私、アドマイヤコナンには尊敬している人がいます。
「見て、メジロシャーロックさんだよ」
「今日も美しいね~。こう、メジロラモーヌさんみたいな美しさ!」
「分かる分かる。触るのも憚られるっつーかさ。気品があるよね~」
今学園の生徒が話題に挙げた方、メジロシャーロックさん。
柱の陰からこっそりと見守ります。
「……」
シャーロックさんは、どうやら談笑をしているようです。
あそこにいるのは、メジロの方々ですね。
パーマーさんにライアンさん、ですか。
「シャロは本当に凄いよね~。またテストで満点だったっしょ?」
「ふふ、毎日の予習復習は欠かさずやっておりますので。パーマーさんも、面倒だからと逃げてはいけませんよ?」
「うぐっ!? は、は~いっ」
「アハハ、言われてるねパーマー! ま、私も、もっと頑張らないとね。ちょっとケアレスミスしちゃったし」
小テストの話題。
シャーロックさんは、どうやら満点だったようです。
(当然です。シャーロックさんは天才なのですから。満点を取るなど造作もないこと)
やはりあの方は素晴らしい。
さすがはシャーロックさん。さすシャロです。
メジロシャーロック。名門メジロ家のウマ娘にして、メジロの中でも特に才能が秀でている。
どの分野においてもその才能を発揮。レースに限らず、学問も芸術も全てが一級品です。
頭脳明晰、スポーツ万能という言葉は、シャーロックさんのためにある。
無論、容姿に関しても文句のつけようがありません。
ウルフカットの葦毛の髪。太陽に照らされて輝き、まるで1つの芸術品のような美しさを誇る。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花……美しい女性を指す言葉だそうですが、まさしくシャーロックさんのことでしょう。
絵画の美女が現実世界に飛び出してきた。そう言われても納得できる容姿。
(目元にある黒子もまた良いアクセントになっています。相変わらず、美しい)
文句のあるやつは私の前に来てください。布教もとい矯正して差し上げます。
あぁ、本当に。
(これほどまでに美しいという言葉が似合う方がこの世にいるのでしょうか? いいえいません。やはりシャーロック様こそが至高にして頂点、素晴らしきお方。万物を跪かせる威光、誰も彼もが首を垂れる。無論私もその一人。あの光を享受できるだけでも……ふふ、うふふ)
なんと尊きお方。あまりの眩しさに、目が潰れてしまいそうです。
だからこそ、こうして遠目に眺めるのが正解。
正面に立つのは、ちょっと、その、恥ずかしいので。
そんな折、愉快な声が私の耳に響いてきた。
「御覧なさい、プレリュード! コナンさんが柱の陰でなにかしていらっしゃいますわ!」
高慢そうな物言いとは裏腹に、優しさを感じる声。
「合点ッ! 受容ッ! 納得ッ! 視線の先にいるのはシャーロックさんだ。大方、恥ずかしくて声をかけられないと言ったところだな!」
やかましい、やたらと二字熟語を並べる豪快な声。
誰かは分かっている。あんまり振り向きたくないけど、視線を向ける。
その先にいたのは予想通りの2人。
「あ~ら、でしたら仕方ないですわ。シャーロック様は素晴らしきお方、声をかけるのに躊躇するのも仕方ないことですもの」
茶髪をゆるふわのボブカットにしたウマ娘、メジロフェルマータ。
「難解ッ! 不明ッ! 不詳ッ! あたしにはその理由がさっぱり分からんな。あの方は優しきお方、誰にでも平等に接するだろうよ」
ところどころ跳ねている葦毛をロングヘアにしたウマ娘、メジロプレリュード。
どちらもメジロのウマ娘。とりわけ、シャーロックさんを慕っている方たち。
ふふん、シャーロックさんを慕うなんて、見る目がありますねこの2人は。
おっと、それはいったん端に置いておきましょう。
あれだけデカい声だと、シャーロックさんに私の存在がバレてしまいます。
なんとかして、2人の口を塞がなければ。
「……あまり大きな声を出さないでくれるかしら? 私の存在がバレてしまうから」
「別に不都合はあるまい? お前とて、シャーロックさんと話したいのだろう?」
不思議そうな顔をするプレリュード。
ハァ、全く分かってないわね。
「いいかしら? 私は別に、シャーロックさんと話したいわけではないわ」
「あら。では、どうして熱心に見ていらしたのかしら?」
「決まっているでしょう? シャーロックさんのご尊顔を拝むためよ」
私はシャーロックさんのお顔を見れば満足。
あの顔を見るだけで元気百倍やる気千倍、その日一日は超絶好調で過ごせるわ。
「シャーロックさんは見ているだけでいいの。話すなんてもっての外、考えもしないわ」
そう、それだけで満足なのよ、私は。
でも、プレリュードは訝し気。納得してなさそうな顔。
フェルマータも同じ。私の言葉を疑っている。
「それこそ話しかければよかろうに」
「いつも遠目から眺めて、それで満足なんて理解できませんわね。プレリュードに同意しますわ」
「というかお前、アレだろ」
訝しげだった表情が一転、笑顔になるプレリュード。
一体、何を言うつも
「お前、恥ずかしいだけだろ? シャーロックさんと面向かって話せないから、こうして遠目に眺めて満足しているだけだろ?」
「は?」
「あ~ら、なんて可愛らしい理由なのかしら! 恥ずかしいからシャーロックさんと話せないだなんて!」
この2人、言うに事欠いてなんてことを言うのかしら。
私が、この私が。恥ずかしいから声をかけられない?
