親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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競走馬編は5話書いた後1話ウマ娘編を挟もうかと思っています。短編的なお話を。


ウマ娘編 メジロの不思議な子

 競走馬として活躍すればウマ娘になれる。

 活躍できなかったとしても、もしかしたらワンチャン転生できるかもしれない。

 

 別に思わなかったわけじゃないさ。俺はメジロ家の馬、ウマ娘になれば画面越しに見ていた推しが現実に! なんて考えはした。

 マックイーンやラモーヌに会えるのか。ライアンやパーマー、ブライトにドーベル、アルダンをお姉さまと呼び慕う日が来るのか。なんて思ってた。

 

 けどさ、この状況はさすがにどうかと思うよ。

 何年経とうが慣れる気がしない。

 

「レースとは芸術。その時その場で様々な顔を覗かせる。同じ表情は二度とない。故に美しく、とても素晴らしいものだと、僕は思うんです、ロック」

〈あーはいはい。それもう何百回も聞いたよシャロ。レースは芸術、素晴らしいスバラシイ〉

「ふふ、素晴らしさを分かってくれて何よりです、ロック」

 

 俺を基にしたウマ娘に憑依する形で転生する、なんてよ。

 

 すんごいややこしいのだが、今話しているコイツはメジロシャーロック。俺はシャロと呼んでいる。

 で、俺は前世競走馬だったメジロシャーロック。コイツやみんなからはロックと呼ばれている。

 どっちも同じメジロシャーロック。私が2人~!? とか私が私を見つめてましたとか、そんなもんじゃ済まない。

 ガチで俺が2人いる、って感じだ。俺憑依しているだけの幽霊だけど。

 

 まぁそれは良いんだよ。マンハッタンカフェのオトモダチとかそんな概念と思っときゃいいから。

 問題なのは。

 

「完成された芸術を愛でるのもよろしいかもしれません。ですが、未完成な芸術を眺めるのもまた良いものです」

〈あーそうだな。カップ麺を3分じゃなくて2分で食いたいときとかあるもんな〉

「かっぷめん? 同じ条件でも違う顔を覗かせる時がある。そんなレースが、僕は堪らなく好きなんです。ロックなら分かってくれますよね?」

 

 俺がなんでこんな不思議ちゃんみたいに出力されたんだよ、ってことだ。

 え? 俺開発とか関係者からこんなキャラだと思われてたの? 心外にもほどがあるんだが。

 

(なんでよりによって言葉が強い姉様側に出力したんだよ。父親なんだからマックイーン側に出力しろよ)

 

 オグリキャップ側でもよかっただろ血統的な面なら。なんでラモーヌ側になったんだよ。

 おかげでレースは芸術とか言い出すし。向かってくる相手大歓迎の子だし。

 話すウマ娘から大体頭に疑問符つけられるし。ちょっと避けられている節すらあるからな俺。

 

 極めつけは、これだ。

 

「とりわけ一生懸命な、僕に向かってくれる顔は堪らなく愛おしい。負けたくない、勝ちたい……レースにかける思いを一身に浴びて、僕はより強く力を発揮できる。彼女達の熱が、執念が。僕をより高みへと至らせてくれます」

〈可愛い可愛い。あ、このスコーン美味いな。爺やさんに頼んでまた用意してもらって〉

「なにか、返事が適当になってませんか?」

 

 ナチュラルに自分が勝者側だと思っているなコイツな。いっそのこと怖いわ。

 これはアレだ。一生懸命走ってくる姿は可愛いな~愛らしいな~。じゃ、僕の手で摘み取りますね、って言ってるようなもんだ。

 自分が負けることなんて一切考慮していない。勝って当然、みたいな思考をしている。

 俺の考えすぎかもしれんがな。

 

 シャロの何十回目となるレース観を適当に聞き流していると、客が来た。

 

「私もご一緒してよろしいでしょうか? シャロさん」

「マックイーンさん。どうぞ、僕は構いません。ロックも、構わないでしょう?」

〈マックイーンきたぁぁぁ! いつ見ても美しい……っ! まさしくメジロの最高傑作! ターフの名優!〉

「……ロックも良いと言っているみたいです。どうぞ」

 

 最推しのメジロマックイーンである。ヤバい、感激で涙が出そう。

 

