親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

46 / 85
今話にて古馬のローテが明らかになります。


年が明けて古馬一年目

 12月某日。

 阪神競馬場で開催された新馬戦に、衝撃が走った。

 

《ディープインパクトこれは強い。ディープインパクト快勝です! コンゴウリキシオー、テイエムカイブツを突き放して4馬身差の圧勝を飾りましたディープインパクト!》

 

 最後方からレースを展開。

 第4コーナーで先頭集団に追いつくと、最後の直線では突き放しての勝利。

 

 観客は見ただけで理解した。

 

「も、モノがちゃい過ぎるやろ。こら、連続でえらいもんが出てきたでぇ!」

「つえぇ! これがディープインパクトか!」

「すげぇぞディープー!」

 

 能力が桁違いに高い、と。

 

 新馬戦が終わって、とある記事のためにインタビューに答えていた岳は、ディープインパクトのことをこう語っていた。

 

「みなさん、どうかディープインパクトの名前を覚えておいてください。もしかしたら、シャーロックに続いて三冠を取っちゃうかもしれませんね」

 

 将来が楽しみであり、三冠を取ることも夢ではない、と。

 

 言うまでもないが、三冠は達成難易度が桁違いに高い。

 3歳の時にしか出走ができず、1つ勝つことすら難しいG1レース。

 求められる能力、適性もバラバラであり、あらゆるコースで走ることのできる自在性を持ち合わせなければ達成は不可能。

 そんなレースを3回も勝たなければならない。

 前年度にメジロシャーロックが達成しているから麻痺しがちだが、普通は難しいことなのだ。

 

 しかし、岳寛が発言した、ということが重要。

 メジロシャーロックの主戦を務め、三冠へと導いた騎手の言葉だ。

 疑うことなんてできない。新馬戦で素質を秘めていることも分かっている。

 

 ならば、期待する。

 

「まさか、シャーロックに続いて三冠あるんちゃうか? これ」

「そうなったら、シービーとルドルフ以来の三冠対決だって夢じゃない!」

「下手すりゃ無敗の三冠馬同士の対決が実現するぞ! 覚えておかないと!」

 

 ディープインパクトが三冠を取ることを。

 秘めたる素質がどれほどのものであるのか、メジロシャーロックに比肩する才能なのか。

 ディープインパクトにも期待が寄せられていた。

 

 

 そんな年末の衝撃から1ヶ月後。

 ディープインパクトの次走である若駒ステークスは。

 

《一気に突き抜けた、一気に突き抜けた。ディープインパクト最後の直線で一気に突き抜けました! 10バ身はあった差をあっという間にひっくり返し、5馬身差を叩きつけての圧勝劇! ディープインパクトが京都に衝撃を残しました!》

 

 5馬身差の圧勝を飾る。

 

 数日前のインタビューで岳は語っていた。

 

「凄いことになるから見に来た方がいいですよ」

 

 まさかその通りになるとは。

 10馬身差をひっくり返しただけではなく、さらに5馬身差を広げて勝つなどとは思わなかった。

 後方からの競馬。追込に分類される脚質。

 どんなに不利な状況でも一発逆転をすることができる強さに、虜になるファンが続出。

 

「いや、凄いわホンマ! えらい馬やでディープインパクト!」

「これはもう三冠は確実だろ! 取れなかったら嘘だ!」

「今の内に推しとけ推しとけ!」

 

 ド派手なレースに、競馬界隈は更なる盛り上がりを見せていた。

 

 とはいえ、やはりメジロシャーロックには敵わないとする声の方が多い。

 

「はん、俺はシャーロック一筋や。あれほどの馬はそうはおらん」

「ディープは10年に一度、だけどシャーロックは100年に一度だ! シャーロックの方が上だね!」

「まだ3歳成り立てと古馬を比べるなよ。つっても、俺もシャーロック派だな」

 

 人気は盤石。

 当たり前のように最優秀3歳牡馬に輝き、年度代表馬選考でも、満票で選出された競走馬だ。

 メジロ初の年度代表馬。しかもそれが、滅多にない満票での選出。

 馬主である喜多野裕二だけではなく、ファンも大喜びだった。

 

 グッズの完売は珍しくなく、全国でも探す方が難しい有様。

 子供からの人気も高い。中には野球といったスポーツよりも、競馬の方にハマる子さえもいるのだ。

 文字通り桁違いの人気を誇っている。

 

 ただ、競馬業界としてはありがたい限りだ。

 

「メジロシャーロックだけじゃない。ディープインパクトもスター性は十分だ!」

「並行して推すぞ! ディープインパクトも猛プッシュだ!」

「サンデー期待の星、ってよりも、同厩舎の先輩後輩路線で売り出すか。早速取材の申し込みを」

 

 スターホースなんていればいるだけいいのだから。

 売上に繋がるのであれば、なんだってよかった。

 

 競馬の未来は明るい。誰もがそう確信していた。

 

 

