親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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感想欄で書かれた、2014年クラシック世代で英国三冠取れそうな馬ってどの馬だ……?オーストラリアは2000ギニーで負けてるし、ナイトオブサンダーはハナから距離的に無理。キングストンヒルもダービーで負けてる……マジでどの馬だ?


と思ったけど自己解決した。ただの私の勘違いだった。


確実な成長

 この前メイクデビューを走ったかと思ったのに、気づけば新潟ジュニアステークスの日が来た。

 シャロは真ん中の枠番から出走。最初こそバ群に揉まれそうになっていたけど、気づいたら先頭に立っていた。

 

《ペースを握るメジロシャーロック。17人を引き連れて、メジロシャーロックの一人旅。気ままに走りますメジロシャーロック。後続は様子見でしょうか?》

《だと思いますね。まだお互いの実力は未知数ですし、じっくりと機会を窺っているんだと思います》

《前走では逃げに逃げて大差勝ちを収めたメジロシャーロック。今回は落ち着いた、ゆったりとしたペースで逃げています》

 

 そのまま一定のペースを刻んで走る。ラップ逃げだ。

 

 ラップ逃げ。クラシック二冠ウマ娘のミホノブルボンが使っていた、逃げの一種。

 常に一定のラップタイムを刻んで逃げる。この時のタイムは、レコードタイムから逆算していることが多い。

 ロック曰く、理論を実現するなら絶対に習得しておかないといけない技術だ。

 

 勿論、とんでもなく難しい。

 体内時計が完璧じゃないと実現できないし、周りに飲まれない胆力も必要になる。

 

(それに、レースの展開はメンバーによって変わる。逃げじゃなくなることだってある)

 

 いかにして自分を律し、貫くことができるか。

 どの走りにも言えることだけど、勝つためには簡単にいかない脚質だ。

 

 シャロはというと。

 

《ここで動きます後続からアウトディスタンス、しかしメジロシャーロックの姿ははるか前。最後の直線先頭で駆け抜けるメジロシャーロックの姿は4バ身から5バ身は先にいます。メジロシャーロックが快調に飛ばして逃げる逃げる! これは後続追いつけるか!》

《仕掛けるのがちょっと遅すぎたかもしれませんね。ですが勝負は最後まで分かりません、ここから追いつけるかもしれませんよ!》

《逃げるメジロシャーロック、これはセーフティリードか! すでに差は5バ身開いています!》

 

 完璧にこなしていた。

 競りかけようとする子がいなかったのも影響してか、楽逃げが可能。

 プレッシャーも何もないので、自分のレースに集中することができた。

 

 こうなれば、シャロが負けることはまずないだろう。

 同世代の中でも、突出した実力の持ち主。完成度が段違いだ。

 

「頑張れー! シャロー!」

 

 それでも、万が一の負けがないように。

 俺も力の限り応援する。シャロに勝ってほしいから。

 

 観客も同じ気持ちなのか、応援の声が上がっている。

 

「いけいけー、メジロシャーロックー!」

「頑張ってー!」

「頑張ってくださいましシャロさーん! シャロさんならいけますわー!」

 

 ……なんか聞き覚えのあるような、メジロマックイーンみたいな声が聞こえた気がするけど。

 きっと気のせいだろう。うん、気のせいだ。

 

 

 盤石のレースを発揮したシャロは、その後追いつかれることはなく。

 

《新潟ジュニアステークスを制したのはメジロシャーロック、メジロシャーロックだ! メジロシャーロックが初重賞制覇! 初挑戦で、初制覇を成し遂げました! 2着との差は実に6バ身、これからが非常に楽しみなウマ娘です!》

《それにしても、逃げでオグリキャップを彷彿とさせるフォームは目を惹きますね~! ファンになっちゃいますよ!》

 

 6バ身差で見事勝利を収めた。

 

「やった、やったー! おめでとうシャロー!」

 

 初めての重賞でも、決して揺らぐことのないメンタル。

 しっかりと仕事をこなしたと言わんばかりに、動じなかった。

 こんなにも頼もしいウマ娘は、他にいないだろう。どっしりと座って見ることができる。

 

 改めて、凄いウマ娘だな。本当に。

 

「やりましたわラモーヌさん! シャロさんが勝ちましたわよ! やりましたわねシャロさーん!」

「ふふ、しっかりと愛を届けたわね、シャーロック。誇らしいわ」

「凄いぞシャロ! シャロが一番だ!」

 

 ……メジロマックイーンだけじゃない。メジロラモーヌと、オグリキャップもいる気がする。

 メイクデビューでもいたのに、また3人揃ってきたのだろうか。シャロのレースを観るために。

 

(愛されている子だなぁ)

 

 もしかしたら、この先もレースを全通するのかもしれない。あの3人は。

 客入りが毎回とんでもないことになりそうだ。

 

(今でもG1並の客入りなのに。実際にG1を走ったらどうなるんだろうか?)

