親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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フォーエバーヤングのレースはリアタイしてました。強すぎて朝からテンションアゲアゲでしたわ。


再び欧州へ

 謎だった俺の次走は、突然に知らされた。

 

「えぇ!? しゃ、シャロ、また欧州に行くんですか!?」

「その通りや。凱旋門賞出走のためにな。やから、もう少ししたらまた栗東を離れることになるな」

 

 どうも、凱旋門賞に決まったらしい。マジかよ。

 

 アレだな、英国遠征を切り上げて戻ってきたと思ったら、またすぐに向かうことになるとは。

 凱旋門賞はフランスだから、多分フランスの厩舎でお世話になるんだろう。

 

(イギリスもなくはないだろうが……遠いからねぇな。日本とは訳が違うし)

 

 俺からしたら急な知らせだが、周りはそうでもないかもしれん。

 声自体はかけてあるはずだ。

 

 さて、一体どこに

 

「ディープが世話になっとるのと同じ厩舎や。向こうからも快くOKもらえたわ」

 

 待てやディープ全然見かけねぇなと思ったら、フランスにいたのかよ。

 そりゃ見かけるはずないわ。日本にいねぇんだから。いるはずがないわ。

 

 てか、アイツ海外遠征止めるんじゃなかったのかよ。

 

(よく分からんな。俺が得た情報、大分偏ってたのか?)

 

 海外遠征をしている、ということは、かなりのニュースになるはずだ。

 ニュースになっていてもおかしくはない。ディープ程の馬ならなおさら。

 なのにどうして、俺は知らなかったのか?

 

 もしかして、だが。

 

(無意識のうちにそういう情報、シャットアウトしてたか? あの頃は確か、ハーツの屈腱炎が発覚した直後のことだし)

 

 俺が耳に入れなかっただけで、普通にニュース自体はあったのでは?

 精神状態が終わってたから、無意識でシャットアウトしていたのでは?

 そんな疑惑が出てきた。

 

 いや、まだだ。

 もしかしたら秘密裏に事が進んでいた可能性も十分に

 

「フォワ賞にも出走するって、話題になってますよね、ディープインパクト」

「やな。フォワ賞の後に合流することになるわ」

 

 なくなったな、可能性。俺が耳に入れなかっただけだな、これ。

 マジか。てかフォワ賞ってことは、ディープも凱旋門賞を予定してんのか。

 

(秋古馬三冠、狙わないんだな。何があったんだ?)

 

 その辺の事情は詳しくは分からない。

 また一筋縄ではいかない相手が出てきた、って感じだ。

 

 さて、俺の次走が決まった。

 じきに栗東を離れることになるだろう。

 今の内に、タイドともお別れを済ませておかなければ。栗東に帰ってこれるか分からんし。

 

(凱旋門賞で引退予定だからな、俺。場合によっちゃあ、栗東には帰らない可能性も十分にある)

「後、凱旋門賞がシャーロックの引退レースや。もうすぐ発表されると思うから、お前も覚悟しとき草薙」

 

 お礼も、言っておかないと。

 

 で、次走が決まったわけだが。

 

「そんなのダメですよテキ! 海外遠征だなんて!」

 

 リョーマは反対していた。

 強い意志で、絶対に許さんとばかりに。

 

 なんでかって? そりゃあ決まっている。

 

「せっかくシャロが帰ってきたのに、またすぐいなくなるんですか!? しかも、俺ほぼ確で向こうにいけないじゃないですか!」

「当たり前やろ。向こうにはもう柏崎おるし、ディープ担当の壱河もおる。お前はまた留守番や」

「そんなの嫌ですよ! まだまだシャロのお世話をしたいんですけど!」

 

 そうだよな、お前はそういう奴だよなリョーマ。

 日本に戻ってきたというのに、またすぐ欧州へと渡る。

 離れ離れになるんだから、そりゃあ嫌で仕方ないだろう。

 

 もっとも、一厩務員の訴えなど通るわけがなく。

 

「アホ抜かしてないで、しっかり仕事しいや。仕事は優秀なんやから、キリキリ働けい」

「嫌だぁぁぁ! もっとシャロと一緒にいるんだぁぁぁ!」

「ガキやないんやから大人しゅうしとけ。シャーロックから白い目で見られとるで、お前」

 

 康夫さんが一蹴して、再びの海外遠征が決まった。

 てか、そりゃ白い目にもなるわ。こんな情けねぇ醜態見せられたら。

 

「う、うぅ……シャロ! お前も嫌だよな? 俺と一緒にいたいよな!?」

 

 いや、別に。

 

「諦めぇや。めっちゃ呆れた目しとるで、シャーロック」

「そんなぁ……」

 

 普段お世話してくれることには感謝している。

 それはそれ、これはこれだ。

 

 俺の次走は凱旋門賞。

 明日にでもフランスに渡る準備をする。康夫さんはそう口にしていた。

 

 

