親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

42 / 42
総まとめ的な。


一年の終わり

 菊花賞が終わった後、世間の盛り上がりは凄かった。

 

「まさかマックイーンの産駒がね~。ここまでやるとは」

「血統がすげぇよ血統が! 今のご時世でサンデーフリー、しかもパーソロン系だぜ? 珍しいなんてもんじゃねぇ!」

「なんならオグリキャップとメジロラモーヌの孫だからな。ここまでの結果を残せてんのがすげぇよ」

 

 古くからの競馬ファンに始まり。

 

「すっごいなぁ。えと、クラシック三冠って凄いことなんだろう? それを、メジロシャーロックが」

「歴史が長い中で、シャーロック以前は五頭らしい。それが無敗ともなると、一頭しかいなかったとか」

「どひゃ~。そりゃ凄いな。とんでもない偉業だぁ」

 

 メジロシャーロック目当てで興味を持ったご新規まで。

 なんなら老若男女問わず、だ。大人を通じて子供にさえも伝わっている。

 テレビで知る機会も多い。菊花賞を制覇した翌日は、特番のように報じられていたのだから。

 

《さて、今日は菊花賞で見事三冠を達成したメジロシャーロックの特集です。厩舎の方にインタビューを》

「めじろしゃーろっくだー!」

「かっこいい~!」

 

 葦毛で白い馬、ということもあり、とても目立つ。

 目立って、カッコいい。子供からも憧れの視線を向けられていた。

 

 なので、子供は大人にねだる。メジロシャーロックに会いたい、と。

 テレビで見る有名人のような存在。現実でも会うことができると知れば、会ってみたいと思うのが子供心。

 

「おとうさーん、メジロシャーロックにあいたいー!」

「う~んっ、お父さんも会いたいけどねぇ。さすがに難しいんだ」

「えー!? あいたいあいたいあいたい~!」

 

 全国各地のお父さんが困ってしまうほど、メジロシャーロックの人気は凄まじかった。

 

 もはや止まる術がないほどのムーブメント。

 第三次競馬ブームすら起こせるのではないか? と思うほどだ。

 

「今年の売り上げは間違いなく昨年比よりアップだ。メジロシャーロック様様だな」

「ダービーも菊花賞も凄かったからな~。そもそも、メジロシャーロックが出走する日だけ売り上げが半端じゃない」

「これからもプッシュしていくぞ! 銅像もどこに飾るようにするか」

 

 これにはJRAも大喜び。

 今後もメジロシャーロックが中心になると予見し、この先もプッシュし続けようと考えていた。

 

 

 メジロシャーロックの人気はさらに爆発している。

 無敗の三冠を勝ち取ったことで、多くのファンを獲得するに至った。

 

 馬主でメジロの現・オーナー喜多野裕二も、所属する厩舎の調教師生江康夫も鼻高々だ。

 

「応援の手紙がたくさん届いておりましてね。中には熱心なファンもいるようで。さらなるグッズ展開、いいかもしれませんね」

「メジロシャーロックの今後のローテも検討中ですわ。来年以降のローテも、やね」

 

 嬉しそうな顔でインタビューに答える2人の姿は記憶に新しい。

 世間のシャーロック人気に、とても喜んでいた。

 生江康夫が選択するローテにも、要注目である。

 

 

 そんな中、メジロシャーロックはというと。

 

『次の目標は、天皇賞制覇だな。四代制覇……とんでもない偉業になるぜ』

 

 新たな目標を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 菊花賞が終わってからは、時の流れが早いように感じる。

 なんというか、この前菊花賞があったと思ったのに、気づけば秋天が終わっていた。

 

『へ~、カメハメハは負けたのか。相手はゼンノロブロイか?』

『よく知ってるね、シャロくん。そうだよ。あともうちょっとってとこまで行ったんだけどね~』

 

 秋天はゼンノロブロイが勝利。

 この辺は史実としての知識で知ってるからな。順当に勝ったみたいだ。

 カメハメハは2着。すげぇなアイツ。

 

 ま、史実知識も何も、キングカメハメハが秋天走ってる時点でもう狂ってるか。

 

(元々は神戸新聞杯の時点で離脱だからな。ここまで走っているんだから、何もかもが変わってる)

 

 引退しないとなると、来年も現役続行か?

