織田信奈の野望 平凡な日常と合戦と。   作:かぜのおと

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- プロローグ -

 彼は田畑の真ん中に居た。緑豊かな場所なのにもかかわらず目に見える場所には赤い斑点が見え隠れしていた。目を凝らして良く見ていると、田畑の他にも何かがある事が分かった。それは、こと切れた人間だったモノ……。

 胴体の半分が無い人間だった遺体や数十本と言う矢が刺さっている遺体、体に無数の穴が開いている遺体が散らばっていた。まさに死屍累々。

 彼はその正体を見つけた時、胃から逆流してくる衝動に口を手で押さえた。何とか口からの逆流は抑えたものの、とても落ち着ける場所でも無かった為、彼はその場を早く離れ様と辺りを見回すが、何処も同じ様な状況になっている事に気付いた。

 

「なんだよ。ここは……」

 

 彼は一言呟き、嘆く。恐怖と絶望を感じながらその場を離れ様とするが、縦横無尽に広がる遺体が彼の行く手を阻み、思う様に進めない。少し歩いては転びそうになり、少し歩いては遺体を踏みそうになる。

 

「何がどうなってるんだよ!意味わかんねぇよ!」

 

 全く状況が分からず、周りに広がる遺体などもあり、彼は立ち止って泣きそうになりながらもただただ歩き続け、漸く田畑から抜け出そうとした所で彼は出会ってしまった。

 

 抜刀している強面の兵士と……。

 

 彼と抜刀している強面の兵士の目が合う。彼はその迫力に言葉を失いながらよろけ、尻餅をついてしまう。兵士は敵(かたき)とばかりに刀を振り上げた。

 

「覚悟!」

 

 彼は〝死〟と言うのものを悟ったかの様に覚悟した。混乱していて何も分からずにいる状態でも、彼の脳裏には今までの日々が確かに蘇り、「走馬灯って本当にあるんだな……」、と振り下ろされる刀に写る自分を見ながら思った。

 振り下ろされた刀身が頭へ切り掛かろうとする紙一重の時、強面の兵士は目の前から突然と消えた。

 その状況を見ていたにも関わらず、現状を全く呑み込めない。吹っ飛んだ強面の兵士を見ると、首より上が無くなっていた。切れた場所からは血が文字通りピュッピュッと飛び出していた。その光景にまたもや胃からの逆流してくる衝動に襲われ口を手で塞ぐ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 彼は先程まで動いていた兵士の亡骸から声のする方向へ頭を動かす。そこには馬に乗った女性が鎧に身を包み、血が流れてる刀を持っていた。

 彼はその光景に更なる恐怖を抱き、腰が抜けた状態で女性兵士との差を開けようとするが、上手く行かず、その場から離れる事が出来ない。

 

「大丈夫です。怖がらないで下さい。私は貴方に危害を加える気はありません」

 

 女性は優しい口調で語りかけるが、彼は恐怖に支配されている所為か、目が虚ろになり、言葉も発せなくなっていた。その恐怖が限界を突破したのか、彼はそこで気を失い、完全に倒れこんだ。

 兵士の女性は、刀身を拭いた後に鞘へ戻し、馬を下りて彼の側に寄って行く。

 

「とても怖ったのでしょうね。私の刀も見ていたことですし、同じ様な恐怖を与えてしまったのでしょう。一六点と言う所でしょうか」

 

 彼女は彼を抱えながら自分の行動に点数を付け、倒れている彼の元へと歩み寄る。顔面蒼白になっている彼は、女性兵士の時代には存在しない姿で、ブレザーの高校制服に身を包んでいた。女性兵士は彼を担ぎ、自身が乗って来た馬に彼を預け、その後に自分も乗りながら思う。

 

「とりあえず、一度戻って姫様に報告しましょう。来てる着物からすると、どうやら、この国の人間では無い様ですし、もしかしたら南蛮から来た人間かも知れませんからね」

 

 女性兵士は馬を走らせる為に、掛け声を一つかけ、自分の主君が居る尾張へと戻って行った。

 

 

「ただいまー。さてと、着替えたら洗濯からかな……」

 

 彼は仕事や学校で誰もいない自宅へと帰って来た。仕事や部活などで皆が遅くなる彼の家では、一番最初に帰宅する彼が家事全般を行っており、今日も何時もの日課で洗濯から手を付け様と家族の洗濯物を集めて各部屋を回っていた。自分の部屋に着いた時、普段は制服から普段着に着替えているのだが、その日だけは着替えるのが面倒で、そのまま家事を行う事にした。