 さて、そんな中で若駒ステークスの翌日。

 中山競馬場で開催されたアメリカジョッキークラブカップ。

 メジロシャーロックの年始始動戦に選ばれたレースだ。

 

 G2であるにも関わらず、シャーロックが出走するからと10万近いファンが押し寄せている。

 

「頑張れシャーロックー!」

「負けないでー!」

 

 おっさんの声だけではなく、年若い声も聞こえている。

 シャーロックの人気は、世代を問わなかった。

 

 レースの結果はというと。

 

《メジロシャーロック抜け出した! メジロシャーロックがあっさりと抜け出しました! そうだこの勝ち方もできるのだ。逃げるだけではない、王道の先行策もお手の物! 今差を3馬身、4馬身開いて! クラフトワークを4馬身差で下したメジロシャーロック1着!》

「わあああぁぁぁあああ!!」

 

 圧勝。まるで問題ないとばかりにレースを勝ち、ファンの期待に応える。

 

 感冒の影響は全くない。

 馬体重もほぼ変化なしの491。ベストをキープ。

 

「いやはや、やっぱ強いよメジロシャーロックは」

「これは、今年もシャーロックの年やな!」

「下にディープインパクトが出てきたけど、やっぱ俺はお前だー! メジロシャーロックー!」

 

 不安要素を感じさせない、安定感のある走りに。

 ファンは喝采を送った。

 

 余談だが、鞍上は岳である。

 つい先日、若駒ステークスで京都にいた彼だが、今日は中山で騎乗していた。

 

 インタビューでそのことを突っ込まれるが。

 

「そりゃシャーロックに騎乗するためです。それ以外に理由がありますか?」

 

 と、至極当然かのように答えていた。

 

 年明け始動戦を快勝したメジロシャーロック。

 連勝記録を11に伸ばし、かつて日本で走っていた女傑・クリフジ*1に並ぶ。

 11戦11勝無敗。まさしく最強と呼ぶに相応しい実績だ。

 

 ここで気になるのが、シャーロックの次走。

 及び、今年一年のローテである。

 アメリカジョッキークラブカップを制した今、どこへ向かおうとしているのか?

 日本中の視線が集まる。

 

 とはいえ、すでに決まっているようなものだろうとファンは楽観していた。

 なぜならば、春にあのレースがあるから、である。

 

「メジロシャーロックの次走はどのようにお考えでしょうか? 喜多野オーナー」

「次走は阪神大賞典です。阪神大賞典をステップレースに、春の天皇賞へと出走します」

 

 喜多野オーナーの選択に、やっぱりな、とファンは声を上げた。

 

 天皇賞。

 日本競馬でも長い伝統と歴史を誇る競走であり、その歴史は明治まで遡るとされている*2

 現在でも古馬競走の最高峰と呼ばれ、基本的にはこの天皇賞を目標にする陣営が多い。

 

 長距離で覇を競う春の天皇賞。

 中距離で覇を競う秋の天皇賞。

 年に2回、天皇賞は開催されている。

 

 何故やっぱりなのか? それは、シャーロックがメジロの競走馬だからである。

 

 メジロは天皇賞を特に重要視している。

 時にはダービー以上に大事なレースと位置づけ、天皇賞を勝つことが重要であると断言するほど。

 メジロの馬は、古馬になれば天皇賞出走は当然。ファンの間でもそう認識されていた。

 

 なので、メジロシャーロックの春天出走は既定路線なのである。

 

「春の大目標に春の天皇賞。秋の大目標に秋の天皇賞。天皇賞春秋連覇を目標に、メジロシャーロックは走る予定です」

 

 天皇賞を重要視しているので、秋天の方も出走が確実。

 喜多野オーナーが考えている構想は、メジロシャーロックの天皇賞春秋連覇だった。

 

 これまでに3頭の馬が記録を達成。

 タマモクロス、スペシャルウィーク、テイエムオペラオー。

 ちょっと条件は違うが、スーパークリークも達成済み*3

 これまでの歴史で、4頭しか達成していない偉業である。

 

 そんな偉業に、メジロシャーロックは挑もうとしている。

 

「父であるメジロマックイーンが成し遂げられなかった偉業を、息子で叶える。康夫調教師にも了承は貰っております」

 

 期待に胸を膨らませるファンだった。

 

 とはいえ、それ以外は目立った情報はないか、と少しだけ落胆する気持ちがあるのも事実。

 秋の天皇賞出走が確実、ということは、凱旋門賞の出走はないも同然。

 

(凱旋門賞出走、ちょっと期待してたんだけどな~)

 

 なんて考えるファンも少なくない。

 

 それに、先んじて喜多野オーナーから宣言された。

 

「凱旋門賞の出走はありません。重要なのは秋の天皇賞ですから」

 

 出る気はない、と。

 

 残念だ。メジロシャーロックほどの馬が凱旋門賞に出ない。

 その情報は、落胆するには十分すぎるものだった。

 

 だがその落胆は、次の瞬間一気に吹っ飛ぶ。

 

