俺は今、天国にいる。
「さいきん、しよーにんたちの間でうわさになっていることがあるんだって。お、おやしきに、ゆーれいが出た、って!」
「ゆーれいだなんて、ドーベルもへんなものを信じますわね。いませんわよ、ゆーれいなんて」
「いや、分からないよマックイーン。も、もしかしたらほんとうに……!」
ワイワイと、一つの話題で盛り上がるメジロ家のメンバー。
マックイーンやドーベルといった、ウマ娘で見たことのあるメジロ家のメンバーだ。
しかも、子供の頃。アプリでは見る機会の少なかったあの姿を、俺は拝めている。
……スゥー。
(ここがこの世の楽園、ってことか。生きててよかった。俺死んでるみたいなもんだけど)
はっきり言おう、最高の景色だ、と。
いや、別に俺がロリコンとかそういう話じゃねぇぞ。そんな気は微塵もない。
考えても見て欲しい。推しの子供時代の姿を。アプリでは見る機会の少なかったあの姿を。
そりゃ、イベントでイラストが登場したかもしれない。
だが、一瞬だ。一瞬しか映らないし、一枚絵なんてざら。
アニメでも触れられるかどうか。ともかくとして、普通なら分からないことなんだ。
貴重なんてもんじゃない。絶対に見れないようなやり取りを、俺はいま目撃しているんだ。
ありえないことを体験している。テンションが上がらないわけがねぇだろこんなの。
「ゆ、ゆーれいが出ても、へっちゃらだよドーベル。あたしがドーベルをまもるから!」
「ついでにわたしもまもってくれると、う、うれしいかな~、なんて」
「ライアンにパーマーまで。ゆーれいなんておりませんのに。ねぇ、シャロさん?」
「ふふ、幽霊はいますよ、マックイーンさん」
「お、おそろしいことを言わないでくださいまし! じょうだんですわよね!?」
「さぁ? どうでしょう?」
最高だぜこの環境。転生してよかった。
……で、メジロ家メンバーの子供時代を見て改めて思ったことがある。
(おかしいのがいるんだよなぁ。どう考えても)
ライアンとかパーマーとか。アルダンとかマックイーンとか。
ドーベルもブライトも普通だ。年相応、というか、子供らしさ全開である。
アプリとはまた違った魅力。子供らしい、微笑ましさを感じる愛嬌だ。
だが。
「ねえさまはどう思いますか? ゆーれいさん、いらっしゃると思いますか?」
「きょうみないわ」
「は、はい」
あなたの色気どうなってんですかラモーヌさん。およそ小学生には見えないんですけど。
どう考えてもおかしいだろ。小学生が出していい色気じゃない。
身長の低い中学生って言われても納得するぞ。どういうことだよ本当に。
いや、一応、一応ね。シナリオ内で出てきたことがあったからな。
知ってはいたよ。その時も話題になっていたし。
実物を目の当たりにすると余計に、だなこれ。ヤバすぎる。
「まぁ、こわいのであれば。いっしょにねればよろしいのではなくて?」
「っ! そ、それはいい考えです、ラモーヌさん! ドーベルもブライトも、今日はいっしょにねようね!」
「わ、わたしもわたしも! わたしもおねがい!」
「ま、まぁ? わたくしはだいじょーぶですけれど? ね、ねんのために……お、おねがい、できますか?」
なお、シャロも負けず劣らずである。
コイツは精神性が成熟しているのも相まって、マジで小学生には見えん。
ラモーヌと一緒だよ。小学生詐欺みたいな見た目してるよ2人揃って。俺も合わせて3人だけど。
(アルダンは年相応だというのに、なんでこの2人はこんなに、ねぇ)
なんとも不思議な話である。
さて、話題は幽霊に関することだな。
メジロのお屋敷に出たらしい。使用人たちの間でも噂になっている。
俺も聞いたことがあるな。廊下を歩いている時に、偶然耳にした。
「それにしても、幽霊ですか。一体、どのような幽霊なのでしょうか?」
「あら、シャロもきょうみがあるのかしら?」
「はい、ラモーヌさん。もし悪い幽霊なら、ロックがなんとかしてくれると思って」
キラキラした目で俺を見るシャロ。そんな目で俺を見るな。
とはいえ、悪霊の類なら心配だな。
俺の方でもなんとかできないか、やってみるか。
〈ま、悪霊だと困るしな。メジロに悪いものを持ってきかねない。俺の方でも対処できないか、やってみるよ〉