 なので、出来る限りやることは済ませておくことに。

 放牧の時間で、タイドにも会うことができた。

 

『よ、タイド。この前は悪かったな、変なこと言っちまって』

『シャロ。ううん、僕こそごめん。言いすぎちゃったかも……』

 

 これで会えなかったらどうしようかと思っていたわ。

 馬房、移動してあるから俺の隣じゃないし。

 会えて一安心だな。

 

 タイドはこの前のことを気にしているみたいだが、そんなことはない。

 

『いや、お前の方が正論だ。あの時の俺は、いくらなんでも傲慢が過ぎた。我ながらひでぇこと言ってたって、あの後思い知らされたよ』

『シャロっ』

『だから、悪かった。ごめん、タイド』

 

 あの日は俺が悪かった。

 タイドが謝る必要は、どこにもない。

 

 タイドはというと。

 

『……いいよ、シャロ。この件はこれで終わりにしようか』

 

 許してくれた。

 

『あんまり引きずりすぎて、嫌な空気になるのも面倒だし。これで終わりにしよう。シャロはずっと謝ってきそうだし』

『おい待て、どういう意味だお前』

『言葉通りの意味だよ』

 

 許してくれたんだよな? 俺を煽ってたりしねぇよな、お前。

 相変わらずいい性格してるわ、コイツ。

 

 なにはともあれ、これで一件落着。

 特に引きずりすぎもせず、この件は終わった。

 

 というわけで、改めて海外遠征のことをタイドに伝える。

 

『そっか。シャロ、また海外に行っちゃうんだ』

『おう。人間曰く、明日にでも渡る準備を済ませるらしい。だから、今日が最後のチャンスかもしれなかった』

『そう、なんだ』

 

 タイドは、少しだけ寂しそうに見えた。

 俺も寂しい。久しぶりに会った友達なのに、またすぐ離れることになったんだから。

 

 だが、また会える。

 

『タイド。これはさよならじゃない』

『っえ?』

『前に、俺の親友が教えてくれた』

 

 ユニさんが言っていたこと。

 たとえ離れ離れになっても、一時の間だけ。

 また、どこかで必ず会える。

 

『さよならじゃない、またね、だ。またどこかで会うために、俺達が交わすべき言葉は、またねだ』

『……またね、か』

『あぁ。きっと、また会えるさ。もしかしたら、日本に戻ってきた時、またここに来るかもしれねぇからな』

 

 すぐかもしれない。もしかしたら、かなり長い間会えないかもしれない。

 

 でも、俺らはまた会える。

 

『またな、タイド。元気にやれよ』

『……うん。またね、シャロ。僕も、会える時を楽しみにしてる』

『あぁ。俺もだ』

 

 そう信じて。

 一時のお別れだ。

 

 その後は、タイドを含めた他の馬たちとゆっくり過ごした。

 

『あー、シャロさんじゃないですか! 全然見ないから心配してましたよ!』

『お、ヴァーミリアンじゃねぇか。相変わらず元気そうだな、お前』

『そりゃ勿論元気っすよ! 今度また稽古つけてください!』

『いや、俺もうすぐここを離れるぞ?』

『えぇ!? またすぐいなくなっちゃうんすか!? カネヒキリだって寂しがりますよ!』

 

 少しの時間だけど、ゆっくりできて。

 栗東のみんなと会えて、楽しかった。気が安らぐ時間だった。

 

 

 

 

 

 

 出国の手続きとかを諸々済ませ。

 飛行機の長いフライト時間を経て。

 もう一度、帰ってきた。これぞまさしくとんぼ返りである。

 

(懐かしさもなにもねぇな、うん。そもそもフランスだし)

 

 イギリス遠征は1年という期間があった。

 今回は何もない上に、初めてくるフランスである。

 あるはずがねぇわ、懐かしさなんて。初めて来たんだから。

 

 飛行機を出て、馬運車に乗せられて。

 俺がお世話になる予定の厩舎へと運ばれていく。

 その間は俺一頭だけだ。帯同馬もいないし、厩務員代わりとばかりに康夫さん。

 そして、ディープの遠征のためにこっちに来ていた、柏崎さんが迎えに来ていた。

 

「しっかし、凱旋門賞か~。ついに取れるかもしれん馬が出てきたな~」

「それも、2頭もですからね。その2頭が、テキの厩舎から出てきたわけですから」

「えらいこっちゃやな、ホンマに。まだまだずぅっと先や思うとったのに、こないもすぐに時が来るとはなぁ」

 

 移動の間は暇なので、2人の会話に耳を傾けている。

 柏崎さんがこっちの話とかしてくれるので、情報収集にはもってこいだ。

 

「ディープの調子は悪くありません。初めての海外なのに、とてもどっしりとしているんですよ」

「それは良かったわ。そこにシャーロックが加わるわけやから」

「さらに調子が上がっちゃうかもしれませんね。ディープ、シャーロックが大好きですから」

 

