トレセン学園に入学して、しばらくの時間が流れた。
シャロはいろんなウマ娘と絡んでいるので、改めて振り返ろうと思う。
まずはグルーヴさんだな。アドマイヤグルーヴ。
なんとこの人、同じクラスでなおかつ隣の席である。そんな偶然あるかよ。
アドマイヤグルーヴと言えば、孤高かつストイックなキャラだ。
馬はあんな感じだったけど、ウマ娘でのキャラ付けはそうなっている。
あまり他者と関わろうとしない、愛なんていらないとまで言い放つキャラ。
それがアドマイヤグルーヴの印象だ。
だが。
「シャロさん、隣失礼するわね」
「へ? あ、はい。どうぞ。移動教室の先でも同じ、ですね」
「えぇ。よろしく」
めっちゃグイグイ来るやんけあんた。毎回毎回シャロの隣を陣取りおって。
愛なんていらないとか言ってたキャラはどこいったんだよ。出会ってから一度も口にしてんの見たことねぇけどさ。
食事も極力一緒に取ろうとするわ、他のウマ娘との会話に割り込んだりするわ、えらい違いだなおい。
〈愛なんていらないじゃないだろ。愛に飢えた獣だろもはや。大元のクールな性格は一緒だし、他の子には塩なのも同じだけどよ〉
「なにがですか? ロック。それにしても、アルヴさんは良い方ですよね。優しい方です」
〈……まぁいいと思うぞ、俺は〉
なにがどうしてこうなった、じゃないな。
多分だけど、これはメジロシャーロックだからこそ、何だろう。
(史実の俺がいると落ち着く、機嫌が直る、ってのが出てんだろうな。微妙に差異がある)
ま、いいか。極端に嫌われているとか、そういうわけじゃないんだし。
お次は、キングカメハメハやハーツクライだろう。
本家では未実装だったが、この世界にはいる。なんならディープやタイドもいるしな。
全員違うクラスだが、カメハメハはクラスの垣根を超えてよくやってくる。
「やっほ~、シャロちゃん。今日も遊びに来たよ~」
「カメハメハさん。おはようございます。今日も良き日にしましょう」
「相変わらず堅苦しいねぇ。もっとラフに行こうよ。リラックスリラックス~」
シャロもまんざらではなさそうだ。仲の良い友達、といったところ。
たまにご飯食べたり、一緒に出掛けたり。
カメハメハが連れ回すので、リフレッシュもできる。
良い友人だ、本当に。
で、ハーツの方はというと。
「シャーロック! 約束通りテストの点数で勝負だ! 私は95点!」
「えっと……ごめんなさい。100点です」
「ま、負けたッ!? ま、また、また負けたというのか、私はっ!」
「ハーツも懲りないねぇ、本当に」
コレである。そんな気はしてたわ。
シャロに対抗心むき出し。常に何かにかこつけて勝負をしようとしてくる。
テストだったり、大食いだったり、それこそレースでもだ。併走も度々挑んでくる間柄。
ライバルというかなんというか。負けたくない、って思いが見ているだけで伝わってくる。
もっとも、シャロは全部に勝ってる。負けたことは一度もない。
「えっと、その、ごめんなさい?」
「シャロちゃん。謝らない方が良いよ。元々ハーツが突っかかってるんだし、それにもっと面倒なことに」
「情けは無用だ! 次こそは勝つ……次のテストも勝負だ、シャーロック!」
「どうせこうなるんだから。心配するだけ無駄だよ」
負けたことを知り、うちひしがれているハーツ。
ショックで力なく倒れこんでいたが、すぐさま飛び起き。
次の瞬間には、シャロに向かって指を突きつけ。次の勝負の約束をしていた。
こういう奴だ、ハーツは。
ウマ娘になっても変わらない。いつも俺に挑んでくるライバルだ。
(懐かしいわ、コイツのノリ)
「どうしたんですか? ロック。笑っていますけど」
〈別に。なんでもねーよ〉
シャロにとっても、ライバルは貴重な存在。
それに、ライバルで友達。カメハメハも含めて、一緒に遊んだりする。
いいことだ、うんうん。ウマ娘が仲良くするのは大変良いことだからな。
カメハメハ達との会話を切り上げて、廊下に出る。
出て、しばらく歩いたら。猛烈な勢いでやってくるウマ娘が一人。
「シャロさぁぁぁん! おはよぉぉぉ!」
小走りで、周りの迷惑にならないように。