 そうなると結構影響が出ないか? なんて、思っていたが。

 どうもカメハメハは今年引退がすでに決まっているらしい。

 

『ぼくは今年までみたい。だからせめて、後一個G1を勝ちたい、なんて人間が言ってたね』

『今年まで、なのか。ケガとかしてないのに』

『いろいろとあるみたいだね。シャロくん達とのお別れは寂しいや』

『……ケガで離脱、なんてよりはマシだろう。向こうに行っても、俺達は友達だ、カメハメハ』

『ありがとう、ハーツくん。ハーツくんも元気でね~』

 

 そう語ったカメハメハは、少し寂しそうにしていた。

 

 ただ、ハーツの言うようにケガでの離脱じゃないから安心。

 これから先も元気でいろよと、ハーツと一緒に新しい門出を祝った。

 

 そんなカメハメハというと、マイルチャンピオンシップを優勝。

 あのデュランダルを抑え、秋のマイル王の座を掴み取ったそうだ。

 

(いや、強いなカメハメハ。よう勝てたわ俺)

 

 嬉しそうに勝利報告をしてきたカメハメハの姿を思い出して笑う。

 良かったな、本当に。

 

 ……んで、まぁ。

 思い出すべきかどうかは迷うのだが、思い出さないわけにはいかないだろう。

 エリザベス女王杯のことである。

 

 グルーヴさんとスティルさんが出走したこのレース。

 人伝に聞いた話でしかないのだが、それはもう壮絶なレースだったらしい。

 息もつかぬデッドヒート、というのか? とにかく凄かった、と。

 

(何があったんだろうな、マジで)

 

 ちなみに思い出したくない理由は、当時のグルーヴさんとスティルさんに囲まれたから。

 調教でかわりばんこに相手していたのだが、とにかく詰められた。

 

『シャロは勿論あたしを応援するわよね? あなたの女王である、このあたしを!』

『シャロが応援するのはアタシよねェ? あんな傲慢な女王様じゃなくてェ』

『しいて言うならどっちも応援してますよ。レース近いですし、調整しましょうね』

 

 どっちをより応援するか、なんてな。

 漫画では見たことあるけど、いざ自分が直面するとアレだな。すげぇ困るわ。

 なまじどちらとも仲良くさせてもらってるし。どう答えるのが正解だったのだろうか、アレ。

 女の戦いって怖い。

 

 そんなグルーヴさん達の仲は、良好だ。

 

『さぁシャロ! 今日はあたしについてきなさ~い!』

『はいはい、分かりましたよ』

『ふふ~ん、女王と家来は一緒じゃないとね!』

 

 大変嬉しそうなグルーヴさんに。

 

『ウフフ、今日も楽しませてねェ? シャロォ』

『なんでそんな不気味に笑ってんすか』

『別にいいじゃなァい。貴方と走れて嬉しいのよ』

 

 こちらも大変嬉しそうなスティルさんだった。

 

 いつもこんな調子だからな。すでに慣れてる。

 

「他の馬との併せも慣れてきたけど、やっぱりシャーロックが一番ですね、アドマイヤグルーヴは」

「こっちも同じっすよ、端田さん。シャーロックとやってる時がいっちゃん調子いいです」

「末本さんも、ですか……お互いに苦労をしますね」

「もう、慣れましたわ」

 

 調教師の方々も。いつもお疲れ様です、本当。

 

 グルーヴさん達とはいつも通り。

 いつも通りといえば、ディープの方もか。

 いや、アイツに関してはいつも通りじゃない。凄い大きい変化があった。

 

 その変化というのが。

 

『シャロさんと一緒だ~!』

『まさか調教でも一緒になる日が来るとはな。ま、よろしく』

「大丈夫ですか? シャーロックとディープを併せて」

「問題あらへんで、俊之。シャーロックは問題ないし、ディープもシャーロックに懐いとる。えぇ感じの効果を発揮してくれるはずや」

 

 ついに調教が一緒になったこと。嘘やん。

 

(予兆自体はあったけどさぁ。コイツ同世代の中でも飛び抜けて強いし、上と相手するとは思ってたけどさぁ)

 

 上が相手をするとなると、俺の可能性が一番高いことは分かっていた。

 実際にやられると戸惑うけど。

 

 ディープは12月にデビューを控えている身。

 好調を維持したまま、レースを迎えたい。

 

 そうなると俺がうってつけ、ってわけだ。

 

「まぁ、シャーロックはどの馬にも併せられますからね。これほど最適なパートナーはいません」

 

