親愛なるシャーロックへ   作:カニ漁船

78 / 78
掲示板回で語られていたこと。


ウマ娘編 大修羅場

 その日、俺は修羅場なるものに遭遇した。

 

「……なんで、貴方達までいるのかしら? 私は、シャロに誘われて! ここにいるのだけど?」

「そこまで怒らなくても。私も、シャロさんに誘われてここにいますので」

「スティルに“同じく”だよ。ネオユニヴァースも、誘われた」

 

 いや、別に珍しくもなんともねぇな。割と遭遇するわ、この修羅場は。

 

「おい、どういうことだ? シャーロック。何故、貴様だけではない? 私は、貴様だけだと思っていたのだが?」

「え? だって大勢の方が楽しいではありませんか」

「いや~、うん。シャロならそういうと思ったよね~。ま、それでハーツが納得するわけないけど」

「当たり前だ……今日こそ貴様の鼻を明かしてやろうと思っていたのに、なんだこの仕打ちは!? 何故、他のウマ娘がいる!」

 

 中にはバチクソキレてるのもいるわ。ハーツなんだけど。

 カメハメハが宥めようとしているが、当の本人は聞く耳持たず。

 シャロに詰め寄って、事の詳細を聞き出そうとしている。

 

(つっても、今喋ったので全部なんだけどな。多くいた方が楽しいからって理由で、コイツは併走のメンバーを集った)

 

 いや~中々だったぞアレは。今思い出してもどうかと思うわ。

 

 

 事のあらましはハーツから始まった。

 

「シャーロック。今日の放課後、併走をしないか?」

「併走、ですか? ハーツさんと?」

「あぁ、そうだ」

 

 ハーツから併走に誘われたシャロ。

 相変わらずの仏頂面に鋭い目、十字架のような白いネックレスを揺らし、シャロを睨みつけている。

 ヤンキーにガンつけられている、みたいな視線だが、これがデフォなのでシャロも俺も気にしてない。慣れたもんだ。

 

 で、肝心の併走はというと。

 

「勿論、構いませんよ。丁度放課後は空いていますし、スケジュールに支障はありませんから」

 

 シャロは了承。併走を受けることになる。

 

 この言葉にハーツは鼻を鳴らす。これは照れ隠しだ。受けてもらえて嬉しいとか、そんな感情が見える。

 

「ならば放課後、練習場に集合だ。ウォーミングアップは済ませておけ」

「分かりました。放課後に練習場、ですね?」

「芝コースを使用する。逃げるなよ」

 

 集合場所と事前準備のことを聞いて解散。

 ハーツと別れ、俺達もウォーミングアップをするか~、なんて思っていた矢先のことである。

 

「シャロ。ちょっといいかしら?」

「あ、はい。何でしょうか? アルヴさん」

 

 今度はグルーヴさんに絡まれた。

 廊下だからそんなこともあるだろう。今は休憩時間中だし、珍しくもなんともない。

 

 で、グルーヴさんの用件はというと。

 

「放課後空いているかしら? トレーニングをしたいのだけれど」

「放課後、ですか」

「えぇ。ちょっと詰めたいところがあって」

 

 こちらもトレーニングのお誘いだった。偶然が重なったな。

 

 ただ、俺達はすでにハーツとの先約がある。

 グルーヴさんには申し訳ないが、ここは断る

 

「でしたら丁度良かったです! 僕も放課後、トレーニングのご予定がありますので、アルヴさんも是非ともお越しください!」

 

 おい待て、ちょっと待て。そのご予定ってハーツとの併走じゃ

 

〈待てシャロ。ハーツとの先約がある〉

「そう。ならよかったわ。それじゃあ放課後、練習場で待ってるわよ」

「はい! よろしくお願いしますね!」

 

 俺の制止空しく。グルーヴさんは立ち去ってしまった……機嫌良さそうにスキップを踏んで。

 

 いや、今はグルーヴさんのことは良いんだ。重要なことじゃない。

 重要なのは。

 

「アルヴさんがメンバーに加わるなんて、恵まれていますね。とても充実したトレーニングになりそうです」

 

 この何も分からずにのほほんとしている、シャロを問い質さなければならん。

 どうしてあんな約束をしたのかと。ハーツとの約束があるだろうが、と。

 