「別にそんなことないわ声をかけることぐらいできるえぇできるわでも今はその時じゃないのお分かり声をかける然るべきタイミングというのがあってそのタイミングを私は図っているだけなのだからそんな侮辱的な発言は撤回していただけるかしら?」
「即答ッ! 困惑ッ! 焦燥ッ! 目に見えて分かるくらいに焦っているな、コナン!」
「早口過ぎてよく聞き取れませんわ。もう少しゆっくり話してくださいまし」
ふぅ、2人には理解してもらえないようね。
構わないわ。予想通りのことだもの。
こういう時は帰宅するに限る。目的は達成したから、用はないもの。
「……私はここで失礼するわ。お邪魔するわね2人ともっ?」
帰り際に挨拶だけはしようと、プレリュードとフェルマータの方に向く。
向いたのに、彼女達はいなかった。
「おかしいわね。さっきまでここにいた」
のに、と口にする前に。
その声は聞こえてきた。
「出陣ッ! 見参ッ! 登場ッ! シャーロックさん、コナンが話したいことがあるそうです!」
「シャーロックさ~ん、コナンさんがどうしても話したいことがあるそうですわ~」
……え?
(ちょっと待ちなさい。あの2人、いつの間にシャーロックさんの方へ!?)
ちょっと目を離した隙に、消えていたのだけれど。
なんて早い移動。私でも見逃してしまったわ。
いえ、それどころじゃない!
「な、何言って」
「そうなのですか? コナンさんが?」
あ、シャーロックさんに名前呼んでもらえた。嬉しい……じゃなくて!
「なにを、しているの」
なんとか絞り出した声。
プレリュードのバカは笑い、フェルマータのアホはさらに高笑いをして。
私の方を見ていた。
「何、恥ずかしがりのお前のために、代わりに声をかけてやったんだ。毎日毎日眺めているからな、よほど話したいと見える!」
「顔を見るだけで満足なんてもったいないですわ~! 美しいお声も聞かないと!」
「あはは……程々にしてあげてね? プレリュードにフェルマータ」
「多分聞いてないよ、パーマー。この2人、感情のままに行動するから」
なんてことしてくれたのかしらこのバカとアホは!
しかも、完全な善意でやってくれているから怒るに怒れない。
悪意なんてものはない。良かれと思ってやっているのだから質が悪い!
ご、誤解を解かないと。
早くシャーロックさんに、これは違うんですと分かってもらわな
「大丈夫ですか? コナンさん。なにやらお顔が赤くなっておりますが」
「ヒュッ」
しゃ、シャーロックさんのご尊顔が私の目の前に!?
まつ毛もよく見え、あまりの眩しさに私の目が焼けてしまいそうなほど。
美しい……これ以上の芸術作品は存在しないでしょう……。
「え、えぇ!? さらにお顔が赤く! ね、熱があるのではないでしょうか!? 今すぐ保健室に」
「落ち着いて、落ち着いてシャロ! 落ち着いて離れて! そのままだとコナンが倒れちゃうよ!?」
「何故倒れるんだコナンは? 尊敬している人が目の前にいるのだから嬉しいだろうに」
「理解できませんわね~」
「バカなこと言ってないで、2人は反省して! 急にこんなことやられたらコナンがびっくりするでしょ!」
ふ、ふふ……幸せだわ……。
私の生涯に、一片の悔いな……
(いえ、まだ悔いはあるわ。やり残したことはたくさんある!)
そうだ。まだ私にはやるべきことがある。
メジロシャーロックファンクラブ(公式)の会員特典であるスペシャルフォトも貰ってないし、今月発売予定のアクスタにぬいもまだ受け取ってない。
たくさん買って祭壇にしてある。その後片付けだってしなきゃいけない。
いいえ片づけないわ。シャーロックさんの素晴らしさを後世に伝えるためにも、アレは残しておかなければ……!
