転生してから数年が経過した。
これまでのことをまとめてみようと思う。
まず、転生した時のことだが。
なんというか、アレだった。気づいたらメジロシャーロックと一緒にいた、というか。
「きみは、だれですか?」
〈……なんて説明すればいいんだろうな? 汝は我、我は汝?〉
「わからないです」
意識が混ざるとかそういうのではなく。
こう、守護霊みたいな感じでメジロシャーロックに憑いていた。
それが俺である。なんて説明すればいいのやら。
分からないって? 俺にも分からねぇんだよ。気づいたらいたんだから。
(馬の時は、産まれたって感覚があったけど。こっちはそれすらねぇからな)
無から生まれた、って感覚なんだろうか?
無意識のうちに知らない場所にいた、みたいな。そんな感じだ。
意識は前世のまま。というか、これまでの記憶を丸ごと引き継いでいる。
(全部残っているとはな。岳さんや隈澤さん、デルトリさんに教わったことも、細かく覚えている)
普通にありがたい。あの人達の教えが残っているということは、こっちでも使える、ってことだから。
あって困るものじゃない。
ちょっと話がそれた。
メジロシャーロックとの邂逅だが。
〈そうだなぁ……俺はメジロシャーロックだ。お前の守護霊みたいなもの、オーケー?〉
「ぼくの、おねえさまですか? うまれてくるはずだったおねえさまがいるって、しようにんがいってました」
〈違う。守護霊だ守護霊。お前を守るための存在、導く霊だ〉
なぜか姉と勘違いされそうになったものの。
どうにか守護霊として納得させることができた。
姉の件は、使用人の話を盗み聞きしたらしい。
つかおい。こっちでも業を背負わされてるのか俺は。
(なんでそこの史実は準拠してんだ。俺には産まれてくるはずだった兄弟がいる、ってのをよ)
ちょっとは優しくしてくれてもいいんじゃないですかね?
まぁいい。よくはないけどよいものとして扱う。
転生して数年。ウマ娘のメジロシャーロックを見てきたわけだが。
これがま~とんでもなく賢い。俺本当にいるの? レベルで。
「できました。採点をお願いします、先生」
「……ぜ、全問正解、です。およそ小学生がやる内容ではないのですが、シャーロックお嬢様は素晴らしいですねっ」
「頑張りましたので。それでは、次回からは新しい範囲をお願いしますね? 先生」
「は、はいぃ」
勉強は当たり前のようにこなし。
「今回の模擬レースもまた、シャーロックお嬢様が1着でございますね。素晴らしい結果」
「いいえ。目標のタイムには程遠い。まだまだ、精進が足りません」
「で、ですが1着です。少しはご自身を褒めても」
「無論、褒めていますよ。ですが、僕の目標には届いていない。全てはメジロの栄華のため、努力を継続しなければ」
走りの分野も圧倒的。負けたことは一度もなし。
「それでは、ホルンの練習はここまでに」
「分かりました。では、もう少しだけ自主練をしていきます」
「お嬢様、休むことも大事でございます。ご自愛ください」
「問題ありません。体力はまだまだ、有り余っていますので」
芸術面も文句なしだ。どんな楽器でも演奏できるし、画に関しても素晴らしいとお墨付き。
多方面に秀でた天才児。それがメジロシャーロックである。
うん、俺いる? 俺が導く必要なくない?
もしかしてあの神様、適当こいたんじゃないだろうな?
(これだけできれば、マジで俺いらねぇだろ。なんで憑依させたし)
メジロシャーロックはなんでもこなせるのだ。
わざわざ俺が導かなくてもいいくらいに。
因果律云々も、な~んか嘘くさいしなぁ。
転生して数年目。すでに俺のアイデンティティがなくなりつつある。
だが、そんなメジロシャーロックはというと。
「聞いてくださいロック! 今日も先生にうんと褒められました!」
〈ちゃんと見てたよ。凄い凄い〉
「むっ、本当に褒めていますか? 凄いと思っていますか?」
〈褒めてるよ。お前の頑張りも近くで見てた。偉いぞ、シャロ〉
「えへへ」
めっちゃ俺に懐いていた。
どうも俺のことを姉か何かだと思っているらしく。
それはもうすんごい懐いていた。守護霊だっつってんのに。
先生から褒められても、形式的な返ししかしてなかったのに。
俺と2人きりになった瞬間笑顔で迫ってくる。
頑張ったから褒めてくれ、と。
……どうしてこうなった?