 しっかり言っておかなければ

 

「“奇遇”だね、シャロ。とても“偶然”」

「あ、偶然ですねユニさん。どうかされましたか?」

「実はシャロに“要請”。トレーニングのお誘い」

「なら放課後練習場で」

 

 待ってくれよ。なんで言う前にさらに数が増えるんだよ。

 シャロもシャロで何してんだよ。これ以上増やそうとしてんじゃねぇよお前は。

 ハーツとの先約があるだろうが。そっち優先しなきゃダメだろ。

 

 なお、俺の必死の呼びかけも空しく。

 

「シャーロックさん! 実は見て欲しいところがあって」

「シャロ! 今日はアタシに付き合いなさいよね!」

「お、シャロちゃん発見。実はさ、放課後一緒にトレーニングしたくって」

 

 次から次へと、シャロはいろんなウマ娘と約束を取り付けてしまい。

 

 

 結果。

 

「ちょっと! なんでアタシだけじゃないのよ! 騙したわね!? シャロ!」

「そんなことはありませんよ、スイープさん。大人数でもトレーニングはできるじゃないですか」

「うん、そういう問題じゃないと思うんだよね~あたしは。とにかくシャロちゃん、今の内に言い訳考えといた方が良いよ?」

 

 大修羅場に発展しましたとさ。笑えねぇ。

 グルーヴさん達に誘われてねぇだろとか、誘ったのあんたらだろとか、いろいろと言いたいことはある。

 けど、全然笑えねぇんだわこの状況。とんでもねぇ修羅場の中心にいるから全く気が休まらせねぇんだわ。

 

 現時点でここに集ったメンバーはざっと8人。

 その内、半分以上がシャロとだけって考えていたはずだ。

 

(クラフトちゃんとカメハメハは問題ねぇ。クラフトちゃんは人数が増えて嬉しそうだし、カメハメハに関してもこれを予知していた節がある)

 

 この2人は大丈夫だ。どっちかと言えばフォロー側に回っている。

 問題は……その2人と俺だけじゃ、フォローしきれないってとこなんだけど。

 

 特にグルーヴさんとスティルさん、そしてハーツが厄介すぎる。

 この3人は俺をわざわざ指定してきたんだ。マンツーマンでのトレーニングになる、と思っていたに違いない。

 

 だというのに、蓋を開けてみればこれ。大人数でのトレーニングを余儀なくされそうになっているのだ。

 

(そりゃキレ散らかすわ。こんなことになってりゃよ)

 

 3人は思いっきり耳を絞っている。

 ユニさんはなんとなくこの事態を察知していたのか、不機嫌そうにはしつつもある種納得している様子を見せている。

 ディープはそもそも、走れればそれでいい。むしろ人数が増えて嬉しがっている、クラフトちゃん側のウマ娘。

 

 だからこそ、対処すべきはこの3人なのだが……おい、シャロ。本当にお前何してくれてんだよ。

 

(シャロ、なんでこうなったか分かるか?)

 

 叱りつけるが、当のシャロはきょとん顔。なんだその顔は。

 

(それが、僕には皆目見当もつかなくて……)

 

 嘘だろお前。なんで分からねぇんだよ? 俺からしたらお前の方が分からねぇわ。

 

(だって、皆様トレーニングをご予定していましたよね? そこに間違いはありませんよね?)

(まぁ……そうだな。全員、トレーニング目的でお前を誘ったはずだ)

(でしたら、より人数が多い方が効率的ではないでしょうか? そう思ったので、僕は皆様とご一緒しよう、と受けたのですけれど)

 

 ……あぁ、うん。なんとなく察したわ。

 なんでシャロが誰彼構わず受けたのか、その理由を。

 

 シャロからしたら、ただのトレーニングでしかないわけだ。

 意識されているとか、2人きりの方がいいとか、そんなこと微塵も考えようとしていない。

 

 ただのトレーニング。人数が多い方が楽しいし効率がいい。

 それ以上の理由はない。他の人もきっとそう思っているはずだから、嬉しいと感じているはず。

 効率も上がるし、教え合える。より高い次元へといくことができる。

 シャロからしたら、たったそれだけのことなんだ。

 

(ハーツに併走誘われたな。お前一人だけとは思わなかったのか?)