 洗濯が終わると、次は夕食の準備。既に買い物は終えているので、材料の下ごしらえを終わらせ調理する。冷めても電子レンジで温めて食べられる様なメニューを考えて作っている為、朝食に食べられる様にと、少し多めに調理していた。本当は暖かい内に食べて欲しいと思いつつも、彼の家の環境を考えると諦めるしかない。だからこその電子レンジメニューなのだが。

 食事の準備を終わらせた後は、ゆっくりと掃除をして、全てが終わった後にゲームでもして時間を潰す。それが彼の過ごす時代の最後の放課後の時間だった。

 

 

 彼は夢を見ていた。自分が住んでいた世界の夢を。家に帰り、普段通りに過ごしていた筈なのに、彼の世界は突如として変わった。殺伐とした死屍累々の世界に……。

 そんな夢を見ていた彼は、自分に襲い来る馬の揺れで強制的に目を覚し始めた。

 

「ん……」

 

 揺れる景色と顔に当たる風に段々と意識は覚醒する。その際、先程まで見ていた光景も思いだし、気分が悪くなるものの、逆流する衝動は無くなり、代わりに頭痛が酷い事になっていた。

 要は乗馬に慣れてない為に酔ったのだ。

 

「あら、目が覚めましたか?気分はどうかしら……って、まだ酷そうですね」

 

 彼の状態を後ろを見ながら確認した女性兵士は苦笑しながら言う。彼はその女性兵士と刀を交互に見ながら先程の恐怖が蘇り、直ぐに逃げようとしたが、それは女性兵士が手を掴んで止めた。

 

「今はダメですよ。落馬してしまったら命も危ないですから。折角助かった命は大事にしないとダメですよ。命を粗末にするのは零点です。」

 

 女性兵士は微笑みながら彼に言う。彼は「はい」と返事をして彼女の腰を掴み、落馬しない様にした。

 そんな彼を慈悲の目で見た女性兵士は……、

 

「先程はすみませんでした。貴方の反応を見た限りですが、あの様な光景は見慣れていなのですね。それにその出で立ち、失礼かと思いますが、日ノ本の方ですか?」

 

 女性兵士は前に向き直し、馬を進行方向へと導いて行く。彼は女性兵士の質問に口を閉ざす形で答えていた。彼の反応を辛抱強く待つ女性兵士。

 どのぐらいの時間が経ったのか、彼は漸く口を開き、彼の声が女性兵士の後ろから聞こえてくる。その際、彼の掴んでる腕は振るえていた。

 

「僕は……、この国の者です。貴女が言った〝日ノ本〟と言う国名、これは僕の時代では〝日本〟と呼ばれていました。質問を質問で返すようで申し訳ないのですが、僕は今〝何処〟にいるのでしょうか?」

 

 彼の考えでは途轍もない状況になっていると言う事にある種の確信があった。だからこその言い回しなのだが、必死でその考えや体をの震えを止めようと努力はするが、嫌な恐怖や汗が止まらないでいた。彼は女性兵士から返って来る言葉を待っていたが、その待っている間の時間も凄く長く感じられた。

 女性兵士は彼の気持ちを悟ったのか、震える手に自分の手を重ね、安心させながら言葉を紡ぐ。

 

「貴方が居る場所は、織田家の当主である〝織田信奈〟様が治める尾張です。尾張は東海道一の弓取りと異名を持つ今川義元が率いる今川家と三河の松平家の連合軍との睨み合いをしています。今の状況は尾張にとって十点です」

 

 女性兵士は悔しそうに今の状況を教えたが、彼への気遣いも忘れていない。重ねている手を持ちかえて強く握る。そこにちゃんと存在している事を示すかの様に……。彼が怯えなくも良い様に……。そんな手を、彼は無意識の内に握り返していた。

  そんな女性兵士の言葉で彼は「やっぱり……」と呟き、震えと恐怖が更に大きくなったが、強く握られた手の優しさに彼の恐怖と震えは徐々に抑えられて行った。震えが完全に取り除かれたのは、それから暫く経った後の事。時刻は夕暮れに差し掛かろうとしている所だった。

 女性兵士は、彼が落ち着きを取り戻した頃合いを見て、彼に優しく問いかけた。

 

「私の名前は〝丹羽長秀(にわ・ながひで)〟と申します。今は織田家の姫、信奈様に使える家臣です。貴方のお名前を教えて頂いてもよろしいですか?」

 

 女性兵士が……、……丹羽長秀が一度馬を止め、彼に向かって向き直す。彼はそんな長秀の目から視線を外す事が出来ない。決して、恐怖と言った〝負〟の感情からでは無く、長秀の目には言葉では言い表せない力みたいなのを感じた。彼は自分が名前を名乗っていない事に反省し、この時代の身分は途轍もなく大きいので、決して粗相のない様にと慎重になりながら、彼は家臣である長秀の目を見つつ口を開いた。

