たましいのわらいごえ   作:ラウンド・テーブル

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向こう側には何があるのだろう。そうやって手を伸ばし、掴み取る。


たましいのわらいごえ 4 出会い

 長門班と別れた提督班は、資材倉庫のコンテナ集積所周りにある建物群を歩き回り、探索を始める。響と雷を先頭に、提督と金剛が後方を警戒する並びで進む。

 夜なので、辺りの雰囲気が既に肝試しのそれに近いものとなっており、仮に幽霊などが出なくとも十分に怖さを堪能できる。金剛などはいつでも抱き付けるよう、提督の隣を意識しながら歩いている様子だ。そのためか、響と雷は少しの変化も見逃さないよう、目を光らせていた。けして金剛の目を信用していないのではなく、提督自身への負担を少しでも減らすための行動である。提督は、電探類を装備した艦娘達ほどではないが気配察知に長けており、つい今しがたも、会話を交わしていたにも関わらず、辺りの物陰から唐突に出てきた猫や犬の気配を事前に察知していた。だからこそ、提督は辺りの気配が奇妙だと感じていた。

 明らかに人の気配がするのだ。

 夜ということもあるし、人員はもう引き上げているのだから当然といえば当然なのだが、今この場に居るのは、提督達と、別行動している長門達くらいのものだ。しかし、この周辺には明らかにそれ以外の、他人の気配が存在していた。

(ただの気のせいか、夜のこの独特な空気のせいで錯覚を起こしているのか。幽霊の存在を信じたことはないが、面白いな…)

 この時、雷も少し不思議そうな表情を浮かべ、辺りを観察していた。その目が物語る。この周辺の気配に違和感を覚えて居るのは提督だけではない、と。

「それにしても、変な感じ。夜だからかな、そこら中に人が居るみたいに感じるよ」

 雷が苦笑いしながら提督の顔を見る。

「夜だと、見えない所に不安を覚えやすいからね。そんな風に感じることもあるよ」

 微笑を浮かべ、冷静に響が応じる。元から彼女は落ち着いており、仮に同じような気配を感じていたとしても錯覚として片付けるのだろう。特に、この話を持ち込んだ一人としては自分がそれらの話に影響されていると感じ、余計にそう考えさせるのだ。

「ンッンー。この空気は確かに何か出てきそうな気がしマース」

 金剛は楽しそうに辺りを見回す。彼女には大人の余裕とも言える落ち着きがある故に、この空気の違和感を見落としている、という事だろう。

 逆に言えば、二人には不審者などの探知に専念してもらい、提督と雷の二人で幽霊関係の気配を捜索すれば効率よく探れるということでもある。大人数を避けたいとは言ったが、何かを探るならばそれなりの人手があったほうが出来る事も増える。ただそれも、人員の性質、特性次第ではあるが。

 備蓄倉庫一つを通り過ぎた頃、月が雲に隠れて辺りが少し薄暗くなってきた。倉庫の陰がさらに濃く、四人の行く手に降りてくる。風の音だけがさわさわと流れ、虫の声さえ聞こえなくなり始めた。ただ、金剛や雷がよく話すため、静寂が耳に痛いということもなかった。

「それにしても、何もないわね」

 そうしてしばらく歩いていると、雷が少し退屈したような調子で、提督に向けて話しかける。

 確かにこうまで何もないと、それらしい雰囲気だけで、拍子抜けもいいところだ。しかし提督は、何もなければ何もないで別に構わないとも考えていた。こういう事案では、平穏無事に終わることもまた好しというもの。噂は噂で片付けられて一件落着。以後はひと夏の思い出となることだろう。

「これじゃあ、肝試しにもならないかな。司令官の場合は特に」

 くすくすと笑いながら、響が言う。

「うぅん。そう言えば長門側はどうなんデースか?」

「そう言えばそうだな。金剛。ちょっと連絡を取ってみてくれ」

「了解ネー」

 提督の指示で、金剛が頭に付けているカチューシャ形の通信機で、長門班との通信を試みる。その間、雷と響に辺りの探索を行わせ、何か隠れていないかを調べることにした。結果、何故か猫が二匹、犬が一匹隠れているのを見つける。これで合わせて五匹目だ。