(他の方にもお声掛けしてると思っていました。併走というぐらいですから、大人数ですると考えましたので。僕の方でも増やしておこうかな、と)

(……まぁいい。ハーツとの先約があったのに、お前はグルーヴさんとも約束したな? それはなんでだ?)

(併走をするのですから、トレーニングもしますよね? でしたらアルヴさんの知見は重要、高め合えると思いましたから)

 

 何の悪気もない。

 純粋に、良かれと思ってこの状況を作り出した。

 

 なんて、なんて。

 

(……本当に質悪いなお前。自覚なしってのが本当に質悪い)

(なんでですか!? だって、皆様嬉しいですよね? 強くなれますし!)

(ド阿呆! 大体のメンバーは、お前と二人っきりでやりたかったんだよ! こんな大人数でやること想定しとらんわ!)

 

 そっち方面に気が回らないんだコイツは。一体誰に似たって言うんだ。

 強くなることしか考えてないのかお前は。考えてないんだろうなお前は。

 

(あのメンバー……特にグルーヴさんとスティルさんとハーツの3人! あの3人はお前とマンツーマンでやりたかったんだよ! その意図を汲んでやれお前は!)

(え? どうして僕と2人で?)

(そこは察しろ! 察してやれ!)

 

 ハーツに関しては俺に勝つ以外の気持ちはねぇだろうけどな!

 

 とにかく、この修羅場を何とかしなければ。

 そう思っていた、時のこと。

 

「最初に貴様に声をかけたのは私だ。ならば当然、私との併走を優先するだろう? シャーロック」

 

 ハーツ。

 

「関係ないわ。私が声をかけて、シャロはそれを受け入れた。なら、私とトレーニングをすべきよ」

 

 グルーヴさん。

 

「フフ、ウフフ……まさか貴方は、ここで断るなんて真似は……しませんよね?」

 

 スティルさん。

 

「あんたたちどっか行きなさいよ! シャロはアタシと魔法の特訓をするんだから!」

 

 スイープ。

 

「あ~あ~こんなことになっちゃって。ま、自業自得って奴だね~」

 

 カメハメハ。

 

「あ、そ、その、しゃ、シャロさんが困ってるから、みんな仲良く~……な、な~んて」

 

 クラフトちゃん。

 

「ね~なんでもいいから早く走ろうよ。わたし、待ちくたびれちゃった!」

 

 ディープ。

 

「……ネガティブ。これは“憤怒”だよ。“EMGY”だよ」

 

 ユニさん。

 

「ヤバ、シャロさんはっけ~ん! ね、ね、シャロさん! あたしと一緒に~、トレーニングしませ~ん? シャロさんと一緒ならあたし~、がんばれちゃうかも♡」

 

 パンドラ。増えんな。なんで増えてんだお前は。いつの間に出てきやがった。

 

 逃げ場なんてもんはなく。

 

「……どうしましょうか? ロック」

〈お前が蒔いた種だ。お前がなんとかしろ〉

「そ、そんな~!?」

 

 その日練習場では、とんでもない修羅場が形成されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことが昼間あってな。本当に大変だったわ」

「おー。それは遠くから見てたぞ。いや~、焦ってたあんた、じゃなくてシャロは新鮮だったな~」

「悪趣味だな!? 見てたなら助けろや!」

「知らないな。元を辿ればシャロが原因だ。私に助けを求めるのは、お門違いって奴じゃないか?」

「それは本当にそう」

 

 夜の学園。

 いつものようにステゴと話す。門限までには帰るから問題ねぇ。

 

 話題は昼間のこと。あの修羅場についてだ。

 いい感じの話題にできるからな。当事者の俺は面白くないけど。

 

「結局、どうやって説き伏せたんだ? どうにかなるとは思わないんだが」

「あ~……別日に予定を入れる、ってことで決着つけた。というか、それしかなかった」

「はは、確かにそれしかないな。それでも不満たらたらかもしれないが」

「実際不満たらたらだったよ、アイツらは。こっちに問題があるからなんも言えねぇし」

 

