メイクデビューが終わって数日。
「いや~、凄い勝ち方だねシャロちゃん。さすがはシャロちゃんって感じだよ」
「ありがとうございます。ですが、自らに課した目標を達成できませんでした。次のレースでは、同じ過ちを繰り返さないように、心掛けるつもりです」
「んで、相変わらずストイック、と。ま~シャロちゃんらしいけどね」
シャロの前で苦笑いをするカメハメハ。
若干呆れた目を感じながらも、2人でカフェテリアのご飯を食べている。
味覚は共有できるので、シャロが食べれば俺も味を感じれる。今日もカフェテリアのご飯は美味しいです。
今日は2人だけ、ではないんだが、無事なのは2人だけだ。
グルーヴさん達は別行動。珍しいこともあるもんだ。
カメハメハと話していると。
「あ、ここにいたんだね、シャロ」
「トレーナーさん。どうかされましたか?」
トレーナーがやってきた。
さっきからキョロキョロしているのは見えていたが、シャロを探していたんだな。
はてさて、一体どんな用事なのか。
このまま一緒にご飯、なんて思いもしたが。
「放課後の予定を照らし合わせようと思ってね。だけどその前に、一ついいかな?」
「まぁ、放課後の。ですが、なにか気になることでも?」
引き攣った、というか疑問たっぷりの目で。
「その、その子はどうかしたの? 大量のご飯の前で、突っ伏してるけど」
シャロの前、というかカメハメハの隣の席。
並べられた料理を前にして、机に突っ伏しているウマ娘を指さした。
普通気になるよな。なにしてんのこいつ、って。
「あ~……その、これは、ですね」
良い淀むシャロ。どう説明するか悩んでるな、これ。
ただ、シャロの代わりとばかりに、カメハメハが身を乗り出す。
人懐っこい笑み。気を許してしまいそうな、安心するような笑顔だ。
「気にしなくていいですよ、シャロちゃんのトレーナーさん。この子、シャロちゃんに大食い勝負挑んで負けただけですから」
「お、大食い勝負? それと、君は?」
「おっと、これは失礼。自己紹介がまだでしたね。あたしはキングカメハメハ。シャロちゃんの友達で~す」
手をひらひらとさせて、軽い調子で自己紹介をするカメハメハ。
いつもこうなんだよな。馬の時とほとんど変わらない。
フレンドリーというか、距離の詰め方が上手いというか。
初対面相手でも、こうして臆することなく接することができる。
カメハメハの美点だ。
自分だけではない。倒れているウマ娘のことも。
「で、この子はハーツクライ。シャロちゃんに対抗心むき出しで、いっつも挑んでるんですよね~。ま、今回の結果はお察しの通りですけど」
「あ、あはは。ハーツさんも、頑張っていましたよ?」
「シャロちゃん、死体蹴り止めてあげてね。シャロちゃんはまだまだ、余裕で食べれるんだから」
「それは、その、そう、ですが」
察しはついてると思うがハーツだ。
今回シャロ相手に大食い勝負を挑んで、負けた。
残ってるご飯はシャロがありがたく頂いております。結構食うしな、シャロ。
いや、結構どころじゃないな。
他と比べても、かなりの大飯食らいだ。
スペシャルウィークやオグリさんほどじゃないが、かなりの量を食べている。
心当たり、あるんだよなぁこれ。
(俺に大食い属性まで付与されるとは。絶対リョーマのせいだろコレ!)
