親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

29 / 125
全てをかけた逃亡劇

 日本ダービーは向こう正面を越え、第3コーナーに入ろうとしている。

 まもなく終盤戦。レーススピードは加速していき、前を走る馬に追いつこうと躍起になっている。

 

 だが、一部のファンは気が気でなかった。

 東京競馬場の第3コーナーにある大欅。今の状況でこの場所は、嫌でも思い出す事件があったから。

 

 稀代の快速馬。【異次元の逃亡者】サイレンススズカ。

 彼が骨折した場所こそが、大欅のある第3コーナーなのだから。

 

 固唾をのんで見守る。どうか無事でいてくれと、口にせずとも心の中で祈り続けた。

 

「大丈夫かよ、あんなに飛ばして逃げて」

「条件が揃いすぎてる……下手すりゃ、シャーロックもっ」

「縁起でもないこと言うんじゃねぇ! 大丈夫だ、シャーロックなら問題ねぇよ!」

 

 声を荒げて、言い聞かせるように大丈夫の言葉を口にする。

 

《第3コーナーに入りました。先頭は依然としてメジロシャーロックその差を6馬身から7馬身程広げて逃げております! 2番手はマイネルマクロスそしてメイショウムネノリ。後ろからコスモバルクが追い上げてくる、コスモバルクが2番手集団に浮上します》

《勝負をかけに来ましたね。馬群も先ほどよりぎゅっと縮まっています。後続勢の末脚に注目したいところ》

《先頭メジロシャーロックは大欅へ! まもなく大欅だ、メジロシャーロックの大逃亡劇。大逃げをするメジロシャーロック、葦毛の馬体が逃げに逃げている!》

 

 そう、きっと大丈夫だ、と。

 

 

 先頭を走るシャーロック。その胸中にあるのは、絶対に勝つという気概。

 

(負けられねぇんだよ! 勝つんだ、俺は!)

 

 普段の逃げとはまるで異なる走り。リスク上等、ハイリスクの勝負だ。

 正確なラップは刻まない。やることはただ1つ、己の背に乗る騎手との連携。

 

(岳さんは持ち直した。後は、俺の気力次第だ。俺がやれるかどうかで、全てが決まる)

 

 足音から大体の位置を把握。差が少しずつ縮まってきていることを確認。

 大事なのはここから。勝負の分かれ目は、ここだ。

 

 第3コーナーの大欅。シャーロックは──息を入れる。

 

《そして今! メジロシャーロックが大欅を超えたぁぁぁ! 大欅を超えて疾走するメジロシャーロック、メジロシャーロックが大欅を超えました! 最初の1000m、通過タイムは57秒5の超ハイペース! これだけのハイペースで、いまだ垂れる気配が見えないメジロシャーロック!》

《ですが、差は詰まってきていますよ。ここからが正念場です!》

《雪崩れ込んでくる後続、キングカメハメハも動いている! 2番人気キングカメハメハがついに動き出しました、中団からじわりじわりと伸びている! コスモバルクは2番手の2頭の外から、ダイワメジャーはまだ動かない!》

 

 最後の勝負に向けて息を整えた。

 岳寛も同じ考えだ。先程よりも手綱を締め、行く気を阻害するように動かす。

 

 理解している。最初の消極的な、妥協させるための行為ではない。

 

(ここで息を入れて、もう一度爆発させるための溜めだろ? 岳さん。分かっているさ!)

 

 全ては最後の戦いのため。

 押し寄せる後続を振り切るための、攻めの休息。

 

 最内の経済コースを走る。

 

「12秒台前半。だけど問題はないだろ? シャーロック。君なら、やれるだろ!」

(当たり前だ岳さん! つか、やれなくてもやる!)

