実は俺、メジロシャーロックの体から独立して動くことができる。
俗にいう幽体離脱、って奴だな。肉体と精神が離れている状態、アレが一番近い。
とはいっても、メジロシャーロックの体にはシャロの精神がある。
俺が離れたところで、アイツが身体を動かすからなんの支障もない。
つまり、だ。
〈こうやって、自由に学園を動き回ることもできるんだよな。あ、悪霊〉
割と自由が利くのである。人の少ない廊下を歩くことだってな。
何でもやりたい放題、とまではいかないが、ある程度のことはできる。
まぁ、他人からどう見えているのかだけ気になるけどな。
〈ヤメテ! ハラワナイデ! ボク、ワルイレイジャナイヨ!〉
〈そうかそうか。んで? お前何やってたんだ?〉
〈ウマムスメチャンタチノアシナガメテタ! イイヨ〉
〈おう、消えろ〉
しかもそれなりに強いのか、大抵の霊とかは触れただけで消滅する。
ちょっとした除霊師の気分だ。幽霊の除霊師ってなんだよ。
けしからん悪霊を祓った、そのタイミングで。
〈ケヒャ、ケヒャ! ロックちゃん発見!〉
廊下の向こう側から、マンハッタンカフェによく似たウマ娘が出てきた。
周りに他のウマ娘はいるのに、誰も気に留めていない。
というか、見えていないかのようにみんな振舞ってる。
つまり、あのマンハッタンカフェは普通のウマ娘には見えていない。
そうなると誰か絞られる。
〈なんだお友だちさんか。こんなところで奇遇だな〉
〈キグウ、奇遇! ロックちゃんに会えてサイコー!〉
〈言っておくが、俺はマックイーンじゃないぞ。顔立ちはそこそこ似てるが〉
はい、マンハッタンカフェのお友だちだね。
霊なのにテンション高いな。俺に会えて嬉しいとか言ってるし。
多分マックイーンに似てるからだろうけど。
ハイテンションのまま俺の方まできて、手を引っ張る。幽霊同士は触れ合えるのだ。
〈アッチ、アッチ行こう! お喋りしようぜ!〉
〈あーはいはい。どうせ暇こいてたしいいよ。シャロもしばらくは呼ばないだろうし〉
〈ケッテイ、決定! 楽しみ~!〉
ひんやりとした感覚。夏場とかだと重宝されそう。
そのままお友だちに引っ張られ、俺はとある場所へと迎えられた。
ま、そのとある場所は旧理科準備室なんですけどね。
〈カフェの授業が終わるまで暇してた! ロックに会えたの、運がいい!〉
〈だよな~。ぶっちゃけ、授業は退屈だもんな〉
〈コーヒー用意する!〉
今は授業中。シャロもマンハッタンカフェも、当然授業に出ているわけだ。
その間といえば、俺達は暇になる。
四六時中くっついているわけでもない。暇な時間はどうしても生まれる。
授業をサボってるみたいで罪悪感があるが……仕方ないんだ、これは。
コーヒーを用意するといったお友だち。マグカップを2つ用意して、豆をゴリゴリ挽いている。
このゴリゴリの音は結構好きだ。なんというか、気分が落ち着く。
あくまで俺は、の話だが。
「またひとりでにカフェのスペースが……いつものが始まったねぇ」
旧理科準備室はマンハッタンカフェ以外にも根城にしているウマ娘がいる。
そのウマ娘は授業なんぞ知ったこっちゃないとばかりにサボっている。
自分の研究の方が大事なんだろう。PCを立ち上げて、俺には理解できなさそうな論文を書いていた。
白衣を着たウマ娘、アグネスタキオンはこっちに奇怪な視線を向けている。
そりゃそうだろう。あっちからしたら、何もしてないのに物体が浮いてる上にコーヒーの用意がされているのだから。
一般人が見たら卒倒もんの景色だ。慣れてるから特に気にしてなさそうだけど。
「もう慣れたよ、このポルターガイスト現象は。まったく、誰がいるのやら」
本当にすみませんね。お友だちさんがここがいいっていうもので。
邪魔だけはしないんで。なのでご容赦いただけると幸いです。
見えていないのに頭を下げる俺。なお、お友だちは気にしてないとばかりに、嬉々としてコーヒーを持ってくる。
〈デキタ、出来た! 飲もうぜ!〉
〈お、ありがとう。早速いただきます〉
どういう原理でコーヒーが飲めるのかは気にしてはいけない。
なんか凄い力が働いてるんだろう。多分きっと。
で、コーヒーを飲みながらお喋りするのだが。
その話題はたった一つだ。
〈やっぱマックちゃんはサイコーだよな! あのキリっとした目つきがたまらねぇ!〉
〈お友だちさんは分かってるな。マックイーンほどの芸術作品はないだろう。まさしく、メジロの最高傑作と呼ばれるに相応しいウマ娘だ〉
〈ワカッテル、分かってる! ロックちゃんもイカしてるぜ!〉
〈ありがとよ、お友だちさん〉
そりゃマックイーンの話をするしかねぇよなぁ!
