親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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今回はあのウマ娘が登場!


ウマ娘編 時代を彩ったアイドル

 その日、学園のカフェテリアで衝撃的な光景が広がっていた。

 

「う、うそ! そんなこと、ありえるの!?」

「初めて見たよ私……絶対やらなさそうなのに」

「明日は雨でも降るのかな?」

 

 見た者は震え、自分の目がおかしくなったのかと目を擦る。

 信じられない。嘘じゃないのか。そう口にしたくなる光景。

 生徒だけではなく、カフェテリアの職員すらも驚いている。それだけの事態が起きていた。

 

 中でも特に驚いていたのはタマモクロスだ。

 

「おいおい、嘘やろ……ウチの目がおかしなったんか?」

「いいえ、おかしくなってませんよタマちゃん」

「あたしにも同じ光景が見えてるぜタマ。一体全体、こりゃどういうことでい!」

 

 一緒にご飯を食べていたスーパークリーク、イナリワンらと一緒に、信じがたい光景に目を見開いている。

 わなわなと震え、3人で頬を引っ張り合う始末。夢じゃないので当然痛い。

 

 周りからすれば何をやっているんだ、と言いたくなる。

 しかし、それほどまでに信じがたいのだ。目の前の光景が。あまりにも理解し難い。

 

 そう。あのオグリキャップが。

 トレセン学園の食糧を食い尽くすとまで言われる、食いしん坊の彼女が。

 

「シャロ。ご飯は大事だ、凄く大事だ。体は資本だってよく言うからな。だからいっぱい食べるんだ。ほら、私のご飯を分けてあげよう」

「あ、ありがとうございます、オグリさん。ですが、オグリさんのご飯が足りなくなってしまわないでしょうか?」

「私のことは……だ、大丈夫だ。心配はいらない。とにかく、私のご飯を分けよう」

「オグリが、オグリが他のウマ娘にご飯を分けてるやってぇぇぇ!?」

「タマちゃん、さすがに大声で失礼だと思いますよ?」

 

 他のウマ娘に、自分のご飯を分けているのだから。

 

 思わず大声をあげるタマモクロス。

 カフェテリアが混んでいるとはいえ、自分の名前を叫ばれて気づかないわけがない。

 タマモクロスの方を向いて、頬を膨らませるオグリキャップ。

 怒っているのだろうが、どことなく愛嬌を感じる表情だ。

 

「タマ。さすがに私でも、困っていたらご飯を分けるぞ。心外だ」

「別に僕は困っていませんでしたけど……」

「いや、シャロは別だ。シャロはこれからだから、とにかく食べないといけない。私が食べさせてあげよう」

「だ、大丈夫ですので」

 

 カフェテリアで見れた驚きの光景。学園一の食いしん坊がメジロのお嬢様にご飯を分けている、想像もできなかった景色だった。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、他のみなさんから注目されていますね。

 カフェテリア中の視線が僕達に集まっているのが分かります。

 山盛りのご飯がありますし、ちょっと恥ずかしいですっ。

 

「あー、オグリ。あたしらもここで食べていいか? ちょいといろいろ、聞きたいことがあるしよ」

「イナリか。シャロはどうだ? 大丈夫か?」

 

 僕の顔を窺うオグリさん。別に構いませんのに。

 

(僕が関わると過保護と言いますか。どうしてでしょうか?)

 

 こういう時、ロックが起きてたら教えてくれるんですけど。どうしてオグリさんが過保護なのか? って。

 ロックは今寝ているから反応しません。無理に起こすのは申し訳ありませんし。

 

 ロックのことはいったん置いておいて。食事を共にするのに問題はありません。

 こくりと頷きます。

 

「僕は構いません。お食事は、多くの方々でいただいた方が美味しいですから」

「ん。大丈夫みたいだ。みんなで食べよう」

「ホンマに珍しいもんが見れとるわ……あ、ここ座らせてもらうで」

 

 空いている席にみなさん座ります。それぞれ持ってきたご飯を机に……机に置けないですね。

 

「す、すみません。今片づけますね」

「すぐにどかそう」

 

 置こうとしているみたいですけど、テーブルに所狭しと並べられているお料理の前に若干諦めていました。

 急いで片します。オグリさんが独特なお食事方法で、皿を空にすることで。

 