 俊之さんの言うように、どの馬でも問題ないってのがでかい。

 おまけに操縦性も良い、ディープとの仲も良好と来れば言うことなしだ。

 

『シャロさん! 走ろ、走ろ!』

『分かった、分かった。今から走るから、分かったから。顔を舐めるなお前は』

 

 やたら俺に懐いてるのだけは理解できんが。

 アレか。マックイーンの因子でも働いてるのか? サンデー産駒だから、マックイーンの因子が悪さしてるのか? 知らんけど。

 

 レースが近いのはディープの方、何だが。

 ディープにはとある問題がある。それが、騎手だ。

 

「ディープはなぁ。才能はシャーロックに勝るとも劣らん。やけども」

「操縦性に関しては、圧倒的にシャーロックですね。シャーロックが規格外なのはそうですが、差し引いてもディープは酷いです」

「ホンマになぁ。乗れるの寛君しかおらんし」

 

 コイツ操縦性が悪すぎて、普通の騎手じゃ乗りこなせないのだ。

 それこそ岳さんレベルじゃないと、レースで走ることすら難しい。

 

(別に気性難ってわけじゃないんだけどなぁ)

 

 ディープはとにかく走りたがる。走りたがるせいで、恐ろしく制御が難しい。

 岳さんでも苦労しているらしいからな。よっぽどだ。

 

「ちゅうわけで、頼んだで寛君」

「はい。それじゃあディープ、頑張ろうか」

 

 っと、調教が始まるな。準備せねば。

 

 今日は実戦形式でのトレーニング。レースに近い形で走ることになる。

 実戦形式、ということは、俺に乗る方もちゃんとした騎手を採用。

 

 その騎手とは、隈澤さんだ。

 

「成文の方も頼んだで。ま、シャーロックやから問題ないやろうけどな」

「はは、本当にそうですね。とても素直で利口な子なので、乗る側からすればありがたいことこの上ないです」

 

 隈澤成文さん。ステイゴールドにも騎乗していた人だ。

 実は、岳さんの次に俺に乗っているのはこの隈澤さん。

 俊之さんじゃない場合は、大抵隈澤さんだ。

 

 まぁ本番想定の調教ぐらいでしか乗らないんだけど。

 

「よし、今日はよろしくね、シャーロック」

「……」

「寛君。そんなに殺気の籠った目を向けないでくれると嬉しいかな」

 

 隈澤さんは良い人だ。俺らに凄い優しいし、乗る時も俺達に負担がないような乗り方をしてくれる。

 俺からすればやりやすい。自由にやらせてくれるし。

 

「それじゃあやるで。そろそろディープのデビュー、シャーロックに勝るとも劣らん才能や。寛君、頼んだで!」

「はい、分かりました。どういう風にいきましょうか?」

「あんま派手に勝たせんよう頼むわ」

 

 こうして調教が始まる。

 

『シャロさんに負けないぞ~!』

『俺はお前が気分良く走ってくれればそれでいいよ』

 

 ディープの相手は大変だ。いろんな意味で。

 

 

 ここまでが俺の周りでのお話。

 後は、俺の個人的な話だ。

 

 実は俺、有馬記念への出走が予定されていた。

 

「どひゃ~、得票数もぶっちぎりやな。2位以下票集めても、シャーロックの票に足らんちゃうか? これ」

「それくらいの差がありますね。トリプルスコアつけてます」

 

 とんでもないくらい票を集めた上、調子も悪くなさそうだったので、年末の大一番に出走するか、みたいな話が上がっていたのである。

 

 それを聞いて、俺のテンションは上がっていた。

 

(相手はゼンノロブロイ、か。また一筋縄じゃいかねぇなコレ)

 

 俺の時代でも達成者は2頭しかいない、秋古馬三冠の1頭。

 有馬で出したレコードタイムはいまだに破られていない、強い馬。

 

 ゼンノロブロイ。覚醒した古馬王道路線の王者が相手になる。

 いや、一応京都大賞典で戦ってはいたけどね。

 

「シャーロックは勝てるわ。有馬記念、いくで!」

「分かりました。では、それで行きましょうか」

 

 康夫さん達は俺の有馬記念出走を発表。

 世間に大々的に報じられることになる。

 

 全国的にニュースになったらしく、俺が出走することでファンは大喜び。

 誰もが俺の勝利を期待し、頑張ってくれと応援の声を贈ってくれた。

 

 これは腕が鳴るぜ! みたいな感じで、大変盛り上がっておりました。

 

 が、現実はというと。

 

「え~感冒ですね。有馬記念の出走は無理です」

 

 風邪引いて有馬出れなかったよちくしょう!