冗談はともかくとして、お友だちさんはマックイーンがお気に入りらしい。
理由は知らん。魂が叫ぶとかそんなんだと思う。
(確か、お友だちさんってサンデーサイレンス疑惑があったしな。それ繋がりがあるかもしれん)
サンデーサイレンスとメジロマックイーンは相性が良かったそうな。
ケンカ吹っ掛けられても無視を決め込んだマックイーンを気に入った、とかいろいろな説があるが、とにかく仲が良かったと言われている。
このお友だちさんは、サンデーサイレンスの側面が色濃く出ているのかもしれない。
その結果、マックイーンのことを気に入った幽霊として出力されたのだろうか。
お互いにコーヒーを飲みながらまったりと。
〈相変わらず、この泥水みたいなコーヒーがいいな。俺には味の違いなんてよく分からんし〉
〈カフェは拘るけどな! オレはこの味が性に合ってる〉
〈気持ちは分からんでもない〉
適当に雑談をする。楽しい時間だ。
〈けど、マックちゃんもいいけどロックちゃんも好きだぜ? オレは〉
そんな楽しい時間に唐突に告白された。なんで?
〈唐突な告白だな。ごめんなさい〉
〈フラれた!? そんな……やっぱりマックちゃん一筋じゃないとダメなのか? どっちもはダメなのか!?〉
〈少なくとも不誠実ではあるんじゃねぇか?〉
〈好きなんだから、どっちも手に入れたいだろ!〉
冗談っぽそうだし、適当にからかっておくか。
お友だちさんもケラケラ笑ってるし。あんま響いてないだろ、多分。
で、なんで俺のことが好きなのやら。
〈なんで俺のこと好きなんだよ? 好かれる要素どこだよ?〉
〈なんといっても顔! マックちゃんと同じ!〉
面食いじゃねぇか。最低な発言に最低な発言を重ねるなよ。
とはいえ、褒められて悪い気はしない。照れるぜ。
〈それは入ってくるだろうと思ってたわ。で、他には?〉
〈豪胆さ! 初対面でビビらしたのに、全くビビんなかった! ロックはメンタルが強い!〉
〈あ~、あん時の話か〉
実はお友だちさん、俺と初めて対面した時ビビらせてきたことがある。
お化け屋敷の驚かし、というかヤンキーが喧嘩売ってくる時みたいな。
とにかくそんな感じの驚かせ方をしてきたのだ。
俺がなにをしたかというと、無視。
あ、そうなんすね、みたいな感じで全然気にしていなかったのだ。
別に気にするようなもんでもないし、気にしたら負けだと思っていたし。
なにより、ちょっとやそっとのことじゃもう動じない。驚かし程度、可愛いもんである。
その結果、お友だちさんに気に入られ。今に至る。
〈あんま気にしてなかったな。あぁ、こういう奴なんだなって思っただけだし〉
〈そう! それ! ロックちゃんはそこがいい! 冷たい目線、見下すような態度、痺れるぜ!〉
〈変な扉開いてない? 大丈夫か?〉
おかげでなんか変な扉開きそうになってるお友だちさんがいるけど。
とまぁ、それなりに仲良くやらせてもらってます。
一緒に悪霊退治したり、こうして雑談したり。
たまにトラックまで行ってレースしたり。
お友だちさん中々強いので、毎回苦戦しているのはここだけの話。
と、気に入ってるところを挙げてもらったわけだが。
〈他にもあったりすんの? 俺の好きなところ〉
〈アル、ある! 超大事なとこ!〉
最後に残した超大事な要素があるらしい。
ほほう、気になるじゃねぇか。最後に残しておいた、好きなところ。
一体なんなんだ?
