シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス 作:メリーさんのアモル
201号室に戻った二人。
「どうしたのシェリー、てっきり現場を見せろ、とか、全員分のアリバイを共有しろ、とか言うと思ったのに」
「私も後者については言いたかったんですけど、万一これがバレたら困ると思って」
そう言って、シェリーがスマートフォンを取りだす。
「まさか……」
「あ、もしかして分かっちゃいました?」
そう言いながらシェリーがスマートフォンを操作し、あなたに見せる。
写っていたのは、露天温泉に背中を向けて浮かぶ福田ダンの姿。
「現場写真、撮ってきちゃいました」
まるで末尾に星でもつきそうな言い方でシェリーがそう言って笑う。
(そっか、牢屋敷でのことを受けて知らないところで成長したのかなと思ったけど、そう言うわけじゃなかったか)
ちょっと安心したような残念なようなあなたであった。でも、そんなことより。
「す、すごい。あの短時間でよく撮ってきたね」
「はい、もっと褒めてください」
「すごいよ。シェリーちゃん可愛い大好きえらいねすごいね天才、だよ」
お決まりの褒め文句でシェリーを褒めるあなた。
「えへへ、それほどでもないですよ」
と照れた風に笑うシェリー。
「それでは、捜査を始めましょう。エマさんのピンチです。全力で調べないと」
「だね」
エマはシェリーにとって大事な友人であるのと同時に、あなたにとってはシェリーとあなたをもう一度結びつけてくれた大事な存在である。そのピンチに立ち上がらないはずもない。
「ではまず、現場写真をしっかりと確認しましょう」
そう言って、シェリーが現場写真をピンチインして拡大する。
「確かに後頭部から血が出てますね。後頭部を殴られたのが死因と見て間違いなさそうです」
「だね。まぁ、厳密には湯船に落ちた時にまだ意識があって窒息死、と言う可能性を排除は出来ないけど、その場合も結局、後頭部打撲で抵抗する能力を失った結果の死亡だろうから、直接的には後頭部打撲が原因なのは間違いないからね」
シェリーの言葉にあなたが頷く。
「あと、現場で見ておくべきことはあるでしょうか?」
「うーん……」
二人で現場写真をピンチインしたりピンチアウトしたり、あちこちスワイプしたりして痕跡を探す。
「あれ」
ふと、あなたがスワイプの手を止める。
「どうしました?」
「痕跡がない」
「そうですね、だから困ってるんですけど……」
あなたの言葉にシェリーが苦笑した風な態度を取る。
「あぁ、そうだけどそうじゃなくて……」
えーっと、とあなたはスマートフォンの画像をスワイプして彷徨わせ、そしてダンの死体の周囲を示す。
「床にエマさん以外の足跡がない」
雨上がりで床が濡れているが、エマが歩いたのであろう場所は、若干水が移動して足跡になっている。
「ってことは、やっぱりエマさんが犯人ですか!?」
「ううん、エマさんの足跡はダンさんのいる場所まで伸びてない。つまり、誰もダンさんの死体には近づけないはずなのは変わらないはずだよ」
シェリーが驚いた風に反応するのに、あなたが首を横に振る。
「つまり、誰もダンさんには近づけなかったはず、と言うことですか?」
「うん、痕跡を見る限りはそうなるね」
「ってことは、つまり、これは不可能犯罪ですよ!」
シェリーは少し嬉しそうだ。
「そうだね。一見すると、エマさんにも、それ以外の誰にも出来なさそうだ」
その微笑ましい様子にあなたは頬を緩めつつ、応じる。
「そうですよ! 疑わしきは罰せずの原則に反しています。レイド警部の態度はちょっとどうかと思いますよ。牢屋敷の魔女裁判じゃないんですから」
シェリーはちょっと怒った様子だ。
「現場について分かるのはこれくらいかな?」
あなたは手帳にメモを取る。
・ダンの死因は後頭部打撲。
・ダンの死体に近づいた足跡は存在しない。
「じゃあ次はどうする?」
「決まってます。レイド警部が言い出した『皆さんそれぞれに犯行が不可能な理由がある』と言っていました。そこを洗いましょう。所謂
あなたの問いにシェリーが応じる。
「そうだね。そこが崩れれば、エマさんだけを疑う理由はなくなる」
そう頷きあった二人はまず自分たちのアリバイから確認する。
「まず、私達が犯人でないのは、互いに証明可能です」
「うん、犯行可能時刻には遊戯室、二階廊下、201号室と二人で移動中だったもんね」
「はい。レイド警部から見ると身内のことなので証明にならないかもしれませんけどね」
「でもその間に三人の人間と関わっていますから、それがアリバイの証明と判断されたんでしょうね」
その三人とはルイ、エリカ、エマである。
「確か、遊戯室に入ったタイミングで、ルイさんとすれ違ったんでしたね」
「だったね。それから、遊んでいる間にエリカさんが覗きに来て」
