昼のカフェテリア。
学園の生徒が楽しそうにご飯を食べている。
いやはや、この光景を見れるだけでもいいもんだ。最高の景色だね。
〈おまけに、今日はオグリさんもいないからな。仕事があるみたいだし〉
「そうですね。オグリさん、今日は撮影の仕事があるみたいで一緒にできないって嘆いていましたね」
その時の様子といったら凄かった。
目に見えてしょんぼりしてたし、散歩に連れて行ってもらえない犬の姿が見えたからな。
どんだけ俺達と一緒に食べたかったんだよ。めちゃくちゃ構い倒してくるなオグリさん。
罪悪感が半端じゃなかった。俺らじゃどうしようもないことだけど。
その時のことを思い出してか、シャロも苦笑いである。
「オグリさんには申し訳ありませんけど、僕達だけで食べましょうか。ロック」
〈お前が食うだけで俺は食えないけどな。味覚は共有できるけど〉
いないものは仕方ないので、今日は一人で食べようとカフェテリアにやってきた次第。
ご飯が乗ったトレイを受け取って、席を探している途中である。
「ですが、いつもオグリさんにお世話になっていますし、たまにはこんな日があってもいいのでは……あら?」
〈おん? どしたよって、アレは〉
探す途中で、シャロが誰かを発見した。つられて俺もそっちを見る。
いたのはスティルインラブだった。ナポリタンを持ってオロオロとしてんな。
俺達みたいに席を探しているのか? 困ってる顔してるし。
とはいえスティルさんか。シャロの顔を見ると、あぁうん。
放っておけない、って顔してんな。つまりこれは。
「一緒にお食事に誘いましょう、ロック。スティルさんは一人でいるみたいですし」
〈一人でいる、っつーか、誰にも認識されていないだけな気がするけどな〉
「そんなの、余計にダメです。お食事に誘いますよ」
一緒にご飯する気満々だな、うん。問題はないし、こっちとしては嬉しいから反対しないけど。
すたすたと歩くシャロ。
迷うことなく、淀みなくスティルの方へと。
「スティルさん。もしかして、おひとりでしょうか?」
「……え? あ、しゃ、シャーロック、さん。そ、そうですね。一人でご飯を食べようかと」
「もしよろしければ、僕と一緒に食べませんか? 実は僕も一人で食べるところだったんです」
ニッコリ笑顔で歩いていった。
スティルさんは、花が咲いたような笑顔、の後困惑していた。
一緒でも大丈夫だろうか、みたいに考えているのかね? よく分からんが。
悩んで、首をかしげて、どうしようかと悩むこと数秒。
決まり手はシャロの言葉。
「ご、ご迷惑ではないでしょうか? 私が、一緒に食事をして」
「迷惑だなんてとんでもありません。僕はスティルさんとお食事出来たら、とても嬉しいですよ」
笑顔のたらし言葉である。天然でこれが出てくるから怖いわコイツ。
それを聞くと、スティルさんは遠慮がちに俯きながらも。
「そ、それなら……喜んで。席に目星はつけていましたから、そちらに向かいましょう」
一緒にご飯を食べることを約束してくれた。素敵な笑顔もセットで。
すげぇ嬉しそうだ。シャロと一緒にご飯を食べることになって、幸せオーラが出ている。俺の勘だけど。
う~ん、笑顔が身に染みるな。幽霊だから染みる体がないかもしれんが。
「そうなのですね。でも、そしたらどうして立往生をしていらしたんですか? 席を探しているようでしたけど」
「あ、その。も、もしかしたら誰かとご飯をっ、なんて」
「そうだったんですね。なら、早速向かいましょうか」
話しながらスティルさんが目星をつけていた場所へ。
ぶっちゃけ早いところご飯を食べたい。お腹空いてるし。幽霊でも腹は減るんだよ。
スティルさんが案内した場所はというと、カフェテリアの奥隅の方だ。
人気がないのか、ソファ席もテーブル席も空いている。
2人で座るにはちょっと大きいくらいだ。
お互いに向かい合って、さぁご飯だ!
