親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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共同通信杯を勝ってウハウハかもしれない。


やる気に溢れる

【年明け始動戦で他馬を圧倒!メジロシャーロックが共同通信杯を6馬身差V!】

 

2月8日の東京競馬場。第11Rの第38回共同通信杯トキノミノル記念(GⅢ)はメジロシャーロック(鞍上:岳寛)が圧巻の走りで勝利した。2着はマイネルデュプレ、3着はアポインテッドデイ。

 

朝日杯FSの出遅れからは一転して、共同通信杯では好スタートを切るメジロシャーロック。向こう正面の半分を過ぎた頃から先頭に立ち、勢いのままに駆け抜ける。後続の10頭を引き連れての逃げを選択し、貫禄すら感じる走りでペースを支配。2着以下に影を踏ませることはなかった。

 

今回のレースで恐ろしいと感じたのはペースだ。なんとメジロシャーロックのペースは少しも乱れていなかったのである。

1ハロンごとのタイムは11秒台後半か12秒台前半。前後のタイムが全くブレておらず、コンマ数秒程度の差しかなかった。

普通に見えた走りでも、実態は凄まじい芸当を披露していたのである。

 

主戦騎手である岳寛は狙っていた、と語っており、今回の逃げも計算ずくであることが証明されている。

果たして次走以降も逃げるのか?メジロシャーロックの次走、弥生賞も絶対に見逃せないレースになるだろう。

 

 

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 共同通信杯が終わった後は凄かった。

 みんなから凄く褒められたからな。

 わしゃわしゃだったり、優しく撫でてくれたり。気分良く過ごすことができた。

 

「美弥さん、お体の方は大丈夫ですか?」

「問題ないわ、寛さん。今日は調子が良いの。それに、この子をうんと褒めてあげないと」

(あ~美弥さんに褒められてるわ、メジロのおばあちゃんに褒められてるわ俺……でも、気のせいか? 気のせいかもな)

 

 レース後のウィナーズサークルで美弥さんに褒めたり撫でられたり。

 

「これで無傷の5連勝! これは三冠いけるで俊之! 俺らの厩舎から三冠馬が出るんや!」

「だから自重してくださいテキ。全くもう」

 

 いつものごとく俺に熱中している康夫さんと、それを呆れた顔で宥める俊之さん。

 

「シャロ~! やっぱりお前は凄い馬だな~! よ~しよしよし!」

 

 俺を撫で繰り回すリョーマ。

 そして最後は。

 

「次のレース弥生賞。その時の走り次第で、僕が皐月賞でどう騎乗するか決める。君は、どう走るのかな?」

 

 レジェンドジョッキー岳さんの、笑顔の圧である。最後だけ怖すぎるだろ。

 

 つっても、弥生賞もどう走るかはすでに決まってるけどな。

 今回と同じラップ逃げ。さらに、皐月賞もラップ逃げで走る予定だ。

 

(ディープと同じ、もしくはそれ以上に派手ってなると限られる。逃げで走るのは、限られた選択の1つだ)

 

 けど、幸か不幸か俺はスタートをほぼミスらない。

 ゲートは狭いが別に我慢できる。後は朝日杯のように、俺自身が焦りさえしなければどうにかなる範疇だ。

 

(今回は上手くいった。次も上手くいくように、しっかりしねぇとな)

 

 今回のレースもしっかりと反省して、次に活かす。皐月賞はもうすぐだ。

 

 

 で、ちょっと休んだ後栗東に戻ってきたのだが。

 

『遅いわよシャロ! あたしを待たせるなんていい度胸ね!』

『そりゃ俺レース明けですからね。軽い調整だから相手になりましたけど』

『ふふん、まぁいいわ。家来の失敗を責めないのがあたし。女王としての格ってものよ』

 

 いつものようにグルーヴさんとの調教になった。

 すげぇな本当。牡馬と牝馬で併せ、ってだけで珍しいはずなのに、俺達はしょっちゅうやってんだもん。

 

 その理由が。

 

「端田さん、またですか」

「また、なんです。本当に、メジロシャーロックじゃないって分かるとすぐに拗ねちゃって」

「1週間に1回はウチのシャーロックとやらないと拗ねていますね」

「まだ1週間に1回で済んでるだけよかったかもしれません」

 

 グルーヴさんが俺とじゃないと拗ねるんだとか。

 どういう風に拗ねてるんだろうな。ちょっと気になる。

 後ついでに、なんで俺ばっかなのかとかも気になるな。気になることだらけだ。

 

『グルーヴさん。なんで俺じゃないと機嫌悪くするんですか?』

 

 なので聞いてみた。気になるので。

 

 グルーヴさんは、別に怒ってはいない。むしろなにを今更、みたいな感じの雰囲気。

 