「思えば二人とも人探しをしていた様子だったような」
エリカはダンを探していたのかも、と思い当たる二人だったが、ルイは一体誰を探していたのだろう。
「ルイさんと知り合いらしい人は宿にはいませんでしたよね? 連れ合いもいなかったはずですけど」
「だね。あるいは……」
誰か知り合いだったのを隠していたか。
二人で唸るが、答えは出ない。
とりあえずメモをするあなた。
・シェリーと自分は犯行可能時刻には二階を移動中。
・移動ルートは遊戯室→二階廊下→201号室
・遊戯室には最初、ルイさんがいたが、すぐに出ていった。
・遊戯室で遊んでいる途中、エリカさんが来た。
・ルイとエリカは人を探しているように見えた。
・遊戯室を出たところで、エマとすれ違った。
「ふーむ、ここで安楽椅子探偵の真似事をしていて分かるのはこれくらいですかね。これ以上は足で稼ぐしかないですね」
「そうだね」
そう言って、シェリーが立ち上がる。あなたも続く。
201号室を出ると、すぐにレイドと目が合う。
「おや、探偵さんとその助手君、こんな時間にどうしたのかな?」
「もちろん、事件の調査です! 事件のあるところに探偵あり、当然のことです!」
「ちょ、シェリー!?」
レイドの問いかけにあまりにストレートに答えるものだから、あなたは慌てる。
「ふむ、君達は直接の連れではないとはいえ、被疑者の知り合いだと聞くじゃないか。あまり出歩かれるのは好ましくないのだがね」
「なんと、私たちも参考人扱いですか!?」
「まぁ、エマさんの次に死体を見つけたのは、シェリーとヒロさんだもんね」
大袈裟に驚いてみせるシェリーに、あなたは頬を掻く。
第一発見者がエマで、そこに居合わせたのが連れであるヒロと知り合いであるシェリー。まとめて疑われても不思議ではない。
「というわけで、探偵さん、大人しく部屋に戻ってはくれないかね?」
レイドの言葉は柔らかかったが、有無を言わさぬものがあった。
「当然、嫌です! 時には探偵は警察の指示に逆らうべき時もあるんです!」
しかし、シェリーはそんな脅威など気にした風ではない。
「ふむ、これは困ったね。実際に人が死んでいるんだよ? 探偵ごっこをしている場合ではないと思わないかい?」
やっぱり探偵ごっこだと思われてたんだ、とあなたは思った。
「探偵ごっことはなんですかー。これでもシェリーちゃん、数々の難事件に立ち会ってきたんですよ」
牢屋敷でのことであろう。「解決してきた」だと主にエマやヒロの活躍によるところが多いが、「立ち会ってきた」であれば嘘ではない。
「まぁ、なんであれ、捜査権のない君達を現場に入れるわけにはいかないよ。大人しく部屋に戻りたまえ」
しかし、レイドもそんな主張に方針を曲げるような大人でもないらしい。
「……では、せめて聞かせて下さい。エマさん以外には犯行不可能と思われた、その理由を」
「あぁ、それなら簡単だ。従業員の一人が、ちょうど倉庫の入り口で作業をしていたようでね。階段を常に見張っていた形になっていたそうだ」
ならば、とシェリーが妥協すると、レイドは意外にもあっさりと口を割った。
(なるほど、ドア・イン・ザ・フェイスか)
あなたは意外なシェリーの立ち回りに驚いた。それは大きな要求を吹っ掛けた後に譲歩するテクニックであった。
と、そんなことより。
「それって、もしかして、エマさん以外に、一階に降りた人がいない、ってことですか?」
「そういうことだ。エマさんが一階に降りる前後にダンさん以外の全員が二階にいるのが確認されている。だから、犯人はエマさんしかありえない。もしくは、君とヒロさんも共犯、といったところかな?」
とレイドが笑う。
・一階の階段は一時監視下にあり、その間に一階に降りた者はエマ以外にいない。
・監視下の前後にヒロ、レイド、エリカ、ルイが二階にいたのは確認済み。
「ということは、レイド警部は犯行現場は一階だと考えているんですね?」
「当然だろう。二階で殺人を犯した場合、エマさん一人では一階まで運ぶ手段がない」
君かヒロさんが共犯なら別だがね、とレイドは続ける。
「では、私たちが二階を捜索する分には自由ですよね?」
「何?」
「ですから、二階ですよ。私達が自由になっていると嫌なのは、犯行現場を荒らされるかもしれないからでしょう? でも、レイド警部が犯行は全て一階で完結する、と考えているのなら、二階は自由に行動しても良いはずでしょう?」
「……ふむ、君達はあくまで探偵ごっこをしたくて仕方ないらしいな」
シェリーの提案に呆れたようにレイドが苦笑する。
「いいだろう。二階だけなら捜査して良いものとする。ここからなら一階への階段は見えるから、約束を違えればすぐに分かるしな」
「やりましたね、行きましょう、助手君」
「うん」
結果的に二階限定とはいえ、捜査権を得たシェリーに感心しながら、あなたはシェリーに続くのだった。