「ですが、夏に海外遠征を予定しております。宝塚記念は狙わず、夏は海外に遠征するつもりです」

「っは?」

 

 素っ頓狂な声を上げるインタビュアー。

 それも仕方ない。海外遠征しないと思っていたところに、海外遠征の情報が飛び込んできたのだから。

 

 数秒の沈黙。

 インタビュアーの言葉を待つ喜多野オーナーだが、言葉がなかったので無視して目標を語る。

 

「春の天皇賞出走後、メジロシャーロックは遠征をおこなう予定です。出走するレースは2つ、エクリプスステークスとキングジョージ6世&クイーンエリザベス・ダイヤモンドステークス*4。この2つを予定しています」

 

 海外で走るレースはどちらもG1。日本馬の勝利がないレースだ。

 

 ここで、メジロシャーロックのローテについてまとめよう。

 阪神大賞典に出走した後、春の天皇賞に出走。その後海外遠征を行い、エクリプスステークスとキングジョージを走る。

 海外で2戦走った後は日本へと帰国。レースを1つ叩いた後、本命の秋の天皇賞へ赴く。

 その後は体調と相談しつつ、ジャパンカップへ。年内最後は有馬記念を予定。

 

 これが喜多野裕二から明かされた、メジロシャーロックの1年のローテだ。

 

「かねてより考えてはおりました。メジロシャーロックの強さならば、海外でも通用すると。しかし、凱旋門賞は秋の天皇賞との兼ね合いから難しい」

 

 まだ絶句して固まっているインタビュアーを無視して、思いの丈を語る。

 

「ならば、夏に海外へ羽ばたこうと思いました。特に、キングジョージはイギリス最高峰のレース。歴史と伝統、栄誉のあるレースです」

 

 ここまで口にしたところで、ようやく記者達は正気に戻った。

 動揺。ざわめきはが広がり、しまいには雪崩れ込むように喜多野オーナーへとマイクを向ける。

 

「め、メジロシャーロックの海外遠征ですかぁ!? そそ、それは一体、いつから!?」

「三冠を達成した時点なので、構想自体は去年からありました。康夫調教師も、シャーロックならば向こうで通用すると太鼓判を押しています」

「向こうでの騎手は! 誰が乗る予定でしょうか!」

「岳騎手で継続です。岳騎手からも、色よい返事が聞けています」

 

 矢継ぎ早に出てくる質問。その全てをいなす喜多野オーナー。

 結局、元の時間をオーバーしてしまう事態に。

 

「失礼ですが、今日はこの辺りで。もう時間を過ぎていますし、私も次の予定がありますから」

「あぁ、そんな! もっとお話をー!」

「喜多野オーナー! メジロシャーロックの今後について話をー!」

 

 最終的に、インタビューを無理やり切り上げて終わることとなった。

 最後まで食い下がろうとする記者達だったが、警備に阻まれ撤退。

 ならばせめてと、記事にして国民に報せることにした。

 

 反響はというと。

 

「か、か、か、海外遠征やと~!? しかも、キングジョージィ!?」

「……凱旋門賞とどっちが凄いんだ?」

「同じくらいじゃないか? どっちみち、日本馬勝ったことないし」

 

 新規のファンには、キングジョージの凄さがいまいち伝わってない。

 近年でエアシャカールが挑んだレースでもあるのだが、日本と言えば凱旋門賞、という意識が強い。

 魅力があんまり分かっていないファンが多かった。

 

 とはいえ、海外遠征自体は大賛成。

 

「日本は世界と比べて劣ってる、ってのが認識だからなぁ。これを機に、日本の馬は強いってことを世界に伝えてほしいよ」

「う~ん、さすがに渡航費が……パスポートの申請もあるし、厳しいなぁ」

「有給申請、するか」

 

 活躍を心待ちにしているファンが多かった。

 海外と比べて、日本はまだ格が落ちている、と思っているファンは多い。

 エルコンドルパサーが凱旋門賞の2着でも、タイキシャトルやシーキングザパールが海外の大レースを制しても、答えは同じだ。

 

 日本はまだ海外の馬に敵わない。その意識が根付いている。

 その意識を、メジロシャーロックならば変えてくれる。

 そう思うファンは大勢いた。

 

「メジロシャーロックなら勝てる! 海外の一流馬相手にも後れは取らねぇ!」

「あぁ、そうだな。メジロシャーロックならやれる!」

「まずは春天だな。頑張れよメジロシャーロック!」

 

 古馬一年目。期待がますます高まるメジロシャーロックだった。

*1
みなさんご存じ牝馬のやべーやつ。ダービー・オークス・菊花賞の変則三冠馬

*2
天皇賞の前身である帝室御賞典(昭和12年)、のさらに前身のエンペラーズカップ(明治38年)が起源だとか

*3
スーパークリークは秋→春で連覇。同年ではない

*4
現在はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス




うおおお!春天→エクリプスステークス→キングジョージ→秋天→ジャパンカップゥゥゥ!あ、次回新しい調教相手の子が出るかもしれません。誰かはお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。