| 【盤石の強さを発揮して圧勝!ダイヤモンドステークスを制したのはメジロシャーロック】
2月16日、東京競馬場11R第55回ダイヤモンドステークス(4歳以上G3、3400m)は1番人気のメジロシャーロック(鞍上:隈澤成文)が貫録の横綱相撲で制した。2着のトウカイトリックに6馬身差をつける圧勝である。
本レースでは主戦騎手を務めていた岳寛に変わり、隈澤成文がレースで初騎乗。天皇賞・春(4歳以上G1、3200m)を見据えての乗り替わりだが、少なからず影響があるだろうと予想されていた。 しかし、蓋を開けてみれば全く心配ないレースっぷりを発揮。我々の不安を一蹴する、最初から最後まで先頭を譲らない逃亡劇を飾った。
レースの内容も文句のつけようがない。序盤からハナを取ると、2番手に2馬身のリードを保ちつつ走り続ける、安定感抜群の走りを披露。どっしりと腰を据えて観戦していたファンも多いはずだ。 ラップタイムも素晴らしい。全くブレがなく、ラスト3ハロンのタイムも最速をマーク。ずっと先頭で逃げ続けていた馬が、上り3ハロンで最速をマークするのだ。後続はなす術もなくやられるしかない。 騎手が乗り替わろうが、メジロシャーロックにとってはなんの問題にもならない。そう思わせてくれる内容だった。
ダイヤモンドステークスの勝利により、メジロシャーロックは連勝記録を19に伸ばした。これでデビューから無敗、19戦19勝。日本の無敗連勝記録を更新し続けている。 それだけではない。かつて中央競馬で走っていた二代目三冠馬シンザンの記録、現役19連対に並んだのだ。それも2着には一度もならず、である。 これまではビワハヤヒデの15連対、エルコンドルパサーの11連対が著名な記録として残っている。これらの記録も十分に凄いものではあるが、シンザンに並ぶまでには至らなかった。 しかし、メジロシャーロックは違う。一度も負けることがないまま、シンザンの連対記録に並んだのだ。これがどれほどの偉業であるか。 シンザンは神馬と呼ばれることもあった。その神馬が打ち立てた大記録に、メジロシャーロックは超える形で並んだのだ。それも、まだまだ更新できる余地を残している。 果たしてこの記録がどこまで伸びるのか。気にならないファンはいない。
メジロシャーロックの次走は天皇賞・春。本レースにはディープインパクト(4歳牡馬、生江康夫厩舎)が出走予定であり、新旧の無敗の三冠馬対決が実現することになる。 ディープインパクトは3月19日の阪神競馬場で開催される阪神大賞典(4歳以上G2、3000m)に出走、鞍上は岳寛が予定されている。メジロシャーロックの主戦でもあった岳寛は、ディープインパクトを優先したようだ。 何故ディープインパクトを優先したのか?一説ではディープインパクトならばメジロシャーロックに勝てるから、などと言われているが真相は不明。今後の取材で明らかになるだろう。
メジロシャーロックは生江康夫厩舎。ディープインパクトとは同厩舎の先輩と後輩の間柄になる。 前代未聞の大記録が掛かったレースで相手になるのが、同厩舎の後輩。それも無敗の三冠馬、同期を圧倒的な力で倒してきた世代の頂点。【英雄】と呼ばれる競走馬。 神を超える最後の試練として対峙するのが英雄とは、なんという運命だろうか。それが同じ厩舎の後輩なのだから、偶然で片づけることなどできない。
4月30日に開催を予定されている春の天皇賞。すでに目を離すことができない最高の勝負になることが約束されているも同然だ。
レース後陣営のコメント
隈澤成文騎手「相手として戦ってきたことはあるけれど、味方として共に戦うならばこれほど頼りになる馬はいないですね。ただ乗っていただけでした。 とにかく凄いの一言に尽きます。こちらが指示するまでもなく、レースの最善手が分かっている。まるで未来が見えているかのように動くんです。まるで寛君が展開するようなレースでしたよ。 次の天皇賞・春でも騎乗予定ですが、万が一でも負けさせないように頑張りたいですね。何を頑張るかって?そりゃあ勿論、体調を崩さないようにですよ」
生江康夫調教師「なんも心配しとらんかったです。隈澤騎手には普段の調教で乗ってもろうてますし、シャーロックとしてもやりやすい騎手を選んだつもりですから。次の天皇賞でも頑張って欲しいですね」