「どういう食い方してんでいオグリ」

「お行儀が悪いですよ~? メっ! です」

「皿ごと食って皿だけ吐き出すんはもう行儀関係あらへんやろ」

 

 改めて、タマモさん達とお食事をご一緒することになりました。

 

 

 さぁ食事を、とはならず。

 元々ここに来た目的、気になっていたことを突っ込んできました。

 

「まさかあのオグリがなぁ。自分のご飯を他人にあげるなんて思わんかったわ」

「タマは私をなんだと思っているんだ?」

「学園一の食いしん坊言われとるやろがい。まぁすまんかったわオグリ。オグリのこと誤解しとった」

 

 たしかに、想像できないかもしれませんね。

 タマモさんの言うように、オグリさんは学園一の食事量を誇っています。

 目の前の光景が証明でしょう。6人で囲むことができるテーブルを埋め尽くす料理のほとんどは、オグリさんが注文したものですから。

 

 ただ、その料理は僕のために、と注文してくださったものなのですが。

 せっかくのご厚意、無碍にするわけにはいきません。

 用意してもらったものは、しっかりと完食しなければ。

 

「しかも、シャロちゃんですよね? あのメジロの」

「はい。メジロシャーロックは僕ですね」

「は~、あんまし想像できねぇな。オグリとメジロのご令嬢が一緒に飯食ってるなんて」

 

 食べている間も、僕とオグリさんの関係を聞かれ続けました。

 どういう経緯で知り合ったのか? に始まり、普段はどうなのか? や遊びに行ったりするのか? と、お友達かどうなのかを知りたいみたいです。

 

 その質問は、はいと答えましょう。

 

「オグリさんは僕にとてもよくしてくださるんです。今回のお食事もそうですし、トレーニングのご指導もしてくださるんです」

 

 お食事だけではありません。遊びにも誘ってくださいますし、何よりトレーニングも見てくれます。

 

 基本的にメジロの皆様と練習する機会が多い僕ですが、それだけではいけません。

 ロックも常に言っていました。メジロのみんなだけじゃなくて他とも一緒にやった方がいいぞ、と。

 ロックの言葉は正しい。僕にはない視点をくれる、いつも僕を導いてくれる。

 

(僕が成長していると実感できるのは、ロックのおかげです。ロックは凄い)

 

 だから、とても信頼しています。ロックは正しい、って。

 

 っと、今はロックのことじゃありませんね。オグリさんのことです。

 トレーニング、という言葉に反応するタマモさん達。興味津々みたいで、とても目を輝かせています。

 

「そらまたええなぁ! 具体的にはどう教えてくれるんや?」

 

 あ、その、う、う~ん……何と言ったものでしょうか?

 いえ、とてもお世話になっています。なっていますが、どう教えてくれるのか、と言われると少々困ったことに。

 

(ロック、ロックー!? 助けてくださーい!)

 

 心の中で叫んでも返事が返ってくるはずがなく。

 視線をタマモさん達に合わせることができません。な、なんと言えばいいのでしょうっ。

 

 そんな時、オグリさん助け舟を出してくれました!

 

「あぁ。グッ! と踏み込んでガッ! と蹴り上げて、グワーッ! って走るんだ! 私はそう教えているぞ!」

 

 あれ、これは助け船なのでしょうか? 事態はあまり好転していないような。

 あ、あぁ! タマモさん達の表情が大変なことになっています! 呆れと驚きが混じっているような、少し何とも言えないようなお顔をしております!?

 

「オグリちゃん、さすがにそれで教えているというのは」

「何故だ? シャロはこれで理解してくれているぞ?」

 

 確かに、事実僕は理解できます。

 オグリさんはこう考えているのではないでしょうか? こういうことを伝えたいのではないでしょうか?

 僕なりの考え方を伝えたところ、オグリさんは何時も満足そうに頷いています。

 つまり、理解はできている、ということです。

 

 とはいえ、周りから見たらそうとは言えないのかもしれません。クリークさんも、どうしたらいいのか困っているみたいですし。

 こ、ここは僕がフォローしないと!