「犬も猫も多いね。一回、鎮守府内全部を見て回ったほうがいいんじゃないかな?」

 猫を運ぶ途中で響が提案する。

「もし事故があったら可哀想だもんね。怪我しちゃうかもしれないし」

 同じく猫を抱きかかえて運ぶ雷が賛同する。

 事故もそうだし、動物が怪我をするのが気の毒ということもあるが、何より物資を勝手に荒らされる可能性があることや、鎮守府内に糞尿を撒き散らす可能性、荷物に紛れ込んでどこか別の場所に渡ってしまう可能性の方が深刻だった。最近別の鎮守府で、他の港から渡ってきた海軍帽を被った土佐犬が、提督の執務室に居た柴犬と壮絶な喧嘩を起こして備品を破壊し、問題になったという話もあるくらいなのだ。気をつけておくに越したことは無いだろう。

「野良ならいっそ飼ってしまうのはどう?飼い主は鎮守府内から希望を募ればいいと思うし」

 雷がそういうことを提案してきた。事情があるにしても、一方的に追い出すのは気が引けると言うことだろう。ただ、数が多いとなれば、そういうわけにもいかない。

「移動させた犬猫くらいの頭数なら可能かもしれんが、多いと難しいな。どちらにせよ影響を受けにくい場所に移してから考えるべきだな」

 提督も確保した犬を傍に従えながら歩く。彼女も動物は好きなので、出来る事なら追い出したくはないという雷の意見には賛成だった。ただ諸々の事情も十分に理解して居るので、複雑なところだ。

「私も、猫は好きだから、飼いたいとは思うけど」

 意外に、どうやら響も賛成のようだ。

「では今度の定例会議で、議題に挙げてみよう。調査が終わったら資料として纏めておく」

「本当?さっすが司令官。いろいろ決まったら教えてね」

「ああ。その時はな」

 そうして犬猫を探索範囲外に出した後、先ほどの場所まで戻る。その間、再び何の声も聞こえない静寂が三人を包んでいた。先ほどまで犬猫の鳴き声がしていただけに、余計に静寂が物寂しい雰囲気を醸し出している。外に出した犬猫の声も聞こえない。既にどこかに行ってしまったのか。

 

 数分後に金剛の下に戻ると、彼女が怪訝な表情で三人を迎えた。

「どうした、金剛。長門達と連絡はついたのか?」

「連絡はついたのデスが…ちょっと様子が変みたいデース」

 そう言うと、金剛は自分のカチューシャ型通信機を外し、提督に手渡した。

 不思議に思いながらもそれを装着し、録音機能を使って記録された通話を聴く。

すると、通話中、金剛との会話はほとんど無く、一方の長門側は急いで何かを追っているようで、走っている息遣いがはっきりと聞こえる。さらに電と暁の慌てる声。そして長門が二人に指示を出す声が聞こえた後、通話が切れた。一応録音開始前に、金剛には不審な物音が聞こえたので調べに行くということは伝えたようだが、金剛はむしろ、通信が途中で切れた事よりも、長門達が何を追っていたのかが気になったようだ。

「これは…いったい何が」

 カチューシャの返却を行いながら、提督は呟く。

 長門達は何かを見つけた。そしてそれを追い、そのまま通信途絶。明らかに好ましい状況ではないと言わざるを得ない。

「あの長門が、ただの不審者に後れを取るようなことは無いと思いマスが…。仮にスーパーナチュラルな出来事に遭遇したなら、助けが必要になっているかも知れませんネー」

「そうだな。それに暁達も心配だ。巻き込まれていないとも限らない」

 超常的な何かを見つけたのか、或いは不審者を見つけたのか。何れにせよ現場で確認してみる必要があると判断した提督は、雷、響をいったん呼び戻し、長門班との合流に乗り出した。

 建物群の切れ目からコンテナ集積場へと足を踏み入れ、事前に想定していた巡回ルートを二手に分かれて回る。仮に順路通りに来ていないとしても、範囲外へ出たかどうかの確認が出来るだけでも十分な情報となるからだ。それに途中で暁達と合流できれば万々歳である。

「司令官。暁達大丈夫かな?」

 隣を歩く響が、少し不安げに提督の顔を見上げる。普段冷静なだけで、心配なものは心配なのである。

しかし、やはりというか、長門は心配の対象ではないらしい。それだけの信頼を皆から勝ち得ているというのは、教導艦としても活動する艦娘からすれば最高の栄誉といえるだろう。

