シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス 作:メリーさんのアモル
夜が近づく。
「エマさんとヒロさん、元気そうでしたね」
「そうだね」
あなたとシェリーは遊戯室で古いスクロールシューティングゲームを遊んでいた。
「っと、シェリー、そっち、パワーアップアイテム取っていいよ」
「こっちからだと、敵の攻撃が激しくて難しいです」
「分かった、今からそっち援護するからちょっと待ってね」
あなたは巧みに自機を操ってシェリーを援護し、シェリーがパワーアップアイテムを取るのをエスコートする。
「お、取れました。これで、オプションをゲットです!」
「うん、このままクリアまで行こう!」
「はい!」
あなたとシェリーは見事なコンビネーションを発揮して、無事ゲームをクリア……とはなかなかいかなかった。
「やっぱり昔のゲームって難しいですねー」
「うん、でも楽しかった。やっぱり二人でやると楽しいね」
「ほほう、やっぱり、と来ましたか」
と意味深にシェリーが頷きながら遊戯室を出ると、ちょうどエマとすれ違った。
「おや、エマさん、お風呂ですか?」
「あ、シェリーちゃんに助手君。うん。雨が止んだみたいだから、ボクも今のうちに露天風呂を味わっておこうと思って」
「そうでしたか、ごゆっくり」
そう言葉を短く交わして、エマは東の階段へ、シェリーとあなたは西の自室へ。
部屋に戻って二人は寝る準備を始めた。横並びに布団を並べる。
「それで助手君。ズバリ、さっきのゲーム、予習していたでしょう?」
「あれ、バレちゃった?」
隠すことでもないので、あっさり明かす。
「流石に初めて遊んだにしては上手すぎました。それに『やっぱり二人でやると楽しい』、というのは、一人で遊んだことがある人のコメントですよね?」
「あはは、シェリーには敵わないね」
実はシェリーの想像通りであった。
「この宿に決めてから、事前に色々調べてたんだ。そしたら、あのゲームがあるって分かって」
「事前調査、探偵の基本ですね」
「そうそう。それで、数あるゲームの中でもあのゲームだけは一緒に協力プレイで遊べるゲームだから、シェリーが興味を示すかもしれないな、と思って。練習しておこうかな、と思って、コンソール版を触ってたんだ」
ちょっとだけだけどね、とあなたは笑う。
「ほう、なるほど、私の行動を想像されてたんですね。助手君、ナイス推理でした」
「うん、シェリーもね」
二人で笑い合いながら、布団に入ってみる。
なんだか良い雰囲気のような気がする、とあなたは感じた。
その視線を感じたのか、シェリーも少しだけ頬を赤くする。
「な、なんだか感じたことのない気分です。これが……良い雰囲気、というものなんでしょうか……」
照れるシェリーが珍しくて、あなたはずっと見ていたくなった。
いつもなら「じゃあしちゃいましょうか」なんて軽く言いそうなシェリーが少ししおらしい。
「シェリー……」
「はい……」
あなたがシェリーの頬に手を当てる。
そして、二人は顔を近づけて……。
「きゃあああああああああああ!!」
そんな悲鳴で、二人は同時に立ち上がった。
「助手君」
「うん」
二人は気分を一瞬で切り替えて、かたや険しい顔、かたや楽しげな顔になる。だけど、続く言葉は同じ。
「事件の気配!」
二人の声が重なって、そして、二人は頷きあって扉を出る。
「下からだったよね?」
「でしたね」
外に出ると、二つ隣の203号室からヒロが顔を出したところだった。
「今のは、エマの悲鳴か? 何があったんだ」
「私達もこれから様子を見に行くところです」
「なら、私も一緒に行く」
と言って、ヒロが加わる。
見れば、206号室からはエリカ、207号室からはルイがそれぞれ部屋から顔を出して何事かとこちらの様子を伺っている。
「ちょっと見てきます」
そうあなたが二人に声をかけて走り出す。
辿り着いたのは露天風呂の部屋の前、それも女湯の前だ。
レイドが既に到着しているが、場所が場所だけに踏み込めずにいる様子だ。
「私とヒロさんで見てきます」
そうレイドに声をかけて、シェリーとヒロが女湯に踏み込む。
しばらくして、シェリーが戻ってくる。
「二人とも入ってきて大丈夫です。エマさんももう浴衣を着ました」
そう言われて入ると、そこには一般的には衝撃的なのであろう光景が広がっていた。