俺の前で緊急停止したウマ娘。シャロよりも小柄だ。シャロがでかすぎる、ってのもあるけど。
彼女の名前は。
「ディープさん。今日も元気いっぱいですね。おはようございます」
「うん、わたしは今日も元気だよ! シャロさんも元気?」
「ふふ、僕も元気です。それで、どうされましたか? なにやら急いでいたみたいですが」
「シャロさんがいたから! あとあと、放課後一緒に走ろうよ!」
ディープインパクト。俺によく懐いていたアイツだ。
天真爛漫、って言葉がよく似合う。見た目以上に小さく感じるのは、きっとこの雰囲気のせいだろう。
とはいえ、確かに感じる気品。ロイヤルというか、高貴な身分というか。そんな感じが漂っている。
俺にとっては、前世の印象のせいで近所のガキにしか見えないけど。
ディープはこっちでも俺に懐いている。
初対面からぐいぐい来たからな。さすがに舐めはしなかったけど。
で、ディープがいる、ということは。
「もう、ディープ。あまり走らない方がいいっていつも言ってるでしょ? ただでさえ加減が苦手なんだから」
「は~い、ごめんなさいタイドお姉ちゃん」
「タイドさん。寮で挨拶を交わして以来ですね。おはようございます」
「あ、シャロさん。おはよう」
勿論、ブラックタイドもいるわけで。
シャロの挨拶に、にこやかな微笑みで返していた。
う~ん、こっちもこっちで気品が凄い。
姉妹揃ってロイヤル感漂ってる。下手なことしたら首を飛ばされそう。こっちもお嬢様だけど。
タイドは、ディープと比べると落ち着いている。
ちょっと気弱というか、自信なさげな感じだ。
「それじゃあディープ、教室に戻るよ。元々ディープの忘れ物を取りに来たんだから」
「そうだった! それじゃ~ね~シャロさん。放課後、一緒に走ろうね~!」
「ふふ、はい。その時は、よろしくお願いしますね」
ちなみに、シャロとは寮が同じ部屋。同室の仲である。
高等部の教室を出て、中庭に出ると。
「スティルさんではありませんか。奇遇ですね、こんなところで」
「あ、しゃ、シャーロック、さん。お、おはようございます」
「はい、おはようございます」
スティルさんがいた。さっきまでオロオロしていたのに、シャロを見た途端笑顔になっている。
「おひとりで何をしていらしたのですか? 周りには誰もいらっしゃいませんが」
「その、影が薄いので……ここにいても誰にも気づかれず。特に何かしていたわけではないのですが」
会話をしているだけで、嬉しいって気持ちがよく分かるわ。雰囲気が凄い。花が舞ってら。
こっちはあんまり変わらない。グルーヴさんとは違う……とも、言い切れんな。
「それはいけません。ひとりは寂しいですから。しばらくの間ですが、僕と一緒にお話でもしませんか?」
「っ、ご迷惑、ではないですか? シャロさんに迷惑じゃ」
「とんでもないです。僕はスティルさんとお話ができて、嬉しいですよ」
シャロにだけ、こう、露骨に対応がね。なんというかね。
てか、この状況も作り出したんじぇねぇだろうな、なんて気持ちが出てくる。
なんでって? これが初めてじゃなくて、過去に何回もあったからだよ。
同じようなシチュエーション。スティルさんが一人でいて、シャロが発見。
放っておけないシャロが話しかけて、時間いっぱいまで話し込む。
何度も見たことがあるんだよこっちは。計算高いな、スティルさん。
シャロは気づいているのかって? 多分気づいていない。
というか、気にしていない。スティルさんにどんな思惑があろうが、シャロは気にしないのだから。
寂しそうにしている。これだけで動く理由になる。
シャロは大真面目だ。たとえこれが計算だったとしても、欠片も気にしちゃいねぇんだから。
「クラスではどうですか? 馴染めていますか?」
「はい。良くしてくれる方が、少しでもいてくださるので。ただ、やっぱり、その……」
「紅さん、ですか? やはり、暴走することがある、と」
悩み相談にも乗っている。スティルさんが抱えているものは、アレだしな。
どうも、この世界にも内なる紅はちゃんといるようで。
(つっても、どうなるんだろうな? アプリだと暴走して、メリバみたいなことになるが)
いや、アレはメリーバッドエンドと呼んでいいのか?
