親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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年が明けて3歳馬になりましたメジロシャーロック。


次なる舞台は

【新たなる2歳王者の誕生!朝日杯を制したのはメジロシャーロック!】

 

中山11Rの第55回朝日杯FS(2歳G1、1600m)は、1番人気のメジロシャーロック(鞍上:岳寛)が期待に応える形でレースを制した。2着は2馬身差でコスモサンビーム、3着はメイショウボーラーが入った。

 

メジロシャーロックは栗東・生江康夫厩舎の2歳牡馬で父メジロマックイーン、母メジロコナン(母父オグリキャップ)の血統。メジロマックイーン産駒としては初となるG1勝利を飾った。通算成績4戦4勝だ。

 

スタートは出が悪く、道中は10番手でレースを進めていたメジロシャーロック。しかし、終始冷静にペースに乗り、スズカマンボらのマークを意に介することなく展開。残り1000m付近から外へつけ始め、800mからスパート。最後の直線が短い中山競馬場で見事ロングスパートを決め、逃げるメイショウボーラーを捉えての見事な勝利だった。

まさに圧倒、という他ないだろう。内容もさることながら、出遅れてもまるで問題ないとばかりに走り抜けるメンタルはとても2歳馬とは思えない貫禄。観戦しているファンも思わず唸る出来栄えだった。手綱を握る岳寛騎手の手腕の見事、応えるメジロシャーロックもまた見事。

 

4戦4勝で見事2歳牡馬の頂点に立ったメジロシャーロック。クラシックでの活躍に期待したいところだ。

 

レース後陣営コメント

 

岳寛騎手「出遅れはしたけど、僕は特に焦っていませんでした。能力を出し切れば勝てる、と思っていたので。なのでとにかく馬の方を落ち着かせることにしましたね。初めての出遅れだったのか、シャーロックは興奮していましたから。

ただ、やっぱりシャーロックは賢いですね。焦る必要はないよ、と教えたらすぐに冷静さを取り戻した。その後は、みなさんご存じのとおりです。

まだまだ発展途上、成長中の馬。これからもっと強くなる。期待して待っててください」

 

生江康夫調教師「出遅れて大丈夫か!なんて思ってましたけど、岳騎手の見事な腕で冷静さを取り戻せた。そこからはもう、特に心配しとらんかったですね。メジロシャーロックですし。

ホンマに強い馬です。逃げもできて先行もできて、今回のレースで差しもできることが分かったんですから。どこだろうと勝負できますよ。断言できます。

朝日杯勝利で2歳馬の頂点に立ったわけですから。3歳馬でも頂点に立つような馬になってほしい。当然、クラシック三冠を目指しますよ。メジロ初のダービー馬も期待しとってください」

 

喜多野美弥「最初はドキドキしていましたけど、最後にはやった!やった!って。年甲斐もなくはしゃいでしまいました。やっぱり勝つのは何歳になっても嬉しいものですね。

今まで出てこなかったメジロマックイーン産駒のG1馬ですから。生産者としても嬉しい。

次のレースが楽しみで仕方ありません。生江康夫調教師が興奮するのも分かります。私も興奮しましたから」

 

 

 

 

 

 

 

 朝日杯を走ったのが遠い昔のよう、なんてことはなく。

 まだ1ヵ月そこらしか経ってない。1月の栗東トレセン、本日もお変わりなくだ。

 

 いや~にしてもな。俺がな。

 

(朝日杯を勝った。さらには、最優秀2歳牡馬の称号も手にした! これで名実ともに、俺が2歳牡馬の頂点だ!)

 

 朝日杯の勝利とこれまでの実績が評価されて、見事JRA賞の最優秀2歳牡馬の賞をもらったのだ!

 

 JRA賞は中央競馬、つまりは日本の競馬で活躍した競走馬に送られる賞だ。

 いろいろと部門はあるが、俺が獲得したのは最優秀2歳牡馬。2歳馬かつオスの馬で、この1年最も活躍した2歳馬に送られるものだ。

 一番俺が活躍したということ。それが嬉しい。

 

 とはいえ、一番嬉しいのはそこじゃない。重要なのは、俺の名が残ることである。

 このJRA賞は名を売るのに絶好の機会だ。なんせ、選ばれただけで認知されるからな。

 

 ふっふっふ、これでゆくゆくは、3歳牡馬も4歳以上牡馬の称号も手にしてやるぜ。

 さらには年度代表馬だ。その年1年最も活躍した馬に送られる特別な称号。これも獲得しなければ。

 

(メジロの馬が年度代表馬になったことはない。俺が最初の事例になってやる!)