「きっと大丈夫だ。姉妹の力を信じておけ」

 それはそれとして、暁達が心配なのは提督も同じである。多少の安請け合いは承知でも、そう言って微笑する。

提督としては、むしろ長門のほうが心配であった。金剛の言葉通り、武力に優れたあの戦艦娘が不審者程度に後れを取ることは無いだろう。しかし深海棲艦側の何らかの妨害工作ではないかという可能性が払拭できていない以上、予断は許されない。そういう意味でも、少しでも早い段階で合流しておくことが肝要だった。焦っても仕方ないのだが、人情としてはどうしても焦りを呼んでしまうのだった。

 しかし数分後、状況は意外に早い段階で進展する。

「司令官ー!響ー!」

「はわわわ…やっと追いついたのです」

「暁!電!」

 提督達の後ろ側から、暁達が追いついてきたのである。

『提督ぅ!長門発見したネー!』

 加えて、提督の携帯端末に通信が入り、金剛達が長門本人を発見し、無傷であることを確認したのだ。

 予想よりも早い状況の好転に、一同は安堵するが、しかし状況は完全に終了したわけでもないという事が同時に判明した。

「長門が棒立ちのまま動かない?」

 金剛の話によれば、長門はある一点を見つめたまま棒立ちになり、呼びかけにも応えない。しかも動かそうにもビクともしないそうで、どうにもならない状態なのだという。

『まるで地面に縛られているみたいネー』

「分かった。二人はそこで待機。私たちも暁達と一緒にそちらに合流する」

『オゥ!暁達も見つかったデスか?それは何よりデース』

「意外と早くに合流できて助かったよ。それじゃあ、またあとで」

 場所を確認した後、暁達と情報を共有。すぐさま金剛たちのいる場所へと向かった。

 

「それにしても、一体何があったんだ?暁、電」

 向かう途中で、提督は暁達に事の詳細を確認する。最初は色々混乱していたが、金剛からの通信が来た前後の段階で何が起きたかの話に導くと、次のような話が出た。

 曰く、ボールが跳ねるような、コンテナに跳ね返るような軽い音が聞こえてきたのだという。そして、その音の大元を探ろうと動き出すと、その音が移動を始め、コンテナの迷路を動き回り始めた。長門達はその音の大元を追い、迷路を走り回っていたが、ちょうど金剛からの通信が来たくらいに、何者かの影を目撃した長門は、暁と電に提督たちと合流するよう指示し、一人でその影を追っていったのだという。もちろん二人もすぐに後を追ったのだが、一つ目の曲がり角で完全に見失ってしまったらしい。そこからは、諦めて最初の指示通りに、提督たちとの合流を急ぐことにしたようだ。

「これでも全力で探したのよ…?」

「あっという間に見失ってしまったのです…」

「分かっている。こう暗い上に気が動転していたとなれば、よく起こることさ。気にするな」

 気落ちしている暁と電の頭を撫で、三人を連れて急ぐ。

「それにしても、不思議な出来事だね。加えてあの長門が動けなくなるなんて」

 先頭を行く響が何気なく呟き、帽子を被り直す。

「まったくだ。本当に何があったのやら」

 様々な憶測が思考を掠め、しかし、暁たちの話を聞いても不明な点が多すぎて、すぐにそれらは消去されていく。結局のところ長門本人に確かめる他なかった。

 そこからさらに数分後。出来る限り急いで、提督達は金剛達と無事合流する。

 見ると、確かに路地の一つで、何か意表を突かれたような表情の長門が直立不動の状態で固まっていた。その視線の先には、野球ボールが転がっている以外は、何もない。

「このままじゃ、完全にお手上げな状況デース…」

 合流するまで現場を観察していた金剛が肩を竦める。

「…この野球ボールは、最初から転がっていたのか?」

「転がってたはずよ。私が最初に見つけたんだから間違いないわ!」

 金剛の横にいた雷が、ついっと前に出て話す。

 提督は、地面に落ちていたその野球ボールを手に取り、軽くコンテナに跳ね返るよう投げる。すると、その跳ね返る音を聞いた暁は、その音だと頷いた。

「つまり…これが例の音の大元というわけか」

 野球ボールを響に手渡す。

「でも、これだけじゃ何も分からないね」

 そのまま近くにあった道具籠にボールをしまい、戻ってくる。

「やはり長門を正気に戻さないと駄目だな。長門、そろそろ目を覚ませ。みんな心配しているぞ」

 そう言って、提督は長門の傍へと向かい、その肩に手を置いた。

「ん!?」

 次の瞬間、提督の目の前に光が広がり、長門と共に包み込んでしまった。

 

