シェリーと助手君の事件簿①温泉旅館とファーストキス   作:メリーさんのアモル

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第六章「物証を見つけよ」

 二人は階段の前の角を右に曲がり、屋上庭園の前に来ていた。

「いいの? これじゃ、一階は捜査出来なさそうだけど」

「問題ありません」

 心配そうにあなたが問うと、シェリーは笑顔で返した。

「レイド警部の調べが正しいなら、一階で犯行が可能なのはエマさんだけです。犯行前に一階に降りていたのはエマさんだけですからね。逆に言えば、二階で犯行が行われたと証明出来れば」

「そっか、むしろエマさんが無実だと証明したことになる! 流石だよ、シェリー!」

「むふふ、そういうことです!」

 褒められてご満悦のシェリーが緩んだ頬を隠そうともせずに頷く。

「じゃあボクらは二階で決定的な物証を見つけなきゃいけないんだね」

「はい、状況証拠ではレイド警部は納得しないでしょう。まさしく決定的な物証を見つけて、突きつける必要があります」

 あなたの言葉にシェリーが頷く。

「そして、私達、エマさん、ヒロさんが犯人ではない以上、怪しいのは残り三人の容疑者の部屋と面しているこの屋上庭園です」

「そうだね、犯行時刻付近、ボクらは廊下を移動していて、廊下にはボクら以外誰もいなかった。何かしたとしたら、目の届かない屋上庭園が怪しい」

 シェリーが感情面で、あなたは理屈の面で、それぞれ、屋上庭園が怪しい理由を整理し、いよいよ屋上庭園に入る。

「あのまたあの雨が降ったので、足跡はほとんど消えてますね〜」

「そうだね、足元もじくじくだし、足取られないように気をつけないと」

 二人は今回、屋上庭園には初めて足を踏み入れたことになる。

 この温泉旅館の屋上庭園は土と岩を敷いて作られた本物の庭園さながらのものであった。

 雨でぬかるんだ地面は、二人の足を今にも奪ってしまいそうだ。

「今回の犯行、犯人はどこまで計画的に犯行に及んだんだと思う?」

 あちこちを油断なく見ながら、あなたはシェリーの意見を求める。

「いわゆる、突発的な犯行か、計画的な犯行か、ということですよね? 私は突発的な計画的犯行ではないかと見ています」

「というと?」

「クローズドサークルが出来たのを良いことに犯行に及んだ、という意味では突発的なものだと思うんです。まさか土砂崩れを人為的に起こせたとは思えませんから。でも、殺意自体はずっとあって、殺す機会を疑っていたんじゃないかと」