 

 目指すべき道はまだまだ遠く。やるべきこと、やれることはたくさんある。

 目標は増えているが、最終的には変わらない。

 メジロの馬主事業継続。ひいてはメジロの復活。

 そのためにも、ここで満足せずに精進しないとな。

 

 だけどね、だけどね。やっぱ嬉しいわ。俺がJRA賞に選ばれるなんてな~。

 鼻歌でも歌いたくなる。さすがにしないけど。

 

『ふっふっふ。もうすぐ調教だし、最高の気分でできそうだ。楽しみで仕方ないね』

『シャロは今日も元気だね……僕は負けちゃって最悪だよ』

 

 隣の馬房から沈んだ声。タイドはあまり元気がない。

 というのもタイド、新馬戦こそ勝ったが次のレースでは負けてしまったのだ。えらい沈んだ様子で帰ってきたのでよく覚えている。

 3着。掲示板は確保できたとはいえ、悔しさが残る結果だろう。

 

 馬は勝ち気が強い。ブラックタイドも例外じゃない。

 負けたらそれは気分がよくないだろう。

 よし、喜びすぎるのもよくない。この辺にして、今はタイドを慰めるか。

 

『3着だったか? お前が勝てなかった、ってことは、それだけ強い相手が集まっていたんだな』

『負ける気はしなかったんだけどね。最後まで届かなくて』

『あ~、そりゃ悔しさが残るな。自信持って挑んだのに、追いつけないのって心にキそうだ』

 

 馬房から顔を出す。タイドも同じように、顔を出していた。

 

『ま、次は勝てるように頑張ろうぜ。勝てなかったやつに勝つ、そいつがいなくても次のレースは勝つ! そう切り替えるしかねぇよ』

『……うーん』

『そう簡単に切り替えれないのは分かる。引きずるよな? けどさ、終わったことよりも次のこと考えようぜ? 楽しいこと、楽しくなりそうなことをさ!』

 

 敗戦を気にしているタイド。1回の負けでやる気をなくしてしまう馬もいるから、別に珍しいことじゃない。

 ただ、お隣さんだし、よく一緒に調教してくれるし。

 なにより量が多い俺の調教に付き合ってくれる、数少ない同期の馬だ。それなりに長い付き合いだしな。

 

 やっぱり元気でいて欲しいし、走るのが嫌になってほしくない。

 酷なことかもしれないけど、俺としてはもうちょっと頑張ってほしいから。

 

 いつまでも引きずったら仕方ない。後のレースにも影響を与える可能性がある。

 頭の中で切り替えて、次の目標に向けて頑張らないとだ。

 

『だ、だよね。それしかないよね?』

『おーよ。練習相手なら任しとけ? 俺がタイドを勝たせてやるよ』

 

 そう慰めていたら、タイドも元気を取り戻したようで。

 沈んでいた雰囲気がなくなった。

 

『なにそれ。シャロさすがに調子乗りすぎじゃない?』

『ふふん。なんたって俺は最優秀2歳牡馬だからな。調子に乗っても許される』

『それは分からないけど、多分凄いんだろうね。まぁありがとう。おかげで元気出たよ』

 

 元気も出たようで何よりだ。

 

 

 と、そろそろ時間か。

 

「シャロー、調教の時間だぞー」

「タイドも一緒に出ような」

 

 リョーマとタイド担当のスタッフさんが来て、調教の時間であることを報せに来た。

 

『今日もシャロと一緒か~……ごめん。誰かに変わってもらってもいい?』

『おい。俺が練習相手ってのがそんなに嫌か?』

『だって量が多くなるんだもん。嫌だよ』

『お前の方が先にレースくるんだから、お前用の調整に決まってんだろ! そんな嫌そうにしなくてもよくない!?』

 

 今日も一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 始まりました調教。岳さんに康夫さんもいますよ。

 タイドの次走が若駒ステークス。1月の末に開催されるので、メニューはタイド用だ。

 

 ちなみに俺の次走はというと、2月開催の共同通信杯である。東京競馬場芝1800mのレースだ。

 ちょうど今、岳さんと康夫さんが話している。俺の次走について。

 

「共同通信杯は寛君の進言もあったんやっけ? 喜多野さんにそう言うたとか」

「はい、そうですね。皐月賞前に1走、出来れば2走レースを使いたいな、と。それなら共同通信杯からの弥生賞はどうか? となりました」

「皐月賞の権利はほぼ確やのに、どうしてや?」

 

 あ、それは俺も気になってた。

 

 実際、朝日杯を勝った俺は確定で皐月賞に出走できる。

 レースに出走するための条件であるお金。簡単に言えば、レースで得た賞金額的にも、俺は問題ないはずだ。

 一応皐月賞とは間隔が空いてるから、レース勘を鈍らせないために1つレースを走るか~、なら理解できる。

 

 ただ、岳さんは2つレースを使いたい、と美弥さんに言ったそうな。

 そこにはどんな意図があるのか。

 

 岳さんの表情は、迷いがないな。

 

「共同通信杯と弥生賞では、シャーロックにさらに考えて走らせようと思っています」

 

 おっと? 俺のためか?