楽しみに待っていると、お友だちさんは……にやりと笑った。
顔は見えないはずなのに、真っ黒に塗りつぶされているのに。
笑っているなと、理解できた。
〈──超がつくほどクソ真面目なとこ〉
お友だちは笑いながら、そう答えた。
……超がつくほど真面目、ね。
〈本当かぁ? それ。あいにく俺は自分が真面目だと思ったことはねぇぞ?〉
〈ギャハハ! 自覚なし! そういうとこもダイスキ、大好き!〉
なにが琴線に触れたのかは分からんが、お友だちさんが楽しそうでなによりです。
けど、お友だちさんが笑ったのは少しだけ。
その後は、心配するような雰囲気を出してこっちを見ている。
〈生き辛かったんじゃない? そんな性格じゃ〉
……。
〈別に、そんなことはない。それなりに楽しくやれていたよ〉
〈ん。ロックちゃんがそういうなら、詮索はしなーい。そして、そろそろ〉
何かを待っているのか、扉へと視線を向けているお友だちさん。
一体誰を、なんて思っていたが、すぐに分かった。
お友だちさんと似た風貌のウマ娘。
普通に生きている側。すぐに分かる。
「……今日は、ロックさんも、いらっしゃった、んですね」
「おや、やっと戻ってきたのかいカフェ。相変わらず、このポルターガイスト現象はどうにかならないのか?」
「授業に、でれば、いいでしょう。サボって、いるから、ですよ」
マンハッタンカフェだ。
後、後ろにはシャロもいた。多分俺がここにいると思ったんだろうな。
シャロも幽霊が見える。マンハッタンカフェと同じような感じ。
「ここにいたのですね、ロック。では、帰りましょう?」
〈おー、分かった。それじゃあなお友だちさん。またどこかで会おうぜい〉
〈ダイカンゲイ、大歓迎! ロックちゃんなら大歓迎!〉
「ふふ、嬉しそう」
「本当ですね。それではカフェさん、僕はここで」
「はい。シャロさんも、歓迎、しますよ」
シャロの体に戻って、旧理科準備室を離脱。
中々楽しい時間だったな。
◇
シャーロックさん達が帰って、お友だちが、寂しそうにしている。
〈およよ。ロックちゃん〉
「珍しい、ね。あなたが、そこまで、気に入る、なんて」
〈もち! ロックちゃん、大好き!〉
どうして、そこまで。
なんて、思うけれど。なんとなく、察しは、つく。
(マックイーンさんに、顔立ちが、似ているから、でしょう)
マックイーンさんと、シャーロックさんは、顔立ちが、似ていますから。
マックイーンさんを、気に入っている、から、シャーロックさんも、気に入る。
きっと、それが理由。
でも、違った。
〈それもある。けどね、ロックちゃんは──危うい〉
「……危うい? それは、どういう」
〈ロックちゃん、超がつくほどクソ真面目。だから、危うい〉
危ういと、お友だちは言います。
シャーロックさんに憑く幽霊、なのか。ロックさんと、呼ばれている方。
彼女は、とても危ういと。
危険、という意味では、ないみたい。害を与える、そんな感じでは、ない。
〈ロックちゃん、つまらなさそう。というより、空っぽ〉
「……空っぽ?」
〈うん。空っぽ。楽しそうにしてても、奥底では空っぽ。満たされてない。だから危ういし、心配〉
空っぽだから、危うい。満たされないから、心配。
どうして、空っぽなのか? どうしたら、満たされるのか?
その理由を、知りたい、けれど。お友だちにも、分からないみたい。
「あなたにも、分からないの?」
〈うん。しょぼぼんぬ〉
「……よしよし」
落ち込んでいる、お友だちを、励ます。
その間も、頭に浮かぶのは、ロックさんのこと。
(……シャロさんに、危害を加える。それは、ありません。ですが)
「どうして、空っぽ、なのでしょうか?」
疑問に答える人はいなかった。
「私の存在を無視しているね。一応、この場には私もいるんだが?」
「……言っても、分からない、でしょう?」
「分からなくとも興味はある。なにせあのメジロのご令嬢、それもあのメジロシャーロック君なのだからねぇ! いやはや、ぜひとも実験に」
「お友だちに、燃やされ、ますよ」
〈コロス〉
「あー!? 分かった、私が悪かった! だから研究資料を燃やさないでくれ~!?」
【悲報?】アグネスタキオン、研究資料を燃やされかける