 画面越しでも美しかったが、直接対面すると更に際立つ。

 いや、もう人間国宝だろこんなん。後世に語り継がれるべき美しさだわ。

 拝んどこ。どうせマックイーンには見えてないし、何しようが自由だ。

 

「ロック、マックイーンさんを拝んでどうしたのですか?」

「え、拝まれているのですか私!?」

「はい。それはもう熱心に」

 

 やめろばらすんじゃねぇシャロ。俺が愉快な奴だと思われるだろうが。

 

 いや~それにしても。

 

(大分顔が似てるよな、シャロとマックイーン。この辺はやっぱり史実親子だからか)

 

 シャロと俺は瓜二つだ。身長体重スリーサイズ、顔も寸分の狂いもなくそっくりである。

 シャロがマックイーンに似ているということは、俺も似ているということ。

 これは下手なことできんな。するつもりもないけど。

 

 ……まぁ、似てないところもあるわけで。

 

「そ、それで、その、シャロさん。1つ伺いたいことがあるのですが」

「マックイーンさんの頼みとあらば、喜んで力をお貸ししましょう。一体、どのようなことでしょうか?」

「……しゃ、シャロさんのようなスタイルになるには、どうすればよろしいんですの!?」

 

 それが体型の部分である。

 

 正反対レベルで違う。マックイーンは、マックイーンは均整の取れた肉体をしているので、いたるところが引き締まっている。

 対する俺はというと、ボンっ! キュっ! ボンっ! だ。この前測った時も、胸が大きくなっていた。

 

(胸で下が見えない、ってのを自分で体験することになるとは思わなんだ。マジであるんだなそういうこと)

 

 成長しすぎだろ。これで高身長なんだから言うことない。

 

 やっぱり同性からしたら羨ましいもの、なのだろうか? あいにくと俺は単純なので、デッケー! スッゲー! ぐらいにしか思わんのだが。

 

「お願いします! どうか秘訣を教えてくださいまし!」

 

 ここまで必死に頼み込んでくるから、察するとこはあるけど。

 

 シャロは、苦笑いだ。なんと言えばいいんでしょう? みたいに考えている。

 

(その、ロック? なんて言えばいいのでしょうか?)

(俺に聞くな。俺に聞かれても分からん)

(僕も分かりませんので、なんとアドバイスすればよいのかが分からないのです)

 

 なんなら俺に聞いてきた。俺達は体を共有しているので、思考も共有できるのである。原理は気にするな。

 つっても、俺に話を向けられてもな。

 答えはシャロと一緒だ。聞かれたところで分からん。なんて言えばいいのか。

 

 それでも、やっちゃいけないことだけは分かる。

 

(とりあえず、今のマックイーンさんも十分素敵ですよ、はやめとけ。本人からしても望んでない答えだ)

(や、やっぱり、ですか?)

(あぁ。こうして恥を忍んで聞きに来てんだ。んな言葉聞きに来てんじゃねぇんだよこっちは、って思われるぞ)

 

 下手な慰めだ。これだけはアカン、って俺でも分かる。

 だからまぁ、アドバイスをするしかない。なんて言うべきか。

 

(そうだなぁ……僕とマックイーンさんは似てますし、いずれはマックイーンさんも同じように成長しますよ、とでも言えばいい。未来に希望を持たせるんだ)

(分かりました。それでいきましょう)

(相変わらず俺の言葉に即決するなお前)

(だって、ロックですから。ロックのこと、僕はとても信頼していますので)

 

 勘弁してほしい。ニッコリスマイルで俺を見ないで欲しい。

 

 脳内会議が終わった俺達は、不安そうにこっちをチラチラとみているマックイーンを見る。

 

「マックイーンさんはこれからですよ。きっと、これから成長します」

「ほ、本当でしょうか?」

「えぇ。マックイーンさんはまだ中等部ではありませんか。成長する余地を残しています」

 

 ちなみに俺達は高等部である。

 父親であるメジロマックイーンは中等部なのに、息子である俺ことメジロシャーロックは高等部である。

 時空がおかしくなってね? どうなってんだよ。

 いや、年下のママとかいるし、マックイーンも高等部のライスがライバルだからな。そんなこともあるだろう。

 

「規則正しい生活を心がけ、栄養をしっかりと摂れば、自ずと成長します。僕がそうなのですから」

 

