はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
はーい、メリーで~す! でもごめんなさい、いまメリーはお話できません。
なんかまたベッドに拘束されてて身動きが取れないからね、もう慣れたもんだよ。
ふーむ、最後の記憶を考えるにどうやら撃墜されはしたけど命は拾えたようである、ラッキー。
体の感覚からしてどうやらγ-グリフェプタンも抜けてるみたいだ。
気絶してる時に離脱症状が来たんだろうけど運が良かった、あれとんでもなく苦しくてひたすら身悶えする羽目になるからさ~。
私が固定されてるのも意識がないまま暴れてたんだろう、対処することになった人たちには同情しちゃうね。
さて、ところでここはどこだろうか……まあ状況的にはアークエンジェルなんだろうけど、部屋の中が連合系のレイアウトだし。
仮にアークエンジェルだとしたら、私はコンパスの管理下に置かれたってことになる。
どうなるんだろ、まさか解剖とか……しないよね?
う~ん、こんな杞憂を抱いてもしょうがないか、もう今の私は俎板の鯉なのでどうしようもない。
それに人命尊重するあの人らがそんなことしないでしょ、偉い人が何を言うかは知らないけど、いざとなったら突っぱねてくれることを祈るばかりである。
しかし……お腹が空いた、喉も乾いた。
点滴を打たれてるから死にはしないだろうけど足りないものは足りない。
一瞬ベルトを引き千切って抜け出すという案も浮かんだがやめておく。
ブルーコスモスにいたときと違ってそこまでガッチガチに拘束されてるわけじゃないからやろうと思えばやれるけど私は常識があるからね、敵艦を勝手にウロチョロするような真似はしないのである。
どこかにナースコールでもあればいいんだけど生憎縛り付けられてる人間に使えそうなそれらしきものは見当たらない。
困ったもんじゃいと悩んでたら部屋のドアが開く音がした。
看護婦さんかなと思って見たらシン・アスカだった、なんで君が来るんだと思ったけどよくよく考えたらデストロイから放り出された私を回収しにきてたっけ。
彼の経歴を考えたら心配になって見に来るのもわかるか、なにせこちとら生体CPUだからね。
どうせステラの事とか思い出したんでしょ、この時期になっても過去を振り切れてないのは調べがついてるんだよ。
まあとりあえずは挨拶だね、挨拶は大事だし。
「あ、どうも」
「っ!? マユ、目が覚めたのか!?」
なんか凄い勢いで距離を詰めてきた、近いって。
というかマユってなんだよ、お前の妹じゃん。
私にはメリー・ゴーランドっていう妙ちきりんな名前があるんですが?
しかしシン・アスカがいるってことはやはり私はコンパスに捕まったようだ、とはいえ何でも知ってたら不審だから早めにアレコレ聞いておくに限る。
「ここはどこですか」
「えっ? あっ、ここはアークエンジェル……コンパスの艦だよ」
「そうですか」
なんだか新鮮だ、こうやって人と会話するのは。
普段は「はい」とか「了解」ぐらいしか言わないからなぁ。
とりあえず空腹であることと喉の渇きをシン・アスカに訴えてパシらせるとしようか。
「なあ、マユ……」
「お腹が空きました」
「あ、ああ! わかった! 先生も呼んでくるからちょっと待っててくれ!」
気を悪くした様子もなく元気に駆けていったね、さすが忠犬属性といったところか。
ちょっと図々しかったかなとも思うけどまあいいでしょ。
それで待ってたらそう時間が経たないうちに医師と看護婦を伴ってシン・アスカがやってきた。
食べ物の乗ったプレートを持ってるね。
