突如として現れた、三人のライダー。
その先頭を切る、電王にも似たライダーは、左右に目線を配るようにしながら、
「
少年の声で甲高く指示を飛ばすと、後ろのライダーたちは言われた通りの方向へと進み、自らは中央に直進する。
「はいよ」
不敵に応じたのは、ラヒド、と呼ばれた存在。
その体躯から発せられるのは、野太い男の声である。
大股で戦場を闊歩する彼は、諸々の射撃行為に対して何ら臆することなく、ズンズンと突き進んでいく。ただの無謀でも猪突でもない。あらゆる攻撃が己を脅かすことがないと知り切った、堂々たる前進。
「ほら、来いよ」
悠々と突き進みつつ、指先を前後させて敵のさらなる攻撃を誘う。
それを見た神罰の代行者、アンノウンたちが、蟻型の群体を主力にしてに殺到する。
次から次へと殺到するそれを、パワフルな腕の動きで薙ぎ倒していく。的確に急所を抉り、次が来るまでのわずかな時間までに、確実に仕留めていく。
その頭部の蛇が、伸び上がって展開した。
差し込む夕日が逆光となってその蛇の影を作る。その影が、厚みを持って実体化すると同時に、アンノウンたちを絡め取った。
そしてラヒドは天高く飛び上がると、勢いそのままに飛び蹴りをその只中に打ち込んだ。
あらゆるものを誘爆せしめ、後に残るのは、異形の蛇人ただ独り。
〜〜〜
択徒が西を顧みれば、戦端は開かれている。
熊皮の外套を纏い、体幹をブレさせることなく、歩く様は、まるで海外セレブのようだった。
「Time is gold……アタシに時間を使わせた借りはデカいよ」
細身の音撃棒の一対を腰の裏より抜き取り両手に携え、鬼は踏み出した。
退治した魔化魍たちの腕の半分以下の厚みしかないはずのその霊枝はしかし、鮮やかな撥捌き、ともいうべき神速の打ち込みによって破壊力を生み出し、彼らを祓っていく。
そして生じた時間的、空間的間隙において、金時鬼は、自らの腹から鼓を外し、如何なる原理によってか、自らの手前の中空に浮かせた。その周りに、ディスクアニマルたちが集い、その形を円盤状に折り畳み、彼女を囲む。
「音撃連打、
それが、技の名であるらしい。
音撃棒で、鼓を拍つ。シンバルのように、ディスクを叩き鳴らす。
時に力に任すままに鮮烈に、時に腕を交差させてテクニカルに。
そうして、八方に展開された音源から生じた風圧は雷雲を招来せしめ、雷は熱となって敵を焼く。地を砕く。
あらゆる森羅万象を内包した音撃は、魔化魍や他種の怪人を問わず駆逐していく。
「誰だか知らんが、助かる!」
シャーズは彼らの加勢を得るや、ますますその力も技を冴えを見せて、圧倒的な数の敵を教え返してくる。
「すげぇ……」
択徒は、思わず口にしていた。それしか、言葉が見つからなかった。
画面越しとは違う。本物の戦闘。
真に迫る。ゆえに、心奪われる。
だが、そのために一瞬失念していた。
もはやこの世界に、安全の確保された観客席など存在しないことを。
怪音をガスマスクの下から漏らしながら、背後からモグラのイマジンたち。
その手に伸びた鉤爪は、現実に存在した時、命を刈り取る形と鋭さと、重さを持っていた。
ひっと声を上擦らせる彼に、飛びかかったモールイマジン。だがその胴を、一筋の光線が貫いた。
地に降り立ち、択徒を貫く前に爆散し、ただ火花のみが彼の頬を掠めた。
「さて」
その日の向こうから歩み寄るのは、件の電王のようなライダー。
デンガッシャーのガンモードと、燕の羽のような、わずかに反った黒い短刀そ両手に携えている。
横撃ちに斉射すると同時に、その光弾をもう一方の刃で両断する。
輪切りになった弾丸は、本来の軌道から大きくズレて、無秩序に飛んでいく。
それらに撃ち抜かれたイマジン達が、断末魔を響かせ、重ね合わせながら、次々に爆散していく。