 

「考えて走らせる、っちゅうと?」

「シャーロックの賢さは規格外です。先の4戦で、康夫さんもよくご存じのはず」

「そらそうやな。こないに賢い馬は珍しいわ」

 

 ふんふん、俺の賢さがあるから、と。

 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。褒められて嬉しいわ。

 

 んで、それが2戦使うことと何の関係が

 

「僕はこの2戦で、シャーロックに自分で考えて動くことを覚えさせます」

 

 ……え?

 ちょっと待って。なんか雲行き怪しくなってない? 大丈夫か?

 

「シャーロックはレースを理解できる。それこそシンボリルドルフのように」

「あの岡戸騎手が言うとったもんな。ルドルフの賢さは規格外やって」

「はい。シャーロックもいずれはそうなります。ただ、今はまだ発展途上。レースを全て理解しているとは言えない」

 

 ねぇ待って。おたくらが比較している相手分かってる?

 天下の無敗の三冠馬様よ? 日本競馬初のG1を7勝したお馬さんよ?

 今の時代においても最強馬、なんなら俺が人間として生きていた時代でも最強と言われてたお方ですよ。ウマ娘だと駄洒落好きの皇帝ですけど。

 

「だからシャーロックには、この2戦は自分でレースをしてもらおうと思います。今後を見据えて、ね」

 

 なんでそんな馬と俺を比較してんだよ! あんたやっぱ期待が重すぎるって!

 そりゃ確かに最優秀2歳牡馬は取ったよ? けどさ、もうちょっと順序ってもんがあるだろ!

 

 しかもなんだ? 次のレースは俺に考えて走ってもらうだと?

 

(俺が自分で考えてレースをしろと!? どこの皇帝だよ俺は!)

 

 抗議だ抗議だ! 岳さんの横暴を許すな!

 

 なお言葉は通じない。岳さんは真面目そのもの、大真面目に俺のことについて語っている。

 

「どういう狙いがあってや?」

「僕だって人間です。間違えないように気をつけていますが、それでも間違うことがある。勝てるレースを落としてしまう時があるかもしれない。そうなったら、僕は耐えられない」

「……成程な」

「その時シャーロックが自分でレースが出来たら、勝ちの取りこぼしがなくなります。これからも勝ち続けるためには必要なことだと、僕は考えました」

 

 いや、うん。狙いは分かった。

 分かったけどさ、やっぱり考え直しとかはっ、ダメそうですね、はい。微塵も考えてなさそうですね。

 覚悟が決まってるよ。俺のためだって考えてる顔だよ。分かんないけど。

 

「それに、シャーロックはとても頑丈です。調教もそうですし、レース後にケガしたことは一度もない」

「そうやなぁ。俺らが気をつけとるっちゅうんもあるけど、シャーロックはケガ知らずや」

「出来る限り実戦での経験を積みたい。シャーロックを強くするためには、レースで走るべきだと美弥さんに伝えました」

「美弥さんが決めて、俺も決めたことやな」

 

 分かりました、分かりましたよ。頑張らせていただきますよ。

 

 にしても、そこまで俺の実力を、ねぇ。

 

(……アカン、ニヤニヤする)

 

 人間だったら間違いなくニヤついていた。そう断言できるくらいには機嫌が良い。

 だってさ、ここまで俺のこと高く評価してくれてるんだぜ? 嬉しくならないはずがなかろう。

 いやはや気分が良い。満足だ満足。

 

「シャーロックで僕は三冠を獲ります。絶対に」

「寛君にそこまで言わせるか。普通やったら一笑に付されるようなことやけど、シャーロックと寛君やしな」

「メジロ初のダービー馬だけじゃない。皐月賞だって取りこぼさない。そのためには、シャーロックにもっとレースのことを教えないと、ですから」

 

 頑張るか~! ここまで褒められたらな~、頑張れるな~!

 

 

 っと、そんな感じで俺の次走は共同通信杯だ。

 

「共同通信杯は東京競馬場やしな。今後のダービーやジャパンカップも見据えると、一度は経験した方がえぇとこや」

「それもありますね。特に実力勝負になりやすい場所ですから」

「NHKマイルは狙わんし、後は中距離にどこまで対応できるかやけど」

「問題はありません。マイルを走ってもケロッとしていますし、なんなら物足りなさそうにしています。距離が伸びれば伸びるほど強いですよ」

「やな。調教でも長い距離を問題にしてへんし、なにより父がメジロマックイーン。ゆくゆくはステイヤーになるかもしれんからな」

 

 気合いが入るぜ。




期待がちょっと重すぎる。ちなみにシャーロックめちゃくちゃ頑丈。脚元不安は一度もないというね。
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