医師に聴診器を当てられたりなんだりした後、食事の許可が出た、やったね。
ただし看護婦が食べさせてくれるだけで拘束は外してくれないらしいよ、私は悲しい、生体CPU差別だよこれは。
シン・アスカもそれはどうなんだって表情してるから何か言ってやって欲しいけどだんまりだ。
まあステラが暴れてクルーの首を絞めたりしてたしなぁ、二の轍は踏まないってことか。
しょうがないので結局素直に食べさせてもらった、ブルーコスモスでは大して美味しくもない栄養食しか食べられなかったからなかなかイケるね。
この絶妙な薄味が舌に馴染みますわ、正直物足りなさはあるけどひとまず人心地ついたよ。
で、食べ終わっていつも通りぼんやりしようと思ったけど、なんかシン・アスカは部屋に残って私に話しかけてきた。
「その、ごめんな、自由にさせてやれなくて」
うーむ返答に困る。
変なボロを出したくないから、何いきなり話しかけてきてるわけって感じで追い払ってもいいんだけど……彼も色々あったしね、ここは寛大に受け入れてあげようか。
そうやって無言でお互い見つめあってたら向こうが顔を背けた、何かフラッシュバックでもしたのかな、かわいそう。
「どうかしましたか」
「やっぱり俺の事、わからないのか……」
わかってるよ、SEED DESTINYでメンタルズタボロにされた主人公ってことぐらい。
たださっきから適当に流してはいるけどシン・アスカは私のことをマユ・アスカだと考えているらしい。
年齢的には割と近いと思ってるけど、それで投影されてる感じなのだろうか。
でもこの時期のシン・アスカはここまで錯乱はしてなかったはず……うーん、お互い自己紹介もまだだしここはジャブを掛けてみるか。
「私は地球連合軍第81独立機動群所属のMSパイロット、メリー・ゴーランドといいます。あなたの名前は何ですか?」
「……っ! ……シン……アスカだ……」
すごい悲しそうな顔をしている。
やめてよそういうの、私が悪いことしてるみたいじゃん、たいへん居心地がよろしくない。
しかし思い詰めた顔をしている割に存外平静を保っている……もしかして、マジなの?
生体CPUは度胸、単刀直入に聞くか。
「さっきから私のことをマユと呼んでいるみたいですが、一体何のことでしょうか」
「うっ、いや、それは……」
目に見えて狼狽え始めたね。
少し待ってたら覚悟の決まった顔つきになったけどまだ情けなさの方が勝るかな。
「これから俺が言うことは君にとってはわけわかんないことかもしれないんだけど……君の本当の名前はマユ・アスカって言って……だからその、君は俺の妹ってことになるんだ」
え~……マユってオーブ解放作戦で死んだんじゃないの? 流れ弾で吹っ飛ばされて腕とか取れてたよね。
いや私も右腕が義手だけども。
「無理に理解しようとはしなくていいんだ! エクステンデッドは記憶を操作されてるらしいから君が知らないのも無理はなくって。ただ……君がマユなんだってことは知っててほしくて」
考え込んでたらシン・アスカがなんかフォローを入れてきた。
私としてはしっかり理解してるつもりなんだけどな、ただあまりにも唐突なので信じかねているってだけでさ。
でも実際あっちの言うことを否定する材料がないんだよねぇ、こっちは過去が封印されし記憶と化してるわけだから色々調べられる向こうの話の方が信憑性は高いんだ。
でもシン・アスカが私の■■■■■かぁ……。
「あなたが私の血縁者ですか……」
「っ! あぁ! そうだよマユ、俺が君の兄ちゃ――」
あっ、おいコラそれブロック、あっあっあっ……!
