仮面ライダーエディス。
その名は、不思議と全身に馴染んだ。と同時に、力が沸いてきた。
ケンカさえもまともにしてこなかったはずなのに、今まで腰を抜かしかねないほどだったのに、今はこの
「はぁぁぁぁ!!」
勢いそのままに、択徒は駆け出した。跳ね上がった。
その先にいるのは、アナザーライダーたちの群れである。
着地と同時に、殺到する怪人たちを不慣れで伸びきらない両腕を振り回したり、体当たりをかまして退けていく。
まだ身体が追いついてはいないものの、感覚だけは冴えている。敵の攻勢は、心なしか緩慢に見えて恐ろしくない。
(これが、仮面ライダーの見る景色……!)
最初は乗り切らなかった。本格的に、その道に携わることを。それが現実かフィクションの話かはさておいた。
だがこの肉体を衝き上げる衝動と満たされる高揚感は、その逡巡が吹き飛ぶぐらいに、何物にも代えがたい。
地表を液体化し、弓を縦につがえて連射してくるアナザービルド。その矢をバック転で躱しながら、
〈Chain array on〉
アナザーフォーゼから打ち出された鎖付き鉄球は、ひときわ高いジャンプで避ける。そのうえで、飛び上がったままに、その鎖を、アナザーフォーゼと渡り合い、凌ぐほどの剛力でもって手繰り寄せ、着地と同時に、力負けした彼の腹を蹴り破る。
その一打一打が、いっそ不自然なほどに、軽い。
硝子細工を、あるいはそこに映し出された画面を打ち砕くかのような、現実感の無さを感じさせる。敵に拳が当たるたびに、彼らを内包する空間そのものに、亀裂が奔る。
「これで決まりだ」
そう宣言しつつ、自らのベルトに、
いくつもの地球が、亀裂を背景にエディスの広げた両腕に取り込まれていく、奇妙な図柄のカード。それを変身用のカードに重ね合わせるように、ベルトの左側から挿入し、掌で叩く。
〈Finish universe! Eddice!〉
その足下に、無数の断裂が奔る。またたくまに広がっていくそれは、アナザーライダーたちの地点にまで及び、彼らの身を硬直させ、震わせた。
それから一気に両脚に収束し、再びエディスは爪先を突き出すようにして跳躍した。
稲妻のように、その軌道に、着点に、一帯の空間に。
断裂を伴いがら、エディスは繰り出した。
文字通りの、必殺技を。
一人と言わず、連なる数多を、屠るための一撃を。
そして紙切れを貫くような容易さで。
彼らの像を前後に貫通したエディスは、数珠つなぎの爆華を背に、膝でスライディングしながら着地を決めたのだった。
〜〜〜
かくして、各々の奮闘もあり、厳しい局面は乗り切った。
そこであらためて、シャーズは弟へと、エディスへと近寄った。
「お前……択徒か」
そう問う声は、何処となく重さを帯びていた。
「そうだよ、兄貴。俺もライダーになったんだ。そうなることが、きっと俺の運命だった。これが俺の、決断だよ」
そんな兄の声音が、不安によるものだと察した択徒は、あえて明るく答えた。
「……正直、お前には普通の人生を歩んで欲しかった」
朴訥と、だが明確な発声で斉徒はそう答えた。
その気持ちはありがたいが、すでに決めて、為したことで、成ったモノだ。今更引き返せはしない。
そこに、件の三ライダーが並んでやってきた。
彼らの姿を認めた兄は、竿を持つ手を掲げてみせた。
「あんたらにも、世話になったな。俺は仮面ライダーシャーズ、断河斉徒だ。で、そっちは」
二つの名を称した斉徒に、『電王』は頷き、返した。
「はじめまして、シャーズ……そして、残念だよ」
え、と問い返した時、その異変は起こった。
世界が、割れ始めた。
そうとしか喩えようもない何かが、目の前で起こっていた。
兄も、残る敵も、人々も、建物も空も。
全てがまるで、アクリルパネルのように平面になっ、ヒビ割れて、端から音を立てて崩れていく。崩れた先には、何もない。先などない、虚無だけが広がっていた。
「な、何が……!?」
無事なのは、立体なのは、択徒と、他のライダーたちだけだった。
「兄貴! 兄貴!!」
消えゆく兄を、択徒は救い出そうと必死に手を伸ばした。だが、見えずとも、兄弟の間には絶対的な隔絶が存在して、一切の干渉を拒んでいた。
その隔たりに懸命に、何度も拳を振るう彼のベルトの下部から、一枚のカードが
〈Kamen Rider Sharz〉
そう銘打たれ、今まさに砕けて消えた、仮面ライダーの絵姿が描かれた紙片が、零れ落ちた。
それを、落ち着き払った手つきで、『電王』は拾い上げた。そしてしまい込むや、空けた手を額にやりながら、
「やはり、世界の滅びは避けられなかったか……!」
と、いかにも苦悩と悲憤を滲ませたような調子で呟いた。
その彼の背に、キングライナーが滑り込んで停車する。
「おい、もう時間切れだ」
開けられたドアから車内に乗り込みながら、ラヒドが顎をしゃくるようにして促す。
「君も来るんだ。残念だが、もうこの世界は手遅れなんだ」
そう、『電王』が択徒の腕を引く。
「離せ、離せよッ! 兄貴が、みんなが……俺の世界が!」
半狂乱になりながらそれに抗い、留まろうと、救おうとする。
そんな択徒の前に、兄がいたはずの空間に、焔が揺らめいた。青い矢印が、閃いた。
瞬間、鈍く重い衝撃が、択徒の腹部を襲った。割り込んできた、その影が拳をそこへめり込ませていた。そしてそのまま、ベルトを彼から引き剥がした。
その一撃で、薄らいでいく意識。
完全にそれを手放す間際、択徒が目撃したのは、
「ガッチャード……デイブレイク……」
見覚えのある紅蓮のマントと、同じく暁のように紅い空だった。