「分かりました! 皆様、ロックがなんとかしてくださるそうです! たとえ幽霊が出たとしても、大丈夫ですよ!」
「ろ、ロック? だれのことですの?」
「頼れる味方です! 僕も何度かお世話になっていますから、信頼できます!」
「ふーん」
もしメジロに危害を加えるつもりなら、悪霊退散してやる。
塩を用意しておくぞ塩。悪霊退散悪霊退散。
◇
で、夜。
マックイーン達はみんな一緒に寝ている。昼話していたメンバー全員でだ。
そっけない返事をしていたラモーヌさんだけど、ちゃっかりアルダンの横で寝ていたりする。
〈あの人、本当に普段の態度からじゃわからんよな。結構なアルダンラブだし〉
姉妹仲が良いのはいいことだ。美しいね。
で、俺がなにをしているのかというと。
シャロの体から離れて、幽霊退治の真っ最中である。
〈一応、この辺で目撃情報が多いらしいが。それっぽいのはまだいねぇな〉
草木も眠る丑三つ時、だっけか? とにかく周りは暗い。
たまに使用人の姿が見える。おそらくだが、俺と同じように幽霊退治に駆り出された人員だろう。
耳をすませば、独り言も聞こえてくる。
「う~……怖いよぅ。でも、お嬢様たちに危害があってはいけないしっ」
なんとも素晴らしい忠誠心。良い人に違いない。
(早いとこ退治して、平和を取り戻そう。不安要素は取り除いておくに限る)
俺も気合いが入るってもんだ。
にしても、アレだな。巡回しているが。
〈俺が散歩する時のコースとほぼ同じだな。なのに会ったことがないとは……よほど隠れるのが上手い幽霊なのか?〉
夜部屋から抜け出して、散策している時と同じコースなのだ。
全くと言っていいほど一緒。寸分の狂いもない。
だというのに、俺は会ったことがない。敵はかなりの手練れみたいだな。
だが、今の俺は気合100%だぜ。見逃すはずがない。
(一日で見つけてやるよ、悪霊! 俺が探し出して)
「で、出たァァァ!?」
なんて気合いを入れた矢先の出来事である。
廊下の先の方から、男の叫び声が聞こえた。
おそらく使用人。そして出たということは……!
〈幽霊か!〉
急いで現場に急行。逃がさねぇぜ!
だが、走っているうちに違和感を抱く。
「ヒィ、ヒィ……!」
〈そっちにいるんだな? よっしゃ任せろ!〉
使用人を追い抜いて、前を走ったかと思えば。
「うわ、こっちにも現れた!? と、とにかく応援を呼ばないとっ!」
〈なんだと? 悪霊は複数体いたのか!〉
今度は逆向きに走り出した。俺が今走ってきた方角へと。
悪霊の姿も一向に見えないし、むしろ俺から離れていってるというか。
辿り着ける気がしなかった。ひとえに、使用人が困惑しているせいかもしれんが。
(マジでどっちだよ!? さっきからコロコロ変えやがって!)
いい加減イライラが爆発しそうだったが……気づく。
あれ? 今の俺って、どんな状態だったっけ? と。
「と、止まった? い、今の内にみんなをっ!」
走り去っていく使用人は無視だ。今の状況を整理しよう。
(確か、幽霊が出たって話だったよな。メジロ家のお屋敷に幽霊が出たって)
マックイーン達の間で話題になるくらいだ。
きっと、結構前から出ていたはず。じゃないと、子供の耳にまでは入らんはずだし。
その幽霊を祓うために、俺も捜索に加わった。
で、さっきまで追いかけていたはずだ。姿は見えなかったけど。
(……今にして思えば、使用人は毎回俺とは逆方向に走ろうとしてたよな)
ただ、おかしい。これだけ走って姿すら見えないのは、いくら何でもおかしいだろ。
ちょっとは見えてもいいはずだ。少なくとも、使用人は視認しているわけだし。
なのに、俺には姿の一つすら見えてこないのはおかしくないだろうか? 追い越してもいなかったし。
ここでさらに気になることが2つ。
幽霊の目撃情報が俺の散策ルートと被っていたこと。
使用人が常に俺とは逆方向に走ろうとしたこと。
この2つだ。
これまでの情報を照らし合わせ、冷静に頭を働かせると……あぁ、うん。
〈悪霊の正体、俺じゃね? 俺が悪霊と思われてんじゃね?〉
やっちまったなこれ。悪霊、俺だわ。
なんで気づかなかったんだよ。すぐに気づけよ。
見えねぇのは当たり前だ。俺なんだから。
使用人の前に現れるのも当たり前だ。俺が追い越したんだから。
