星空のレゾナンス   作:つる植物

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3 初めてのデート

 金曜の夜、私は持っている服をすべてベッドの上に並べて頭を抱えていた。

 あの日、加瀬っちをからかったものの、実は私だって男の子とデートをするのは初めてだ。

 あの日、家に帰ってからベッドの上で悶絶したのは内緒である。

 可愛い系にするか、格好良い系にするか。

 さらに色彩の組み合わせまで考えると、選択肢は無限大だ。

 加瀬っちなんて、きっと普段通りの格好で来るに決まっている。こっちはこんなに悩んでいるというのに、なんだか納得がいかない。

 あいつは私の胸が好きみたいだし、いっそボディラインがはっきり出る服で誘惑してやろうか……いや、でも加瀬っち以外にそんな姿を見られるのは嫌だ……思考が同じ場所をぐるぐると回る。

 結局、いつも通りの身体のラインを隠す服装で行くことにした。さっさと寝てしまおう。

 

 

 翌朝、朝食を済ませてからシャワーを浴びる、いつもより念入りに身体を洗った。

 万が一、いや、まずありえないとは思うけれど、下着を見せることになってもいいように一番可愛い薄いピンクのフリルとレースがあしらわれた下着を着用する。

 見せずとも、気合を入れる意味で勝負下着には意味があるのだ。見えないところにこそ、全力を注ぐべきである。

 時間をかけてナチュラルメイクをし、服を着て鏡の前に立つ。

 ハーフアップの髪留めは小さな赤色のリボン付き、赤色のボリュームスリーブブラウスに黒色のプリーツロングスカートという格好だ。

 昨日の夜、あれで行くと決めたはずなのに、なぜか「もっといい格好があるんじゃないか」という不安が消えない。

 らちがあかないので覚悟を決めて家を出た。

 あれだけ余裕を持って準備していたはずなのに、気づけば時間はギリギリだった。

 

 

 午前11時、駅前に着くと加瀬っちが既に待っていた。

 予想通りいつも屋上に現れる時の服装だ。

 

 「お待たせ。……待った?」

 

 デートの定番セリフを口にする時が来るなんて。

 内心で死ぬほど恥ずかしいけれど、表情には決して出さない。

 

 「いや、俺も今来たところだ」

 

 これまた定番すぎる返事。

 何か……むず痒い! 恥ずかしさをごまかすために、私はその場でくるりと優雅に一回りしてみせた。

 スカートがふわりと広がる。

 

 「ねえ加瀬っち、何か言うことは?」

 「……はいはい。可愛い、可愛い」

 「はぁ? 雑すぎるでしょ!」

 

 私がむっとすると、彼は困ったように笑った。

 

 「……嘘。似合ってるよ。本当に、可愛い」

 「ふふ、もっと褒めてくれてもいいのよ?」

 「……可愛い以外の言葉が見つからないんですけど」

 

 加瀬っちが真剣に困った顔をするものだから、しょうがない、今回は許してあげよう。

 

 「取り敢えず、ご飯食べに行こっか」

 「あぁ」

 

 駅前のサイゼリヤに入る。

 私はカルボナーラを、加瀬っちはミートスパゲッティの大盛りを頼んだ。

 ソースが跳ねないのかと心配になるが、黒い服だから大丈夫そうだ。

 私はフォークでパスタを上品に巻いて食べているのに、加瀬っちはお箸で豪快に麺をすすっている。

 スパゲッティをお箸で食べる人なんて初めて見たけれど……。

 結局、私が食べ終わるまでに彼はピザまで注文してペロリと平らげてしまった。

 その気持ちいいほどの食いっぷりに思わず笑みがこぼれる。

 食べ終わったところで彼が少し落ち着かない様子で切り出した。

 

 「このあと、どうすんの?」

 「二駅先のショッピングモールでウィンドウショッピングかな。加瀬っちの服を選んであげるから、私の服も選んでよ」

 「……お菓子は?」

 

 私は窓の外、駅前のスーパーを指さす。

 

 「帰り道にあそこで買えばいいでしょ? 割り勘で」

 「……それなら、わざわざショッピングモールに行かなくてよくない?」

 「……はぁ。お菓子の買い足しはついで! 今日はデートよ?」

 

 何言ってんだ、この鈍感男は、最初からデートだって言ってるでしょうが。

 加瀬っちは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。……まったく、本当に可愛い奴。

 

 

 電車に揺られ、屋外型のショッピングモールに到着した。

 それにしてもすごい人混みだ……手を繋ぐぐらいなぜこの男は言い出せないのか。

 あたしは内心で毒づきながら無言で加瀬っちの手を握った。

 途端に彼はビクッと肩を震わせる。

 横目で見ると顔が真っ赤で、本当にウケる。

 