アイツが大量の飼葉を用意したせいだろ絶対。
残すのも嫌だから、ちゃんと食ってた俺も悪いかもしれんけどさぁ。
この大食い属性に関しては、俺は悪くないと思うんだ。リョーマが100悪い。
「そ、そうなんだ。じゃあこれは、いつものこと……なのかな?」
「いつものことなんで大丈夫ですよ~。そのうち目を覚ましますから」
「は、ははっ」
ま、ご飯をたくさん食べれる、というのは悪くない。
栄養も取れるし、体の成長も望める、ってことだしな。
……ライスシャワー? あくまで望めるだけだ。それ以上は言わない。
トレーナーの用事は、放課後の予定を照らし合わせることだけだったみたいだ。
集合場所だけ伝えて、すぐに立ち去ろうとする。
「それじゃあ放課後、トレーナー室で。ゆっくりでも構わないから」
「分かりました、トレーナーさん。授業が終わり次第、すぐに向かいます」
「はは、それでもいいよ。それじゃあシャロ、また後で」
この場にいる全員、まだ倒れているハーツにも丁寧にお辞儀をして。
トレーナーはカフェテリアを後にした。
カメハメハは、こっちを見てニヤニヤとしていた。何だコイツ。
「あの人がシャロちゃんのトレーナーさんか~。優しそうな人だね~」
「はい。とてもお優しく、また勤勉なお方です。僕のためにと、日夜頑張っておられるようで。ふふ、微笑ましいと思いませんか?」
「あ、うん。ソウダネ」
ニヤニヤが一瞬で消え去った。何だコイツ。
ともかくとして。
シャロのデビュー戦が話題ということもあり。
カメハメハも自分のデビュー戦が気になるようだ。
「あたしも早くデビューしたいな~。模擬レースだけじゃ物足りないんだよね」
「焦ると事を仕損じますよ。ゆっくり、じっくりといくのが吉です」
「アハハ。デビュー戦で喜ぶよりも先に、反省点を考えていたシャロちゃんが言う? それ」
「んな!? そ、それとこれとは、話が別ですので!」
〈別じゃねぇ、一緒だ。カメハメハの言葉に反論できる立場じゃねぇぞ、お前は〉
3人の中だと、デビューしたのはシャロだけ。
カメハメハもハーツも、メイクデビューを走っていない。
この辺は個人の仕上がりとか、状態もあるからな。シャロはかなり仕上がりが早い方だから、早期デビュー組に名前が出ている。
「ふ、ふっ、い、いずれは私もデビューして、貴様をレースの舞台で下してやるっ。シャーロック!」
「あ、復活した。あんま無理しないでよ? ハーツ。教室まで運ぶの面倒なんだから」
「も、問題ないっ。だから、まだ食べっ、うぷっ!?」
「もう食べちゃダメだよ。シャロちゃんにも、後でお礼を言っといてね。ハーツのご飯、代わりに食べてくれてんだから」
あ、ハーツが起き上がった。
大分グロッキーだが、起き上がれるくらいには元気になったようで。
起きたところで、改めてデビュー戦のことが話題に上がる。
「私のデビュー戦まだだな。貴様に先を越されるとは」
「別に、早く走ったから偉い、というわけでもない気がしますが」
「それはそうだ。私も、その分野で貴様と争う気はない」
ハーツのデビュー戦もまだだ。というか、ハーツって結構デビュー遅かった気がする。
なんて、のほほんと考えていたが。
ハーツは大真面目な表情で、シャロを睨んでいた。
「しかし、早く勝ち抜けておきたい。早ければ早い分だけ、貴様と戦うことが出来るからな、シャーロック」
「ハーツさんっ」
「覚悟しておけ。今でこそ貴様に遠く及ばない私だが……いずれ貴様に牙を突き立てる。敗北という瑕を、刻んでやる」
……本当に、どこだろうと変わらんなコイツは。
メジロシャーロックに対抗心を抱き、ライバルとして何度も立ちはだかる。
シャロも、うかうかしていられないだろうな。
ハーツの睨みに対して、シャロは笑みで返す。
朗らかな笑みじゃない。
攻撃的、敵に向けるような笑顔だ。
「えぇ、えぇ。望むところです、ハーツさん。僕はいついかなる時でも、貴方の挑戦を受けましょう」
「っ、ふ。そう来なくてはなっ!」
「それでこそのメジロシャーロック、ですから」
2人の視線が交錯する。
なんか、空気が歪んで見えるような気がする。気のせいじゃないな、多分。
だが。
「ちょっとちょっと~。あたしを忘れてもらっちゃ困るな~」
この場にはもう一人いる。
ハーツほどじゃないにしても、シャロに勝とうとしているウマ娘が一人。
「あたしだって、2人には負ける気はさらさらない。一緒に走った時、勝つのはあたし。このキングカメハメハ。大王の前に、屈服してもらおうか」
キングカメハメハ。
威圧的な雰囲気と共に、ハーツとシャロを睨み。
自分が勝つと信じて疑わない、絶対を感じさせる圧だ。
バチバチするライバル関係、か。
「勿論、忘れてはいませんよ、カメハメハさん。カメハメハさんが相手でも、勝つのは僕です」
「フン。私に決まっているだろう。貴様ら2人相手でも、私は負けない」
「バチバチだね~。もっと緩くいってもらいたいもんだよ。その方が、あたしが出し抜けるからね」
……良いね。こういうの大好きよ俺。
カメハメハもハーツも、いずれはデビューするだろう。
だが、今はそれよりも。
「早く貴様に追いつくためにも、食事のバランスも……バランス、も」
「はい、明らかにバランスよくないね。というか、これ以上食べようとしない方が良いよ」
「美味しいですね~」
こうやって、のほほんと。
友達と過ごすみたいな空気感で、良いのかもしれない。
◇
放課後。トレーナーから言われたとおり、トレーナー室へと足を運ぶ。
「失礼します、トレーナーさん……あの、その資料の山は?」
「ん? あぁ、来たんだねシャロ。これは新聞とか、その他諸々だよ」
最初に目に入ったのは、大量の資料を抱えているトレーナーの姿だった。
すげぇな。漫画やアニメでしか見たことがないような資料の山だ。
現実でも起こり得るんだな、コレ。
やっぱトレーナー業って激務なんだろうか?
