菊花賞が終わった後、世間の盛り上がりは凄かった。
「まさかマックイーンの産駒がね~。ここまでやるとは」
「血統がすげぇよ血統が! 今のご時世でサンデーフリー、しかもパーソロン系だぜ? 珍しいなんてもんじゃねぇ!」
「なんならオグリキャップとメジロラモーヌの孫だからな。ここまでの結果を残せてんのがすげぇよ」
古くからの競馬ファンに始まり。
「すっごいなぁ。えと、クラシック三冠って凄いことなんだろう? それを、メジロシャーロックが」
「歴史が長い中で、シャーロック以前は五頭らしい。それが無敗ともなると、一頭しかいなかったとか」
「どひゃ~。そりゃ凄いな。とんでもない偉業だぁ」
メジロシャーロック目当てで興味を持ったご新規まで。
なんなら老若男女問わず、だ。大人を通じて子供にさえも伝わっている。
テレビで知る機会も多い。菊花賞を制覇した翌日は、特番のように報じられていたのだから。
《さて、今日は菊花賞で見事三冠を達成したメジロシャーロックの特集です。厩舎の方にインタビューを》
「めじろしゃーろっくだー!」
「かっこいい~!」
葦毛で白い馬、ということもあり、とても目立つ。
目立って、カッコいい。子供からも憧れの視線を向けられていた。
なので、子供は大人にねだる。メジロシャーロックに会いたい、と。
テレビで見る有名人のような存在。現実でも会うことができると知れば、会ってみたいと思うのが子供心。
「おとうさーん、メジロシャーロックにあいたいー!」
「う~んっ、お父さんも会いたいけどねぇ。さすがに難しいんだ」
「えー!? あいたいあいたいあいたい~!」
全国各地のお父さんが困ってしまうほど、メジロシャーロックの人気は凄まじかった。
もはや止まる術がないほどのムーブメント。
第三次競馬ブームすら起こせるのではないか? と思うほどだ。
「今年の売り上げは間違いなく昨年比よりアップだ。メジロシャーロック様様だな」
「ダービーも菊花賞も凄かったからな~。そもそも、メジロシャーロックが出走する日だけ売り上げが半端じゃない」
「これからもプッシュしていくぞ! 銅像もどこに飾るようにするか」
これにはJRAも大喜び。
今後もメジロシャーロックが中心になると予見し、この先もプッシュし続けようと考えていた。
メジロシャーロックの人気はさらに爆発している。
無敗の三冠を勝ち取ったことで、多くのファンを獲得するに至った。
馬主でメジロの現・オーナー喜多野裕二も、所属する厩舎の調教師生江康夫も鼻高々だ。
「応援の手紙がたくさん届いておりましてね。中には熱心なファンもいるようで。さらなるグッズ展開、いいかもしれませんね」
「メジロシャーロックの今後のローテも検討中ですわ。来年以降のローテも、やね」
嬉しそうな顔でインタビューに答える2人の姿は記憶に新しい。
世間のシャーロック人気に、とても喜んでいた。
生江康夫が選択するローテにも、要注目である。
そんな中、メジロシャーロックはというと。
『次の目標は、天皇賞制覇だな。四代制覇……とんでもない偉業になるぜ』
新たな目標を立てていた。
◇
菊花賞が終わってからは、時の流れが早いように感じる。
なんというか、この前菊花賞があったと思ったのに、気づけば秋天が終わっていた。
『へ~、カメハメハは負けたのか。相手はゼンノロブロイか?』
『よく知ってるね、シャロくん。そうだよ。あともうちょっとってとこまで行ったんだけどね~』
秋天はゼンノロブロイが勝利。
この辺は史実としての知識で知ってるからな。順当に勝ったみたいだ。
カメハメハは2着。すげぇなアイツ。
ま、史実知識も何も、キングカメハメハが秋天走ってる時点でもう狂ってるか。
(元々は神戸新聞杯の時点で離脱だからな。ここまで走っているんだから、何もかもが変わってる)
引退しないとなると、来年も現役続行か?
