

 二階に登ると、左手と目前に廊下が伸びている。

「真っ直ぐ行くと客室が並んでるみたいですけど、左手にあるのは何でしょう?」

「あ、先に部屋に荷物置こうよ」

 シェリーが左の廊下へど歩き出すので、慌ててあなたも続く。

「わぁ、助手君、屋上庭園まであるみたいですよ。結構広そうです!」

 楽しげにシェリーが笑う。

「南側に面した客室はこの屋上庭園が窓から見えるんだね。南側の部屋に日が差し込まないって問題が起きないようにするための対策かな?」

「奥の壁の向こうからは湯気が見えますね。露天風呂のすぐ手前までこの屋上庭園が続いているみたいです」

「だね。さ、庭園探索は後にして、部屋に行こう」

「ですね。ごめんなさい、キャリーケースを助手君に引いてもらってるのに」

「いいんだよ。さ、行こ」

 二人は改めて階段の正面、屋上庭園と繋がった廊下から戻ってきた二人にとっては左側の廊下へと歩き出す。

「この大きい扉の部屋は遊戯室みたいですね。映画とか見られるんでしょうか」

「流石に映画はないんじゃない? アーケードゲーム、メダルゲーム、卓球、辺りじゃないのかな」

「温泉の後の卓球は定番と聞きます。あったら、是非やりましょう」

「えぇ、僕、あんまり卓球の自信ないんだけどな……」

 そう言いながら、一番奥の右手、201号室を発見する。

「右側が奥から201、202、203。左側が奥から205、206、207号室か」

 そう言いながら、あなたは手元にメモを取る。

「何してるんです?」

「ちょっと館内図をね。ほら、ミステリーだと定番でしょ?」

「確かにそうですねー。じゃあ完成させるためにも一階も見て回らないと行けませんね」

「だね」

 そう言いながら二人は自室に荷物を下ろす。

 そして、部屋を出ると、そこでは見覚えのある白い短髪の少女が立っていた。

「外から聞き覚えのある声がすると思ったら、やっぱりシェリーちゃんと助手君だったんだね」

「え、エマさん!?」

 そう、そこに立っていたのはかつてシェリーと同じ牢屋敷に囚われていた少女、桜羽(さくらば)エマだった。

「うん、久しぶり。と言っても、シェリーちゃんとはよくチャットで話をしてるから久しぶりって感じはしないけど」

「ご無沙汰してます」

 エマはシェリーと仲の良い友人だ。しかも、あなたとシェリーをくっつけるのに協力してくれた人でもある。あなたは失礼のないように久しぶりの挨拶をする。

「そんなに固くならなくていいよ。ボクら共通の友人を持つ友達でしょ」

「友達……。うん、よろしく」

「うん、改めてよろしくね」

 あなたに微笑むエマ。

「むー。シェリーちゃんを抜きにして他の女の人と微笑みあうのは恋人としてどうなんですかねぇ」

 なんだかそんなやりとりにちょっと不服そうなシェリー。

「って、そういえば、エマさんはどうしてこちらに、お一人ですか?」

「ううん、ヒロちゃんと一緒なんだ」

 ヒロ、というと、二階堂(にかいどう)ヒロのことだろう、とあなたは思い出す。確か、エマの幼馴染だったはずだ。

 あなたはヒロとは一度しか会ったことがない。シェリーをアテもなく探し求める中で、唯一の手がかり、それがヒロだったのだ。尾行に気付かれて怒られたイメージが強く、優しいが厳格な人、と言うイメージがある。

「へぇ、幼馴染仲良く温泉デートってことですか?」

「で、デートって、そんな……。まだボクらは二人程仲良く出来てないから……。でも、この旅行でそうできれば良いな、って思ってる」

 ちょっと顔を赤くしてうつむくエマ。

「部屋の前で何を話しているんだ、エマ」

 203号室から長い黒髪の少女が出てくる。噂の人物、ヒロである。

「む、シェリーか。それに君は、確か私を尾行していた……そうだ、シェリーの幼馴染だったな」

「うん、シェリーちゃんの助手君だよ」

「どうも、シェリーの助手です」

 エマが紹介してくれるので、自分でも頷く。

「そこで名乗るのが名前ではなく立場なのは正しいのか……?」

 エマとあなたの言葉を訝しむヒロ。

「シェリーちゃんと助手君はこの温泉旅館でデートなんだって。201号室に泊まるみたいだよ」

 続けて、エマが自分達のことを更に紹介してくれる。

「なんだと。まだ高校生だろう、君達は。親の同伴なしで、一部屋に男女が一緒に泊まるなんて、正しくない」

 そんなエマの説明に、ヒロの目線が細くなる。

「正しいですよ。私達恋人同士ですもん。それに、二人だってこの旅館で泊まるなら、立場は一緒じゃないですかー」

 少し怯むあなたに対して、シェリーは臆さず応じる。

「私達は違う。エマは202号室、私は203号室だ。ちゃんと別々に部屋を取っている。君達もそうするべきだ」

「それじゃあ夜にキスとかできないじゃないですか! 私達、夜にはキスするんですよ、ね、助手君」

「えっ、あっ、えっと、えっと」

 シェリーの友人とは言え、エマとヒロという他人の前であっさりと自分達の恥ずかしい部分について触れてしまうシェリーに、あなたは赤面して言葉を紡げなくなってしまう。

「あれ、どうして何も言ってくれないんですか?」

 そんなあなたの状態を理解できずに、シェリーが首を傾げる。

「……はぁ、恋人ができたと言っても、君は何も変わっていないな」

「あはは」

 呆れた様子でヒロが溜息を付き、エマが苦笑する。

 どうやらこの温泉旅館での宿泊も賑やかなものになりそうだった。




と言うわけで、エマとヒロの登場です。
上手く描けてるからドキドキです。
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