メジロシャーロックファンクラブ、というものがある。
非公式と思うかもしれないが、しっかりとした公認のファンクラブだ。
名前の通り、メジロシャーロックのファンコミュニティであり、彼女を慕うメンバーで構成されている。
別に大層なことをするわけではない。
年に数回のファンミーティングで語り合ったり、会員特典のグッズやチェキ、本人公認のグッズが販売される程度。
どこにでもあるファンクラブとなんら変わりない、普通のものだ。
ただ、会員の中には当然のようにメジロ家のウマ娘もおり。
なんならファンクラブの開設者、もとい代表を務めているのがメジロ家のウマ娘である。
その名はメジロシンフォニー。
「さてさて、今回のチェキは白ワンピースでいきましょうか」
葦毛の髪を腰まで伸ばした、物腰の柔らかいメジロ家のウマ娘。
優しさを感じさせるたれ目でありながら、芯の太さを感じさせる瞳。
学園の制服にカーディガンを羽織い、微笑を浮かべながら写真を選別している。
「あぁ、やはりシャーロック様はいつものように麗しい……写真越しでも、美しさが伝わります」
メジロの令嬢に相応しい出で立ちのウマ娘。
今は会心の出来栄えである写真を片手に、うっとりとしていた。
◇
誰にも使われていない空き教室。
そんな場所で、俺はあるウマ娘と向かい合っている。
「汚れなき純白のワンピースがよく映えている……まるで絵画の世界の住人、一つの芸術だ」
ワンピースを着た俺の写真を見てうっとりとしている葦毛のウマ娘、メジロシンフォニー。
名前で察せると思うが、俺と同じメジロ家のウマ娘だ。
うん、なんというか。
「お前もお前でよくやるわな。褒めすぎだろいくらなんでも」
今回の写真は、俺のファンクラブ特典用のもの。
シンフォニーが写真を撮って、会員に卸すよう現像したものだ。
なんというか、気恥ずかしさがある。俺本人だし。
照れを誤魔化すが、シンフォニーは至って真剣。
「褒めすぎではありません。シャーロック様の美しさが、よく表現できている一枚だと思っております」
「そういうもんかねぇ」
「はい。会員の皆様も、きっと喜ぶに違いないでしょう。アクスタの販売も決定しておいて正解でした」
なんなら写真だけに留まらず、白ワンピースの俺をアクスタにして販売しようとまでしている。
情熱が凄いわ。よくそこまでかけられるな。
(前世を思い出す熱だな。結局、俺の人形ってどれくらい売れたんだか)
ちなみに許可は俺が出してあるし、シャロも良いと言っている。
なので、全く問題なしだ。
で、だ。
「シンフォニーが楽しそうなのは良いとして……お前はどうした? セレナーデ。不機嫌そうにしているが」
「そうですね。私も気になっていたところです。どうかしましたか? セレナーデ」
不機嫌そうに目をつり上げている、鹿毛のストレートロングのウマ娘──メジロセレナーデ。
俺の方をチラチラと見て、申し訳なさそうにしつつも。
「どうしたもこうしたもないわ、ありませんよ! またあのアホ姉、フェルマータお姉様に散々な目に遭わされたんですから!」
怒りの方が勝ったのか、机を乱暴に叩きながら立ち上がった。
すげぇな、ウマ娘のパワーでも壊れないこの机。
どういう材質なんだろうか。純粋に気になる。
おっと。今は机の材質よりも、目の前で怒っているセレナーデの方だ。
どうもフェルマータがなにかやらかしたようだが……心当たりしかねぇな。
シンフォニーも思い当たることがあるんだろう。苦笑いを浮かべている。
「あのアホ姉、唐突に花火が見たいとか言い出しやがったのよ!? とっくに夏は終わってるってのに!」
「そうだな。この前のメジロの本邸、やたらと騒がしかったからな」
「そうですよ! 市販の花火をしこたま用意して、周りを巻き込んで! おかげさまでおばあ様に怒られたんですから!」
「この前、急に花火大会の告知が来てると思ったら、フェルマータが原因だったんだね」
そして、セレナーデが語った怒りの原因は、容易に想像がつくものだった。
フェルマータなぁ。
別に悪いウマ娘じゃない。少々、というかかなりアホっぽいが、自分から進んで違反を犯すようなウマ娘ではない。
ただ、その、なんというか。