そうなると結構影響が出ないか? なんて、思っていたが。
どうもカメハメハは今年引退がすでに決まっているらしい。
『ぼくは今年までみたい。だからせめて、後一個G1を勝ちたい、なんて人間が言ってたね』
『今年まで、なのか。ケガとかしてないのに』
『いろいろとあるみたいだね。シャロくん達とのお別れは寂しいや』
『……ケガで離脱、なんてよりはマシだろう。向こうに行っても、俺達は友達だ、カメハメハ』
『ありがとう、ハーツくん。ハーツくんも元気でね~』
そう語ったカメハメハは、少し寂しそうにしていた。
ただ、ハーツの言うようにケガでの離脱じゃないから安心。
これから先も元気でいろよと、ハーツと一緒に新しい門出を祝った。
そんなカメハメハというと、マイルチャンピオンシップを優勝。
あのデュランダルを抑え、秋のマイル王の座を掴み取ったそうだ。
(いや、強いなカメハメハ。よう勝てたわ俺)
嬉しそうに勝利報告をしてきたカメハメハの姿を思い出して笑う。
良かったな、本当に。
……んで、まぁ。
思い出すべきかどうかは迷うのだが、思い出さないわけにはいかないだろう。
エリザベス女王杯のことである。
グルーヴさんとスティルさんが出走したこのレース。
人伝に聞いた話でしかないのだが、それはもう壮絶なレースだったらしい。
息もつかぬデッドヒート、というのか? とにかく凄かった、と。
(何があったんだろうな、マジで)
ちなみに思い出したくない理由は、当時のグルーヴさんとスティルさんに囲まれたから。
調教でかわりばんこに相手していたのだが、とにかく詰められた。
『シャロは勿論あたしを応援するわよね? あなたの女王である、このあたしを!』
『シャロが応援するのはアタシよねェ? あんな傲慢な女王様じゃなくてェ』
『しいて言うならどっちも応援してますよ。レース近いですし、調整しましょうね』
どっちをより応援するか、なんてな。
漫画では見たことあるけど、いざ自分が直面するとアレだな。すげぇ困るわ。
なまじどちらとも仲良くさせてもらってるし。どう答えるのが正解だったのだろうか、アレ。
女の戦いって怖い。
そんなグルーヴさん達の仲は、良好だ。
『さぁシャロ! 今日はあたしについてきなさ~い!』
『はいはい、分かりましたよ』
『ふふ~ん、女王と家来は一緒じゃないとね!』
大変嬉しそうなグルーヴさんに。
『ウフフ、今日も楽しませてねェ? シャロォ』
『なんでそんな不気味に笑ってんすか』
『別にいいじゃなァい。貴方と走れて嬉しいのよ』
こちらも大変嬉しそうなスティルさんだった。
いつもこんな調子だからな。すでに慣れてる。
「他の馬との併せも慣れてきたけど、やっぱりシャーロックが一番ですね、アドマイヤグルーヴは」
「こっちも同じっすよ、端田さん。シャーロックとやってる時がいっちゃん調子いいです」
「末本さんも、ですか……お互いに苦労をしますね」
「もう、慣れましたわ」
調教師の方々も。いつもお疲れ様です、本当。
グルーヴさん達とはいつも通り。
いつも通りといえば、ディープの方もか。
いや、アイツに関してはいつも通りじゃない。凄い大きい変化があった。
その変化というのが。
『シャロさんと一緒だ~!』
『まさか調教でも一緒になる日が来るとはな。ま、よろしく』
「大丈夫ですか? シャーロックとディープを併せて」
「問題あらへんで、俊之。シャーロックは問題ないし、ディープもシャーロックに懐いとる。えぇ感じの効果を発揮してくれるはずや」
ついに調教が一緒になったこと。嘘やん。
(予兆自体はあったけどさぁ。コイツ同世代の中でも飛び抜けて強いし、上と相手するとは思ってたけどさぁ)
上が相手をするとなると、俺の可能性が一番高いことは分かっていた。
実際にやられると戸惑うけど。
ディープは12月にデビューを控えている身。
好調を維持したまま、レースを迎えたい。
そうなると俺がうってつけ、ってわけだ。
「まぁ、シャーロックはどの馬にも併せられますからね。これほど最適なパートナーはいません」
俊之さんの言うように、どの馬でも問題ないってのがでかい。
おまけに操縦性も良い、ディープとの仲も良好と来れば言うことなしだ。
『シャロさん! 走ろ、走ろ!』
『分かった、分かった。今から走るから、分かったから。顔を舐めるなお前は』
やたら俺に懐いてるのだけは理解できんが。
アレか。マックイーンの因子でも働いてるのか? サンデー産駒だから、マックイーンの因子が悪さしてるのか? 知らんけど。
レースが近いのはディープの方、何だが。
ディープにはとある問題がある。それが、騎手だ。
「ディープはなぁ。才能はシャーロックに勝るとも劣らん。やけども」
「操縦性に関しては、圧倒的にシャーロックですね。シャーロックが規格外なのはそうですが、差し引いてもディープは酷いです」
「ホンマになぁ。乗れるの寛君しかおらんし」
コイツ操縦性が悪すぎて、普通の騎手じゃ乗りこなせないのだ。
それこそ岳さんレベルじゃないと、レースで走ることすら難しい。
(別に気性難ってわけじゃないんだけどなぁ)
ディープはとにかく走りたがる。走りたがるせいで、恐ろしく制御が難しい。
