親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

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感想でも触れましたが、個人的に曇らせは晴らすまでがワンセットだと思っている主義です。


京都大賞典の後に

【盤石の勝利。日本での復帰戦を5馬身差Vメジロシャーロック】

 

10月9日京都競馬場、第11Rの第40回京都大賞典はメジロシャーロック(鞍上:岳寛)が貫録の強さを見せつけて勝利した。2着のリンカーン(鞍上:岳功四郎)に5馬身差を叩きつけている。

 

メジロシャーロックは京都大賞典が日本での復帰戦。海外遠征でエクリプスステークスとキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、2つの大レースを制しての凱旋でレースに出走。

9月22日に育ての母親であったメジロラモーヌを亡くし、天皇賞・春のような影響があるかと心配されていたが、その心配は杞憂に終わる。

 

レースは序盤からビッグゴールド(鞍上:和多)との競り合い。メジロシャーロックとビッグゴールドがペースメーカーとなり、レースは進む。

大きな動きはなく、向こう正面に入った段階でビッグゴールドが先頭を奪った。メジロシャーロックは追走する形になる。

これが他の逃げ馬にはない、メジロシャーロック独自の強さだ。他馬に競りかけられても焦らない、前を走られようが構わない。王者はただ悠然と進むのみ。ビッグゴールドにハナを取られても、全く意に介していなかった。

 

そんなメジロシャーロックは第3コーナーを入る前に進出を開始。ロングスパートを仕掛けて、一気に勝負を決めにかかる。

逃げ粘るビッグゴールドだが、脚色十分のメジロシャーロックを抑えることは叶わず。第4コーナーを回る頃には先頭を交代、今度はメジロシャーロックがレースを支配する番となった。

いや、元からメジロシャーロックがこのレースを支配していたのかもしれない。全ての展開を思うがままに操り、自らが理想とする盤面へと勝負を持ち込んだ。メジロシャーロックが誇る規格外の賢さならば可能である。そう思わせるほどのレースっぷりだ。

 

最後の直線に入ってもメジロシャーロックの先頭は変わらず。むしろ差はどんどん開いていき、最終的にはリンカーンに5馬身差をつけての圧勝を飾った。

終わってみれば王者が盤石の強さを見せつけての優勝。ファンも胸をなでおろしたことだろう。

 

メジロシャーロックの次走は天皇賞・秋。天皇賞春秋連覇に向けて舵を取る予定だ。

父メジロマックイーンが成し遂げられなかった春秋連覇。息子であるメジロシャーロックはどうなるかにも注目が集まる。

 

また、今回の第132回天皇賞は天覧競馬が予定されている。天皇陛下がレースをご観覧なさる予定だ。

戦後初、実に106年ぶりとなる天覧競馬。天皇陛下が見守る中、どのようなレースが展開されるのか?注目したいところだ

 

 

〈レース後陣営のコメント〉

 

岳寛騎手「レースが始まる前は心配でしたけど、冷静にレースを運べました。やっぱり強い子ですね、メジロシャーロックは。

ラップタイムもブレがありませんでしたし、こちらが動き出しを指示する前に自分から動いていた。レースをしっかり理解している証拠です。

次走の天皇賞は天覧競馬ということで、ガラにもなく緊張しています。まぁやるべきことをやるだけですね」

 

生江康夫調教師「不安要素が重なったレースやったけど、最終的には盤石のレースっぷりに安心しましたわ。ホンマに強い馬、隙なんて無いんやないか?と思わずにはいられんす。

次の天皇賞はね、天覧競馬なんで。万全の態勢で臨みたいですわ」

 

喜多野裕二オーナー「安心できるレースっぷりにホッと胸をなでおろしました。ただ、この後しっかりとメンタルケアをしないといけません。ただでさえ我慢してしまう子ですから」

 

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◇

 

 

 

 京都大賞典が終わった時のこと。

 

「ごめんね、シャーロック。君に、メジロラモーヌのことを隠してて」

 

 申し訳なさそうな岳さん達から、ラモーヌさんの死を隠してたことを謝られた。

 誠心誠意、心からの謝罪をされた。

 

 いや、その、うん。

 

(そんな申し訳なさそうにせんでも。気持ちは十分に分かるし)

 

 リョーマの一件があるからそりゃ隠したくもなるだろう、というのが本音だ。

 春天であんなガタガタの走りをしたんだからな。

 ましてや今回は育ての母の死。絶対に同じようなことになる、って俺でも考える。

 対応としては正解だ。

 

 だから、全然怒ってない。

 むしろ俺のことを想って黙っていたのだから、嬉しい気持ちの方が出てくる。

 

 気にする必要はない。そう伝えるために。

 