「アイツは短絡的な行動が目立つからなぁ。今回もまた、なにか理由があってのことなんだろうが」
「間違いなく、なにかがあったのでしょう。ですがいろいろと仮定をすっ飛ばして、結果だけを得ようとした……いつものフェルマータですね」
学園で打ち上げなかっただけマシだ、と思うしかない。
それに、あの日なら音的に打ち上げていたのは河川敷の方だ。メジロ家の本邸でもない。
つまりはまぁ、よくあることだ。
とはいえ、妹であるセレナーデからしたらそんなの知ったことじゃない。
「確かにアホ姉、フェルマータお姉様にも理由があったのかもしれません。ですが! 毎回毎回そのあおりを受けるのはボクなんですよ!?」
「お前はフェルマータの妹だしな。そういう目で見られるよな」
「その通りです! そしてその結果、ボクに生暖かい視線が向けられるんですよ!? 恥ずかしくて恥ずかしくて……!」
わなわな震えているセレナーデ。
周りは姉妹仲良いな~、程度なんだが、セレナーデには伝わっていないようだ。
さて。やるべきことは。
「んで、フェルマータがなんでそんな行動に出たのか、心当たりはあるのか?」
真相の解明だ。フェルマータが花火をやろうと思った理由について、解き明かすとしよう。
さっきも言ったように、フェルマータはアホだが考え無しじゃない。
理由もなく人に迷惑をかけるような奴じゃないんだ。
そういう奴だったら、学園で針の筵になってるだろうしな。
そうなってないってことは、アイツにもなにか理由があって行動している。
そしてその行動は、周りからしたら微笑ましいものなんだ。今回の花火の件もそう、周りは事情を知っているからこそ、無理に止めなかったしあるいは協力していた。
この時点で、ある程度理由を割り出すことができるな。
(おそらくだが、メジロ家の誰かのため。その中で一番可能性があるとしたら……目の前にいる、セレナーデのためだ)
アイツはシスコンだからな。
セレナーデのことを可愛がっているし、目に入れても痛くないと豪語していた。
セレナーデのためならば、アイツは多少の無茶もする。
花火の件は、セレナーデのためと仮定。
では、なんで花火なのか? だ。
「心当たり、と言われましても……ボクは別に花火を見たいとは言ってませんし、どうして打ち上げたかなんてよく」
「そうですね。花火を見たい、ではなくとも、ここ最近なにかありませんでしたか? セレナーデ。例えば、テストで悪い点を取ったとか」
「何でそれを!? じゃ、じゃなくて! いい、いえ別に!? なにもありませんけど!?」
……テストで悪い点取ったんだな、セレナーデ。
別に責める気はないが、勉強はしっかりしような。
そしてセレナーデだが、あまり話したくないことなのか。
「と、とにかく! ボクに心当たりなんてありません! なんでフェルマータお姉様が花火をやろうと思ったかなんて」
会話を打ち切ろうとした。
だが、それは許さない。
「本当か? 本当に、心当たりはないのか?」
「うっ……しゃ、シャーロック様……」
「別に、ないならそれでいい。無理に聞こうとは思わない」
セレナーデだって本当は分かっているはずだ。
フェルマータが何の考えもなしに、変な行動に出る姉ではないと。
口ではアホと言っているが、誰かのための行動であるのも、知っているはずだ。
バツが悪そうに視線を逸らすセレナーデ。
「けれど、お前だって分かっているんだろう? フェルマータがどんな奴か、どんなウマ娘か。お前の姉は、理由もなく理不尽に迷惑をかけるような姉だったか?」
「そ、それはっ」
「セレナーデ。分かっているのであれば、話した方がよろしいですよ。このまま、我々に誤解されたままでよろしいのですか? おばあ様への口添えも、出来なくなりますよ?」
シンフォニーからの追い打ち。
メジロのおばあ様に誤解されたままでいいのか? と訴えかける。
悩みに悩んで。
セレナーデの出した結論は。
「……実はボク、この前の小テストで補習になったんです」
事の真相を打ち明けてくれた。
シンフォニーのカマかけが、というよりただのたとえ話が、真相だったみたいである。
明かされた内容はというと、セレナーデが小テストで補習になったことが始まりだった。
たまたま勉強を忘れていた範囲から出題されて、焦りに焦って点が取れず。