だがそれらは彼らのみならず、そのライダーや、択徒にさえ当たりそうなほど。
「動かないで」
逃れようとした択徒の身体を、その青年の声が縫い止める。
そしてその言葉に従えば、すぐ脇を弾丸が通り抜け、択徒の代わりにそこに縋る怪人たちに命中した。
「うん、今日も僕は運も実力も絶好調」
と嘯きつつ、択徒に接近。まるでレールの上を駆ける車両のような軌跡の上、流麗に刃を舞わしめ、一帯の残敵を、一度の被弾もなく掃討していく。
そうして安全を確保した時、択徒の方を向いた。
「ほう……? うん、なるほど」
と、妙な得心の様子と共に、しきりに頷く。
「な、何か……?」
尻もちをついて後ずさる択徒に、彼はおもむろに
「おめでとう。君には素質がある」
と言った。
「ガシェ。アレを」
と短剣を手放す。
〈了解いたしました。我が主よ〉
するとその剣は宙に浮かび上がり、その把手にある眼らしき器官が、赤く明滅する。執事然とした物腰柔らかな口調と共に、何かが空けた彼の掌上に転送されてくる。
それは、一基のベルトのバックル――いわゆる、ドライバーだった。
銀色の基盤。右端に一体化する形で、時計型のユニット、ライドウォッチが接続されている。
中央にはマゼンタ色の、大ぶりのランプが点滅し、それを挟んで反対側にはカードを入れるためのスロットが取り付けられていた。
だがジクウドライバーとも、あるいはディケイドのそれとも、似て非なる何か。もしくは、ゼインドライバーにも作りは似ている。
それと、おそらくは対になるであろう、未知のライダーの肖像がプリントされたカードを掲げながら、その『電王』は言った。
「エディスライバー。僕が開発した、新たなライダーシステムだ。どうやら、君のバイタルに適合するようだ。これで変身し、僕らと共に戦ってほしい」
――いつか、自分の未来を定める、そんな決断を下さなければならない時が来る。
その予感を覚えたのが、まさに今日の、つい先のこと。
「強制はしない。だけど、君が択ぶことだ――このまま座して何もせず只人のままに終わるか。それとも、世界の理から抜け出ても、より大いなる秩序のために、戦うか」
そしてそれは、まったくの猶予などなく、唐突に突き付けられた。
そしてそれは、思ったより、選択肢などないのだろう。
目の前で繰り広げられる混沌と、自身を苛む無力感を想えば。
択徒はそのカードとドライバーを、ライダーの手からもぎ取った。
素質、というものだろうか。それは不思議と手になじんだ。知識ではなく本能で、どうすれば起動できるのかを体得できるほどに。
腹の前に、そのドライバーを据えると、左から右へと一周して、ベルトが展開される。彼のウエストに、自動調整される。
氷か、ガラスを踏むようなシークエンス音が慣らされる中、一方の手をライドウォッチのスイッチに、もう一方の指にカードを挟み、左の挿入口にセットする。
そのうえで、自らの前で腕を切るように回し、一度は夢想し、ともすれば口にした言葉を紡ぐ。
「――変身!!」
その言霊に応じるかのごとく、ベルトのランプから光が生じ、それは亀裂となって一帯の空間を駆け巡る。
〈Absorb the universe! Eddice!〉
裂け目から降り注ぐ、極彩色のエネルギーが彼を、新たなる戦士へと変容させていく。
まるで、自分だけが世界から浮彫になったかのような、択徒はそんな錯覚さえ抱く。
凹凸の彫りこまれた頭部に、|緑のゴーグル型のバイザー。そこに赤い亀裂が奔り、視覚ユニットが形成される。
白いボディスーツを基調として、稲光のような文様が浮かび上がるプロテクターが関節部を保護し、マゼンタに白銀の装飾を施したアーマーが肉体を鎧う。
「おめでとう。これで君は、仮面ライダーエディスだ」
喜色の滲む声と共に、『電王』はその誕生を寿いだ。