 

 ラチに激突しそうなほど近く、理想的な最短経路を進み続ける。

 

 場内に広がる割れんばかりの大歓声。

 よかった、超えてくれた、無事に走っている。

 そんな声が聞こえないほど、集中力を高める。

 岳との呼吸を合わせるため、指示に一秒のタイムラグすら生み出さないように、細心の注意を払う。

 

《第4コーナーを回るメジロシャーロック、その差は少しずつ縮まってきている! 8馬身はあった差が今は4馬身に、コスモバルクが猛然と襲い掛かる! コスモバルクが先頭を奪おうと差を詰めてきた!》

『逃がさねぇぞかいぶつ! お前を倒して、俺がのし上がるんだよ!』

『負けないぞ!』

『逃がさない!』

 

 コスモバルクらの叫びも聞こえない。

 いや、聞こえた上で無視をする。

 

(上等だ。かかって来いよ)

 

 彼らの叫びを聞いて、奥底から力が湧き上がる。

 沸々と、回復した体力を今すぐにでも使おうかと滾っている。

 

(これは勝負だ。俺と、お前たちの)

 

 逸る気持ちを抑え、我慢し続ける。

 最後の直線を向くまで、爆発させるのはとっておけ。

 今はまだ時ではない。第4コーナーの中ほどはまだ、動く時じゃない。

 

 待て。待て。

 

《第4コーナーからまもなく最後の直線へ。コスモバルクがその差を2馬身に縮めた、メジロシャーロックとの差を2馬身に縮めた! 万事休すか!?》

 

 まだだ、まだ動くんじゃない。

 

《後ろからキングカメハメハが飛んできた、ダイワメジャーも来る! 皐月賞2着のダイワメジャーもここで動く! 最後方からハーツクライがぶっ飛んできた!? ハーツクライがここできた! レースが入り乱れる、先頭はまだメジロシャーロック、まだメジロシャーロックであります!》

 

 コーナーを曲がって、視界が開けた。

 

 ──今だ。

 

『俺が先にくたばるかッ! お前らが着いてこれずにくたばるかッ! 勝負といこうじゃねぇかァァァ!』

 

 鞭が入る。コンマ数秒の狂いなく反応する。

 第3コーナーで整えた呼吸。僅かばかりに回復した体力を、ここで使い切る。

 後先は考えない。今の一瞬に全てを駆ける。

 

《第4コーナーから最後の直線へ! メジロシャーロック先頭、メジロシャーロック先頭! 二冠に向けて視界良し、コスモバルクが猛追するがメジロシャーロックが突き放す!》

《ここからですよ! キングカメハメハが迫ってきています!》

《勢いは後続、どこまで粘れるかメジロシャーロック! 大逃げが炸裂メジロシャーロック、残り400を切ってメジロシャーロック先頭! キングカメハメハがその差を詰めてくるか! 大外を走るコスモバルクを内から躱し、キングカメハメハが2番手に浮上! 先行集団は力尽きたか!? それでも粘る粘る!》

 

 全生命をかけた逃走劇を。

 メジロのダービー制覇のために。

 うるさいくらいに高鳴る心臓が欲する、衝動のままに。

 

 

 メジロシャーロックは最後の直線を、先頭で駆ける。

 

 

 

◇

 

 

 

 痛みに堪えて、どうにか生き延びることができた。

 辛くて苦しくて、何度諦めが頭によぎったことか。

 いっそ楽になりたい、そう思ったことは一度や二度じゃきかない。

 

 けれど、死ぬわけにはいかなかった。

 まだ、まだ生きてやることがあると喝を入れた。

 

(……あぁ)

 

 この日を、日本ダービーを観るために。

 可愛い我が子の、メジロシャーロックの雄姿をこの目で収めるために。

 朦朧とする意識の中で、それだけを頼りに生き続けた。

 

 かつて髪の毛一本届かなかった栄光。

 全てのホースマンにとっての憧れ。史上最高の栄誉とも称されるレース。

 

(ほん、当にっ)

 

 届かなかった。何度も何度も敗れてきた。

 ダービーの称号は、この手から零れ落ちていった。

 もうダメか。自分の歳と牧場の結果から、諦めが頭にあった。

 

 ──けれども。

 

(本当に……っ)

「とても、きれいね……シャーロック」

 

 今まさに、その夢を叶えようと奮起している馬がいる。

 大逃亡を成し遂げようとしている可愛い我が子が、ダービーで先頭を走っている。

 

 かすれる視界で、その姿を収めることは簡単だった。

 だって、先頭を走っているのだから。

 ずっと、一度だって譲らずに先頭だったから。

 

 まだ完全に白くなっていない、灰色の競走馬が先頭を駆ける。

 地を這うようなフォームで、地面を力強く蹴り上げて疾走する。

 絶対に譲れない。なにがなんでも負けられない。

 勝利への執念が、馬主席にいるこの身に伝わってくる。

 