今の俺は幽霊だ。シャロは普通に見えているから忘れがちだけど、普通の人には見えない。
きっと、白い靄みたいに見えているんだろう。
昼間なら気にならないかもしれんが、夜はそうもいかない。白い靄だとしたら嫌でも目立つし。
で、俺が出歩いてるのは夜。
幽霊の目撃証言も夜。しかも俺が散策しているルート。
使用人は毎回、俺とは違う方向に走ろうとする。
先回りすると、その方向に出たと叫ぶ。
疑う余地もない。
悪霊の正体、俺だわ。俺がみんなを不安がらせてるわ。
〈……明日、シャロを通して謝ろう〉
悪霊退治、結果。
悪霊の正体は自分自身でしたとさ。笑えねぇ冗談だわ本当に。
次の日。
「ロック、どうでしたか? 悪霊さんは撃退できましたか?」
〈あー、そのこと、なんだが。すまん、悪霊の正体俺だったわ。俺が夜散策している姿を、みんな幽霊だと言っていたみたいだ〉
「え? ……あっ」
シャロに一部始終を話した。悪霊の正体が俺であることも全部。
言われて気づいたんだろう。シャロも口を押さえてハッとしている。
「た、確かに。僕は普段から話してるから、気づきませんでしたけど……ロックって、普通の人には見えませんものね」
〈あぁ。俺も、お前と普通に話しているから忘れてたわ。自分がどんな存在なのか〉
「と、とりあえず、どうしましょうか? 皆様に、なんて説明を」
〈もう夜に極力出歩かんようにするわ。悪霊は祓ったから安心してくれ、とでも言ってくれ〉
「分かりました。では、そのように」
なんというか、どっと疲れた。
原因は自分自身だけどな。うん、反省しねぇと。
で、後日みんなに説明したのだが。
「では、今からロックに出てきてもらいますね」
〈は? 聞いてねぇんだけど? というか、絶対に嫌〉
「ダメです。これはロックに対する罰なんですから。みんなの前に顔を出したくないー、なんて許しません。これはお騒がせした罰です」
今回の一件のけじめとして、俺のことをみんなに紹介する羽目になり。
「あー……どうも、メジロシャーロックです。気軽にロックと呼んでください。一応、シャロの守護霊やってます。その、今回はお騒がせしました。マジで」
「ほ、ほんとうにシャロさんじゃありませんの? ロック、というのは?」
「シャロだと混同するんで。俺の方はロックでお願いします。一応、前髪の分け目の位置とか、目の色が変わったりしてるんで」
「あ、ほんとーだ。おめめの色もかわってる」
断る権利など、俺にはあるはずもなく。
徹底的に避けてきた自己紹介をすることになったとさ。ちくしょうめ。
◇
と、まぁ。
順風満帆な子供時代を過ごし、シャロは健やかに育っていった。
〈シャロ、好き嫌いするんじゃない。強くなれないし、大きくなれないぞ〉
「でも……味が少し、苦手で」
〈……味覚の方だけ俺に押し付けろ。だからちゃんと食え〉
「っ! ありがとうございます、ロック!」
何不自由なく、は言い過ぎだが。特にデカい問題は起こらなかった。
母親は相変わらず療養中で、父親も母親にかかりっきりだが。
シャロにはメジロ家のみんながいる。
「シャロはやっぱり凄いね~。アタシも頑張ったけど、まだまだだなぁ」
「ふふ、ライアンさんに負けないようにと、頑張っておりますから。パーマーさんと一緒に、これからの併せ、お願いできますか?」
「もっちろんいいよ! シャロとのトレーニングは勉強になるからね。頑張るぞ~!」
寂しくなるなんてことはない。
なにせ、ラモーヌさんを筆頭に構い倒してくるからな。
「シャロ、この前のレース一着だったそうね」
「はい、ラモーヌさん。それが」
「えらいわね」
「……えへへ。ありがとうございます、ラモーヌさん」
その辺の心配は微塵も必要ない。
それで月日は流れて──トレセン学園に入学し。
「お隣、ですね。僕はメジロシャーロックと申します。よろしくお願いしますね、アドマイヤグル」
「アルヴでいいわ。よろしくシャーロックさん」
「へ? あ、はい。ではアルヴさん、と。僕のこともシャロで構いません」
〈っんで、こうなんだよ!? なんで隣がこの方なんだよ本当に!〉
学園生活を過ごすことになる。
レジェンズシナリオで見れますけど、ラモーヌの子供時代どう見ても子供には見えん。