 年下の父親……宇宙の法則が乱れるな。ウマ娘世界だから父親じゃないし、なんなら母親ですらないけど。

 

 

 なんて、アドバイスをしていると。

 

「あら、マックイーンに……シャロ。どんなお話をしていたのかしら?」

 

 ラモーヌが出てきた。うおっ、すっげぇ美人。

 

 優雅に微笑んでシャロの方を見ている。何しても絵になるなこの人。いつものことながら。

 シャロの方も嬉しそうだ。マックイーンだけでも嬉しいのに、ラモーヌまで来たんだからな。そりゃ嬉しくもなる。

 メジロ家の中でも、特に仲の良い2人だ。シャロもこの2人には懐いている。

 史実で特に縁が深い2人。片や父親、片や母親代わり。それも当然か。

 

「マックイーンさんに、少しアドバイスをしておりました。そうだ! ラモーヌさんからもアドバイスをしていただけないでしょうか?」

「え、は!? あの、シャロさん?」

「あら、面白そうね。マックイーンはシャロに、どんな相談をしていたのかしら?」

 

 こうして、3人でのお茶会が始まった。突発的なメジロのお茶会、か。話題はアレだけど。

 終始ニコニコしていたシャロ。俺としても満足度の高いものだった。

 

(いや、マックイーンもだしラモーヌとお茶会出来るんだから限界突破してるわ。こんな空気吸えるとか最高か? 最高だよ)

(時々シャロは訳の分からないことを言いますね)

 

 お茶会楽しいな~!

 

 

 あ、そうだ。

 

(シャロ。お前お風呂に入る時は必ず言えよ? 俺は万が一でも見ないように、奥底に沈んでおくから)

 

 大切なことを言っておかないとな。前これを言い忘れて大変な目に遭ったから。

 

 シャロは、変なものを見る目だ。何言ってるかわけ分からん、みたいな。

 悪いがこれは死活問題なんだよ。

 

(この前言わなかったこと、まだ根に持っているんですか? そもそも、同性なんだから気にすることじゃないですよね?)

(うるせぇ! 俺は気にするんだよ! エッチなのはダメ! 死刑!)

(同じウマ娘なのに破廉恥も何もないと思うのですけど……)

 

 は、は、は、裸なんか見てたまるか! そんなの、俺は絶対に許さんしするわけにはいかんぞ!

 

 

 

 

 

 

 風呂上がりの夜。なんかお高い豪邸にあるバルコニーみたいなとこ。

 今の俺は幽霊のように浮いている、のではなく。人間のように動いている。

 シャロの体を使って、バルコニーへと来ていた。

 

 実は俺、こういうこともできる。シャロの体を使って、俺自身が動くことも可能だ。幽霊じゃなく、生身のウマ娘のように。

 ただ、制約はある。シャロが寝ている時もしくはシャロが許可する場合に限られている。

 この状態のシャロは、お風呂に入る時の俺と同じように奥底に沈んでいる。

 俺がなにをやっているのか、シャロには分からないわけだ。

 

 ここでやることは1つだ。

 

「……さて、と」

 

 肩にかけていた黒のケース。ロックを開け、あるものを中から取り出す。

 取り出したのはヴァイオリン。弓を手に取って、構える。

 

「……」

 

 始まるのはたった一人の演奏会。誰に捧げるわけでもない、自分一人に聞かせるための演奏だ。

 ヴァイオリンの音は良い。どうしてか心地良く聞こえる。

 

(不思議なもんだ。この音色が、この演奏が。とても)

 

 周りの音が聞こえなくなるような感覚。とてもよく聞こえるウマ娘の聴覚だろうと、聞こえてくるのは自分が奏でるヴァイオリンの音だけ。

 さっきまでの草木が揺れる音も、鳴いている虫の音色も。何もかもを遮断して。

 奏でる。ヴァイオリンを、自分の音を。

 

 落ち着く。この時間が永遠に続いても構わない。

 ただ、ヴァイオリンを奏でる。誰にも聞かれていない、俺だけの演奏会を。

 

 なんて、思ってたんだけどな。

 

「~~~♪」

(……きたか)

 

 ハーモニカの音が混ざる。俺だけしかいなかった音の世界に、誰かが介入してきた。

 ヴァイオリンの音に合わせるように、そいつは奏でる。

 見事な腕前、というにはどこか拙さが残る。プロのような演奏ではない。

 それでも感情は伝わってくる。今はただ、この時間を楽しみたいと。

 

 ヴァイオリンとハーモニカ。全く異なる2つの楽器によるデュオ。

 それがいつまで続くのか? いつこの二重奏は終わるのか?

