オルにはいたく気に入っているウマ娘がいる。
「ノクターン。私と共にせよ。昼の時間である」
「畏まりました、オルフェーヴル様。不肖メジロノクターン、お供いたします」
メジロノクターン。名前から察せる通り、メジロのウマ娘ですね。
葦毛のショートカットに四角の眼鏡。知性を感じさせる風貌、出来る秘書、といったところでしょうか?
身長はオルには及びませんが、150の後半はある。
少なくとも、私より大きいことは確かですね。左耳飾りの星と月のアクセサリーが今日も輝いています。
2人はどうやら食事に行くようだ。
ともすれば、私のすべきことは席の確保。
2人よりも先に学食へと向かい、安心した食事ができるように
「姉上。姉上も共にせよ。姉上の力が必要だからな」
「ドリームジャーニー様も、よろしければ我々と共に。お願いいたします」
おやおや、私も誘われたようだ。
フフ、オルとノクターンさんの誘いを断るわけにはいかないね。
「私でいいなら、お前たちと食事を共にしよう。そうだね、なら遠征支援委員会の部屋を使おうか。ご飯に関しては心配しなくてもいい。ちゃんと、用意してあるからね」
「分かった。では、疾く向かうとしよう」
「はい。迅速に行動しましょう」
3人で食事を摂る。何物にも代えがたい、貴重な時間だ。
ノクターンさんとの付き合いは長い。
元々はオルが見初めて知り合ったのが最初だったね。
初対面から物腰の柔らかい、丁寧な方でした。
「メジロノクターンと申します。中等部でまだまだ至らぬ身ではありますが、オルフェーヴル様のサポートをしたいと考えています」
「姉上。この者を臣下に加える。中々に面白い」
もっとも、一番気になったのはオルとの距離感ですが。
珍しく、オルの方から距離を詰めていた。
連れてきたのもオルの方。他の臣下の方々はオルの輝きに魅せられてなのに、ノクターンさんはオル直々に臣下に加え入れた。
当然、気になります。彼女が何者なのか?
(メジロ、という名前から察することができますね。あのメジロ家ですから)
名門メジロ家。その名を知らぬウマ娘はいないでしょう。
とても有名で、アネゴも度々足を踏み入れているそうですから。
ですが、いかな名門とはいえども、オルに害を与えるのであれば容赦はしない。
あの子の輝きを曇らせるような真似は、たとえメジロであっても許しません。
そう思い至った私は、素性を調べることにしました。
彼女、メジロノクターンの正体を暴くために。
結論から言うと、特に後ろ暗いものは見つからず。
「オルフェーヴル様。今日のトレーニングメニューでございます」
「いいだろう。では、貴様も共に来い」
「喜んで。オルフェーヴル様の御心のままに」
むしろオルが気を許し、ノクターンさん自身もまんざらでもないご様子から、野暮だったと後悔するほどでした。
(オル。気の置ける友人ができたようで私は嬉しいよ)
思わずほろりと、涙が流れてしまいました。
それに、ノクターンさん自身も好ましいお方だ。
「ドリームジャーニー様。こちら、オルフェーヴル様のメニューを更新したものになります。改善案のほどを」
「拝見するよ……素晴らしい。相変わらず、非の打ち所がない完璧な仕事だ。私から指摘する点はありませんね」
「ありがとうございます。では、今後のメニューはこのように」
常に研鑽を怠らず、目を光らせている。
それは、オルだけではありません。
「ドリームジャーニー様。もしかして、体調が優れないのではないでしょうか? 顔色の方が少しばかり」
「……よく気づきましたね。けれど、大丈夫ですよ。この程度、活動に何ら支障は」
「いけません。ドリームジャーニー様が倒れてしまえば、オルフェーヴル様が悲しみます。なにより、私も悲しい気持ちになります。どうか、ご自愛くださいませ」
私の方にも、彼女は優しさを向けてくれる。
「臣下の皆様。今日は私の方からトレーニングのご指導を。私からの改善点を述べさせてもらいます」
「ありがたき幸せです、ノクターンさん!」
「で、ですが、あまりキツい言葉は、ちょっとっ」
「お気になさらず。私が好きにやっていることですので。それと、容赦はしません。これも全て、強くなるためですから」
無論、臣下の方々にも、ね。
総じて、メジロノクターンというウマ娘は大変好ましい人物です。
優しくも厳しく。スパルタでありながら気配りを忘れない。
あぁいう方が、とても良いお嫁さんになるのかもしれませんね。
……そんなノクターンさんですが。
やはり彼女にもプライベートな時間がある。
優先すべき何かが。それこそ、オルよりも優先すべき事項が。
これは、そんな日のこと。
◇
遠征支援委員会のソファ。オルのためにと、極上の物を用意したソファでオルは寝転がっている。
ですがその顔は不機嫌そのもの。
「……姉上。ノクターンはどこにいる?」
理由は簡単。ノクターンさんがいないことでしょう。
オルとノクターンさんは一緒にいることが多い。
高等部と中等部という垣根がありますが、ほぼ一緒です。
授業が終われば、ノクターンさんは即座にオルの待つ教室へ。
オルの手を取り、付き人のように食事を共にする。
それがいつもの光景でした。
ですが今日は違った。
お昼時になっても、ノクターンさんは現れなかった。
いつもなら来る時間になっても、彼女は一向に現れませんでした。
(珍しい。連絡の一つもなく来ないとは)
もしかして、彼女の身に何かがあった?
