――仮面ライダー。
何度、その言葉を舌に運び、音に乗せて発したことだろう。
だが、今この時択徒から漏れたのは、まるで初めて発生した赤子のような、たどたどしいものだった。
無理もないだろう、と叫びたかった。
今までなんてことのない、小料理屋を営む寡黙な兄だと思っていた。その兄が、仮面ライダー?
受け入れられない事実が、受け入れるしかない現実として、今立っている。
「はぁっ!」
そして、駆け出した。怪人たちのの只中へと、跳んだ。
その彼を迎撃すべく飛び出たのは、灰色の進化人類、オルフェノクの一体。
いくらかの肉弾戦、空中戦での応酬の中、シャーズはベルトから竿を抜き取り、突き出した。オルフェノクの胸板を突いた。その衝撃で、竿は本来の長さを取り戻した。
そして反動を流すことで方向を変えて着地すると同時に、二の腕辺りで得物を取り回し、薙ぐ。そこから繋げた連続突きは変幻に敵を惑わす。
そうして、逃げ惑う人々から悪鬼を遠ざけていく。
「お次は、こいつだ」
再びベルトに格納した竿の針に、今度は赤い亀の甲羅を象ったルアーを吊るす。その上で、再度リールを回し、グリップを握り締めた。
〈タートル! フロートロータス! ブラスタートロータス!〉
すると亀のヴィジョンが彼の周囲を徒に回り、手足を畳み首を引っ込ませ、左手の甲に貼りつき、物質化される。
そのまま亀甲の形状をとるや、半透明のエネルギーフィールドめいたものを前面に展開。それは敵の遠近いかなる猛攻を防ぎ、代わり、短縮化させたままの釣竿を逆の手で引き抜くや、警棒のように振るい、的確に急所に相当する部位へと矢次早に叩き込んでいく。
〈フィニッシュフィッシュ! タートロータスマッシュ!〉
リールを回してドライバーにセットすると、エネルギーがボディラインを伝って左脚部に送り込まれていくのが、視覚的に理解できた。そして腕からパージした亀甲が水平に浮かび上がり、絶好のポジションをとるや、その脚でシャーズは甲羅を蹴った。
湾曲した軌道を描いて地面すれすれを旋回する赤甲羅は、多くの怪人たちをなぎ倒し、そのたびに抜けるような軽妙な音を響かせながら、その放出するエネルギーをもって爆散させていく。
「もう一発」
〈シャーズ!〉
基本のアイテムらしいサメに再び付け替えたシャーズが、釣竿を大きく振って限界まで伸ばす。
弧を描いて空中へと伸びると、空中を浮遊していたグンダリに、サメは猛然と食らいついた。
断末魔をあげてのたうち、暴れ狂う眼魔界の怪魚。それを引きずり回し、天地の敵をあまねく巻き込みつつ、自らの下へと引きずり込んでいく。
サメも、細い糸も、決して食らいついて離さないままに、地を引き落とされたグンダリはアスファルトを削る。
「フィニッシュフィッシュ! シャーズクリムゾンクラッシュ!〉
最後の締めとばかりに渾身の腕力で、竿のしなるほどに引き寄せられた時、赤光を帯びた右足を突き出した。
前から後尾まで。キックを叩きつけられた赤い亀裂が奔り、四散した。その際に、多くを誘爆させて。
――然して、なお。
その爆炎の帳を乗り越えて、なお無数の影が大きく、濃く、数を増していく。
「大漁、なんてレベルじゃないな……」
と呟いたその時、その頭上の空が、唸り声のような音とともに、大きく揺らいだ。
生じた波紋を潜り抜けて、鬼にも似たフロント部分を持つ、数階建ての巨大な列車が、虚空にレールを敷き、それをなぞるようにして下降してきていた。
「キング、ライナー……?」
時の列車、デンライナー。その大型版ともいうべき、歴史の転換点に際して現れるという、仮面ライダー電王においてもひときわ特別な車両だ。
ただしその色は、赤ではなく、白銀。そして自動ドアがスライドし、中から現れたのもまた、電王ではない。
どことなく、その意匠を
その彼に率いられているのもまた、既視感はあるものの、知識としては明確に見覚えのないライダーたちだ。
熊らしい猛獣の毛皮を右肩から打ち掛けた、紅玉に黄金の角と毛とを張り巡らされたかのような異形の鬼面。身体つきから女性と分かる。
一方でもう一人は、見るからに屈強な大男としてのボディラインを龍麟のごとき装甲でまとい、紫紺にして多頭の蛇を冠兼バイザーとして絡め戴く、黒いスーツのライダー。
その彼らが今、敵味方を問わず、戦場の注目を集めていた。