それに、重要なこと。
(私はいずれ世界に羽ばたく……! そのためにも!)
「ここでくたばるわけにはいかないっ!」
私は世界のレースで活躍するという使命がある。
私の中にある衝動が突き動かす、とても大事なこと。
成し遂げるまで、私はやられるわけにはいかない!
「あ、戻ってきた」
「よかったぁ。心配していたんですよ? コナンさん」
「グハァ!? が、顔面人間国宝……」
「な、なんで!?」
あ、むり。シャーロック様今日も麗しいですぅ……。
「コナンさんが倒れてしまいましたわ。どうしてかしら?」
「急な体調不良かもしれんな。よし、あたしに任せろ!」
プレリュードが私の体に触れようとする、前に。
自分で立ち上がる。手を握って、開いて。感触を確かめる。
問題ないわね。いけるわ。
「自分で歩けるから大丈夫よ。シャーロックさん、お気遣いありがとうございます」
「え、えぇ。本当に大丈夫ですか? コナンさん」
「なんとお優しい心遣い。大丈夫です、全く問題ありません。では、アルヴさんを待たせていますので、私はこれで」
すたすたと。その場を立ち去る。
これ以上この場にいると私の身がもたないわ。
名残惜しいけど、ここでお別れしないと。
「コナンさん。いつか、僕ともお話してくださいね?」
……
「アルヴさん。どうしてシャーロックさんはあんなにもメロいのでしょうか?」
「気持ちは分かるわ。私もそうだもの」
「ですよね。やはり、シャーロックさんはメロい」
シャーロックさんは素晴らしいお方です。
◇
立ち去っていくコナンさんを黙って見守ります。
この場に残されたのは、パーマーさんにライアンさん、そしてプレリュードさんにフェルマータさん。
「普通に話せばいいだろうに、コナンは」
「そういうのが難しい子もいるの。分かってあげてね、プレリュード」
「もう何回目かなこのやり取り」
パーマーさんとライアンさんがプレリュードさんを嗜めていますが、はい。
(いつも通り、ですね)
ロックもいればいいのですが、あいにくとロックは眠っています。
反応は、期待できませんね。こういう時は起きてこないので。
さて、僕もそろそろっ?
「……視線を感じますね」
帰ろう、と思った矢先。視線を向けられていることに気づきます。
対象は僕。先程のコナンさんと同様でしょうか? なんて、思いましたが。
柱の陰からひょっこりと現れたのは、小柄な葦毛のウマ娘。
スティルさんのような儚さを感じる、触れると消えてしまいそうな、そんな子。
「エイエルさんではありませんか。貴方も、僕に?」
「……うん」
こくりと、小さく頷きます。
どうやら、僕に会いに来てくれたみたいですね。
エイエルさんは僕を慕ってくれる可愛い子。
コナンさんやプレリュードさんと同じく、僕を尊敬してくれているみたいです。
ふふ、慕われて悪い気はしません。
「エイエルさん。学業の方は支障ありませんか? 楽しく過ごせていますか?」
「そ、その。スティルさんやフェルマータちゃんが、いろいろと教えてくれて。楽しく、過ごせてます」
「私がたくさん教えていますわ! どうかご心配なさらず、大船に乗ったつもりで任せてくださいまし!」
ドン、と胸を叩くフェルマータさん。
パーマーさん達は大丈夫かな? みたいな目を向けていますが、きっと大丈夫でしょう。
「では、心配はありませんね。なにかあったら、僕を頼ってください、エイエルさん。勿論、プレリュードさんもフェルマータさんもです」
「う、うん。シャーロック様を、頼ります」
「無論ッ! 当然ッ! 必然ッ! むしろシャーロックさんに頼ってもらえるようになりますとも!」
「なにかなくても頼りますわ~!」
心配はありませんよ。
メジロプレリュード
身長170超えのナイスバディ。葦毛のくせ毛。二字熟語を3つ並べて使いたがる。ゴルシと爆弾と大親友な仲良しトリオ。
メジロフェルマータ
身長150後半の普通より。高笑いが似合うお嬢様だが顔つきは幼い。なんかどことなくアホっぽい。
アドマイヤコナン
身長160前半の普通より。恥ずかしすぎてシャーロックとは面向かって話せない。だが尊敬の念は学園随一。
エイエル
身長150前半のスレンダー。影が薄いわけじゃないが儚げなウマ娘。愛が重い。
メジロプレリュード→ハーフパンツ
メジロフェルマータ・アドマイヤコナン・エイエル→ブルマ