「いただきましょうか、スティルさ」
「私もここで食べるわ。いいわよね? シャロ」
なんて思っていたら。
ドカン! なんて音が聞こえそうなくらい、テーブルにトレイを叩きつけて。
グルーヴさんがやってきた。いや、いつの間に来たんですかあなた。
見ろよ。シャロもスティルさんも目を丸くしてっから。
いつの間にきたの? なんて顔してるぞ2人とも。つか俺も気づかんかったわ。忍者にでもなったのかよあんた。
なお、こっちのことはお構いなし。
当然の権利とばかりにシャロの隣に座って。
「いいわよね? 他の席も空いてないし、ココしか空いてないから仕方なくよ」
「アルヴさん、確かに人は多いですが、席はまだまだ空いて」
「何かしらスティルさん? もしかして、ここで食べてはダメだというの?」
「いえ、そんなことはないですけど……」
なんならスティルさんを睨みつけてるよ。こえーよ。
めちゃくちゃ威嚇してるやん。んな威嚇しなくてもなにもしねーよスティルさん。本能は知らんけど。
で、我らがシャロはというと。
「人数が増えると楽しいですね。アルヴさんも是非、ご一緒してください」
「えぇ。シャロならそう言ってくれると思っていたわ」
なんつー楽観的な思考してんだお前は。グルーヴさんの睨みが見えてねぇのか。
一瞬だけど親の仇みたいな目してたぞ? シャロの隣に座った途端に戻ったけど。
(これもアレか。前世繋がりというやつか)
思えばグルーヴさん、俺といるとすぐに機嫌が直ったらしいからな。
どんなにキレてても、俺の姿を見るとすぐさま駆け寄ってくる。
んで、一緒に過ごさせたら大体機嫌が直る。割といつものサイクルだ。
向こうのテキ、端田さんのぺこぺこしている姿が今でも……哀愁が漂うな。思い出すのはやめておこう、うん。
よし、今度こそ食べるぞ!
「SMLA。ネオユニヴァースも、“クルーメイト”希望」
増えんな。なんでまた増えてんだよ。
つかユニさん。あんた間違いなく俺らを探してただろ。
席なんてまだ空いてる場所たくさんあるのに、こんな奥隅のとこまで来てんだから。
しかも希望とかそういうレベルじゃねぇだろ。すでにトレイをテーブルに置いてんじゃねぇか。
よしんば俺らが断ったとしても居座る気だろそのポーズは。
断る気は一ミリもないが、何食わぬ顔で一緒にご飯食べる気だろそれはもう。
それでも、シャロは少しも気を悪くしない。
魅了するような笑顔でユニさんを歓迎している。うおっ、まぶし。笑顔が輝いて見えるわ。
「ユニヴァースさんも今からなんですね。勿論僕は構いませんよ。お2人はどうでしょうか?」
「私は、別に」
「……別に構わないわ」
「スフィーラ」
なお、スティルさんとグルーヴさんのお2人はなんとも言えない顔である。
仲悪くないでしょうがあなた方。一緒にご飯食べるくらい、いいでしょうが別に。
シャロがこういう奴だっての分かってるでしょ。
ユニさんが合流。ようやく飯が食えるようになった。
シャロがご飯を食べているのだが、うん。
〈やっぱカフェテリアの飯ってうめぇな。学食のレベルをはるかに超えている〉
「そうですよね、ロック。いつも美味しいお食事を作ってくださる職員さん達に、感謝しなければなりません」
バチクソにうめぇわ、いつものことながら。
これ食べるためだけに、トレセン学園に通う価値があると言ってもいい。
そんくらい美味い。感謝しかねぇわ。
さて、心配だった席の方だが。
「スティルさん、最近の調子はどうかしら?」
「えっと、特に何事もなく、過ごせています。トレーナーさんも見つかりましたので」
「いいこと、だね。スティルインラブが“HPY”で、とてもスフィーラ」
先ほどの睨みつけはどこへやら。普通に会話をしていた。
そうそう、これがこの人達の通常運転なんだよ。
同世代で仲の良い人達。ここにゼンノロブロイがいないことが悔やまれるが、会話をしている光景は大変てぇてぇ。
なんかこう、栄養がある。デジタル先生も大満足なことだろう。
このまま和やかに済んで欲しいな~。
ご飯も美味しいし、目の保養にもなるし。
最高&最高。最高のお昼ご飯に
「ところでスティルさん。何故、貴方はシャロと一緒にご飯を食べていたのかしら?」
「ネオユニヴァースも、聞くを望むよ。なんで、スティルインラブは、シャーロックといたの?」
ならなかったよ。
なんで? なんで今更その話を蒸し返すんですか?