『だってシャロ、あたしに合わせるの上手いじゃない。他の奴だとそうはいかないもの』

『そうなんですか? あいにくとその辺の事情が分からんので』

『そうよ! 他の奴らは自分勝手すぎるのよ! こっちの事情なんかお構いなし! 自分さえ走れればいいと思ってるんだから!』

 

 お前が言うのかというのは禁句ですかグルーヴさん。

 俺からしたらあなたも大概ですよ。

 

『その点シャロはあたしを気分よく走らせてくれるんだもの。そりゃあ一緒に走りたくなるわよ』

『そうなんですね。それはちょっと嬉しいです』

『嬉しいでしょ? 女王からのありがたいお言葉よ!』

 

 なんだろう。見えるはずのないドヤ顔が見える気がする。

 しかも俺の脳内イメージがウマ娘の姿なので、ウマ娘のアドマイヤグルーヴが渾身のドヤ顔を披露している姿を幻視した。

 

(絶対しなさそうだから余計面白いなっ)

『なによ、どうかしたのシャロ? 震えてるけど。もしかして体調でも悪いの?』

『い、いえ。そ、そういうわけじゃないのでっ。だ、大丈夫ですっ』

『そう? 体調が悪いなら言いなさいよ? 女王として、家来の体調にも気をつけておかないとね!』

 

 いかん、笑いが止まらんぞコレ。想像しただけで笑える……っ!

 

「……なんか震えてませんか? メジロシャーロック」

「あ、ほんまや。どうしたんやシャーロック、ボロか?」

「ヒヒン(違います)」

 

 いかん、あまり笑っていると調教が中止になりかねない。

 この辺で切り替えておかないと。

 

 今日もグルーヴさんと調教だ。

 

『行くわよシャロ! スティルインラブに勝つのよ!』

『いや、俺会ったことないんですけど』

 

 グルーヴさんが満足できるように頑張りました。

 

 

 で、調教が終わってご飯とか諸々。

 

「シャロ~、今日もいっぱい食べるんだぞ!」

 

 相変わらず飯の量を加減しないリョーマ。飼葉桶パンパンじゃねぇか。

 溢れてんだよ。そこまで用意しなくていいよ。

 もうちょっと小出しにしてくれ。食べるけど。

 

「お前も、随分と色が抜け落ちてきたな。皐月賞の頃には、真っ白になってるかもしれないな」

 

 もしゃもしゃ食べてると、リョーマが俺を見つめながらそう言ってきた。

 

 毛の色、か。抜け落ちてきているらしいな。

 

(白髪みたいなもんだと思ってたけど、そういう毛色だもんな俺は。徐々に白くなる)

 

 葦毛は産まれた時こそ白くないが、歳を重ねるにつれて白くなる。

 白くなる時期に関しては個体差らしい。遅いのもいれば早いのもいる。

 俺がどっちに分類されるのかは知らんけど。

 

(葦毛って言うと、クロノジェネシスだよな~。初見だとびっくりする)

 

 現役時代の写真を見たことあるけど、結構というかかなり黒い。

 あれで葦毛って言うんだからびっくりだよ。実際、引退後は徐々に白くなってきてるし。

 

 俺の毛の色が抜け落ちてきた。葦毛らしくなってきた、ということだ。

 

(あんま走るのに関係ないけどな。目立つ、って点ではプラスか)

「ファンの中にはお前がオグリキャップに似てきた、なんて声も出てきてな。あのオグリキャップに似てるなんて、お前も凄いヤツだな~」

 

 撫でてくるがリョーマ。さすがにオグリに似てきたは恐れ多すぎるぞ。

 第二次競馬ブームを作り出した立役者。そんなお方と俺が似てるなど、烏滸がましいにもほどがあるわ。

 ファンも深く考えてないぞ絶対。初見の印象で言ってるだけだよ。

 

 リョーマは上機嫌だ。なんでそんなに上機嫌なのやら。

 

「お前の記事もたくさん出てるんだぞ? お前が走ったレースは、必ず一面を飾ってるんだ!」

 

 嬉しそうに報告している。体育会系のニコッ、とした笑顔だ。

 

 てか、そりゃ凄いな。一面を飾るのだけでも滅多なことなのに。

 

(競馬雑誌とかならともかく、スポーツ新聞でだろ? 俺も大分箔がついてきたか?)

