親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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前話には入れられなかった方々。


学園での交友関係2

 ウマ娘において、史実での繋がりは横だけではない。

 縦の繋がり……つまりは、血統の繋がりでも発生する。

 親子とか、爺孫とか。マックイーンとゴルシのコンビ、エアグルーヴとアドマイヤグルーヴの繋がりなんてものがある。

 

 ただ、俺はこの縦の繋がりが全くもって分からん。

 なんせ、俺の産駒の名前とか聞いたことがないし。聞く前に死んだからな。

 

 数少ない知っている名前は2頭だけ。どちらもメジロの馬であり、将来を期待されていたからとよく話題になっていた。

 おまけに、その内の1頭は葦毛。もう1頭はドーベルさんとの子。話題性は十分だ。

 そもそもメジロだしな。どこかで会うだろうなとは思っていた。

 

 ……で、まさかとは思うが。

 

「シャーロックさま~! 今日もお麗しいですわ~!」

「優美ッ! 秀麗ッ! 端麗ッ! シャーロック様の美しさは陰ることなし! 全世界が首をたれ、跪くことでしょう!」

「間違いありませんわね、プレリュード! シャーロックさまは素晴らしいお方ですもの、思わず跪いてしまうのも仕方ありませんわ~!」

 

 コレじゃねぇだろうな? 学園の廊下という往来に関わらず、シャロのことを崇拝している、この2人じゃねぇだろうな?

 

 周りの視線が凄い。

 何事だ、という視線に好奇の目。

 間違いなく、この廊下で一番の注目を集めている。

 

 当のシャロはというと、苦笑いだ。

 気持ち的には嬉しいけど、ここでは止めて欲しい、でも強くは言えない。

 そんな顔をしている。

 

 うん、昔からこうとはいえさ、場所は選んでくれよお前ら。

 

「プレリュード、フェルマータ。お気持ちは嬉しいですが、さすがにここでは止めていただけますか? 皆様の視線がありますので」

 

 やんわりと注意をするシャロ。

 対する2人……メジロプレリュードとメジロフェルマータの2人は、心底不思議そうな顔をしていた。なんでだよ。

 

「不明ッ、疑問ッ、何故ッ! シャーロック様の素晴らしさを、あたしは賛辞しているだけですが! いつ、どこだろうと、シャーロック様は称えられるべきです!」

「褒められると嬉しいですわ。それがどこだろうと、間違いなく! なので、学園の廊下でも、我々はシャーロック様の素晴らしさを説いているだけですわ~!」

「……あはは」

 

 まぁうん、無理だよな。分かってたよ。

 

 この2人、史実で何をやらかしたのかは知らんが、感情の赴くままに行動する癖がある。

 良くも悪くも、自分の気持ちに素直ってわけだ。

 

 なので、衆人の目を気にしない。

 周りが何と言おうと、自分の気持ちを素直に貫き続ける。

 だからこそ、シャロも強くは言えない。美点でもあるから。

 

 とはいえ、ここは学園の廊下だ。

 

「ですが、ここは学園の皆様の目がありますから。それに廊下です。なるべく、静かにしなければなりません。分かりますね?」

 

 やんわりとお叱りの言葉。

 2人の気持ちを尊重しつつも、ここでやるのはダメだと諭す。

 なんというか、子を叱る親みたいだな。実際史実親子なんだろうけどさ。

 

「ですが、お気持ちは大変嬉しいです。いつもありがとうございます、プレリュード、フェルマータ」

 

 シャロの言葉を聞いて、2人は嬉しそうな顔をした後。

 

「納得ッ! 合点ッ! 謝罪ッ! 分かりました、シャーロック様。次は中庭で褒めることにします! 周りの皆様もすみませんでした!」

「申し訳ありませんでしたわ~。シャーロックさまの素晴らしさを説くあまり、周りのことが見えておりませんでした。今ここで謝罪いたします」

「はい、よくできました。それでは、行きましょうか2人とも」

 

 周りに謝罪のため頭を下げ。歩くシャロの後ろを着いていった。

 

 とりあえず。

 

(この2人が外れ値なだけでよかったわ)

 

 この2人以外にも、俺の産駒と思しきウマ娘達はいる。

 メジロにもいるし、アドマイヤとか、なんなら他にも確認できた。

 かなり慕われているからな、シャロ。横だけじゃなく、縦の繋がりも素晴らしい模様。

 

 ……うん。

 

(俺の産駒、大活躍したみたいで良かったわ。あの金額で活躍できなかったらと思うと、ぞっとするわマジで)

 

 最高額4000万、シンジケート三桁億円が、最悪の結果にならなくてよかったと思う。マジで。

 ざらにあるから怖いんだよ馬産って。高い金払ったのに、走らないなんてこと普通にあるんだから。

 無事に走ってくれてたことが分かって一安心だわ。

 

