投げる者が受ける者のことを考えなければ上手くいかないからだ。例え投げる者の身長に大きな隔たりがあったとしてもそれは変わらないだろう。
今から綴るお話は、ちょっと不思議な出来事への始まりである。
「今日も精が出るな、お前たち」
鎮守府の埠頭で、資材の搬入を行っている輸送担当の妖精たちで賑やかなところに、提督直属艦隊旗艦である戦艦艦娘、長門が声をかける。妖精たちは立ち止まり、長門に海軍式の敬礼をする。
鎮守府第一艦隊旗艦ともなれば、その扱いは士官のそれに倣うというのが、ここの伝統だ。加えて長門は有名な艦でもある。その威光はそうそう衰えるものではない。
「これがお仕事ですから。代え難い私たちの幸せです」
そう笑顔で応える輸送担当妖精が、部下の妖精たちを促しながら軽々と物資を運んでいた。体こそ妖精の名の通り小柄だが、その内に秘める力というものは計り知れないものがある。
「少々お待ちください。すぐに運び終わりますので」
先程の輸送担当妖精が取って返してきて、すぐさま輸送船に乗り込む。
「いや。特に急ぎというわけではないし、もうじき出撃なんでな。出直すよ」
「ああなるほど、承知しました。艦隊任務、お気を付けて!」
「ああ。そちらもな」
長門は、微笑を浮かべて妖精たちを見送ると、自身の任務遂行のために工廠へと向かった。
少し駆け足気味に工廠に入ると、駆逐艦娘の暁と響の二人が長門の視界に入った。
二人とも何やら落ち着かぬ様子である。
「どうしたんだ、お前たち。こんなところで」
思わぬ遭遇に微笑を浮かべ、話しかける。すると四姉妹の長女である暁が慌てた様子で長門の元に駆け寄ってきた。
「どうしよう!どうしよう!」
「一体どうしたんだ。そんなに慌てて。何か壊したのか?」
あまりに暁が慌てているので、しゃがんでから話しかける。しかし、どうにも要領を得ない。すると今度は響が長門のもとに来る。
「実は、野球用の球で遊んでいるうちに、ここに飛ばしてしまって・・・」
そう言って、響は工廠の天井を見る。長門もその視線を追い、そして気付く。
「・・・ああ、なるほど。ようやく合点がいった」
その視線の先には、思い切り割れた窓があった。恐らく野球の球で遊んでいるうちに、偶然高く飛んで、不運にも工廠のガラス窓に落ちたのだろう。加えて、ここの工廠のおやっさんは怒ると怖いと評判だ。それだけで暁の心中は察することができた。
「大体の事情はわかった。私も一緒に謝ろう」
「良いの?長門」
危うく泣きそうになっていた暁の顔が、ぱあっと明るくなる。
「ああ。それに、私も用があったからな。ちょうどいいさ」
用事ついでに、大事な仲間のために頭を下げるのも、悪くないだろう。そういうことにしておく。
ただその後、工廠のおやっさんが、実は大の野球好きだということが分かり、自分の用事を伝えるまでにやたらと苦労する羽目になったのは、また別の話である。
その日の夕刻。
近海への出撃任務を終えた長門以下五隻の艦娘達は、装備を工廠に預けて各々街や食堂へと足を運んでいた。
そんな中、長門は再び埠頭に来ていた。その横顔が、夕日を受けて輝く。
「ふむ・・・。昼に会った妖精たちはいないのか」
たまたま近くにいた兵士に話を聞くと、昼間に埠頭で物資の搬入を行なっていた輸送担当妖精は、輸送船に同乗して仕事を手伝いに出たり、別の仕事場へと向かったとのことであった。
(残念だ。聞きたいことがあったのだが)
しかし居ないものは仕方がないので、いつものようにぐるっと港を散歩してから、宿舎に帰ることにしたのだった。
ところが、物資の貯蔵倉庫が立ち並ぶ区画に着いた時に、聞き覚えのある声と一緒に、爽快な、革を叩くような音が響いてきた。
(この音は・・・、グローブ?)
特別な関心がないというだけで、長門は野球を知らないわけではない。テレビではプロ野球などのスポーツ関連の放送は行われているし、街でも草野球などでその光景は目にしている。運動という名目で何度かキャッチボールに付き合ったこともあった。だからこそ長門は、音を聴いて、それがグローブでボールをキャッチした時の音だと気付けたのである。
故にというべきか、だからこそ、その光景は不思議なものだった。
「妖精たちが、キャッチボール?」
長門は、思わずそう口にする。
区画の隅で、数人の輸送担当妖精が、自分たち用のグローブを使ってキャッチボールを行なっていたのである。しかも、結構しっかりとした体勢で。技術があるというのも驚きだが、何より妖精たちもこのようなことをするのだなと、軽いカルチャーショックというものを受けたのだ。
長門は歩を進め、その場所へと入っていく。
「あ、長門さん。任務、お疲れ様でした!」
気配で気づいたのか、妖精たちはキャッチボールを止めて敬礼をした。長門も敬礼で応える。
「お前達もお疲れ様。ところで、キャッチボールか」
足元に転がっていた野球ボールを手に取る。
「はい。私たちの趣味なんですよ」
「ボールに触っていると、何だか落ち着くんです」
妖精たちは口々に答えていく。
「健康的な趣味だな。そうだ、私も、混ぜてくれないか?体を動かしたい気分なんだ」
微笑を浮かべて、ボールを妖精に投げて渡した。
輸送妖精のリーダーがそのボールを受け取り、他の妖精の顔を確認した後、いい笑顔で一言。
「一緒にやりましょう!」
と言った。
それから日が沈むまで、みんなでボールを投げ合った。
ゆっくりと時が過ぎていく。長門には心なしか、太陽の沈み具合もゆっくりになったように、感じられたのだった。
皆様、初めまして。ラウンド・テーブルと申します。
今回、ここに投稿させていただいたものは、友人からの要望に沿い、オリジナルの解釈とにわかな野球知識を絡めて執筆致しました。
面白いかどうかは保証いたしかねますが、読んで頂ければと思います。
そして、ここまで読んで下さった方にも、多大なる感謝を。