 

「オグリさんの教えはとてもタメになっていますから。助かっています!」

「まぁシャロがそういうってことは、大丈夫ってことだろうが」

「ええんやないか? 当人の間で伝わっとるなら」

 

 イナリさんはどことなく納得してなさそうでしたが、タマモさんが僕達の間で大丈夫ならいいだろうと、そう言ってくださりました。

 その通りと思ったのか、それ以上イナリさん達は言及することはなく。この話題はこれで終わります。

 

 よ、よし。これで万事解決ですね。

 一時はどうなることかと思いましたが、僕だけでもどうにかなりました。

 ふふ、ロックが見ていたら褒めてくれるでしょうか? 僕が活躍する機会、見逃してしまいましたね、ロック。

 

 っと、そうでした。

 オグリさんに教えられていると言えば、忘れてはいけないことがあります。

 トレーニングだけではありません。あるものに対する、心構えのようなもの。

 

「それに、オグリさんは大切なことを教えてくださりました。期待に対する、心構えというものを」

「期待、ですか?」

「はい。周りからの期待にどう応えるべきか。オグリさんが僕に教えてくれた、大切なことです」

 

 期待、です。

 

 僕はメジロ家のウマ娘として期待されている。

 レースでの勝利。普段の立ち居振る舞い。相応しい品格。

 全てを高水準でこなすことを、僕は求められている。

 

 苦に思ったことはありません。

 期待されている、というのは僕ならばできる、と思われていること。

 僕の実力を評価してくれているのですから。嬉しくないはずがありません。

 

 ただ、オグリさんが教えてくれたのは。

 

「シャロ。期待に縛られるのはダメだ。囚われちゃいけない」

「はい。オグリさんは僕に、そう教えてくださいましたね」

 

 周りからの評価で僕を縛ってしまうことはダメだと。僕にそう言ってくださったんです。

 

 タマモさん達は驚いた表情の後に、どこか納得したような。そんな顔を浮かべました。

 心当たりがあるんだと思います。

 当事者であるみなさんは、僕よりもよく知っているから。

 

「周りからの評価は確かに大事だ。応援の声が力になる、私がそうだったから」

「……オグリちゃん」

「けど、だからといって自分を縛るのはダメだ。周りがこう言ってるから、自分はこうなんだって。決めつけたらダメだ」

 

 あの時と同じように、真剣な表情。

 先ほどのご飯を貪るウマ娘の姿はなく、時代を駆け抜けた【葦毛の怪物(シンデレラグレイ)】として、僕を見ている。

 

「周りの声に耳を傾けて、その上で自分が納得するような走りを身につけるんだ」

「……ほーん」

 

 タマモさんの感心しているような声。笑って、オグリさんの言葉を楽しみに待っています。

 

「自分の名前に、圧し潰される日が来るかもしれない。周りからの期待に応えられなくて、辛い日々が来るかもしれない」

「……へっ。ちゃんと先輩やってんじゃねぇか、オグリ」

「それでも」

 

 最後の言葉は。教えてくれたあの日と変わらない、安心させる笑顔で締めくくる。

 

「キミはメジロシャーロックだ。どんな時でも変わらない、不安がる必要はない。キミを支えてくれる人は、ちゃんといるのだから」

 

 僕は一人じゃない。ちゃんと相談できる人がいるんだって、そのことを忘れないでくれと。

 オグリさんは僕に教えてくださりました。

 

「はい。オグリさんは僕にそう仰ってくださいましたね」

「……はは、なんだか恥ずかしいな」

 

 照れくさそうに頬を赤くするオグリさんですが、そんなことはありませんよ。

 

「いいえ。とても大切なことを教えてもらいました。時代を創ったウマ娘、世紀のアイドルウマ娘様の大切な教えなのですから」

 

 僕がそう口にすると、オグリさんは一層顔を赤くしました。

 ふふ、恥ずかしがらなくてよろしいのに。

 

「や、止めてくれ。私はそんな大層なものじゃ」

「な~に言うとんのやオグリぃ! ウチは嬉しいで~? オグリもちゃんと先輩やれとるようで!」

「は~い、えらいオグリちゃんには~、よしよししてあげないといけませんね~」

「それクリークがやりたいだけだろ! なんにせよ、オグリにも良い後輩がいるじゃねぇか!」

 

 タマモさん達にも言われて、さらに顔を真っ赤にするオグリさん。

 微笑ましい光景ですね。近しい時代を彩った方々の仲の良さ。少し、嫉妬してしまいそうです。

 

 

 そんな時でした。

 

〈あ~、よく寝た。シャロ今なにしてんの?〉

(あ、ロック。起きたんですね)

 

 ロックが起きたみたいです。

 眠そうな声で、今の状況を整理していました。

 

〈オグリキャップにスーパークリーク、タマモクロスにイナリワン……シングレメンツが一堂に会してる。何だここは? 天国か?〉

 

 相変わらず、何を言っているのかはよく分かりませんけど。

 また拝んでいますね。ロックは仲良さそうな光景を見ると、いつも拝んでいます。

 何かの儀式なのでしょうか? でも、真似するのはやめとけ、って言われましたし。どういうものなのでしょう?