喜多野裕二オーナー「相変わらずのレースっぷりに安心しました。どっしりと座って見れましたよ。次は天皇賞。マックイーンに続く春の天皇賞二連覇の偉業を成し遂げて欲しいですね」
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◇
ダイヤモンドステークスが終わってしばらく。
春天まで暇だな~、なんて思っていたところである。
「シャロ~! 久しぶりだな~!」
(久しぶりだなリョーマのコレ。いいけど)
リョーマが無事に退院して帰ってきた。栗東トレセン、というよりは康夫さんの厩舎に。
事故に遭ったのがちょうど一年前。
一時は生死すらも危ぶまれていたリョーマだが、春天のレース中に意識を回復。
そこから死に物狂いでリハビリをし、2月の半ばである今日、栗東トレセンへと帰還を果たしたわけだ。
正直に言おう。嬉しい気持ちはある。
そりゃね、新馬の頃からずっとお世話をしてくれた厩務員さんで、愛情をもって接してくれたんだ。愛が強すぎる気がするけど。
死の淵から帰ってきてくれて、ようやく復帰ができたんだ。嬉しくないはずがない。
けどな。
「シャロ~! 俺は嬉しいぞ~!」
めちゃくちゃ撫で繰り回してくる上に、やたら甘ったるい声出してくると気持ち悪さの方が勝つわ。
女の子ならともかく、野郎の声でとか誰得だよ。
どんだけ撫でるつもりだお前。久しぶりに会えて嬉しいとか、帰ってきてくれてありがとうとか、いろいろあったけど全部吹っ飛んだよ。
「シャーロック、凄く虚無の表情してる……」
「一時は草薙のためにって暴走しとったんが嘘みたいやな」
「あの時が気のせいに思えるくらいの無ですね。草薙さん、その辺で。シャーロックに会えて嬉しいのは分かりますが、復帰したてなんですから」
康夫さん達も呆れた目で見てるわ。当たり前だけど。
ま、そんなこともあったが。
リョーマが栗東に帰ってきた。長いリハビリ生活を終えての帰還である。
そのまま俺のお世話係に、なんてことにはならず。
しばらくは柏崎さんとの2人体制になるらしい。
「それでは、よろしくお願いします柏崎さん! しばらくは迷惑をかけると思いますけど、一生懸命頑張りますので!」
「はい、お願いします草薙さん。少しずつ慣れていきましょうね」
当然と言えば当然だな。
帰ってきていきなり俺のお世話係に、なんてことは無理。
大怪我から帰ってきたばかりなんだ。日々の業務に体を慣らすことから始めないといけない。
「っとと。かなり体が鈍ってるなぁ。仕事に戻ると余計に感じます」
「焦らず、ゆっくりと慣れましょうね、草薙さん」
「はい!」
ま、頑張れよリョーマ。ここから応援してるぜ。
◇
必要最低限の事務用具のみが置かれている、殺風景な事務室。
生江康夫と隈澤成文は、向かい合っていた。
集まったのはとある話題のため。
その話題とは、ダイヤモンドステークスでのことである。
「それで成文。どうやった? レース本番で、シャーロックに騎乗してみて」
康夫の言葉に、隈澤は少しためらいを覚える。
あのことを言うべきか、言わざるべきか。
「……凄い、の一言に尽きます。あれほどの馬には騎乗したことがありません」
当たり障りのない感想。
まずは、騎乗して感じたことをそのまま伝えることに。
康夫はというと、機嫌良さそうな笑みを浮かべていた。
シャーロックが褒められて、色よい返事が聞けそうで嬉しいのだろう。
「そかそか、それは良かったで! せやったら春の天皇賞も」
「お願いします。あの子はあまり、他の騎手に乗せない方がいいと思いますので」
次の鞍もお願いしよう、と口にする前に。
隈澤から凄まれた。普段は温和で優しい雰囲気の隈澤が、刺々しい雰囲気を出して。
警告するように、自分の鞍を継続するように頼んできた。
思わずのけ反る。
(どないしたんや? 珍しいな)
と思いつつも、理由を聞いてみることに。
「それは、どういう意味や? 他の騎手は乗せん方がええて」
「言葉通りの意味です。あの子は……メジロシャーロックは、新人や若手にとっては劇毒となりうる馬ですから」
「は? え? ほ、ホンマに分からへんのやけど? なにがあったんやホンマに?」
しかし、理由を聞くともっと分からない返事をされた。
隈澤本人は本気そうにしているのが余計困惑を誘う。何をそんなに警戒しているのか? どうして新人や若手は余計にダメなのか?