「……じゃあ、エリカさんが犯人だと?」

 この旅館でダンと事前に顔見知りなのは兄妹であるエリカだけだ。

「あるいは、レイド警部かルイさんが実はダンさんと知り合いなのを隠しているか、どちらかです」

「ルイさんのことはダンさんも知らない風に喋ってたよね? じゃあ怪しいのはレイド警部?」

「そうなります、が。ダンさんの方もルイさんに知らないふりをしたい理由があった、という可能性もあります」

 だとしたらそれはなんなのか。

「奥まで行くと背の高い木もあるんですね」

「冷たっ!?」

 とりあえず奥に向かった二人。あなたの額に水滴が落下してきて、あなたは思わず声を上げる。

「まだ木の上には雨水が残ってるみたいですね、気をつけましょう」

「そうだね……。って、シェリー、あれを見て」

 思わず水滴の落ちてきた先を見上げたあなたが、違和感に気付いて、シェリーに声をかける。

「んん? なんですか?」

 シェリーが言われた方向に向き、あなたに尋ねる」

「この木、枝の根元に傷が入ってる」

「本当ですね。何か太い……縄? のようなものを擦ったみたいな……」

 あなたの指摘にシェリーも虫眼鏡でその痕跡を見て応じる。

「事件と関係あると思う?」

「そこまでは分かりませんが、かなり新しい痕ですね、これ。何に使ったんでしょう」

「縄……ロープ……なんだろう……? っていうか、使ったであろう縄そのものはどこに行ったんだろう?」

「もし犯行に使われたのだとしたら、処分する時間はなかった可能性が高いです。まだ犯人が持っているとしたら、最後の詰めで使えるかもしれません」

 二人で悩むが、ひとまず出た感想はシェリーのそれだった。

「『もしあなたが犯人なら、まだ持っているはずだ。犯行に使われた、縄を』って奴だね」

「それです! 言ってみたいですねぇ」

 二人でひとしきりミステリ・サスペンスあるあるで盛り上がる。

「でも、あくまで使えるのは最後の詰めですね。私達では持ち物検査も部屋の捜索も出来ないですから、今回求めている決定的な物証とは違います」

「だね」

 ある程度のところでシェリーが顔を引き締めてそういうと、あなたもすぐに真顔に戻ってそう頷く。

「他に当てもないですし、犯行がここで行われたと仮定してみましょう。そうすると、凶器はなんでしょう?」

「そう言われてみれば、エマさん犯人説では凶器の説明がなかったね」

 シェリーが考え方を変える。

「そうですね。大方、その辺りはその後の捜査で分かるだろうから、ひとまず犯人候補を閉じ込める事でよしとした、というところでしょうけど」

 つくづく乱暴な話だ、とシェリーは憤慨して見せる。

「それにしても凶器、か」

 エマが犯人なら、凶器は犯行現場に残されているはずだ、と、あなたはシェリーから共有してもらった犯行現場の写真を改めて見てみることにする。

「特に血のついた石が落ちてる、とかそういうことはないね」

「やはり、凶器の候補と言えば石ですよね。この辺りに落ちてる石が凶器という可能性もあるのでしょうか……?」

 そう言いながら、シェリーが石の一つをひっくり返した。

「!」

 思わず驚いてしまい、あなたは変な声が出た。

「これは……驚きましたね。あまりにお粗末な証拠隠滅です」

 その石は血と思われる液体で濁った赤に染まっていた。

「これは流石に物証でしょ? 犯行が二階で行われたって証拠だし、エマさんが無実である証明にもなる。エマさんはあの後、屋上庭園には行ってないんだから」

「そうですね」

 シェリーが頷く。

 二人はここに、エマ犯人説を覆す物証を見つけたのだった。

 

 二人が急いで202号室の前まで行くと、そこには従業員の一人が待機していた。

「あれ、レイド警部は?」

「おやすみになりましたよ。私はここで代わりに見張りを任されています」

「急いで警部を起こそう!」

 とあなたが205号室に向き直る裏で、シェリーは従業員に声をかける。

「レイド警部、エリカさん、ルイさんの三人のうち、妙な動きをしている方はいませんでしたか?」

「え? さぁ。……いや、でもそうだな。ここだけの話、エリカさんはあまりダンさんの死を悲しんでいる様子はないように見えないのが気になったな」

「ルイさんは?」

「ルイさん……、あぁ、なぜか昼頃の話なんだが、リネン室から出てきたものだから、注意したのを覚えてるよ。本人曰く『間違えて入った』らしいけど、どう間違えたのやら……」

「そうですか、ありがとうございます」

 その会話が終わった頃、あなたの呼びかけに答え、レイド警部が出てくる。

「なんだね……、探偵助手君」

「エマさんが犯人ではないという物証を得ました。見にきてください」

 面倒そうに寝巻きで出てきたレイド警部にあなたは告げる。

 しかし。

「いえ、もう真相が分かりました」

 そこにシェリーが待ったをかけた。

「え?」

 思わずあなたが振り向く。

「屋上庭園に全員を集めてください」

「シェリーさん、探偵ごっこは……」

「急いで下さい。証拠が隠滅されてしまう前に」

 真剣なシェリーの目に、レイド警部は、ため息をついた。

「分かった、分かったよ。そこの君、頼めるか?」

「はい」

 レイド警部が従業員に声をかける。

 

 それから数分もしないうちに関係者全員が屋上庭園に集められた。

 そして、シェリーはその全員に視線を投げてから、言った。

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ミステリのお約束をご存知の方はお察しの通り、次回いよいよ真相編です。
繰り返しますが、本作は本格ミステリではありません。
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