オルの元に来れないような何か……緊急性、事件性のあることが?
となれば、こうしてはいられない。
「私にも連絡は来ていないみたいだ。私が探しに行ってこよう。オルはここで」
「余も行く」
すぐに探しに行こう、と思った時のこと。
オルはソファから立ち上がり、不機嫌さを隠そうともせずに扉に手をかけた。
「ノクターンめ。此度の不敬、どうしてくれようか?」
どうやら、ノクターンさんがいないことがよほど腹に据えかねているらしい。
微笑ましいものを感じてしまうが、それは後だ。
「まぁまぁオル。ノクターンさんにも事情があるんだろう。そう怒るものじゃないよ」
「だとしても、だ。一言言ってやらねば気が済まぬ」
「そうか。では、急いで探すとしよう。幸いにも、心当たりはあるからね」
ノクターンさんの行方を知る人物。
その人物に接触しましょうか。
目当ての人物は、中等部の廊下を歩いているとすぐに見つけられました。
「失礼。少々お時間よろしいでしょうか? フェルマータさん」
「あら、ドリームジャーニーさんじゃありませんの」
メジロフェルマータ。ノクターンさんと同じ、メジロのウマ娘。
彼女はノクターンさんと仲が良い。
手がかりの1つや2つ、握っているかもしれません。
まずは交渉をする、前にオルが私とフェルマータさんの間に割り込み。
「ノクターンはどこにいる? 貴様ならば、彼奴の居場所が分かるであろう?」
怒気を孕んだ瞳で凄みながら、フェルマータさんを見据えていました。
ですが、フェルマータさんは少しも怖気づいていません。
堂々と、きっぱりと。
「ノクターンさんですか? でしたらシャーロック様のところですわ~!」
あっさりと。教えてくださいました。
シャーロックさん、ですか。
「……メジロシャーロックのところだと? 何故だ?」
「それは当然、シャーロック様の下で学ぶためですわ~! シャーロック様のことは全てにおいて優先されますもの! ノクターンとて例外ではありませんわ~!」
そうとなれば、ノクターンさんが来なかったのにも合点がいきますね。
学園でも特に有名なメジロの方です。
メジロのほとんどが彼女を慕っていると言われるほどのカリスマ。
卓越したレースセンスに、神のように慈悲深きお方、などと言われている。
オルも、この前併走をしたそうです。
結果は……ここで語るべきではありませんね。
出てきた名前に、オルは渋面を作っている。
どうしたものか。悩んでいるんだね。
心配はいらないよ。私が何とかしよう。
「そうですか。では、そのシャーロックさんがどこにいるか教えていただけますか?」
そう聞くと、フェルマータさんは目を輝かせます。
よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに。
「構いませんわ! ジャーニーさん達も、シャーロック様の素晴らしさが理解できましたのね!」
いえ、そういうわけではありませんが……突っ込むだけ野暮でしょう。
彼女、いつでもこんな感じですし。
「シャーロック様は視聴覚室にいますわ。ノクターンも一緒にいることは確実ですわね!」
快く教えてもらった場所は視聴覚室。そこにノクターンさんもいる、と。
「ありがとうございます。このお礼はどこかで必ず。それじゃあオル、行こうか」
「あぁ。早急に向かうとするぞ、姉上」
場所を聞いて、視聴覚室へと向かう私達。
オルの歩みからは焦りを感じる。一刻も早く事情を聞きたいのだろう。
一秒でも早く。その一心で、オルと一緒に視聴覚室へと向かった。
視聴覚室の扉に手をかけ、開けた先には。
「あら? お客様でしょうか?」
「……オルフェーヴル、様」
フェルマータさんの仰っていたように、シャーロックさんとノクターンさんがいました。
不思議そうな顔をしているシャーロックさん。バツが悪そうに、こちらを見ているノクターンさん。
あんな表情を浮かべる、ということは。
(我々になにか後ろめたさを感じている、ということでしょう)
理由は分かりませんが、オルを蔑ろにしたことを後悔している。
そんな気持ちが彼女にある。
ですが、オルはお構いなしに距離を詰めます。