「とにかく、理由を話してくれや。ダイヤモンドステークスで感じたこと、俺に教えてくれ」
「分かりました。私がダイヤモンドステークスで感じたのは……」
埒が明かない。これ以上困惑する前に、あの日のことについて詳細に聞き出すことにした。
事細かに、当時のことを詳細に教えてくれる。
その情報に……確かにそれは、隈澤が警戒するのも分かる、と納得する。
「確かにそれは、止めた方がええな。なんでも自分でこなせるっちゅうことか」
「はい。極論、シャーロックはその辺の人を捕まえてもレースで勝てます。それだけの強さ、というよりは頭の良さがある」
「謙遜なんてもんやない。ホンマのホンマに乗っとっただけ……それが、成文の感想なんやな?」
「その通りです。私はあのレースで何もしていません。全て、シャーロックがけりをつけました」
そして、どれほど恐ろしいことをしていたのか。
教えられた。メジロシャーロックが誇る、規格外の賢さを。
(成文が警告するんも分かるわ。事実やとしたら……シャーロックの賢さは、並の騎手よりはるかに上や)
自分でペース配分をする。
コーナリングも何もかも自分でできる。
仕掛けどころさえも理解している。
ざっと挙げるだけでも、シャーロックだけでこれだけのことができる。
むしろ騎手がやるべきことを、全部自分だけでやれているのだ。
騎手なんていらない、斤量分の置物を用意するだけでも勝てるんじゃないか? そう思わせるだけのことを、シャーロックはやっている。
そしてこの事実は、隈澤の言う新人や若手を乗せるべきではない、という言葉にも納得さを生み出す。
「まだ自分の型が定まっていない頃にシャーロックに騎乗すると、変な癖をつけてしまう可能性があります。なまじシャーロックはなんでもできますし、余計にです」
「捲りの進路も自分で取れそうやしな、シャーロックの場合」
「ダメな成功体験を与えかねません。全てが高水準のシャーロックを基準に物事を考えてしまう。それだけは避けなければいけません」
積むべき研鑽を全て吹っ飛ばす。
あらゆる過程を無視して、成功したという体験だけを生み出してしまう。
成功だけを得てしまった人間がどうなるか……想像するのは難しくない。
これだけではない。もっとヤバい問題が控えている。
「教え込んだのは寛君です。おそらくですが、シャーロックの描くレースは、寛君を基準に考えられています」
「……っちゅうと?」
「寛君と同じだけのレース観を持っている。つまりは、寛君と同じ策を考えることができる。日本を代表するジョッキー、岳寛と思考が一致している。そう考えると、どれだけのことか分かりますね?」
シャーロックにレースを教えたのは岳寛だ。
今のシャーロックは、岳寛と同じだけの考えができる可能性がある。
隈澤は、そう語った。
「新人は心を折られかねません。だって、馬の方がより最良な作戦を考えることができているんですから」
「騎手の指示に逆らった結果、より良い結果を出されでもしたら」
「間違いなく、折れるでしょうね。自分の騎乗を根本から否定されているようなものですから」
震えた。
なんと恐ろしい馬に進化を遂げたのだろうかと。
何をしてくれたんだ岳寛と。
「寛君めぇ……! 教えるの楽しいからって、なんちゅうことしてくれたんや!」
「それで吸収できるシャーロックが規格外ですが……どちらにしても、並の騎手は乗せない方がいいでしょう」
「どの道寛君と成文以外は乗せんつもりやったけど、余計にそう思わせてくれたわ! ホンマに何してくれとんねん!」
できることなんてたかが知れている。
元より岳寛と隈澤成文以外に騎乗させるつもりはなかったが、余計にそう思わせる要因となった。
「裕二さんにもそれとなく伝えとくわ。騎手は変えん方がええて」
「その方がいいと思います。我々以外に変えるにしても、外人騎手の方がよろしいかと」
「ホンマに……ホンマにぃ……っ!」
怒りのぶつけ先がない。
この場にはいない岳寛に対し、思いっきり叫びたくなった。
もっとも、それはそれでこれはこれ。
「やけど、シャーロックはホンマに賢いな~! やっぱ俺の目に狂いはなかったでホンマに! 裕二さんに頼み込んだ甲斐があったわ!」
「……康夫さんも康夫さんで、シャーロックにべた惚れですよね」
「当たり前やろ! あないな馬、惚れへんわけがない! 俺が管理してきた中でも最高クラスの馬や!」
メジロシャーロックを褒め倒す生江康夫の姿に、隈澤は苦笑いを浮かべていた。
なんだかんだ投稿を始めて3年経ちました。毎日更新する人ってやべーんだなと日々思っています。