 

 最終追い切りを済ませよう、と思っていた日の朝。

 朝から体調が悪かった俺の異常をリョーマがすぐに察知。

 康夫さん達に報せ、獣医さんを呼んで対応。

 

 その結果……感冒。馬の風邪に罹ったことを教えられる。

 

「よりにもよってこない直前になぁ。仕方ないわ、すぐに発表するで」

「ファンは残念がりそうですね」

「しゃあないやろ。シャーロックの体調第一やし、パンデミック起こるよりはるかにマシや」

 

 本当すみません康夫さん。

 大事な時に風邪引いたりして。

 

 幸い、感冒自体はすぐに治った。

 3日もすれば治るもの。年が明ける前には、調教も再開できるくらいに回復したのである。

 

 うん、アレだな。

 

『なんとも締まらねぇ一年の終わりだな、本当』

 

 原因は分からんが、まさかの感冒で一年が終わることになるとは。

 別にいいけど。別にいいけど!

 あ、有馬はゼンノロブロイが勝ったそうだ。秋天にジャパンカップも勝っていたので、これで秋古馬三冠である。

 

 

 来年からは、俺も古馬。

 現役に関しては続行するらしい。

 俺の予想通りだ。

 

 ローテはまだ不透明だが、今のところ裕二さんが考えているプランは──天皇賞春秋制覇。

 春の天皇賞と秋の天皇賞を勝つことを、目標に掲げている。

 

(それ以外はまだ分からんが、始動戦はアメリカジョッキークラブカップ、だったな)

 

 始動戦も決まった。大目標も決まった。

 

 当然、俺の次なる目標も決まっている。

 

(天皇賞四代制覇。メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンと続いているこの偉業を、俺が繋ぐ。それが新しい目標だ)

 

 三代でも凄いのに、四代ともなればとんでもないことだ。

 ぜひとも達成しておきたい。メジロ復活のためにも。

 

(それに、メジロ自体が天皇賞を特別視している。取らないわけにはいかない、か)

 

 新しい目標に向かって、来年度も頑張ろう。

 

『シャロさんシャロさん。一緒に走ろー!』

『お前いつも俺のところ来るな。まぁいいけどさ……ハーツも一緒に走るか?』

『いいだろう』

 

 退屈しなさそうだ。




次回はウマ娘編、その次は掲示板回。その後は幕間を予定してます。何のお話かって?


エリザベス女王杯~仁義なき女の戦い~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

星旗牝系の夢(作者:久保田紅葉)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

もしもゴールドシップに全姉がいたら……というロマンとかいうのを詰め込んだ怪文書


総合評価:604/評価:7.31/連載:10話/更新日時:2026年07月12日(日) 19:51 小説情報

覇王伝説第二章(作者:ノワールキャット)(オリジナル現代/スポーツ)

20世紀末。▼8戦8勝の年間無敗、史上最多の年間GI5勝。▼2000年に降臨した絶対王者、世紀末覇王と称されたとある馬の後継者。▼これは、かつての相棒と駆ける覇王伝説の第2章である。▼─────▼ある騎手が引退することなので、書いてみました。▼執筆者はにわかな部分が多いです。かなり優遇していますので、史実改変が嫌という方はここでブラウザバックしよう。▼初めて…


総合評価:3175/評価:8.94/連載:35話/更新日時:2026年07月20日(月) 12:05 小説情報

その瞳に勝利を(作者:カニ漁船)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

「わたしは勝つわ、トレーナー!」▼「頑張って支えるよ」


総合評価:2915/評価:8.75/完結:74話/更新日時:2026年05月14日(木) 23:00 小説情報

ステイゴールドになったけど(作者:灯火011)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

気づいたらステイゴールド。▼っても、既にいろんなステゴの記憶がある彼女。その中に一人、おっさんが混じってもまぁそれはステゴ。▼19話からは蛇足編です。おっさんステゴの旅路をご覧になりたい方は、是非。


総合評価:2092/評価:8.57/完結:48話/更新日時:2026年06月29日(月) 21:00 小説情報

競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 ウマ娘に転生したから百合ハーレムを築きたい競馬ミリしら民のお話。▼ なお、名前はディープインパクトという。


総合評価:2330/評価:7.84/連載:20話/更新日時:2026年04月04日(土) 11:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>