当人達は幸せだし、ハッピーエンドでいいんじゃないか? 分からん。
分からんが、暴走しないことを祈ろう。
「大丈夫ですよ。きっと、スティルさんを理解してくださるトレーナーさんが現れます。きっと、手助けをしてくれるはずですよ」
「だと、いいのですが」
トレーナー次第でどうとでもなるしな。グルーヴさんのシナリオの例もあるし。
と、シャロの交流は多岐に渡る。
史実でいろんな子と絡んでいたおかげだろう。
今回はいなかったが、クラフトちゃんにスイープなんかもそこそこ絡むし。
「それではスティルさん、また。僕でよければ、いつでも相談に乗りますので」
「はい。ふふ、頼りにさせていただきますね、シャーロックさん」
スティルさんと別れ、俺達も教室に戻ろう。
なんて思った、矢先のことだった。
「シャロ。『奇遇』だね。ネオユニヴァースとの航路が交わった」
「ユニさん!」
……できれば、一番会いたくなかったんだがな。
シャロが笑顔を向ける。
視線の先には、ユニさんがいた。薄く笑みを浮かべて、俺、というかシャロの出会いを喜んでいる。
「ネオユニヴァースは、シャロとの“AMRT”を申請するよ」
「分かりました。では、一緒に戻りましょうか」
「アファーマティブ」
ユニさんは嬉しい、シャロも嬉しい。
俺だけが、複雑な気分を抱く。
理由はシンプルだ。ネオユニヴァースというウマ娘の特異性を考えれば、な。
(アナザーバースの観測。いろんな世界を観測できるユニさんは、当然前世の俺との世界も観測している)
俺の前世は、ユニさんよりも早く亡くなった。
あの後、ユニさんがどうなったのかは知らない。知らないが……結果的に、俺は親友でソウルメイトであるユニさんを、置いていってしまった。
だから、なのだろうか? ユニさんは、俺の姿が見えずとも。
「ロック。ぼくの“そうるめいと”を感じるよ。シャロの隣に、確かにいる」
「ユニさんは凄いですね。ズバリ、その位置にいますよ」
「ロックとも“AMRT”を申請。『対話』を試みる」
なんとかして、俺と会話をしようとしてくる。
俺の声は聞こえない、姿は見えないはずなのに。
出会った時からずっと、ユニさんは……俺を認識しようとしてくる。
それに、ユニさんの性格だ。
(向こうとあまり変わらない。グルーヴさんやスティルさんと違って、ほとんど変わらないんだ)
グルーヴさん達みたいに割り切れない。
だから、あまり会いたくない。なんなら、邂逅すらしたくなかった。
ユニさんは俺を、認識できてしまうから。
「……残念。今日も“AMRT”は『却下』されたみたい、だね」
「申し訳ありません、ユニさん。もう、ロック! いい加減、ユニさんとお話してあげたらどうでしょうか!」
〈あー、悪い。今度また話すとでも伝えてくれ〉
「絶対ですよ? 絶対ですからね、ロック!」
本当は断りたい。話さない方がいい。
でも、断ることができないのはきっと……後ろめたさと、俺自身も話したいと思っているから、なんだろうな。
我ながら、自分勝手なもんだ。
これがシャロの交友関係。
前世で俺が関わった奴らを中心に、シャロは交流している。
(仲良さそうでいいことだ、うん。その調子で、いろんな子と仲良くなれよ)
目指せ友達100人。小学生みたいな目標だけど、シンプルでいいだろこんなのは。
寂しくならないように、俺がいなくなってもいいように。
シャロをしっかりと、導いていかなければ。
「ところでロック。授業中はいつもどこに行っているのですか? 気づいたら姿が見えなくなってますけど」
〈旧理科準備室。お友だちさんと喋ってるよ〉
「そうなんですね。できれば、僕に一言くれると嬉しいです。その、ロックがいなくなると心配しますので」
〈……善処するわ〉
結論。シャロの学園生活は充実している。
友達たくさんだね。良いね。