 

 大体の状況を把握したのでしょう。

 

〈このメンツで飯食ってたのね。で、何話してたん?〉

 

 話題は何だったのかと、聞いてきました。

 

(オグリさんとどういう関係なのか、ですよ。ご飯を分けてくれたので、みなさん気になったみたいです)

〈気持ちは分からんでもない。食欲魔神とか言われてるしな〉

(後は、オグリさんにトレーニングを見てもらっていることとか。この前教えられたことをみなさんにも共有していたんです)

〈あの擬音だらけの指導な。理解はできたが、周りからは不思議な顔で見られてたやつ〉

 

 当時のことを思い出して、少しだけ懐かしさに浸ります。

 ここ最近のことなので、浸るものでもありませんが。

 

 あ、そうだ。

 

(ロックはどうですか? 期待について、どう考えていますか?)

〈期待についてだ~? んなこと俺に聞いてどうすんだよ?〉

 

 訝し気な顔をしていますが、僕は忘れていません。

 以前この話題になった時、はぐらかされたことを。

 

(この前は眠いと言って教えてくれなかったじゃないですか)

〈いやあん時は実際眠かっただけだし。はぐらかそうとしたわけじゃない〉

(だから、いま教えてくださいませんか? ロックは期待されることを、どう感じているのか?)

 

 僕とロックは同じ。

 僕にかけられる期待は、ロックも同じようにかかっているも同然。

 ロックは以前そう言っていました。

 

 今の状況、メジロ家のウマ娘として期待されている僕に、ロックはどう思っているのか?

 気にならないはずがない。

 

〈期待、ねぇ〉

 

 でも、ロックのことだから僕と同じ

 

〈嫌いだよ〉

(……えっ?)

〈嫌いだよ。期待するのもされんのも。俺は大嫌いだ〉

 

 出てきたのは、信じがたい言葉。

 今まで見たことがない表情で、吐き捨てるように。

 忌々しそうに、ロックは呟いて。

 そんな顔、僕は一度も見たことがなくて。

 

(ろ、ロック?)

 

 戸惑っている僕に、ロックは。

 

〈な~んちゃって。うっそぴょ~ん〉

 

 からかうように、笑いました。

 舌を出して、悪戯が成功した子供のように笑う。

 

 じょう、だん? だったのでしょうか?

 

〈んな深刻そうな顔すんなよ。嘘に決まってんだろ嘘に〉

(ろ、ロックっ)

〈ま~普通だな。期待されたら応えなきゃならんし、それが心地良く感じる時もある。ま、人並の感想しかないっつーこった〉

 

 軽い調子のロックに、僕はそれ以上言及することができませんでした。

 

 いえ、避けたというのが正しいでしょう。

 

(ロック……)

〈んな不安そうな顔すんなって。オグリたちが心配してんぞ?〉

「どうかしたのか? シャロ。もしかして、まだ足りないのか!? 今すぐ追加の注文を」

「やめーやオグリ。絶対ちゃうから」

 

 嘘と言いました。期待されるのが嫌いというのは嘘だと、ロックは言った。

 

 でも、それならどうして。

 

「だ、大丈夫ですオグリさん。なんだかお腹が空いてきちゃっただけですので」

「ほらタマ! やっぱりお腹が空いているんだ! 待っててくれシャロ、今すぐ追加を」

「落ち着けいオグリ! まずはここの飯を食ってからにしろいべらぼうめ!」

 

 最後。ちらっと見えた、ロックの表情。

 嘘のようには思えませんでした。本心から言っているように見えました。

 

〈……期待されるのは嫌いじゃねぇよ。これは嘘じゃない。ただ、俺にも分かんねぇんだ〉

 

 凄く、寂しそうな顔をしていましたから。




メジロシャーロックのヒミツ①

実は、推理小説を好んで読むが、犯人が誰かを真面目に考えすぎて読む手がしょっちゅう止まる。
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