 

 ふふん。人気が出てきているようで何よりだ。

 この調子で勝ち続けて、もっともっと有名にならないとな。

 メジロ再興計画、今のところ順調だぜ。

 

 餌を食べ終わったら午後の運動へ。

 午後の運動は基本的にユニさんかタイドと一緒だ。

 

 今日はユニさん。一頭でボーっとしてるところに向かう。

 

『どうも、ユニさん。今日もお疲れ様です』

『“新星”の軌道は順調。“満足”になったみたいだね』

『はい。レース、勝ちましたよ』

 

 ユニさんってあんまり他の馬と絡んでるとこ見ないんだよな。

 遠ざけられてる、なんてことはないんだろうけど。

 

 個人的には、ユニさんと一緒にトレーニングできるのでありがたい。

 ユニさんも乗り気になってくれるし、俺のレベルアップに付き合ってくれる。

 面倒見の良い先輩だよ本当に。ありがたいったらありゃしない。

 

『今日も“頑張る”するよ』

『はい! お願いします!』

『らんでぶー』

 

 朝の調教ではエリザベス女王杯の勝ち馬に鍛えられ、午後運動ではクラシック二冠馬に鍛えられる。

 我ながら、とんでもなく贅沢な環境だな。

 

(巡り合わせ、ってやつかね? なんにせよ、活かさない手はない!)

 

 ユニさんは当然のごとく強い。俺なんかじゃまだ足元にも及ばない。

 

『もっと“上げる”をするよ。着いてきて』

『着いて、いきますよッ! ユニさん!』

『あふぁーまてぃぶ』

 

 でも、喰らいつく。喰らいついて、少しでも多くの経験値を得る。

 

 足元にも及ばないからなんだ? 敵わないからなんだ?

 そんなのは当然だ。相手は俺よりも経験を積み重ねてるんだから。

 

 今敵わなくてもいい。大事なのは……負けても腐らず、諦めずに前を向き続けることだ!

 

『いつか追い越してみせますよ、ユニさん!』

『……ふふ。“凄い”だね。やっぱりシャロは“GENY”。“わくわく”だよ』

 

 ユニさんも楽しいと感じているみたいだ。

 GENYは確か、楽しみとか期待だったはず。

 俺に、期待してくれているみたいだ。

 

『頑張るぞぉぉぉ!』

『ふぁいとー。びっぐばん』

 

 本日も絶好調である。

 

 

 まぁ、午後運動が終わった後。

 

『シャロ。今日も“ぐるーヴ”と“いっしょ”だった?』

 

 ユニさんがそんなことを聞いてきた。

 なんか、視線がちょっと刺々しいのは気のせいだろうか?

 

 いいか。聞かれたことには素直に答えよう。

 

『一緒でしたよ。一緒じゃないと機嫌が悪いみたいで』

『ふーん』

『聞いといてその反応って』

 

 興味なさげ、という割には微妙に怒ってる、のか?

 ユニさんはちょっと分かりにくい。グルーヴさんは逆にすげぇ分かりやすいけど。

 

 けど、すぐに持ち直したみたいだ。さっきまでの雰囲気はない。

 

『“なかよし”はいいこと。大事にね』

『はい。グルーヴさんもですけど、ユニさんとの仲も大事にしますよ』

『? ぼく、とも?』

 

 いや、不思議そうな反応してますけどユニさん。

 

『そりゃそうですよ。お世話になってますし、なにより友達じゃないですか』

『……とも、だち?』

『はい。ユニさんもそう言ってましたよね?』

 

 初対面の時にお友達って言われてたのを覚えている。

 ユニさんからすればお友達だし、俺からしても友達だ。

 

 もしそこに認識の違いがあったら泣くけど。

 ユニさんは黙りこくったまま。どうしたんだいったい。

 

『シャロは』

 

 あ、口を開いた。なんか、ちょっと不安そうだな。なんで?

 

『シャロは、ぼくと“いっしょ”。いやじゃない?』

『え、なんで? どこに嫌がる要素があるんですか? ユニさんと一緒にいるの好きですよ、俺。心地いいですし』

 

 しかも、次の言葉もこれまた分からん。どうしてそんな言葉が。

 

 俺が戸惑っているのをよそに、ユニさんの機嫌はどんどん良くなってる気がする。

 

『シャロは、“お友達”より上』

『はい?』

『シャロ、“親友”。ぼくとシャロは、“そうるめいと”』

 

 待って、何か今の一瞬で格上げされたんだけど。

 なにがあったんだ今の間で。友達からソウルメイトになったぞ。

 

『あの、どういう意味』

『“うれしい”だよ。びっぐばん。なかよし、“うれしい”』

『いや、ちゃんと教えてくれませんかねぇ!?』

 

 仲良しなのは分かったけど、なんで今ので格上げされたんだよ俺!

 教えてくれよ! 頼むから教えてください!

 

 

 結局ユニさんは教えてくれることはなく。終始上機嫌で午後運動を終えて帰っていった。

 

『何だったんだいったい』

 

 別にいいけどさ。




お友達からソウルメイトに格上げされました。
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