 彼らの考えが、伝わってくるようだった。

 

見えていますか? 美弥さん

美弥さんがどんな状態でも、これなら見える

 

 自分のために、誰の目から見ても分かるように。

 彼らは駆け抜けている。東京競馬場で、逃げ不利の場所で、大逃げをしている。

 

《メジロシャーロック粘る、メジロシャーロック粘る! 東京の坂を上がり切ってもまだ粘るまだ粘る! 先行勢はすでに落ちてきている、コスモバルクもここまでか!? しかし、しかし!》

《凄まじいスタミナですねっ。まさか大逃げもできるとは!》

《まだ走れる! まだ走れるメジロシャーロック! 力尽きることを知らない疾走! メジロシャーロックが2番手に浮上したキングカメハメハとハーツクライの猛攻から逃れようとしている! 残り200を切った、メジロシャーロックはまだ逃げる、まだ逃げる! どこまでも逃げてやるメジロシャーロック!》

 

 大きく差をつけて逃げ続け、今も2馬身のリードを保って逃げている。

 

「ちゃんと、みえているわ。シャーロック……。とても、とってもっ、きれい」

 

 かすれた声で、シャーロックの名前を呼ぶ。

 頑張れ、ここで見ているぞと。応援する。

 

 声は聞こえずとも、思いは届く。

 

あなたに日本ダービーの称号を

 

 流れる涙を拭わず、一秒たりとも見逃さないように。

 

 私は、メジロシャーロックの雄姿を目に焼き付けていた。

 

 

 

◇

 

 

 

 もう考えがまとまらない。

 とにかく逃げることだけを考えていた。

 

《メジロシャーロック先頭! メジロシャーロック先頭! キングカメハメハが追いつこうとする、キングカメハメハとハーツクライが追い縋る!》

『逃がさない、絶対に逃がさない……っ!』

『お前に、負けてたまるかァァァ!』

 

 後ろから強くなる圧のことなんてどうでもよかった。

 カメハメハとかハーツのこととか、一片も考えてなかった。

 

《だがしかし! メジロシャーロック意地でも抜かせない! 2馬身から先を縮ませない! メジロシャーロック先頭、メジロシャーロック先頭!》

 

 とにかく前へ。脚が限界だって訴えても前に出続ける。

 逃げる、逃げる。必死に逃げる。

 追いつかれそうになっても、根性だけで抜かせない。

 

《栄光まで残り100を切った! 必死に鞭を振るうキングカメハメハ安堂克己! ハーツクライ槙山憲弘! だがメジロシャーロックを捉えることは出来ない!》

 

 笑顔が見たいから。美弥さんに、笑顔でいて欲しいから。

 俺のためにって、ダービーを観に来てくれた美弥さんに。

 

《シャーロック先頭! シャーロック先頭! 葦毛の馬による大逃亡劇!》

 

 俺のことを可愛がってくれて。

 産まれてすぐに母親を亡くした俺のために、いろいろとしてくれて。

 お世話になった。俺の見えないところでも、いつも頑張ってくれていたんだと思う。

 

 だからこそ、これは恩返しでもある。

 美弥さんが欲しがっていたダービー。

 そのダービーを勝ち取るためならば。

 

『負ぁぁぁけぇるかぁぁぁ!』

 

 俺は、どこまでも駆け抜けてやる。

 

 その執念が実ったか。俺は誰よりも早くゴール板を駆け抜けた。

 

『やっぱりっ、強いね。シャロくんは……!』

『それ、でこそ。お前だ。俺が超えるべき、壁っ!』

 

 カメハメハとハーツの呟き。俺は──日本ダービーを勝った。

 

《71代目のダービー馬に輝いたのはメジロシャーロックだぁぁぁ! メジロシャーロックが今ゴール板を駆け抜けたぁぁぁ! 大王を下すメジロの逃亡劇! 葦毛の馬が最初から最後まで逃げ切ったぁぁぁ! キングカメハメハとハーツクライの猛追を振り切って! メジロシャーロックがキングカメハメハを半馬身差でねじ伏せたぁぁぁ! 大王陥落! 大王すらも超えた最強のダービー馬の誕生です! メジロの悲願がここで叶う! ついに、ついにメジロがダービー制覇の偉業を成し遂げたぁぁぁ!》