 こんな形で、自分の種牡馬としての成功を知るとは。

 嬉しい限りである。

 

 

 

◇

 

 

 

 学園での放課後は、基本的にトレーニングだ。

 

「それではロック。今日はどのようにしましょうか?」

〈筋トレ重視でいくぞ。昨日は走り込みだったからな。スタミナはそこそこついてきてるし、パワーをつけておきたいところだ〉

「分かりました。では、そのように」

 

 トレーニングの指示は基本的に俺。

 シャロの状態がよく分かるし、好不調や目に見えない状態変化も、俺には分かるからだ。

 同じ体を共有しているわけだしな。こんなこともできる。

 

 小さい頃からずっとやってきた。

 シャロにとっての最適なメニューを組んだりするのは、結構楽しかった思い出。

 ちょっとした先生になった気分だった。

 

 とはいえ、だ。

 俺は専門職じゃないし、そもそも勉強だってあまり好きじゃない。

 レースの戦術は、個人的に面白いからやってきたが、勉強はあまりしたくないというのが本音。

 できるだけ、好きなことをしていたい。人類皆同じこと思ってると思う。

 

 だからまぁ、出来るだけ早い段階で欲しいんだよな、トレーナー。

 

(俺がやってるの、専門書とかネットの知識の聞きかじりだしなぁ。本当に強くなるためだったら、トレーナーが必要不可欠だ)

 

 なんか、変なトレーナーが目立つからアレだけど、実際のトレーナー職ってのは超エリートだ。

 ライセンスの取得は、日本最難関大学よりもさらに難しいし、狭き門として有名。万年人材不足だし。

 そんな狭き門を突破したエリート中のエリート。それが中央のトレーナーだ。

 

 当然、俺なんかよりも知識が豊富。

 メニューの組み立てだって、ウマ娘にとって最適なものを組めるはずだ。

 

(なるべく早い段階で、トレーナーがついて欲しいんだが。シャロもシャロで強情だしなぁ)

〈なぁシャロ。今の内にトレーナーを見つけておかないか? 声自体はたくさんかかってるだろ?〉

 

 だからこそ、シャロが強くなるためにトレーナーがついて欲しい。

 それが俺の願いである。

 

 だが、シャロもシャロで強情。

 

「いいえ、選抜レースで僕の走りを見てもらわないといけません。実戦での強さを見てもらって、その上でスカウトをしてもらいたい。それが、僕の考えですから」

〈別にそんなことしなくても、お前なら大丈夫だと思うがなぁ〉

「ダメです。そもそも、基本的にはスカウトレースを通して、僕達はスカウトしてもらうのでしょう? ならば、その慣例に倣うべきかと」

〈それ基本はってことだからな? 別にそれ以外の理由でスカウトされても、全然いいんだからな?〉

 

 必ず選抜レースは走る、と言って譲らない。

 スカウトの声はたくさんあるのに、絶対に走ると言っているのだ。

 誰に似たんだよその強情さ。

 

 シャロはかなりの声をかけられている。

 名門メジロということに加えて、メジロの中でも特に才能溢れるウマ娘。

 誰がスカウトするか、誰がトレーナーとして選ばれるのか。日夜話題になっているらしい。

 ソースはメジロシンフォニーという、メジロのウマ娘である。

 

 より取り見取りの立場。新人からベテランまで、誰もがシャロに注目している。

 

(俺よりも良いトレーニング組めるだろうし、強くなるんだったら、早い段階でトレーナーは欲しい)

 

 そう思うわけだ。あくまで俺個人の意見としては、な。

 

 でも、シャロの意見が間違っていないのも事実。

 変なのがトレーナーになっても困るし、相性が合わずに弱くなる可能性もある。

 悪い例の代表格が、ゴールドシチーの最初のトレーナーか。

 

(あぁいうのがトレーナーになって困るしな。悪影響になりかねん)

 

 焦らず、じっくり見つけたいというシャロの気持ちも、十分に理解できる。

 強くなるため、なんて俺は言っているが、相性悪かったら強くなれないわけだし。

 どっちにもメリットがあって、デメリットがある。そんな感じだ。

 

 その上で、俺が選ぶのは。

 

〈ま、お前が決めたことなら文句は言わねぇよ。選抜レースを走って、お前の実力を知ってもらって。相性の良いトレーナーがついたら万々歳だからな〉

「はい、その通りです……別に、ロックが選んでもいいのですよ? ロックが選んだなら、間違いがありませんから」

〈断る。前にも言ったが、トレーナーはお前の判断で選べ。俺は絶対に関与しない〉

「分かっていますよ。そんなに強く否定しなくても」

 

 シャロの判断だ。

 俺が選んだってどうしようもない。シャロが選ぶべきだ。

 