 ……否定できねぇな。

 事あるごとに顔舐めてくるし、俺を見たら一目散に駆け寄ってくるし。

 柏崎さんの言葉、なんも否定できねぇわ。

 

 余談だが、ディープにもきちんと帯同馬が着いてきている。

 俺は会ったことないが、そっちもディープと仲が良いんだとか。

 

 ということは、俺への被害は収まる可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれんな。

 

「でもテキ、シャーロックの騎手はどうするんですか? 寛さんはディープに騎乗しますし、いませんよね?」

「そこなんよなぁ。一応、成文には声かけたんやけど」

「ダメ、って言われたんすね」

「さすがに海外の経験が浅い自分が、言われたわ。ド正論やな」

 

 話は気づけば、俺の騎手の話へ。

 どうも、岳さんはまたディープに騎乗するらしい。残当である。

 

(そりゃそうだよなぁ。あの人、俺に勝とうとしているし)

 

 春天の一件があるから余計にだ。

 俺に対する勝ち筋がある以上、ディープに騎乗して挑みに来るだろう。

 あの人もあの人で大概な気がする。

 仮にも主戦騎手に、2回も捨てられる俺よ。気にしてないけどさ。

 

 で、代役となれば隈澤さん、なのだが。

 隈澤さんは辞退。海外戦の経験がないことを理由に挙げて、凱旋門賞では騎乗しないと言われたそうな。

 

(えぇ~? じゃあ、現地の騎手? 大丈夫か? 言葉分かるか、俺?)

 

 もし日本の騎手ならば、今この場にいないのはおかしい。

 となれば、現地の騎手に声をかける可能性が一番高いわけで。

 外国人騎手が乗ることになるのか、と不安を抱えていた。

 

 ぶっちゃけ、レースというよりも言葉の方を気にしている。

 俺は英語とかフランス語とか分からん。

 こっちの遠征で、日常会話的なものはさすがに分かってきたけども。

 

(日本語を話せる外国人ジョッキーいねぇかなぁ。そうなると、あの人しかいない気がするけど)

 

 ハーツに騎乗していたロメールさん、なんて思ったが。

 この時期まだ日本の免許取得してねぇな、あの人。日本語ダメか?

 

 マジで誰になるんだろうか?

 なんつーか引く手数多だろうから、騎乗する人がいない、なんてのはありえないだろうけど。

 

「こっちのジョッキーもな~、自分を是非! っちゅう声が多すぎてな」

「現時点で世界最強の競走馬。乗れるチャンスがあるなら、確かに立候補しますよね」

「その辺は日本人との違いやな。日本人やと、むしろ遠慮しがちになるわ」

 

 実際、声をかけてくる騎手は多いみたいだ。

 

「……いや、冷静に22連勝している馬に騎乗したいって人、いなくないですか? 日本の方が正しい反応じゃありません?」

「まぁ、うん。それはそうなんやけど。外国人騎手は、それよりも騎乗できることが名誉に思うとる、っちゅうことやしな」

「上手くいけばアピールできますし、繋がりも持てますからね。でも確か、こっちのトップジョッキーの人から声が掛かってましたよね?」

「やな。ひとまずは吟味せんとあかんなぁ。シャーロックやったら誰とでも合わせられるし、あんま心配はしとらんけど」

 

 一体誰になるのやら。

 

 

 そんな会話に耳を傾けることしばらく。

 お世話になる予定の厩舎に着いた。

 

 向こうの調教師との交流も程々に、俺は柏崎さんに連れられて馬房へと。

 

「もうちょっとしたら、放牧に出すからね。少しの間我慢してね、シャーロック」

「ヒヒン(はいよ)」

 

 旅の疲れを癒すために、ゆっくりとしていた。

 

 で、放牧の時間になると。

 

『あれ? シャロさんだー!』

 

 はい知ってた。そりゃ俺の姿を見たら来るよな、お前は。

 

 俺の姿を見るや否や、すんごい勢いで走ってきたディープ。

 お前仮にもレースを控えてる身だろうが。もうちょっと落ち着け。

 

『シャロさんシャロさん! シャロさんもこっちに来たの?』

『まぁな。こっちのレースに出るから、俺も来たんだ。後顔を舐めるなお前は』

『あ、シャーロックさんだ。初めまして』

『そっちは初めまして、だな。よろしく』

『ピカレスクコート、です』

 

 もう一頭、ピカレスクコートにもしっかりとあいさつをして。

 なんというか、懐かしい空気を味わっていた。

 

 

 決まった俺の次走、凱旋門賞。

 これが引退レースであり、現役最後の戦い。

 俺の時代でも勝つことは出来なかった、高い壁。

 

(……勝つ)

 

 覚悟と気合いを入れて、臨む。




フォーエバーヤングが日本馬で単独トップの海外G1を4勝か~。やっぱすげぇな!

そういやシャーロックの海外G1勝利数どうなってんだ?

現時点で5勝(エクリプスステークス2連覇、キングジョージ2連覇、香港ヴァーズ)

……解散!
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