 

「あ……、あの、僕は椎名望(しいな・のぞむ)と言います。あの時に助けて頂いたのに、ご挨拶が遅れてしまい、誠に申し訳ありません」

 

 彼は……、椎名望は少し俯きながらもハッキリとした口調で自己紹介をした。長秀はそんな望をどこか安心した表情で見ながら質問を口にする。

 

「いえ、気にしないで下さい。混乱されていましたから。それでは椎名殿、幾つかお聞かせ頂いても宜しいですか?」

 

 長秀の言葉に「はい……」と短く返事をした後、何かを思い出したかの様に慌てながら……、

 

「えっと、僕のは事は望とお呼び下さい。椎名って呼ばれ慣れていないですし、〝殿〟なども不要ですよ」

 

 少し笑いながら長秀に言った。そんな笑顔を見た長秀は、同じ様に笑顔になりながら……、

 

「それでは私の事は〝万千代〟と……」

「分かりました、万千代さん。でも、僕と貴女とは身分が違い過ぎるのではないのでしょうか?」

 

 長秀の言葉に納得はするものの、身分と言う壁の前に、そんなあだ名で呼んでも大丈夫なのかと言う事を確認しないと安心が出来ない望。長秀は「大丈夫ですよ。気にしないで下さい。気にしてしまうのは三十五点です。」と、笑いながら答える。その笑顔を見た望も釣られて一緒に笑った。

 戦場を後にした二人に漸く笑顔が戻った瞬間だった。

 長秀は思う。望に感じる不思議な雰囲気。この正体は分からないが、とても穏やかな気分にさせられていた。望は何やら守りたくなる様な人だな……と。長秀と望が繋いでいる手は、そっと力が入るのだった。

 

「とこで望。話は変わりますが、貴方は何者ですか?先程呟いた『やっぱり』とはどう言う意味ですか?」

 

 長秀の嘘は許さないと念の篭った瞳を見ながら望は考える。助けてくれた彼女には嘘は付けない。どうすればいいのかと、しばし口を噤んだ。

 そんな望の様子を見ていた長秀は、彼が俯いたと同時に不安になり恐怖や震えが再び起きだした事に気付いた。

 

「望、大丈夫です。私は何もしません。だから、どうか安心して頂けませんか?」

 

 その言葉に望は顔を長秀へと向け、自分の境遇を一から話す事を決意する。きっと、殺される事は無い筈だと自分に言い聞かせてゆっくりと口を開く。

 

「万千代さん、僕は約四五十年後の未来から来ました……」

 

 そこから望の独白が始まった。自分が未来から来た人間で、望の時代から見た今居る時代は〝戦国時代〟と呼ばれている事、『やっぱり』と呟いたのは自分の置かれている立場が予想通りだった事、ただ自分の知っている歴史とは違う点も存在している事も口にする。尾張の主君である方が女性と言う事や、武将などに女性は居なかった点などを話して言った。

 

「そうですか。流石に全部を信じるのは無理がありますね……」

「ですよね。万千代さんと同じ立場だったら僕もそう思います。他の人に離す時は何かの能力……、千里眼とでも説明した方が、この時代だと信憑性はあるのかなと話てて思いました」

「その様な説明だと、信じる者もいるかも知れません。五十点です」

 

 話の途中から繋いでいた手は離し、馬を尾張の城へと向けて歩き出していた。馬の揺れで何度か落ちそうになる望。その度に長秀に助けてもらったりしながら道中の景色を見ながら話している二人。望は自分の事を包み隠さず長秀に話した。長秀は、正直に話してくれた望に対して、自分も正直に感想を述べる。望は苦笑しながらも長秀の言葉を受け入れ、今後の説明する時の参考にしていた。

 お互いが何者かと言う話をした後は、お互いの気になる部分に話が流れて行く。

 長秀は望の出で立ちが凄く気になり、その事について色々と質問していた。望は「やっぱり女性なんだな」と実感し、未来のファッションについても少し話をしていた。

 一方の望は、自分がゲームや歴史などで学んだ事が通用しない女性が武将となる事について、長秀に確認していた。少しでも今の時代と自分の歴史の差異を埋めてしまいたいと言う思いもあり、望も色々と質問する。長秀や、望本人も、意外に冷静になって対処している事に驚いていた。