気落ちしていたところにフェルマータと遭遇。テストの点を話した。
「そしたらフェルマータお姉様は、自分がいいものを見せてあげますわ~! って言って。どっかに走り去って行っちゃって。後でLANEに場所と時間の指定が送られてきたんです」
「んで、それが花火だった、と。なんで花火?」
「多分、ですけど。ボクが夏祭りの花火を綺麗と言ったのを、覚えていたんだと思います。一緒に見に行きましたから」
落ち込んでいることを察したフェルマータは、どうにかして元気づかせることができないかと考えた。
その時頭に思い浮かんだのが、今セレナーデが語った出来事なんだろう。
花火を見れば元気になると考えたフェルマータは、方々を回って花火を用意。
大人数ならより楽しく元気になるだろうと、声をかけた。
結果……今に至る、と。
「本当は、分かっていたんです。フェルマータお姉様は、ボクのためにやってくれたんだって。ボクのために、花火を打ち上げてくれたって」
「なるほど、ねぇ。そういうことかい」
「シャーロック様の推理がズバリ、でしたね」
「推理じゃねぇよ。状況と全員の性格、それらを考えた結果、フェルマータならこうするんじゃないか? って思っただけだ」
フェルマータはセレナーデのために花火大会をやった、というのが事の真相。
つまりは、落ち込んでいる妹のために、姉として何かしてあげたい、という気持ちが先行しすぎた結果、か。
美しき姉妹愛、良き、という前に。
「ま、あんまり褒められたことじゃないのは確かだな。周りを巻き込んで、メジロのお屋敷で花火大会をやり始めたんだから」
「そうですね。急なご連絡になったのですから、迷惑になるのは確かです」
「う、うぅ……。で、でも、フェルマータお姉様に悪気はなくて!」
言うべきことは言っておかないとな。
「ただ、フェルマータらしいと言えばらしいな。セレナーデのために、季節外れの花火をやろうなんてな」
「っ、え?」
「はい、とても彼女らしいと思います。プレリュードと似たものを感じますから、微笑ましいですね」
怒ることではあるが、そこまで叱るものではない、と。
褒められた行為じゃないのは確かだ。そこは否定しない。
ただ、フェルマータもセレナーデを思ってのこと。元気づけるためにと行動したことだ。
怒るに怒れない、ってのはこういうことを言うんだろうな。なんつーか、微笑ましいっつーか。
「っつーわけだ、セレナーデ。おばあ様には俺の方から言っておく。多分だが後日、おばあ様から呼び出しがかかると思うから、そのつもりでな」
「えっと、あの、その……い、いいんですか? シャーロック様。悪いのは、ボク達なのに……」
「いーよ。おばあ様だって詳しい事情を知らねぇんだろ? 俺の方から伝えておけば、ちょっとは情状酌量をくれるだろ」
「ふふ、シャーロック様のお言葉ですからね。おばあ様も、シャーロック様には弱いですから」
んなことはねぇよ。あの人身内には激甘だし。
で、セレナーデはというと。
「そ、その……あ、ありがとう、ございます、シャーロック様」
顔を俯かせて、恥ずかしそうにしつつも。
おばあ様に取り合ってくれて、自分達の罪を軽くしてくれるよう働きかけてくれることに、感謝していた。
全く、気にする必要はないってのに。
「気にすんな、セレナーデ。誤解されたままってのは嫌だからな。しっかりと、情報は共有しておかねぇと」
「……はい。ボクの方からも、フェルマータお姉様に謝らないと」
本当に、な。
さて、どうおばあ様に伝えたものか、なんて考えていると。
「やっぱりここにいましたわ~、セレナーデー!」
「索敵ッ! 発見ッ! 突撃ッ! わたしの目に狂いはない!」
件のフェルマータと、ついでのようにプレリュードがやってきた。
うん、一気にやかましくなったな。
「ふぇ、フェルマータお姉様。そ、その、この前はごめんなさ」
「この前? 何のことだか分かりませんわね。それよりもセレナーデ! 面白いものを発見しましたの! 貴方にも是非見せたいと思って、探していましたのよ! 早速行きますわよ~!」
フェルマータががっしりと、セレナーデの手を握る。
そして、思いっきり引っ張って。部屋を出ていった。