 小鳥が眠りそうになっている。気持ちよさそうに頭を傾けている。

 そんなことも気にしないほど、俺達は奏でた。

 

 始まりが突然だったように、終わりも突然。

 ヴァイオリンを奏でる音を止め、溜息と一緒に音の正体を探る。

 

「──で? 何の用だ、ステイゴールドさんよ」

「なんだ。分かってたのか、シャーロック」

「俺の知り合いで、ハーモニカを演奏できるのはお前だけだ。そして、お前はよく俺の演奏に割り込んでくるだろ」

 

 いや、もう誰かなんて知っている。

 ハーモニカの音がした方に視線を向けるとそいつはいた。

 ステイゴールド。小柄なウマ娘が、ハーモニカ片手にこっちへと。

 当然とばかりに、俺の方へと歩み寄ってきた。

 

「悪いね。あんたの演奏を聴いているとつい奏でたくなる。あまりにも見事な腕だからな」

「俺の演奏はプロ級じゃねぇけどな。ま、そう言ってもらえるんだったら嬉しいね」

「あんたの腕でプロ級じゃなかったら、世のヴァイオリン奏者の大半は廃業だな」

 

 バルコニーにあるお茶会用のテーブルとイス。

 示し合わせたわけじゃない。いつものように、向かい合って座る。

 

 お茶もお茶菓子もない。そもそもお茶会じゃないしな。

 

「で、何しに来たんだ? お前に会いたい子なら、今頃部屋の中でぐっすりだぞ」

「私が会いに来たのはあんただ。今更だろ? シャーロック」

 

 いつもの問答。十年来の親友みたいにラフな対応。

 

「相変わらず、なんで俺のことが気になるのかね? そこまで縁深くないだろ。お前が走っていた時代に、俺はいないんだから」

「シャーロックは理解っているだろ? あんたと私には、か細くとも確かな縁があるって」

「……まぁな」

 

 もう、慣れたものだ。

 

 

 とりとめのない会話。10分でも20分でも。いくらでも話せる。

 

「楽しめそうか? あんたの心は今、楽しんでいるか?」

「最高に楽しんでいるさ。推しと会えたんだからな」

「そういう楽しさかよ。まぁいい。いずれ、楽しめるようになるといいな」

 

 どれだけの時間が経過したのかは分からない。気まぐれに現れたステゴは、また気まぐれに去っていく。

 

「じゃーなー。お嬢さんにもよろしく伝えといてくれ」

「あぁ分かったよ。俺の演奏会に客としてくるよう言っておく」

「はは、お嬢さんは意地でも起きそうだな」

 

 手をひらひらとさせて、次の旅へと。

 風来坊はメジロ邸から去っていった。

 

 楽しんでいるか、か。

 

「お前はどこまで見透かしているのやら」

 

 ステゴのことだから全部見透かしている気がしてならんわ。

 ま、いいか。楽しんでいるのは事実だし。推しと会えたことには、な。

 

 ヴァイオリンをケースに片づけて、バルコニーを後にする。

 自分の部屋に戻って、寝ないとな。シャロの体に疲れは残らないとはいえ、夜更かしはお肌の敵だ。

 

 揺れる草木の音を背にして、部屋へと戻る。夜風が気持ちいい演奏だった。




メジロシャーロック

「僕はシャーロック、メジロシャーロック。親しみを込めてシャロとお呼びください」
「俺はシャーロック、メジロシャーロック。気軽にロックと呼んでくれ」

身長:172cm
体重:初歩的
スリーサイズ:B94/W62/H90
所属:栗東寮
学年:高等部

名門メジロ家の葦毛のウマ娘。シャロと呼ばれる礼儀正しくお嬢様のような人格と、ロックと呼ばれる男性のような人格が混在している。

見た目 成長したメジロマックイーンがロングヘアのウルフカットにしている。ナイスバディなので彼女からは羨ましがられている。


年下の父親……? うごご……
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