ノクターンさんの前に立ち、耳を絞って、問い詰めようとしている。
「何故、今日は私の下に来なかった?」
「……申し訳、ありません。オルフェーヴル様」
謝罪の言葉。しかし、それで気が済むほど、オルの怒りは安くない。
「いつもならば私の下に足を運び、姉上や臣下と共に食事をする。貴様がしていた、いつものルーティーンだ」
「……はい。本日もまた、そのようにする手筈でした」
「ならば何故来なかった? 何故、私の下に来なかった?」
睨まれているノクターンさんは委縮している。
罰を受ける咎人。これは仕方のないことだと、受け入れている。
シャーロックさんは……読めませんね。いまだに不思議そうな顔をしています。どういう感情なのでしょうか?
無言の空間。オルの怒気が張り詰めるこの空間は、常人ならば逃げ出すほどの圧で包まれている。
「何故口を閉ざしている? よもや……余には言えぬとでもいうのか?」
「そ、そのようなことは決して! た、ただ、そのぅ……」
おや? 空気が変わりましたね。
先ほどまでの張り詰めた空気が一変して、どことなく甘酸っぱい匂いがするような。
顔を赤くするノクターンさん。彼女の代わりに口を開いたのは──シャーロックさんでした。
「申し訳ありません、オルフェさん。どうか、ノクターンさんを叱らないであげてください」
「……何故だ? 余と食事を共にしなかった理由を話さない限り、断じて許さんぞ」
オルの怒気をものともせず、シャーロックさんは。
「実はノクターンさん、オルフェさんのためにと、僕のところにきて追込の理論を聞きに来てたんです。正確には僕じゃなくて、ロックなんですけど」
「……は?」
「つまりは、オルフェさんのためですね」
なんでもないように、そう口にしました。
……つまり、事の真相は。
「オルのために追込理論をシャーロックさんに聞きに来て」
「その時間が、思いの外かかってしまったが故」
「気づけば夢中になって、オルの下へ足を運ぶのを忘れていた……というわけですか? ノクターンさん」
ノクターンさんが時間に気づかなかった、ということですか。
我々の指摘に、顔を真っ赤にしているノクターンさん。
なんとも可愛らしい反応ですが、当人からすれば恥ずかしくて仕方ないでしょう。
いつものことを、凡ミスで忘れてしまったのですから。
「あ、あまりにも素晴らしく的確な理論だったので。これは一言一句聞き逃さず、オルフェーヴル様のためにと聞いていたら」
「僕もつい語りすぎてしまいました。反省ですね」
さすがのオルもこれには毒気を抜かれたというか。呆気にとられた表情をしています。そんな表情も可愛いよ、オル。
「……つまりは、別にワザとではないと。私を見限ったわけではないと。そう言いたいのか?」
そう口にした瞬間、ノクターンさんは凄い剣幕でオルに迫ります。
「私がオルフェーヴル様を見限るなど、絶対にありえません! そう、決して!」
おやおや、妬けてしまうね。シャーロックさんも、微笑ましいものを見る目をしているよ。
まぁ、何はともあれ。
「……申し訳ございませんでした、オルフェーヴル様。以後、気をつけます」
「気にする必要はない。全ては余のためを思って行動したこと。咎める必要がどこにある? むしろ貴様の忠心を疑った余の不手際である。許せ、ノクターン」
これにて一件落着、ですか。
「失礼しました、シャーロックさん。急に乗り込んできてしまって」
「いえいえ、賑やかで退屈しませんでしたよ。楽しかったです」
にこやかな笑顔で対応するシャーロックさん。
成程、器も大きいようです。メジロの方々が魅了されるのも分かりますね。
「では、行くぞノクターン。共に来い」
「はい! オルフェーヴル様! それではシャーロック様、これで失礼します。貴重な機会、ありがとうございました」
「構いませんよ。僕はロックに言われたことをそのまま話しただけですので」
用件は済みました。部屋を退出し、ノクターンさんと食事といきましょう。
……それにしても、妙だ。
(私の記憶が確かならば、シャーロックさんは逃げで走る方だったはず。何故、追込の理論を?)