 「はぐれたら面倒だしね」

 

 すかさず言い訳を用意してあげるなんて、あたしって本当に良い女。

 

 「双葉、顔……赤いぞ」

 「……黙りなさい」

 

 初めて男の子と手を繋ぐのだ、赤なるくらい、しょうがないでしょうが。

 二人のんびりと歩く。

 

 「入りたいお店があったら入っていいよ」

 「……双葉が行きたいところなら、どこでもいいよ」

 

 イラっとする、こっちはそっちの好みを把握したいのに、とことん優柔不断なんだから……よし、少し嫌がらせしてやるか。

 

 「行きたいお店があるの。付いてきて」

 「わかった」

 

 あたしは満面の笑みでそう告げると、彼を連れてドンドンと進む。

 ランジェリーショップの入り口が近づくと加瀬っちの手が強く握られたかと思うと、急に立ち止まらされた。

 振り返ると、彼は顔を真っ赤にして必死に店から目線を逸らしている。

 

 「……どこでも行くって言ったよね?」

 「……勘弁してください」

 

 あたしはわざとらしく大きなため息をついて見せる。

 

 「じゃあ、そっちが選んでよ」

 「……はい」

 

 加瀬っちが入ったのは国内で有名なスポーツ用品店だった。

 一緒にレディースコーナーを回るが彼が終始落ち着きなくて本当に面白い。

 好きな色を聞かれたけれど「何でも好き」と答えておいた。

 本当はピンクか赤が好きだけど加瀬っちが選んでくれたものなら何だっていい。

 ……まあ、全部選ばせるのは流石に酷だから、系統の違う二種類まで絞ってあげた。ピンクのワンポイントロゴが入ったTシャツと、青の全面ロゴがあしらわれたデザインのものだ。

 

 「ねえ、あたしに似合う方を選んでね」

 

 加瀬っちはかなり真剣に悩んでいる。おそらく自分の服を買うときより真剣だろう。

 自分のためにここまで悩んでくれるなんて……それだけで胸が熱くなる。

 悩んだ末に彼が選んだのは、青系のTシャツだった。

 なんだか慣れないことをして相当疲れているようだ。……ふふ、でもこっからが本当の地獄だよ?

 女の子の買い物の恐ろしさを、今日一日で思い知るがいい。

 

 

 フードコートで休憩を取る、加瀬っちは死にそうな顔をして椅子にぐったりと沈んでいた。

 たかだか一時間、店を連れ回しただけでこのザマだ。本当はあと一時間くらいは付き合わせる予定だったけれど、今回は勘弁してやることにした。

 あたしが彼の為に選んだTシャツは1週目最初に入った店にあった青系のTシャツだった。

 彼は釈然としない様子だったが、彼に一番似合うと思ったのだ。

 

 加瀬っちが着せ替え人形になってくれたおかげで、彼に似合う服の系統は大体把握できた。収穫は上々だ。

 

 魂が抜けている彼の横顔を観察する。

 顔が飛び抜けて好みというわけでも、何かに秀でているわけでもない、特別気が利くわけでもないのに……なんでこんなに惹かれてしまうんだろう。

 夜の学校の屋上という特別すぎるシチュエーションがそうさせたのか、それとも月があたしを少し狂わせたのか。

 「夜の学校で二人きりなんだから、さっさと襲えばいいのに」なんて考えてしまうあたり、あたしも相当彼に当てられている自覚はある。

 イライラと焦れったさが混ざって、加瀬っちの脚を足元で軽く蹴った。

 

 「ねえ、女の子をいつまで待たせるつもり?」

 「あ……ごめん、意識が飛んでた」

 

 加瀬っちは再起動したようにバッと顔を上げると、買っておいたエナジードリンクをごくごくと飲み始めた。

 

 「ちょっとは回復した?」

 「あぁ、もう大丈夫だ」

 「じゃあ、もう一周いっとく?」

 「……勘弁してくれ」

 

 軟弱な奴め、そこは「気合を入れて付き合う」って言ってほしいのにな。まあいいや、今日はこのくらいで許してやろう。

 ショッピングモールを後にして電車に乗り込む。

 手を繋いだまま、あたしは寝たふりをしてそっと彼の肩に頭を預けた。

 手を繋いでいるから彼がビクッと硬直したのがしっかり伝わってきたよ。

 たった二駅、十分程度の短い時間だけど、せいぜいあたしを堪能すればいい。

 目的の駅に着くと、彼に名前を呼んで起こされた……まあ、一睡もしてなかったんだけどね。

 そのまま駅前のスーパーに寄り、お菓子コーナーで大量に買い込む。

 ここで「この後、うちに来る?」なんて誘ってくれるのを少しだけ期待したけれど……当然、彼にそんな勇気もなく普通に解散となった。

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