露天風呂の湯船の中に、服を着たままのダンが頭から血を流して浮かんでいたのだ。
けれど、この場にいた全員がそれぞれの理由で死体を見慣れており、しかも、エマの悲鳴のおかげで覚悟もできていたため、誰もが冷静にそれを見ていた。
「現場を封鎖する! 誰も立ち入ってはならない!」
そして、警部であるレイドは素早く反応する。
「君たちは高校生だろう、こんな現場を見るものじゃない、すぐに出て行きなさい」
そうして、エマ、ヒロ、シェリー、あなたは更衣室から外へと追い出された。
(あ、これは荒れるぞ)
とあなたは思った。シェリーは探偵として捜査する権利を主張してくるはずだと考えたのだ。
けれど。
「あーあ、追い出されちゃいましたね、助手君」
意外にもシェリーはケロッとしていた。
すぐにレイドも更衣室から出てくる。
「殺人事件が発生した。私は警部の麗栖都レイド。今すぐこの宿にいる全員を集めてくれたまえ」
心配そうにやってきた女将にレイドが告げる。
しばらくして、食堂に先ほどまでのメンバーに加えて、エリカ、ルイ、そして女将以下従業員達が集められた。
「落ち着いて聞いてください。特にエリカさん」
「なんですか、何があったんです? こんな時にダンはどこで何をしてるの……」
レイドの言葉に少し苛立ったようにエリカが応じる。
「あなたのお兄さん、福田ダンさんが死体で発見されました。詳しくは鑑識を呼ばないと分かりませんが、まず間違いなく後頭部を殴打されての死亡でしょう」
「頭部外傷もしくは脳挫傷ってことですね」
「あ、あぁ」
レイドの言葉にシェリーが確認を入れ、レイドが頷く。
「な……! なんの冗談ですか? ダンが……殺された……?」
「はい。ご愁傷様です。ですが、冗談ではありません」
ついては、とレイドが話を続ける。
「各々のアリバイを警察到着までにそれぞれ個別に聞かせて頂けますか?」
そう言って、レイドは全員を205号室の前まで移動してもらい、205号室で個別に聞き取りを始めた。
三十分後、聞き取りが完了。
「やはり、間違いないようです」
と、残念そうにレイドが205号室の前で全員の前で言った。
「皆さんそれぞれに犯行が不可能な理由があるようです。ないのは一人だけ、第一発見者の桜羽エマさん、あなたです」
「え……ボク……?」
レイドの言葉にエマの表情が驚愕と、そして恐怖の表情に染まる。
「ち、違うよ、ボクはそんなことしてないよ、だ、第一、動機がないじゃないか」
「確かに動機については不明ですが、他の人物に犯行が不可能である以上、あなたを重要参考人として同行いただく他ないようです」
「ま、待て、いま、ここは陸の孤島と化していて警察は来られないはずだろう? レイド警部殿もエマを連れて行くことは難しいはずだ」
そこにヒロが待ったをかける。
「確かに。では、こうしましょう。エマさん、あなたには202号室に戻ってもらい、そのまま出ないでください。私と従業員で交代して202号室の扉を見張ります。それで他の皆さんは安心でしょう。エマさんの連れである二階堂ヒロさんも、念の為、203号室を出ないようにお願いします」
そう言って、それは決定事項となった。
「こんなもの、正しくない!」
「待ってよ、ボクは犯人じゃないよ!」
ヒロとエマはそれぞれ抗議するが、聞き入れられることはなかった。
「シェリーちゃん、信じてくれるよね」
「勿論です、このシェリーちゃんがバッチリ真相を見つけだして見せますよ!」
そこで珍しくずっと黙っていたシェリーがエマに応じた。
「……うん」
その言葉でエマは少しだけ安堵したように微笑み、202号室に引っ込んでいった。
「では、皆さんも可能な限り自室にいてください」
そう言って、レイドは202号室と203号室の間に立った。
エリカとルイがそれぞれ部屋に戻っていく。
「私達も部屋に戻りましょう、助手君」
「え、いいの?」
「はい、ここは一度従順なところを見せておくのが良いと思います。作戦会議の後に、反撃開始です」
そういった、シェリーの目は燃えていた。
「エマさんが犯人であるはずがありません。私と助手君で、絶対に真犯人を見つけ出しましょう」
「うん、そうだね」
二人は頷き合いながら、201号室に入っていった。
いよいよ事件発生です。
ただし、繰り返しますが、本作は本格ミステリの類ではありません。