 後になれば笑い話にできる。こういう経験は、貴重なのかもしれない。

 また同じような経験をしたいかって言われたら、絶対にしたくないが。

 

 ステゴとのとりとめのない話。

 いつも通り、ステゴは聞いてくる。

 

「シャーロック。あんたが走れない脚質ってのはあるのか?」

 

 俺に関することを。

 

 今回は俺の脚質についてのようだ。

 脚質、ね。

 

「ない。やろうと思えばどこだろうと走れる。マヤノトップガンと同じだ」

「シャーロックの場合は、マヤノトップガンよりも厄介だ。アレは天才的なひらめきで最適解を導き出すもの。だがあんたのは」

 

 脚質自在で真っ先に思い浮かぶのはマヤノトップガン。

 

 だが、マヤノトップガンの脚質は4種類のみ。

 逃げ・先行・差し・追込。この4つだけだ。

 

 だが俺の場合は……そこからさらに細分化する。

 

「大逃げ・ラップ逃げ・幻惑逃げ・逃げ・先行・差し・捲り・追込。ま、ざっとこんくらいのことはできるな」

「イカれてるなぁ、何回聞いても。どういうレースを歩んできたんだ? あんた」

「一筋縄じゃいかねぇレースばっかだった。そんだけの話だ」

 

 この中から最適解を導き出してレースをする。

 その様が、周りを支配するレースの在り方が決定づけた。

 

「俺のレースは芸術である。よくそう言われていたよ」

「……間違いじゃないな。シャロがよく言っている」

「いずれはアイツもできるようになるさ。そのために俺が教え込んでいる」

「おっかないな。あんたのレースが、シャロもできるようになるのか」

 

 できるかできないかでいえば、まぁできるだろうな。

 アイツは、俺なのだから。

 願うなら、出来てほしくないが。

 

 っと、時間だな。

 

「俺はそろそろ帰るよ。ステゴも、たまには寮に帰ってやれよ? ゴルシの奴が寂しがるぜ」

「そうだなぁ。たまには帰ってやるか」

 

 そんな他愛もない話をして。

 俺達は栗東寮へと帰った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

星旗牝系の夢(作者:久保田紅葉)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

もしもゴールドシップに全姉がいたら……というロマンとかいうのを詰め込んだ怪文書


総合評価:766/評価:7.82/連載:11話/更新日時:2026年07月20日(月) 21:13 小説情報

覇王伝説第二章(作者:ノワールキャット)(オリジナル現代/スポーツ)

20世紀末。▼8戦8勝の年間無敗、史上最多の年間GI5勝。▼2000年に降臨した絶対王者、世紀末覇王と称されたとある馬の後継者。▼これは、かつての相棒と駆ける覇王伝説の第2章である。▼─────▼ある騎手が引退することなので、書いてみました。▼執筆者はにわかな部分が多いです。かなり優遇していますので、史実改変が嫌という方はここでブラウザバックしよう。▼初めて…


総合評価:3510/評価:8.97/連載:41話/更新日時:2026年08月15日(土) 17:30 小説情報

ステイゴールドになったけど(作者:灯火011)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

気づいたらステイゴールド。▼っても、既にいろんなステゴの記憶がある彼女。その中に一人、おっさんが混じってもまぁそれはステゴ。▼19話からは蛇足編です。おっさんステゴの旅路をご覧になりたい方は、是非。


総合評価:2287/評価:8.58/完結:48話/更新日時:2026年06月29日(月) 21:00 小説情報

競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 ウマ娘に転生したから百合ハーレムを築きたい競馬ミリしら民のお話。▼ なお、名前はディープインパクトという。


総合評価:2360/評価:7.84/未完:20話/更新日時:2026年04月04日(土) 11:39 小説情報

癒しのヘッドスパ(作者:灯火011)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

ウマ娘のトレーナーが、ヘッドスパの才能があった世界線です。▼ウマ娘の耳周りとかすんげぇ凝ってると思うんですよね。ええ。▼※2026/04/15、連載に変更しております。▼※2026/05/06、完結いたしました。ご覧いただき感謝感激。


総合評価:3814/評価:8.49/完結:32話/更新日時:2026年05月06日(水) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>