 

 ガチで疲れた。もう走る気力なんてこれっぽっちも残っちゃいねぇ。

 筋肉痛みたいな痛みが脚を襲うし、心臓もうるせぇくらいに鳴っている。

 こんな激走は初めての経験だ。大逃げで走るってのは、こういうことなんだろう。

 

 あぁ、でも。

 

《そして! 赤く光るレコードの文字! 従来のレコードタイムはアイネスフウジンが記録した2分25秒3、その記録を2秒以上も塗り替える驚愕のタイム2分22秒8! 2分22秒8で! 世代の頂点に輝いたメジロシャーロック二冠達成です! 皐月賞に続いてのレコード、このダービーでもレコードを記録しました!》

「やった、やったぞ! 頑張ったなメジロシャーロックぅぅぅ!」

「凄いわー! お疲れ様ー!」

「なんて凄い馬なんだ! 現地で観れて幸せだぁぁぁ!」

「シャーロック! シャーロック! シャーロック!」

「ユタカ! ユタカ! ユタカ!」

 

 うるせぇくらいの大歓声と、俺と岳さんの名前をコールする人々。

 涙を浮かべている人もいる。秋天で起きた出来事が払拭されて、喜んでいる人がいる。

 みんなが嬉しそうにしている。勝者を讃え、日本ダービーを観に来てよかったと口にする。

 

 はっきり言おう。最高の景色だ。

 

(この景色が見れたんだから、頑張った甲斐があったってもんだ)

 

 勿論、観客だけじゃない。

 俺の上にいる岳さんも、涙を流しているのが分かる。

 声がすでに涙声だ。

 

「お疲れ様っ、お疲れ様シャーロック。よく、よくがんばったねっ」

(おーよ。頑張らせてもらったぜ)

 

 レース中もいろいろとあったが、最後には吹っ切れていた。

 それに、岳さんが息を入れるタイミングを教えてくれたからこそ、俺は最後の直線を駆け抜けることができた。

 

 この大逃げは、岳さんなしには成し遂げられなかっただろう。

 

(最高だったよ、岳さん)

 

 ありがとよ。俺の我儘を聞いてくれて。

 トラウマがあるだろうに頑張ってくれて。本当に頭が上がらねぇ。

 

 

 そして、忘れてはいけない。

 ウィナーズサークル。車椅子に乗った人。

 裕二さんに押されて、ここまで来た──美弥さん。

 

 やつれている。初めて会った時よりずっと、なんなら最後に会った時よりもさらに痩せ細っている。

 ずっと、戦っていたんだ。病気や運命と。

 俺のレースを観るために、ここまで頑張った。

 

 目には涙が見える。

 本当なら立ち上がらない方がいいかもしれない。

 なのに、美弥さんは立ち上がった。俺へとゆっくり歩いてくる。

 

 俺の前に立った美弥さんは。涙を流しながら、俺の首へ手を回し。

 

「ありがとう、ありがとう。よく、見えたわ」

(……美弥、さん)

「貴方の走りが、貴方の雄姿が。席からでも、近くに感じちゃうぐらい……ちゃんと、みえてたっ」

 

 抱き着いてきた。残った力を振り絞って、健闘を称えるように。

 

 力は、ない。弱々しく、抱き着くというよりはもたれかかっている。

 けれど、確かに感じる。

 生命を。美弥さんの鼓動を。

 

「ありがとう、シャーロック……メジロの、私達の悲願を、叶えてくれてっ」

(……こっちこそありがとうだよ。俺のこと気にかけてくれて、無理してでも観に来てくれて。ありがとうしかない)

「最後に、貴方のような子に会えて。私は……とっても、幸せだったわ……っ」

 

 いつまでも、感じていた。

 

 

 第71回日本ダービー勝者・メジロシャーロック。二冠達成。メジロの馬による初のダービー制覇。

 また、皐月賞と日本ダービー制覇により、喜多野美弥はオーナーとして八大競走の完全制覇を達成。

 

 

 

◇

 

 

 

 日本ダービーから数日後。

 生江康夫厩舎に一つの報せが届いた。

 

「……そっか。美弥さん、亡くなってもうたか」

 