(いや、原因は分かるんだ。コイツの境遇的に、俺に懐くのは理解できるからな)
メジロシャーロック、というかシャロの境遇は、ほとんど俺と変わらない。
とある理由から一人でいることが多く、寂しい気持ちを抱えていた。
それこそ、産まれた時からずっとだ。使用人がいるにしても、限度ってもんがあるし。
そんなシャロに、俺はずっと憑いていた。
シャロにだけ見える特別な存在として、俺はシャロを構い倒していた。
寂しくならないように、と。
そりゃ懐かれるわな。
また、もう一つ大きな理由がある。
「ロック、ロックのレース理論をまた聞かせてください! 僕、ロックのレース理論が大好きなんです!」
〈またかよ。毎日メジロ家お抱えの先生に、ちゃんと教えてもらってるだろ?〉
「う~ん、先生方の授業も悪くはありませんが。僕としては、ロックのレース理論の方が面白いと思っていますので」
〈それ、絶対に先生たちの前で言うんじゃねぇぞ。下手すりゃ泣くから〉
シャロの奴は、どうも俺の教えを気に入っているらしく。
こうしてせがむことが多い。先生の授業よりも興味深そうに。
ちなみに、俺のレース理論というのはアレだ。岳さん達の教えを活かして、自分なりに構築したもの。
逃げから追込まで。個人的に心掛けていることをまとめたもの。
大学生の論文ってこんな感じなんだろうな~、って思いながら作ったものだ。
個人で留めておくつもりだったのだが、ノートに書きだしたのが失敗で。
ノートをシャロに見られ、興奮気味に詰め寄られた。
「ロックのレース理論は素晴らしいです! まさしく、僕が理想とするレース観! 芸術と呼ばれるレースを構築するのに、必要不可欠なものです!」
ぜひとも教えてくれと迫られ。
断ることもできず、俺のレース理論を教えることになってしまったのだ。
自分のミスとはいえ、こんなことになってしまうとはなぁ。
(別にいいけどよ。そのうち教えようとはしてたし)
レースで勝つために必要、というわけじゃない。
ただ、さっきも言ったようにあって困るものじゃない。
選択肢の幅は広い方がいいからな。俺の理論が助けになれば、それでいい。
問題があるとすれば……懐かれすぎた、ということか。
「本当に、ロックは何でも知っていますね。これからも頼りにしていますよ、ロック」
〈あんま頼りすぎんなよ。いざという時、俺がいなくなったら困るぞ?〉
「は? 僕のところから消えるのですか? 僕の守護霊なのに? どうしてですか?」
〈もののたとえだ。そんなこともあるかもしれない、ってな〉
シャロは俺に絶対の信頼を置くようになった。どうしようかな本当。
俺にはタイムリミットがある。シャロと一緒にいる時間は限られているのだ。
シニア1年目までというタイムリミット。これがある限り、俺とシャロの別れは必然。
避けることができない。なにせ、神様が定めたものだからな。覆すなんて無理だろう。
だから、干渉は程々にしようと思っていたんだ。
あんまり干渉しすぎると、別れの時が辛いから。
いなくなってしまった時のことを思うと、ってな。
でも、うん。
寂しそうにしているコイツを放っておくことなんて、出来るわけがなくてですね。
「ロック、今日は僕の大好物のアップルパイがあるそうです。楽しみですね。ロックもアップルパイ、好きですよね?」
〈まぁ好きだが……うん。やりすぎてしまった感が〉
「どうかしたのですか、ロック? 具合が悪そうですが……幽霊も気分が悪くなることがあるのですか?」
〈そういうわけじゃない〉
気づいたらこんなことに。やってしまったよ本当に。
なんでこんなことになってしまったんだ。ちょっとは加減しろよ俺。
いや、出来ない。無理だ。寂しそうにしているコイツを放っておくの無理。
罪悪感が凄いんだもん。構わないとか無理だって。
だから俺は悪くない、うん……これ将来どうしよう本当に。
やってしまったことはもう仕方ない。
今が子供だから。徐々に俺に懐く気持ちも収まってくるだろう。
大人になるはずだ。その手助けをしつつ、だな。
シャロのことは大体こんな感じ。
次はアレか、俺の
あの時は説明されなかった、俺の領域。
他とは異なる、異質なものになる、って聞いていたが。
(確かに、ありゃ異質だな。本来の領域から考えると)
どうやって知ったかというと、俺がシャロの体を動かしている時に、机の引き出しから発見した。