 望が長秀に教えてもらった事は簡単に言うと……、

 一つ、『地理や大名の名前、地域支配などは史実と一緒』

 一つ、『武家の第一子は性別に関わらず家督を継ぐ』

 一つ、『「姫大名」や「姫武将」等と言った、女性の大名や武将が存在する』

 ……と言う事だった。若干、名前なども違う事は、長秀と話している内に理解する望。長秀は望の頭の回転の良さに注目しながらも、色々と教えて行く。

 一通り、尾張の事や周辺国家の説明も終わり、長秀と望は一息付き、今度はお互いの事について話し出していた。

 

「先程まで混乱していた人は思えない覚えの良さ、八十点です」

「ありがとうございます。暗記だけは凄く得意で、歴史とかも凄く好きだったんです。三国志とかも良く本で読んだりしていたんですよ?」

「三国志ですか?それはそれは。それでは計略などもされていたのですか?」

「いえ、僕が居た時代では既に時代が違い過ぎて使えないものばかりで、僕の時代の日本は平和で合戦などはありませんでしたから」

「なるほど。それは良き時代ですね」

「はい!」

 

 望は元気に答えるが、長秀に話していない事があった。それは歴史の中身。ヘタに歴史へ介入して時代を狂わせては行けないと思い、該当する時代の歴史は極力話さないでいた。それは長秀も気付いていたが、あえて触れないでいた。

 そに後も三国志や軍略や政略の話など、長秀と望は色々な話をして、不意に訪れる静寂。

 

「ところで……」

 

 一段落して静かになった所で望が言葉を口にする。

 

「僕は信奈様の所へ連れて行かれるのでしょうか?そうなるとやっぱり……」

 

 望は不安にながら長秀に聞いた。長秀を掴む手は微かに震えている。きっと殺されるのではないかと不安になっていた。

 そんな気持ちを察した長秀は、笑いながら言う。

 

「心配する必要はありません。先程の話から、貴方は今に無い計略や政治の知恵などを持っている事は明白。その知謀で姫様を支えて欲しいと思うのです」

「僕が……ですか?」

「ええ。その為には、姫様と一度会って頂いて、軍師としてお側に居て欲しいのです」

 

 長秀の言葉に望は考える。自分の歴史の知識は根底から歴史を覆しかねない知識であり、むやみやたらに披露出来る情報じゃない。それは長秀も話題に出さないだけで分かっている筈。歴史の事は口に出さないとしても、政略や軍略なんてものは、素人でも分かる様な一握りの知識しかない。そんな知識何かで役に立てるのだろうか。そもそも、望の歴史の知識を使って、全てを覆そうとしているのではないか?そんな後ろ向きな考えしか出て来ない望。長秀は望の表情から背中を押すかの様に言葉を口にした。

 

「望。そんなに深く考えないで下さい。貴方の考えている以上に貴方の知識は幅が広い。私も力を貸して欲しいのです。貴方の知識があれば、生き残れる者も増えるはず。どうか、私にも力を貸して頂けないですか?」

「僕にそんな……、人を助ける様な力がありますか?」

「もっと自分を信じて下さい。私は貴方を信じています」

 

 長秀は力強く言った。会って間も無いのに、どうしてそんな事が言えるんだと感じる望は、表情を曇らせる。長秀は望の答えを待った。自分の思いは素直に望へと届けた。これでも望が断るなら、無理強いはさせず、尾張の街で暮らせる様にと手配するつもりだった。折角助けた命を無駄にするつもりなど、長秀には毛頭無かった。

 暫く無言が続き、馬の歩く音だけが辺りを支配する。そして、望から息を吸い込む音が聞こえ……、

 

「万千代さん、僕は貴方の言葉を信じ、僕も貴方を信じます。どこまで信奈さんのお役に立てるか分かりませんが、この知識、ぜひ使って下さい」

「ありがとうございます」

 

……、長秀は心の底からお礼を口にした。望が葛藤している危惧は長秀にも分かっていた。望自身も自分がここに居て良い人間では無いと言う事に気付いている。だから殺されても文句は言えない。それだけ望は危険な人物なのだ。だから望に危害が加えられない様、長秀は自分が望を守る事を決めていた。

 

「それと、僕は信奈さんだけではなく、貴女の力にもなりたい。助けてもらった命は、恩は必ず返します」

「うふふ。嬉しい事をおっしゃいますね。九十点」

 

 また望も、長秀の覚悟を読み取り、信奈より長秀の役に立ちたいと言う気持ちが強かった。望は自分が言ったセリフが凄く告白みたいなセリフだと気づき、顔が赤くなる。そんな望を見ながら笑う長秀。二人が同じ様な想いを胸に抱いて、馬を歩かせながら、尾張の街へと入って行った。

 




当方初心者の癖して不定期更新です(汗
次の話を気長にお待ち頂けると嬉しいです。
感想とか頂けると作者は泣いて喜びます!!(笑

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