 数秒程度だろうか。その光が消えるまで提督は目を開けられずにいた。しかし、光が弱まった次の瞬間に目の前に広がっていたのは、夕暮れ時の何処かの川辺と、何処かの空き地に設営された共用グラウンドだった。そして提督は、その共用グラウンドを川の堤防から見下ろす形で立っていた。見れば、長門も近くにいる。

「長門?」

 提督は、ひとまず状況の整理を後回しにして、長門に話しかけることにした。

「うわっ!?…ああ…提督、か?いや、すまない」

 急に背後から話しかけられた為か、一瞬驚き、しかしすぐさま平静を取り戻した。

「ここは、いったい何処なんだ?見る限り何処かの共用グラウンドだと言うことは分かるが…」

 まだ少し混乱している頭で、提督は情報を整理しようと試みる。

「いや、私にも何がなにやらさっぱりだ。ボールの音と影を追いかけていたら、“ここ”にたどり着いていた」

 これで長門の棒立ちの原因もはっきりした。このような脈絡も無い場所に急に放り出されたなら、誰でも思考停止状態に陥る。恐らく提督もまた、あの場所で棒立ちになっているに違いない。

「そうか…。しかし困ったな。これでは二次遭難になってしまう」

 ただ状況が状況だけに、非常に悩ましい状態に陥っていることだけははっきりしていた。

 しかし、焦ってもどうしようもないので、取り敢えず周囲の探索を行うことにした。共用グラウンドがある川辺の反対側には、木造の古い家屋が立ち並び、それこそ昭和初期のような様相を見せている。

提督達は、最初の混乱状態から徐々に回復して、周囲を観察する余裕が出てき始めていた。そうして冷静になってよく見れば、グラウンドには人がいる。大人たちが野球のユニフォームに身を包み、それぞれがキャッチボールを行っているようだ。

「あれは、プロ野球のチームだろうか?」

「ん、そうかも知れない。動きが洗練されているように見えるからな」

 何故か興味を惹かれた二人は、何とはなしにグラウンドの近くまで足を運んでいた。

 選手たちは、互いに声を掛けつつ、一球一球大事に投げ合っている。近くのネットには横断幕らしきものが掛けてあり、そこには「一球入魂 我らの星」と刺繍されてあった。

「烏丸!もっと腰入れんと押し負けるぞ!」

「ん?」

 提督は、主将らしき選手の突然の大声に思わず反応してしまい、頬を少しだけ紅潮させた。違うと分かっていても自分と同じ名前を呼ばれるとつい反応してしまう、そういう現象を経験した人は少なからず居ることだろう。

 提督はこれも何かの縁だと考え、照れ隠しついでにその烏丸と呼ばれた選手に目を向ける。すると、その人物に不思議な既視感を覚えた。

「どうかしたか?」

「いや、あの烏丸と呼ばれた選手なんだが……あの顔、どこかで見た記憶があるんだが」

「ふむ?」

 長門も、何とはなしにその人物に目を向ける。

精悍な顔つきの青年で、一目見ただけで人柄の良さが分かるような爽やかな容姿をしている。一塁の守備をしており、捕手を務めている主将とキャッチボールをしていた。

「安藤さん!もう一巡お願いします!」

 夕焼け空を背景に野球に汗を流すその様は、今、手にカメラを持っていれば思わず写真に収めたくなるほどに絵になっていた。提督も長門と同じことを考えたらしく、苦笑いを浮かべている。その代わり、メモ帳を取り出して簡単にスケッチしていた。