「わっぷ」

 

 岳さんの顔を舐めてやった。

 なんだかんだこれが一番効果的かもしれん。

 自分怒ってませんよー、信頼してますよー、ってアピールが出来るから。

 

 岳さんだけじゃない。

 康夫さんにも、裕二さんにも同じように。

 俺は怒っていない、康夫さん達は間違ってない。

 そう教えるために、顔を舐め回した。

 

「……はは、怒ってない、か」

「ごめんな、シャーロック。まさか、こっちが励まされるとは思わんかったわ」

「……あまり気に病む必要はない、か。ありがとう、シャーロック」

 

 結果は上々。

 みんな分かってくれたみたいで、徐々に笑顔が戻っていった。

 

 これでよし。

 レースも勝ったわけだし、悲しい表情は似合わない。

 笑顔で帰ろう。勝ったのだから。

 

 

 なんてことがあったレースから数日が経った。

 今は栗東トレセンに帰ってきており、軽めの調整をしている。

 

 軽めの調整が主なので、俺だけでポツンと。

 レース明けだしな。無理することもないし。

 

「おーし、あと一本走って今日はしまいや。軽~く流しで頼むわ成文」

「はい。それじゃあシャーロック。軽く流しでいくよ」

「ヒヒン(はいよ)」

 

 騎乗しているのは岳さん、ではなく隈澤さん。

 岳さんは今週エアメサイアの騎乗があるため、そっちを優先している。

 俺の方が後だしな。来週はディープの菊花賞もあるし。

 

(それに、調整だしな。本気で追い込むわけじゃないから、極論俊之さんでも構わない)

 

 今日は隈澤さんだけど。

 

 俺としては乗せやすいのでむしろ嬉しい限り。

 なんだかんだ岳さんに次いで乗せてる騎手だからな。

 

 隈澤さんも隈澤さんで、馬に優しい。無茶なことは決してしない。

 

「それにしても、海外遠征から帰ってきてさらに強くなりましたね。乗ってすぐに分かりましたよ」

「寛君も言うとったな~。本格化がきた、って」

「晩成なのはメジロマックイーンの血かもしれませんね。冷静に、ここから先さらに伸びる可能性があるの、怖いって話では済みませんが」

「言うんやない成文。俺も同じこと思うてる」

 

 俺に対する視線が大分アレになったけど。

 

 調教はこんなもん。

 後は放牧か。放牧もまぁいつも通りなんだが。

 

『シャロさん走ろ走ろ! ぼくもっと走りたい!』

『分かったから、分かったから。俺の周りをぐるぐる回るんじゃねぇ』

 

 ディープに絡まれ。

 

『次のレースは一緒のようだな。貴様の力、見せてもらうぞ』

『おー、ハーツ。久しぶり。よろしくな』

『少しずつ俺も力をつけてきている。いずれ貴様を超すためにな』

『そりゃ楽しみだ』

 

 ハーツに絡まれ。

 

『もうね、同期にヤバいのがいるんです。どうしたらいいんですかね、俺。勘弁してほしいんですけど』

『落ち着けジャパン。そのヤバいのに心当たりしかないが、お前にはお前の持ち味があるから』

『……冷静に、シャーロックさんもバケモノでしたね。すみません』

『引っ叩くぞお前。何の謝罪だそれは?』

 

 他の馬の相談に乗ったりと。

 いつも通りの日常を謳歌していた。

 

 

 そんなある日の放牧。

 菊花賞が目前に控えているので、ディープとは放牧を別の時間に。

 ハーツも見かけないので、珍しく時間が空いていた。

 

(他もゆっくりしてるし、俺もゆっくりするか)

 

 適当に走った後、今後のことを整理するために寝転がる。

 

 まず、次走だな。

 

(次の秋天は天覧競馬だからな~。女王陛下に続いて、天皇陛下がレースを見ることになるのか)

 

 うん、とんでもねぇや。

 

 一応、史実の知識として知っていた。知っていたが、いざ自分が走るってなると緊張が半端じゃない。

 何がどうしてこうなった。別に俺のために来るわけじゃないけどさ。

 今から胃がいてぇよ。キリキリするわ。

 

 今のところはフルゲート予定らしい。康夫さん達が話していた。

 京都大賞典は大分数少なかったが、その分毎日王冠とオールカマーが多かったんだろ、多分。

 

(俺の知る限りで出走するのは~……ハーツが確定。んで、スイープとグルーヴさん、スティルさんも確定か)

 

 中々豪華メンバーな秋天だ。

 

 スイープは秋華賞に加えて、今年の宝塚記念を勝っている。これはハーツに聞いた。

 

(鋭い末脚を持ったメスがいた、ってな。スイープとはこれが初対決か)

 

 何気にスティルさんとも初対決だな。レースだとどうなるのやら。

 グルーヴさんとは対戦経験がある。あの末脚は驚異だ。

 

(調教で何度も走ってるから知っている。油断したら、あっという間に差し切られる)

 

 後方脚質の強い牝馬が勢揃い。

 こりゃ、気合いを入れねぇとやべぇな。

 

 ……ちょっと待て。よくよく考えたら、とんでもねぇことになってねぇか?