蒸し返さなくていいでしょ別に。たまたま会ったから誘っただけなんですし。
別に深い理由なんて一つもありませんよ。
本当に勘弁してくれませんかお2人とも。そんな怖い顔しないで。
なんか胃がキリキリしてきた。幽霊なのに。
よし、スティルさん。この状況をどうにか打開
「……ウフフ。私は、シャーロックさん直々に誘われましたので」
「は?」
「ネガティブ」
できてねぇよなんで煽ってんだよ止めてくれよそういうの。
シャロもシャロで空気がおかしいことに気づけよ。
なんでこの状況で普通に飯食ってんだお前は? 呑気かお前は。
「ロック。やはり学園の人参ハンバーグは美味しいですね。こちらのアップルパイもまた、絶妙な味付けです」
〈おうそうだな。俺はいまそれどころじゃねぇんだ。味なんて分からねぇくらい、今の状況に危機感を抱いているんだ。分かるか? シャロ〉
「え? 一体どうして……みなさん、仲良くご飯を食べていると思うのですが」
この状況のどこをどう見たら仲良く飯食ってるように見えんだよ。
よく見ろよグルーヴさんの目。スティルさんを射殺さんばかりの目してるよ。絶対零度の視線だよアレは。
ユニさんなんかすげぇぞ。禍々しい黒いオーラが見えてんだから。アレに触れたら消えない炎で身を滅ぼされかねんぞ。
んで、その2人の圧を受けてなに平然としてんだスティルさんは。普段はオドオドで温和な性格をしているのに、なんでこういう時は煽るんですか。
〈誰かー! 誰か俺をこの場から逃がしてー! お友だちさんヘルプミー!〉
「どうしたのですかロック。お友だちさんも何も、カフェさんがいらっしゃらないから意味はないと思いますが」
〈分かっとるわそんなこと! とりあえずどうにかしろ! お前の言葉ならみんな聞くから!〉
「はぁ。ロックが言うなら構いませんが」
ナイフとフォークを置いて、シャロが3人を見る。
その目は──普段の温和さからはかけ離れた、冷たい視線だ。
「みなさん」
「っ!?」
「こ、これは違うのよシャロ。別に喧嘩をしていたわけじゃ」
「弁明。ネオユニヴァースは」
言い訳をしようとしている3人だが、こうなったシャロは止められない。
にっこりと、威圧する雰囲気を纏って、3人を叱りつける。
「お食事は美味しく、楽しく食べましょうね? そうでなければ、作っていただいた職員さん達に申し訳が立ちませんから」
ぐうの音も出ない正論。
反論する気がないのか、それとも自分達に非があることが分かっていてか。
「ごめんなさい」
「申し訳ありません……どうも、昂ってしまいました」
「ごめんなさいシャロ。私の一言で、場の空気を乱してしまったわ」
素直に謝ってくれた。
いや、良かったわ本当。あの状況が続いたら胃が痛いなんてレベルじゃないからな。
謝罪が入ったので、シャロとしても言うことがない。
いつものニッコリ笑顔に戻る。
「では、冷めないうちにいただきましょうか。みなさん仲良く、お食事を楽しみましょう」
切り替えが早いことで。
にしたって、険悪だった3人の空気を一変させるんだからすげぇよ。
3人ともシャロを慕っているとはいえ、とんでもねぇ芸当だわ。
空気は和やかになったので、普通の会話を楽しむことができた。
「そうだ、アルヴさん。ドゥラメンテさんとコナンさんは元気にしていますか? 特にコナンさんは、僕にはあまり近寄らないので……詳細が分からず」
「2人とも元気にしているわ。コナンに関しては恥ずかしがってるだけよ。貴方に会うのを」
「照れ屋。でも、アドマイヤコナンは、シャーロックを“尊敬”してる」
「はい。同じクラスなのでお見かけしますけど、よくシャーロックさんのことを話していているんですよ? 微笑ましいです」
「そうなのですか? それは、嬉しいですね。そうだ、スティルさんにもエイエルのことを聞きたくて」
学園での生活とか、他のウマ娘の話とか。
会話に花を咲かせることができた。
最初こそどうなることかと思ったが一安心だわ、うん。
楽しく過ごせたな()