「スケッチか。提督、絵も描けたんだな。短時間で描けるものなのか?」

「短時間じゃ、流石に概要のような絵しか描けないな。まあ、大体の容貌が分かれば大丈夫だから、これでも別に問題ない」

 それから、選手達がキャッチボールをこなして守備練習を行う様子を、提督がスケッチし終わるまで見守っていた。近々大会が控えているらしく、皆気合が入っている。

「皆やる気に満ち溢れているな。大会か…」

「見てみたいか?」

 提督が微笑を浮かべる。返事を聞くまでもないと言う顔だった。

「そう言う提督こそ、気になるんじゃないのか?あの烏丸と言う青年は、提督の関係者かも知れんぞ?」

「そうかもしれないな。ただまあ、向こうからは私たちが見えていないようだし、何も出来んがな」

 少し寂しそうに微笑しつつ、スケッチの仕上げに入った。

 それから数十分後。

「こんなものか。すまない、待たせた」

「いや、私も練習風景見物が出来たし、良い暇潰しにはなったよ」

 微笑し、数十分同じ姿勢で固まった体を伸ばしたり、ストレッチをしたりする。提督の場合は描く姿勢のままだったため、長門よりも念入りに行った。

 ちょうど二人のストレッチが終わる頃、グラウンドの選手達も練習を終え、主将の下に集まっていた。待機所前で円陣を組み、反省会をしている。各々必要と思った意見を出し合い、まとめ役が紙に書き込んでいく。それを見ながら、烏丸青年や投手の青年、主将安藤がそれぞれに課題を洗い出し、全員に周知させていく。この様子を、長門は自分の教練風景と重ねた。

 自分のやり方は体育会系のそれなのかと考え、次に、やり方は今も昔も変わらないものなのだなと、感慨深げに眺めた。

「冴崎、このあと投球練習するだろ?俺も付き合うよ」

「有難う烏丸。じゃあ、よろしく頼む」

 それから十数分後、次々と帰る選手達の反対側で、主将の安藤、投手の冴崎、そして烏丸青年だけが残り、追い込みとばかりに投球練習を始めた。

「あの選手達は熱心だな」

「気合が入りすぎて、余韻が勿体無いと感じているだけかも知れんが」

 提督と長門は、その様子を微笑ましそうに眺める。

 すると。

「…?」

 再びの既視感。今度は最初に感じたものよりもはっきりとした感覚を二人は覚えた。

「長門も感じたのか?」

「あ、ああ。何故だろうな」

 記憶を引っ張るように考えたが、結局何が原因で既視感を覚えるのか見当もつかなかった。

 その時だ。空行くカラスの鳴き声と同時に、誰かが呼ぶ声が聞こえた。

「これは…金剛の声か?」

 提督だけではなく、長門にも聞こえているようだ。

「ああ、そのようだ。暁達の声も聞こえる。そろそろ私たちも帰る時間というわけか」

 提督達は、グラウンドを後にして最初の堤防へと戻る。そして、辺りの景色が陽炎のように揺らめき始めているのに気付いた。どうやら本当に戻る時間のようだった。

 最後に再びグラウンドを見る。烏丸達は、まだ熱心に投球練習していた。もう少し見て居たいなと思いつつ、その場を立ち去るように揺らめく景色の外を目指すように歩き始めたのだった。

 

 

「ん?」

 唐突に烏丸は動きを止め、堤防の方を見やる。

「どうした烏丸。急に」

「ああ、すまん。いや、誰かから見られているような感じがしたからな」

 帽子を取って頭を掻く。烏丸は意図しない人の視線が苦手で、あまり熱心に見られていると後頭部がむず痒くなる性質だった。

「ん?ああ、お前も感じていたのか。実は俺も同じような視線を感じていた」

 烏丸の発言に、同じく視線を感じていた冴崎も応じる。

「冴崎もか。何だろう、近所の子でも来ていたかな?」

「こんなに暗くなってきたのに?」

「それもそうだな」

「おい、お前たち。次で最後にするぞ!特に二人はいつ軍務招集が掛かるか分からんのだから、気を抜くなよ?」

 動作が遅くなり始めた二人の様子を見て、頃合と判断した安藤が宣言する。

「はい、すみません!」

それに合わせて二人が動き、すぐさま練習態勢をとる。

「お願いします!」

 三人の男達が、近くの籠からボールとグローブを取り、再び辺りに、軽くも力強い音を響かせ始めたのだった。




どうもこんにちは。ラウンド・テーブルでございます。
「たましいのわらいごえ」その四如何だったでしょうか?
いよいよ事態が進展します。いったいこれにはどのような意味があったのだろうか。
それは乞うご期待ということで。では、お疲れ様でした。
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