なんか引き出しが光り輝いていたから、不審に思って開けたところ、手紙が。
その手紙の差出人は、俺を転生させた女神様で。
【君の領域に関する補足説明】
と、題名が書かれていた。
誰かに見られたらどうするつもりだよ、と思いつつ。中身を開けると。
【ちなみにこの手紙は君以外には見えないから心配する必要はないよ】
「俺の考えを読んでんじゃねぇ!」
「ど、どうされましたかシャーロックお嬢様!? いきなり部屋で大声を出して!」
「な、なんでもねぇ、なんでもありません! 大丈夫です大丈夫!」
いらん心配だったわ。そういうことできる存在だわ神様だし。
使用人さんに大丈夫と伝えつつ、中身を見る。
主に俺の領域について書かれた内容。どういうものか、どういう効果なのかが細かに書かれていた。
簡潔に言えば、俺の領域は──全盛期の力を引き出す、というものだった。
俺の全盛期。最も結果を残した時期の力を引き出す。それが俺の領域。
(本来は確か、常識外れの末脚を繰り出せるとか、120%の力を引き出すとか。そんな感じのものだったはずだ)
それが俺の場合、前世の100%を引き出すというもの。
確かに、これは異質かもしれねぇな。極限の末脚、ってわけではないのだから。
あくまで俺の全力を引き出すだけのもの。限界以上は出せない、ってことか。
ま、思ったより普通でよかった。
デメリットに関しても、数日間疲労で寝込むというもの。
たったそれだけ。それ以外には本当になにもない。
後は細かい内容のものがいくつか。
【君が身体を使っている時、メジロシャーロックの意識は深くに沈んでいる。君はメジロシャーロックの生活を確認できるのに、向こうはできない】
【それは、君の力が強すぎるせい。メジロシャーロックが成長して、同じだけの力を身につければ。自ずとメジロシャーロックも君の生活を認識できるようになる】
【領域に関しても同じ。時間が解決してくれるよ】
俺が身体を動かしている時、シャロは意識がない。
これは俺の力が強すぎるせいだとか。均衡が保ててないから、なんて説明があった。
そのうち解決する、か。いつになるかは知らんけど。
まぁ、手紙の内容はこれで以上。
領域の説明と、体についてのことだけ。それ以外はなんもなかった。
「ま、説明してくれるだけありがたいか。何も知らない状態で実証、なんてことにならなくてよかったわ」
ちなみに、後日領域を試した。本当に全盛期の力を引き出せた。
すげぇわ、今の体でも出せるとか。代わりに、数日の間意識が飛んでたけど。
というわけで、領域に関しても分かり。
後は日々、健康に過ごすだけである。
いつか入学するトレセン学園に向けて。準備を整えておかなければ。
◇
……あぁ、そうだった。
この世界は、シャロは。
俺とは明確に違う点があるんだった。
「シャロ。元気にしているかしら?」
落ち着いた、大人の女性の声。
聞こえた瞬間、俺はシャロから離れ。
メジロの本邸を散策する。女性と、顔を合わせないように。どうせ見えないけど、反射的に。
遠くから、シャロの嬉しそうな声が聞こえる。
「お母様! いらしていたのですね!」
お母様。シャロは、落ち着いた声の女性をそう呼んだ。
女性もまた、シャロと同じように。
嬉しさを隠しきれない声を。
「えぇ。今日は調子が良かったから、本邸の方に顔を出そうと思って。貴方に、シャロに会いたかったから」
「嬉しいです! 僕も、僕もお母様に会えて嬉しい! お父様はどこですか?」
「ふふ、お父さんも、もうすぐこっちに来るわ。今はおばあ様に挨拶しているから、良い子で待ちましょうね?」
「はい、お母様!」
娘であるシャーロックの名前を、呼んでいた。
そう、この世界では……メジロシャーロックの母親は生きている。
勿論父親もいる。いないのは、産まれることのなかった兄弟だけ。
つまりシャロは。母親と触れ合えることができる。
ただ、母親は病弱だ。
一日を療養施設で過ごし、本邸に来ることは滅多にない。
年に数回会えるだけ。たった数回しか、母親に会うことができない。
それでも、数回は会うことができる。
〈良かったな、シャロ〉
少しだけ、モヤモヤを感じながらも。
部屋を後にする。メジロシャーロックはクールに去るぜ。あっちもメジロシャーロックだけど。
ちなみにシャロの母親というか家族がいることは掲示板回で示唆されてました。一文だけなので気づくのはアレですが。