「レース場がパンクしそうだな、な~んて」

 

 今はとにかく、シャロの勝利を喜ばないと。

 

 ファンに向かって手を振っている彼女。

 俺の視線に気づいたのか、こっちを向く。

 

 勝ちました、と言いたげな、誇らしげな表情に。

 なんだか微笑ましくて、笑ってしまったのはここだけの話だ。

 

 

 

◇

 

 

 

 新潟ジュニアステークスが終わった次の日。

 トレーナー室で仕事を片付けつつ、考えるのはあの日のことだ。

 

 ロックを怒らせてしまったかもしれないあの日。

 踏み込み過ぎた、あの時のことだ。

 

(言い訳ができないし、話せなくなることも覚悟していた)

 

 誰にだって、触れられたくない話題はあるだろう。

 ロックにとっては、おそらくレース関連のこと。走りのことは、多分だけど聞かれたくなかったはず。

 俺はその地雷を踏んでしまった。無意識とはいえ、許されないことだ。

 

「こういうとこなんだろうなぁ……直すべきなんだろうけど」

 

 この先はしっかり注意しておくべきか、と。自分の反省はここまでにしよう。

 今はロックのことだ。

 

 あの後ロックは、不思議なほど変わらなかった。

 いつも通りというか、レース談義もやってくれるというか。

 俺への態度は変わっていない。不気味なほどに。

 

 でも、態度は変わらなくても。

 

(前以上に、踏み込ませなくなった。自分のことを、話そうとしなくなったな)

 

 前はのらりくらりと躱していたけれど、今は露骨に話題を逸らすようになった。

 警戒しているんだろう。ロックのことを知ろうとする俺を。

 自分のことを知られないように、言及を避けようとしている。

 

 これまで積み上げていたものがなくなった、と取るべきか。

 

「自業自得だよなぁ、これ。迂闊過ぎた、本当に」

 

 0になったわけじゃないけど、マイナスの印象を抱かれたのは確か。

 無遠慮に聞き過ぎた。もっと慎重に行くべき、なのか。

 

 またコツコツと一からだな、なんて考えているところに、扉をノックされる音が響く。

 

「はーい、どうぞー」

「失礼します」

 

 聞き覚えのある声、というよりは、ほぼ毎日聞いている声だ。

 メジロシャーロック。シャロが部屋に入ってくる。

 

「トレーナーさん。昨日のレースの反省会をしようと思いまして、トレーナー室へと足を運んだ次第です。今お時間は大丈夫でしょうか?」

「……昨日も反省会したと思うんだけど」

「昨日は簡易的なもの。今日はより詰めた反省会です。似て非なるものですから」

「相変わらず、ストイックだね君は。時間は大丈夫だから、始めようか」

 

 トレーニングの催促ではなさそうだ。

 反省会も反省会で、どうかと思うけど。ゆっくり休んで欲しいし。

 

 とはいえ、シャロはかなりの頑固者だ。

 強くなることに余念がないし、この反省会も絶対にやるという強い意志を感じる。

 

 なら、無駄に問答するよりは素直にやろう。

 昨日の資料を用意して、お互いにソファに座る。

 

「それでは、早速始めましょうか。新潟ジュニアステークスの反省会」

「うん。とは言っても、俺は言うことは昨日と一緒かな。満点に近い走りだったよ」

「はい。僕個人としても、ラップタイムも申し分なく。我ながら良い走りだったと自負しています」

 

 始まる反省会、というにはポジティブな内容から始まる。

 

 当然だ。なにせ、非の打ち所がない内容だったんだから。

 シャロが誇らしげな顔をするのも、納得の出来だった。

 

「ですが、一度出来ただけでは意味がありません。今回の走りを継続出来てこそ、です。また、今度は違うポジションでもできるようにならなければ」

 

 あ、元の真面目な顔に戻った。

 

 それにしても、違う位置取りでも同じようなことを、か。

 

「そうなると、仕掛けるタイミングとかもまた変わって来るよね。それも覚えないといけない」

 

 今回は逃げで走った。

 でも、いつも逃げで走れるとは限らない。

 マークが集中したら逃げることも難しくなるし、それこそ出遅れなんかで後方スタートの可能性も十分にあり得る。

 