岳さんでも苦労しているらしいからな。よっぽどだ。
「ちゅうわけで、頼んだで寛君」
「はい。それじゃあディープ、頑張ろうか」
っと、調教が始まるな。準備せねば。
今日は実戦形式でのトレーニング。レースに近い形で走ることになる。
実戦形式、ということは、俺に乗る方もちゃんとした騎手を採用。
その騎手とは、隈澤さんだ。
「成文の方も頼んだで。ま、シャーロックやから問題ないやろうけどな」
「はは、本当にそうですね。とても素直で利口な子なので、乗る側からすればありがたいことこの上ないです」
隈澤成文さん。ステイゴールドにも騎乗していた人だ。
実は、岳さんの次に俺に乗っているのはこの隈澤さん。
俊之さんじゃない場合は、大抵隈澤さんだ。
まぁ本番想定の調教ぐらいでしか乗らないんだけど。
「よし、今日はよろしくね、シャーロック」
「……」
「寛君。そんなに殺気の籠った目を向けないでくれると嬉しいかな」
隈澤さんは良い人だ。俺らに凄い優しいし、乗る時も俺達に負担がないような乗り方をしてくれる。
俺からすればやりやすい。自由にやらせてくれるし。
「それじゃあやるで。そろそろディープのデビュー、シャーロックに勝るとも劣らん才能や。寛君、頼んだで!」
「はい、分かりました。どういう風にいきましょうか?」
「あんま派手に勝たせんよう頼むわ」
こうして調教が始まる。
『シャロさんに負けないぞ~!』
『俺はお前が気分良く走ってくれればそれでいいよ』
ディープの相手は大変だ。いろんな意味で。
ここまでが俺の周りでのお話。
後は、俺の個人的な話だ。
実は俺、有馬記念への出走が予定されていた。
「どひゃ~、得票数もぶっちぎりやな。2位以下票集めても、シャーロックの票に足らんちゃうか? これ」
「それくらいの差がありますね。トリプルスコアつけてます」
とんでもないくらい票を集めた上、調子も悪くなさそうだったので、年末の大一番に出走するか、みたいな話が上がっていたのである。
それを聞いて、俺のテンションは上がっていた。
(相手はゼンノロブロイ、か。また一筋縄じゃいかねぇなコレ)
俺の時代でも達成者は2頭しかいない、秋古馬三冠の1頭。
有馬で出したレコードタイムはいまだに破られていない、強い馬。
ゼンノロブロイ。覚醒した古馬王道路線の王者が相手になる。
いや、一応京都大賞典で戦ってはいたけどね。
「シャーロックは勝てるわ。有馬記念、いくで!」
「分かりました。では、それで行きましょうか」
康夫さん達は俺の有馬記念出走を発表。
世間に大々的に報じられることになる。
全国的にニュースになったらしく、俺が出走することでファンは大喜び。
誰もが俺の勝利を期待し、頑張ってくれと応援の声を贈ってくれた。
これは腕が鳴るぜ! みたいな感じで、大変盛り上がっておりました。
が、現実はというと。
「え~感冒ですね。有馬記念の出走は無理です」
風邪引いて有馬出れなかったよちくしょう!
最終追い切りを済ませよう、と思っていた日の朝。
朝から体調が悪かった俺の異常をリョーマがすぐに察知。
康夫さん達に報せ、獣医さんを呼んで対応。
その結果……感冒。馬の風邪に罹ったことを教えられる。
「よりにもよってこない直前になぁ。仕方ないわ、すぐに発表するで」
「ファンは残念がりそうですね」
「しゃあないやろ。シャーロックの体調第一やし、パンデミック起こるよりはるかにマシや」
本当すみません康夫さん。
大事な時に風邪引いたりして。
幸い、感冒自体はすぐに治った。
3日もすれば治るもの。年が明ける前には、調教も再開できるくらいに回復したのである。
うん、アレだな。
『なんとも締まらねぇ一年の終わりだな、本当』
原因は分からんが、まさかの感冒で一年が終わることになるとは。
別にいいけど。別にいいけど!
あ、有馬はゼンノロブロイが勝ったそうだ。秋天にジャパンカップも勝っていたので、これで秋古馬三冠である。
来年からは、俺も古馬。
現役に関しては続行するらしい。
俺の予想通りだ。
ローテはまだ不透明だが、今のところ裕二さんが考えているプランは──天皇賞春秋制覇。
春の天皇賞と秋の天皇賞を勝つことを、目標に掲げている。
(それ以外はまだ分からんが、始動戦はアメリカジョッキークラブカップ、だったな)
始動戦も決まった。大目標も決まった。
当然、俺の次なる目標も決まっている。
(天皇賞四代制覇。メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンと続いているこの偉業を、俺が繋ぐ。それが新しい目標だ)
三代でも凄いのに、四代ともなればとんでもないことだ。
ぜひとも達成しておきたい。メジロ復活のためにも。
(それに、メジロ自体が天皇賞を特別視している。取らないわけにはいかない、か)
新しい目標に向かって、来年度も頑張ろう。
『シャロさんシャロさん。一緒に走ろー!』
『お前いつも俺のところ来るな。まぁいいけどさ……ハーツも一緒に走るか?』
『いいだろう』
退屈しなさそうだ。
次回はウマ娘編、その次は掲示板回。その後は幕間を予定してます。何のお話かって?
エリザベス女王杯~仁義なき女の戦い~