シャロが机にある資料を1つ、持ち上げる。俺もついでに覗き込んだ。
え~っと、何何……【期待の新星メジロシャーロック!メイクデビューを大差圧勝!】、ねぇ。
うん、大体分かったわコレ。
「その、凄く注目されているみたいですね、僕。いえ、大変喜ばしいことではあるのですが」
「そうだね。今のシャロは、世間的にかなり注目を集めているよ。およそメイクデビューを済ませたウマ娘とは思えないほど」
シャロの評判が、とんでもないことになってる、ってことか。
まぁ注目される要素しかないから、当然と言えば当然か。
オグリさんから熱視線を送られているのもそうだし、ラモーヌさんやマックイーンさんがわざわざ現地まで来てたんだ。
全員親バカみたいなもんだけど、周りは知ったこっちゃない。
超ド級で有名な3人が注目するウマ娘……これだけでも、世間が目を向けるには十分すぎる。
そこに加わる、ド派手な勝ち方。
20バ身は突き放す大差圧勝。何をしようが注目されるわな。
で、結果。
「まだメイクデビューを走ったばかりなのに、君への取材依頼が殺到しててね。それはもう凄い数が」
「……走る前もそれなりにありましたが、倍以上に増えておりますね」
「たった1回の走りで、記者達は確信したのかもしれない。世代の主役になる可能性を秘めたウマ娘だ、って」
シャロを知りたい、という人で溢れ返っている、と。
記者も情報は欲しいだろう。今はまだ少ないから、金になるだろうし。
(俺の頃はどうだったか? 少なくとも、最初はそんなでもなかった気がするけど)
後年ヤバいことになったが、初期はまだマシだった、はず。
……いや、マシじゃなかったな。大分アレだったな、デビューしたての頃から。
そんなところまで沿わなくていいから。
それはともかくとして、シャロはかなり注目を集めている。
「オグリキャップのような走行フォームもあるね。とにかく君は、期待の新星として話題だ」
「ふふ、喜ばしいことですね。メジロのためにもなりますから」
目標の一つでもある、メジロ家の復権。
これに繋がることだから、シャロにとっては喜ばしいことだ。
事実すげぇ喜んでる。めっちゃ喜んでるなシャロの奴。ニコニコして、頬が緩んでるし。あ、気を引き締めたのか戻った。
「ん、んん! ですが、まだまだ道半ば。これから先のレースでも、結果を出さなければ意味がありません。ひいてはトレーナーさん、まずはメイクデビューの反省点を改善すべく、ペース走を提案します」
「あ~……やっぱり譲れないんだ、それは」
「当然です。実戦で走って感じました。一定のペースを刻むのは、とても難しいものなのだと」
どれだけ納得いかなかったのやら。
すぐに出来るもんでもないし、アレ。日々の積み重ねが大事な技術だ。
ただ、トレーナーは否定する気はないらしく。
シャロの言葉に頷いて、メニューの確認をし始めた。
「分かってる。どの道、一定のペースを刻んで逃げる技術は大事だからね。しばらくはペース走を重点的に、1つ1つの能力を鍛えていこう」
「ありがとうございます。それでは早速、今日からトレーニングにいたしましょう。レースからしばらく経っていることですし」
「……ジト目で睨まないで。前にも言ったように、休息は大事なんだから」
提案を受け入れる形で、ペース走を中心としたメニューを組んだようだ。
事細かに書かれている。何をするべきか、何を優先的に取り組むのか。
やることが決まっているなら、後は簡単だ。
準備を整えるだけ。やるべきことをやるだけだ。
〈頑張れよー、シャロー〉
「はい。頑張りますね、ロック。いつかきっと、ロックをびっくりさせちゃいますから」
〈はいはい〉
今日も練習が始まる。
その時ふと閃いた!どこかのタイミングで1日2話投稿すれば実質毎日投稿になるのかもしれない!