「待ってぇぇぇぇぇ!? や、やっぱりこのアホ姉ぇぇぇぇぇ……」
「うん、まぁそういう奴だよな、フェルマータは」
あの分なら大丈夫だろ。心配するようなことは起きない。
で、もう一組は。
「シンフォニー姉さん、勉学で分からないことを教えてくれ! 今度の小テストヤバいんだ!」
「おやおや、予習復習はしっかりしているのかい? プレリュード」
「してない!」
自信満々に言うな、プレリュード。しっかりやれ。
ただ、シンフォニーは少しも気を悪くせず。
「ならば、私が教えようか。今日の夜、私の部屋に来なさい。一から教えてあげよう」
「助力ッ! 感謝ッ! 深謝ッ! ありがとうシンフォニー姉さん!」
「構わないよ。妹に頼られて、嬉しくない姉などいないからね」
微笑みを浮かべながら、最後に俺に頭を下げて。
「それではシャーロック様。私はこの辺りで失礼します。今日はありがとうございました」
「さようならだ! シャーロック様!」
「おう、気をつけて帰れよ」
プレリュードと一緒に部屋を出ていった。
さて、と。
「俺もやるべきことをやるか」
部屋を出て、メジロの本邸へ行くことを決めた。
◇
メジロの本邸。おばあ様と向かい合う。
「……ということです。フェルマータも、妹であるセレナーデを思ってのことですので、あまり叱らないであげてください」
事の経緯を説明し、情報を共有する。
あまり叱ってあげないでくれ、というお願いも添えて。
おばあ様はというと。
「ですが、褒められた行為ではない。それは分かりますね? シャーロック」
「えぇ、その通りです。褒められたことではありません」
「ではなぜ、情状酌量を与えるべきだと?」
射抜くような目。真意を探っている、ってとこか。
とはいっても、別に考えなんてものはない。
「誰かのためを思っての行動ですから。フェルマータもフェルマータでやるべきことはやっていますし、反省しています」
「……それで?」
「反省しているのであれば、それ以上叱るべきではない。誰かのためを思っての行動が間違っているものではない……そう考えていますので」
これが全てだ。それ以上でも、それ以下でもない。
これでフェルマータやセレナーデに、負い目を感じてほしくない。
反省はしてほしいが、引きずってほしくないだけだ。
おばあ様はというと。
「……分かりました、シャーロック。貴方の顔に免じて、これっきりにしてあげましょう」
「ありがとうございます、おばあ様」
無事に許してくれた。
呆れつつも、俺の言葉にも一理あると理解を示してくれたんだろう。
今回の件についてはこれっきりにすると、約束してくれた。
やれやれ。これで正真正銘、一件落着だな。
帰るか、なんて思っていると。
「それとシャーロック。貴方も貴方で、あまり無理はしないように」
おばあ様から呼び止められた。
なんだろうか? 無理をするなってのは。
「どういうことでしょうか?」
「深い意味はありません。ただ、貴方を心配しているだけですよ。貴方は無茶しがちですからね」
……ステゴもそうだが、俺ってそんなに心配されるようなことしてるのかね?
別に心配する必要はないってのに。
「大丈夫ですよ。なにも問題はありません。俺は俺の、なすべきことをなすだけですから」
「……そういうところですよ、シャーロック」
呆れられた。なんで?
その後部屋を退出し、おばあ様と別れ。
「……さて、と。シャロにもいろいろと教え込まないとな。やるべきことは山積みだ」
今後の練習計画表を立てる。
「時間があるうちに、やれるだけのことをやっておかないと」
シャロのために、な。
メジロシンフォニー…葦毛の髪を腰まで伸ばした、物腰の柔らかいメジロ家のウマ娘。身長は160前半でハーフパンツ。メジロプレリュードの姉であり、姉妹仲は良好。体がそんなに強くない。メジロブライトとよく一緒にいるところが目撃されている。
メジロセレナーデ…鹿毛のストレートロングのウマ娘。身長は150後半のブルマ。メジロフェルマータの妹であり、フェルマータをアホと言いつつも姉妹仲は良い。よくメジロドーベルのところに入り浸っている。
メジロセレナーデのお名前はSimca V様からアイディアを頂きました! 本当にありがとうございます!