 練習で出来ないことが、本番で出来るはずがない。

 だから練習をしておきたい、という気持ちは分かる。

 

 分かるのだけれど。

 

「そうなります。出来れば、併走などで養っておきたいのですが」

「……最近、やってくれるって人達がいるんだ。でも、そのメンバーが、さ」

「なんとなく察しはついております」

 

 苦笑いを浮かべるシャロ。彼女もまた察しはついているのだろう、俺が口にしようとする名前に。

 

 相変わらず敬遠されている俺。

 そんな俺でも、併走をしてもいいと言ってくれる人達がいた。俺、というよりはシャロがいるからだけど。

 

 でも、そのメンバーが。

 

「さすがにメジロラモーヌやオグリキャップのようなレジェンド達とやるのは、ちょっと。気が引けるというか」

 

 メジロラモーヌにオグリキャップ。果てにはメジロマックイーンと超豪華メンバーなことだ。

 あの人達、シャロのレースに全通するだけではなく、協力までしてくれるのだ。

 

 ありがたい。ありがたいのは分かるんだけど……恐れ多い。

 時代を築いたレジェンド。【魔性のウマ娘】、【アイドルウマ娘】、【名優】との併走なんて、普通は実現できないだろう。

 どれだけ愛されているんだ、シャロは。

 

「ラモーヌさんやオグリさんが凄く嬉しそうにしていたのは、それが原因なのですね、トレーナーさん」

「いや、シャロがレースで勝ったこともあると思う。この前も、ご飯に埋もれてたよね」

「オグリさんが祝勝会、というので。断り切ることもできず」

「気持ちは分かるよ。あんなに嬉しそうな顔されたら、断れないよね」

 

 特に、オグリキャップとメジロラモーヌの溺愛っぷりは凄い。

 学園でも噂になっているくらいだし。どういう接点であの2人が溺愛するような子がいるんだ、と注目を集めている。

 2人に比べればマシだけど、メジロマックイーンも中々だ。

 

 この前も、シャロと話している場面に遭遇したことがある。

 その時の会話が。

 

「もし困ったことがあれば、私に相談してくださいまし、シャロさん。必ず、お力になると誓いましょう」

 

 シャロのためならばどんな協力も惜しまない、である。

 

 とにかくあの3人はシャロを溺愛している。

 他のメジロ家のメンバーは程々だけど、別格レベルだ。

 

「君のことが、とにかく放っておけないらしいよ。真面目でストイックで、いつ倒れるか気が気でないからって」

 

 ただ、その心配も納得がいく。

 シャロは休みたがらないし、気づいた時には練習するような子だ。

 片時も目を離せないだろう。心配する側としては。

 

 そのことが分かっているためか、シャロも気まずそうに目を逸らす。

 

「そ、そんなことにはなりませんよ。えぇ、決して」

「なら、少しはストイックすぎるところを直さないとね。真面目は君の美徳ではあるけど、何事にも限度が必要だから」

「うぐっ。は、はい。承知しましたっ」

 

 これで少しは牽制出来ただろうか。無茶をしないように、目を光らせておかないと。

 

 

 反省会は終わり。

 後は適当な雑談に

 

「そうでした、トレーナーさん。実はおばあ様がトレーナーさんと是非お話をしたいと。今度メジロのお屋敷に来ていただけませんか?」

「え? な、なんで?」

「僕のトレーナーということで、興味があると仰っていました。選抜レースの件についても、聞かせて欲しいと」

 

 しよう、と思っていたのに。

 ニコニコ笑顔のシャロの言葉に、俺の体中からどっと汗が噴き出す。

 

(せ、選抜レースの時だろ? それに、下手したら……それより前のことも聞かれる可能性が?)

 

 嫌なことしか思い浮かばない。

 というか、やらかしを考えたら、マジで覚悟しなければならない。

 

 変わらず笑顔のシャロ。

 

「それで、いかがでしょうか? 日程はトレーナーさんに合わせますので、是非ともおばあ様とお話をっ? だ、大丈夫ですか? トレーナーさん。なにやら、お顔が青ざめておりますが」

「いいい、いや、大丈夫だよシャロ。そ、そうだね。すぐにでも向かうよ。明日にでも行こうかな。ははは」

「まぁ、そんなに早く。ふふ、楽しみだからって、そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」

 

 父さん、母さん。

 どうやら俺は、死を覚悟しなければならないようです。




次回 トレーナーメジロ家へ逝く
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