 トレーナー選びは競技者人生を左右する。

 トゥインクル・シリーズで活躍できるかどうかにおいて、トレーナー選びは重要な項目の一つだ。

 さっきも言ったように、相性が悪かったら弱くなる、なんてことになりかねないからな。

 

 トゥインクル・シリーズを走るのは基本シャロ。

 だからこそ、大事なのはシャロが選んだトレーナーであるということ。

 俺の方でも見定めるつもりではあるが、シャロの意思を尊重しなければならない。

 

 それに、シャロは俺に信頼を置きすぎている。

 身から出た錆とはいえ、定期的に釘を刺しておかないといけない。

 いつまでもいられるわけじゃないのだから。

 

〈大事なことだからだ。前にも言ったが、あまり俺を頼りすぎるなよ。俺の判断が絶対なんてことはないんだから〉

「心配性ですね、ロックは。ロックの判断が間違っていること、なかったじゃないですか」

〈それがダメなんだよ。そもそも、お前は俺ありきで問題を考えすぎる。俺がいなくなったら〉

「ロック。それ以上は許しませんよ。また、僕の前からいなくなる、なんて冗談を言うんですか?」

〈……へいへい。分かりましたよ〉

 

 つってもこれだからなぁ、シャロの奴。どうしたらいいのやら。

 

(直接的じゃないが、俺がいなくなる可能性は何度も教えてきた。それを聞いてもシャロは、俺がいなくなることはないと断言し切っている)

 

 なんつーか、頑固だ。本当に。

 真面目で、ストイックで。意見を曲げないことがある。

 

 意見を曲げない、じゃないな。俺がいなくなることを信じたくない、ってところか。

 子供の頃からずっと憑いて、もはや半身のように大切な片割れ。

 そんな片割れがいなくなることを、信じたくない。逃避している、のかもしれない。

 

 直接、言ってしまえばいいんだが。

 

(神様に言われてるから、俺はそのうち消えるぞ、なんて言ってもなぁ。信じてもらえるわけないし)

 

 俺の頭がおかしくなったんか? と心配されるわ。

 つか、なんなら心配されたわ。頭大丈夫ですか? って。憐みの籠った目のセット付でよ。

 余計なお世話だよ。三女神様がそんなことするはずない、って意見も分かるけどさ。

 

 逆の立場になったらどうかって?

 いや、信じるわけねぇだろ。電波か何かだと思うわ。

 ……答え出てんな、うん。

 

 とにかく、シャロは俺に依存気味だ。

 大半の選択に俺を絡めてくるし、重要な場面でほぼ必ず俺の意見を聞いてくる。

 

 それはちょっとまずい。自立する機会を失ってしまう。

 確定でいなくなる身としては、避けなきゃいけない事態だ。

 

(これまで通り、それとな~く促すのがいいか。対応間違えたらバチクソにキレるけど)

 

 慎重に事を進めなければ。

 

 

 さて、トレーニングをやっているのだが。

 

「シャロ、トレーニングか? なら、私も手伝おう」

 

 声が聞こえてきた。とても聞き覚えのある声が。

 

 シャロと俺が振り向く。

 その先にいたのは──葦毛のウマ娘。

 

「オグリさん、お久しぶりです! お仕事の方は?」

「大丈夫だ。今日はおやすみだからな、一日中シャロに構えるぞ!」

「あ、あはは。ありがとうございます。嬉しいです」

 

 オグリキャップ。笠松のシンデレラ、葦毛の怪物と名高い、アイドルウマ娘だ。

 シャロと一緒に、耳をピコピコさせている。

 尻尾もブンブンしてるし、会えたのがよほど嬉しいんだろう。

 

 うん。

 

(シャロを気に入ってるからなぁ。母父だから、当然と言えば当然か)

 

 これも血の繋がりである。

 俺としては、目の保養になるので最高。

 まさしくWin-Winと言える。

 

 もっとも、尊い場面が見れたので。

 

「おーい、誰か~! またアグネスデジタルさんが砂になってるよ~! 手伝ってー!」

「またなんだね。今度は一体何を……あ~、シャーロックさんとオグリさんか。じゃあ仕方ないか」

「眼福だよね~。分かる分かる」

 

 今日もどこかでデジタル殿が尊死している。

 見慣れた光景として処理される姿は、ちょっと面白い。

 

 

 トレーニングにオグリさんが加わり。

 シャロも嬉しそう、オグリさんも嬉しそうということでね。

 

「シャロ。ここはな、ググっ、と踏み込んで、バーっ! って進むんだ。地面をバーンっ! って蹴り上げる感じだ!」

「あはは……分かりました。こうです、ねっ!」

「そうだ、凄いぞシャロ! シャロは天才だな!」

 

 今日も学園は平和である。




いろいろと考えることは多い。目下の最優先はトレーナー探し。
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