 

(スイープが出るんだろ? んで、グルーヴさんも出て、スティルさんも出るから……)

『……ちくしょう別の意味で胃が痛くなってきた! 今すぐ逃げてぇ!』

 

 えー、秋天に出たくない理由が増えました。

 ふざけやがって。俺の調教パートナーである気性難が勢揃いじゃねぇか。

 

 そりゃ秋天は大事なG1だ。権威もあるし、強豪が集まりやすい。

 しかも、今回はさらに特別な天覧競馬。全員めちゃんこ気合いを入れて走ってくること間違いなしだろう。

 

(だけどなんでグルーヴさん達が勢揃いしてんだよ!? 俺前で勝負するし、グルーヴさん達が後ろから迫ってくること確定してんじゃねぇか!)

 

 別の意味で心配になってきた。ここから入れる保険はありますか? あるわけねぇだろ。

 

 よし、深く考えないようにしよう。またの名を現実逃避。

 多分大丈夫、きっと大丈夫。俺ならできる。

 

 後の出走メンバーは、確かゼンノロブロイがいたはずだ。

 何気に去年の京都大賞典で走ったことがある。あんまり目立たなかったけど。

 

(ただ、昨年の秋古馬三冠。イギリスのG1、インターナショナルステークスで2着だからな。油断はできねぇ)

 

 史実の勝ち馬、ヘヴンリーロマンスも外せない。

 これに関しては史実の結果を知っているからこそ、だな。

 

(二桁人気ながらも勝った。地力に関しては疑いようがない)

 

 う~ん、こうして考えると警戒する相手がたくさんだな。

 タップダンスシチーもいるだろ? かなりの豪華メンバーだな、本当。

 

 その中で警戒する相手を選ぶなら2頭。

 ハーツとスティルさん、か。

 

 ぶっちゃけ、史実通りならスティルさんはそこまで警戒することはない。

 気性の悪化で成績が落ち込んでいた時期だし、そもそも秋天には出走してないからな。すでに引退してたはず。

 

 だが、今のスティルさんはいろいろとヤバい。

 引退なんてしてないし、秋天にも余裕で出走してくる。

 なんなら強さも半端じゃない。G1でも結果をしっかり残しているのだから。

 

(調子が落ちるどころかむしろ上がってる。末脚の爆発力に関しちゃ、はっきり言ってグルーヴさん以上だ)

 

 平均値ならグルーヴさんに軍配が上がるが、爆発力ならスティルさんだ。

 これは調教で一緒に走るからこそ分かる。ハマった時のスティルさんはガチでやべぇ。

 

 後方脚質で最も警戒すべき相手だろう。

 スイープやグルーヴさんよりも上。俺はそう考えている。

 

 もう一頭の方、ハーツだが。

 

(こっちに関しては、本格化しつつあるってのがでかい。この秋から、ハーツクライは台頭してくる)

 

 俺の生きていた世界では、ディープインパクトに初めて土をつけた馬だ。

 騎手の腕も絡んでるだろうが、この秋からハーツクライは劇的に強くなる。

 上がり幅がどれだけなのかは分からない。同じレースに出走する関係上、アイツとは放牧でしか会わないから。

 

 その放牧でも、本気でやり合ったりはしない。

 子供同士のじゃれ合い、軽く走るだけのもの。

 

(俺が海外に行っている間、どれだけ強くなったのか)

 

 久しぶりに絡まれた時は余裕そうに返事をしたが、実際は余裕なんてものはない。

 スティルさんと同じように、最優先で警戒しなきゃいけない。

 それが今のハーツクライだ。

 

 秋の天皇賞。父であるメジロマックイーンは、降着で取ることができなかったレース。

 忘れ物を取りに行く。あの日取れなかった冠を取る。春秋連覇の偉業。天覧競馬での勝利。

 

『今回も、いろいろとかかりすぎだろ。もう慣れたけどよ』

 

 溜息を吐きたくなるが、俺の気合いは高まっていた。

 

 現在無敗の16連勝。17連勝目を目指して、むしろ無敗を目標に。

 秋の天皇賞も、勝ってやる。




なので道中は容赦なく曇らせます。
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