気が付くとシン・アスカの姿は消えていて代わりにルナマリアが私を見張っていた。
どうやらブロックワードでおかしくなってたようだね、見苦しいところを披露してしまったようだ。
「目が覚めたみたいね」
「シンさんはどうしましたか?」
一応聞いておく、なんとなく予想はついてるけどね。
「シンはちょっと……ね、一人になりたいって」
「そうですか」
だろうね、私がマユだと仮定していきなり目の前で発狂し始めたらシン・アスカはきっとビビり散らかすだろう。
今ごろ自責しながら形見の携帯でも握り締めてるんじゃないだろうか。
ところで彼らはブロックワードについて知っているんだろうか、あんまりホイホイ言われたらさすがに困るんだけど……聞いとこ。
「コンパスの人たちはエクステンデッドのブロックワードというものをご存じですか」
「それなら先生から聞いたわ。特定の単語を聞くと平静を保てなくなるって、だからシンのやつ自分のせいだって閉じこもって……」
よかった、そこらへんを理解してもらってたら話は早い。
シン・アスカはMSパイロットとしては強いけど人間としては迂闊で残念な部分があるからね、あれはもうしょうがない。
「自己紹介が遅れました、なんかマユ・アスカみたいです。よろしくお願いします」
挨拶は大事。
私はルナマリアのことをそれなりに知ってるけど向こうは知らないからね。
ザフトレッドで体術ではシン・アスカをぼこぼこにできる恐ろしい女だ、不興を買わないよう媚びを売っておくに限る。
「い、意外と丁寧なのね……」
なんか含むところのある目つきで見られてる。
生体CPUだからってまともな応対ができると期待されてないのかな。
ま、私はかなり特殊な個体だしさもありなん。
「ふぅ、あなたがシンの妹ってことなのよね……私にも妹がいるのよ」
知ってる知ってる、ハッキングが趣味のやべー女でしょ。
「あなたも色々と大変だと思うけどシンのことを支えてあげて欲しいの。私にできることならなんだって協力するから気楽に言ってちょうだいね」
頭をなでなでしてきた。
おぉ……ルナの姉御の手……あったかいなりぃ。
これがお姉ちゃん力ってやつか~、シン・アスカもこういうところにやられたのかもしれないな、少なくとも私はあっさり陥落させられた。
やっぱり生体CPUには愛情が足りんのよ。
そうしてルナの姉御は私をナデポするだけして退室していった。
やっぱり油断ならん女だよあれは……もう一回やってくれないかな、今頭が無性に寂しい気持ちだ。
……とりあえずまた一人になったしぼんやりしてようと思ってたら今度は准将が入ってきた。
こんなんでも軍人なもんで、仰々しい服装と階級章を見ると思わずギョッとしてしまう。
「やあ、君がマユ……だよね」
「あっ、はい」
優しそうな顔をしてるけど色々と疲れてるって感じの人だね。
顔に人生が良く出てるよ、まだ十代なのに。
准将は私の今後の処遇を伝えに来たみたい。
私の身柄はコンパス預かりになるらしい、まあ生体CPUを好き好んで引き取りたいところなんてないよね。
プラントは国民感情的に論外、大西洋連邦は生体実験なんて都合の悪いことは知らぬ存ぜぬ、オーブが引き取るとなったらそれはそれで大西洋連邦に対する嫌味と受け取られかねないし。
こうなると政治的空白地帯のコンパスが矢面に立つしかないんだろう、周囲から文句を言われることになるだろうけどそこはラクス総裁に頑張ってもらうしかないね。
それと戦争責任、まあつまりブルーコスモスとしての活動に関するアレコレは有耶無耶になった。
そもそも私のような生体CPUは文字通り人権がないので裁判を受ける権利すら持ってないんだ。
法治主義の観点から言えば私は器物として扱われる、犬猫とかのペットに近いものがあるね、今の私はコンパスの捕虜というより押収された武器的な扱いだ。
なので仮にコンパス職員が私を勝手に殺した場合、問われる罪の内容は殺人ではなく器物損壊とか物品横領とかそういう方向になる。
感情的にはなんだそりゃってなるかもしれないけど人権のない死んだはずの人間ってホントに宙ぶらりんな立場だからね、せめて戸籍さえ残ってればなぁ……鬼籍はあるんだろうけど結局動いてる死体扱いってことになっちゃうし。
これはもうブルーコスモスが悪いよブルーコスモスが。
「まだしばらくはここで大人しくしてもらわないといけないけど、できるだけ早く自由に動けるようにするから待っていてほしいんだ」