真逆の逃げで走るシャーロックさんが、ノクターンさんが夢中になるほどの追込理論を展開していた。
別におかしいことではありませんが、どこか引っかかります。
「……今度、聞いてみるとしましょうか。私も、その理論とやらを」
考えても答えは出ません。なら、優先順位をつけましょう。
オルたちと食事を。ふふ、楽しみだ。
◇
日が沈んだトレセン学園。
「~♪で? 何の用だ? ステゴ」
一人のウマ娘が、ヴァイオリンを奏で。
「~♪いやなに、今日はオルが迷惑をかけたそうだからな。そのお詫びみたいなものさ」
「迷惑も何も、こっちとしちゃ尊いもんが見れたからお釣りが来るけどな」
もう一人のウマ娘が、ハーモニカを奏でる。
いつもの二重奏。メジロシャーロックとステイゴールドの演奏だ。
示し合わせたわけじゃない。約束をしていたわけじゃない。
偶然のように出会い、必然のように奏でる。
この2人にとっては、いつものことだった。
「私にもぜひ聞かせてくれよ、あんたの追込理論。凄いって聞いているからさ」
「別に構わん。秘密にするほど大層なもんでもないしな。ま、もう時間がねぇからここじゃ語れねぇけど」
気さくな関係。
友達、親友。そんな言葉が似合うほどの関係性。
話も二転三転。関係のない話題を次から次へと。
規則性のない会話を、2人は楽しんでいた。
ステイゴールドは、メジロシャーロックへと問いかける。
「この前の併走の件だが、あの時に思ったんだ。あんた、世界を見てきただろ?」
「……その心は?」
興味深そうに見つめるシャーロック。
ステイゴールドはあっけらかんとしていた。
「圧が尋常じゃなかった。後はそうだな……直感?」
「それ実質直感だよりじゃねぇか。信用なくね?」
「おいおい、バカにしないでくれよ? 私の直感は当たるんだ。福引でにんじんハンバーグを当てるくらいの確率だな」
「結構低いじゃねぇかそれ。まぁ世界を見てきた、ってのは間違ってないが」
特に隠すことなく答えるシャーロック。
教えても構わない。秘密にするようなことでもない。
そんな感情が透けて見えた。
だが、ステイゴールドは特に驚かない。
続けざまに質問を飛ばす。
「へぇ。いくつ回ったんだ? ちなみに私は2つだ」
「知ってるよ。ドバイと香港だろ?」
「なんだ知ってるのか。もしかして、私のファンか?」
「お前の海外戦が劇的すぎるだけだ。ファンは間違ってないけどな」
どれだけの国を回ったのか。何気ないその質問を。
メジロシャーロックは──答えた。
「3つ。俺は3つだ」
「へぇ、随分と回ってるんだな」
「まぁな。どこかは教えねぇけど」
「ケチ臭いなぁ。そこは教えるところだろ?」
「バーカ。秘密ってのは多いほど良い女っぽさが出るだろ? 知らんけど」
他愛のない会話。世間話のような会話は、栗東寮の門限ギリギリまで続いた。
メジロノクターン 身長は150後半。葦毛のショートカットでスリーサイズは普通より。四角い眼鏡をかけているメガネっ子。できる子とか秘書感がある。体操服はブルマ。
今回のオルフェは大体こんな感じ
お気にの子を連れてきた余、姉上とも仲良くしてくれるみたいで嬉しい余。
→お昼も一緒に食べる余。あれ?今日はノクターン来てくれない余。
→なにかあったのかな?心配だ余。とにかく誰かに聞いてみる余。
→え?シャーロックのところにいる?やだやだ!ノクターン取っちゃやだ余!
→勘違い?余のため?やっぱりノクターンは最高だ余!
こんな感じ。