 美弥さんの訃報。俺のダービーを見届けた美弥さんは、先日病院で亡くなったそうだ。

 役目を終えたかのように、心臓の活動が停止したらしい。

 ……寂しいな。もう、会えないなんて。

 

 報せに来てくれたのは裕二さん。目は赤く、さっきまで泣いていたんだなって分かる。

 

 けど、その顔はどこか晴れ晴れしいもので。

 

「ダービーを観れただけでも奇跡のようなものでした。そのダービーで、悲願を叶えてくれた」

「最後の表情は、どうでした?」

「とても安らかに、向こうへと渡りました。きっと、美弥さんは幸せだったと思います」

 

 俺達へと頭を下げる。感謝の感情が伝わってくる。

 

「いえ、間違いなく幸せでした。みなさんのおかげです。本当に、本当にありがとうございますっ」

 

 深い感謝の気持ち。康夫さんも俊之さんも、岳さんも泣いている。

 リョーマもそうだ。大声で泣き喚きはしないが、美弥さんの死を悼んでいる。

 勿論俺もだ。それだけ、悲しい気持ちが溢れている。

 

 葬式には俺も参列した。馬なのに大丈夫か? と思ったけど、どうやら特別に許可をもらったらしい。

 メジロの悲願を叶えた馬。裕二さんが方々に土下座して回る勢いで、参列を認めさせてくれた。

 

 関係者だけの葬式。中には有名な馬主さんの姿もある。

 焼香は、俺じゃあげられないので代わりにリョーマが。

 

 最後に、棺で眠る美弥さんの姿を収める。

 顔はとても安らかで、死んでいるとは思えないほどだ。

 

(……ありがとうございました。向こうでゆっくり休んでください)

 

 お辞儀するように頭を下げて後にする。

 

 葬式は何事もなく終わって、俺はまた栗東へと戻ることになった。

 

 

 それからまた日が経って、栗東の馬房。

 帰省に関する話はまだ出ていない。もしかしたら、この夏も栗東で過ごすことになるかもしれんな。

 

 考えるのはこの先のことだ。

 

(二冠、か。今のところ順調だな)

 

 日本ダービーを制した。これで二冠。無敗の三冠に、王手をかけている。

 

 けど、まだだ。

 

(次の菊花賞も気は抜けねぇ。カメハメハ、は分からんが、相手になるのはあのデルタブルースだ)

 

 長距離の雄。オーストラリアの長距離G1、メルボルンカップを制した猛者。

 また、菊花賞にはハーツクライも出走していたはずだ。アイツも、油断ならない強敵。

 

 俺の目標のためにも、立ち止まるわけにはいかない。

 まだ終わりじゃないんだ。この先も頑張っていかなければ。

 

 そのためにも、明日からまた頑張らないとな。

 ま、でもね?

 

(いや~、俺も無敗の二冠馬か~。世代の頂点とも言われて悪い気はしない。最高の気分だ!)

 

 ちょっとくらいは喜んでも許されるだろ、うん。

 

 

 

◇

 

 

 

 栗東、末本厩舎。

 調教師である末本は、覚悟を決めた表情で一頭の牝馬を見つめる。

 

(ダメもとで、お願いするしかねぇ。受けてくれんかもしれんが、そん時はそん時だ)

 

 頭によぎるのはとある噂。今栗東で最も有名な、かの牡馬だ。

 気性の激しいアドマイヤグルーヴが気を許し、一匹狼のネオユニヴァースと仲の良い馬。

 クラシック二冠を勝ち取った、彼に。

 

「今度お願いすっぞ。スティルインラブとメジロシャーロックを併せてくれんか? と」

 

 メジロシャーロック。かの陣営に、牝馬三冠のスティルインラブと一緒に調教してくれないか、と。

 

 そう末本は考えていた。

 

 悪化する気性。次のレースも心配でならない。

 そんな気性を、メジロシャーロックならどうにかしてくれるかもしれない。

 一縷の望みに賭けて、メジロシャーロックとスティルインラブを併せようと考えていた。

 

 金鯱賞が終わった後。6月に入ろうかという時期の話である。




ついに関わることになるスティルさん。

Q.今回のレコードタイムってどれくらい?

A.更新されるのを15年後のロジャーバローズまで待たないといけない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。