はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
あれからまた数日が経ったあと、私はコンパスの施設内に限り自由に動き回ることが許可された、施設内って言っても機密とかはないところに限るけどね。
あと身柄がミレニアムに移されたよ、こっちが本拠地みたいなもんだし設備も色々と充実してるからまあそうなるよね、ザフト系の艦内は勝手がわからなくてオドオドしちゃってるけどそのうち慣れるまでの辛抱だ。
そしてこういう時にやることは決まってる。
そう、挨拶回りだね、挨拶は大事なんだ。
ちょっとやだ、生体CPUがいるじゃない! みたいなことを言われるかもしれないけどさ、早いうちに色んな人と接触して関わりを持っておくのも処世術ってやつだ。
私は軍人としての訓練とかもしっかりやってたから横のつながりの大事さはよ~くわかってるつもりだよ。
てなわけで艦内探検がてらテクテクと歩いて顔を売っていく、私があのシン・アスカの妹で生体CPUで暴れまわってた奴ですってね。
「敵の癖に馴れ馴れしくしないでくれる?」
そう言って鼻を鳴らしながら私を見下すのは例のアグネスだ。
中々の美人さんである、ルナの姉御といい勝負してるよ。
「アンタ、あの山猿の妹なんですってね? 二人揃って冴えない顔ねえ。ま、でもお似合いなんじゃないの?」
ぐぬぬ、なんて失礼な。
そりゃあシン・アスカはカッコいいって感じの顔ではないけどさぁ、まさか目の前で纏めて貶されるとは思わなかった。
これは生体CPUだからって取り繕う必要もないと完全に見下してる感じだね、誠に遺憾である。
まあ遺憾とは言ったけどアグネスがこういう人なのは予め知っているのでそこまで不快感があるわけではない、やっぱりなって気持ちの方が大きいかな。
しかしこういう例外はあれど概ねコンパスの面々は私に対して友好的だった。
これは復讐の連鎖に辟易してる層が集まってるからなのかな、単純に善人が多いってのもあるだろうけども。
そうやって見て回ったところ、とりあえず現状でも上手くやっていけそうではあるね、ひとまず安心だ。
なので先のことを考えていこうと思う。
まず目下の問題は私がマユ・アスカってことだ、いまだにメリーであることを自認しているわけではあるがずっとこのまま放置ってわけにもいかない。
さて、ここで記憶処理を施された人物が元の記憶を取り戻せるかと疑問が出てくるわけだが……ネオ・ロアノークことムウ・ラ・フラガという前例がいるから可能ではあるのだろう。
彼の場合はかつての記憶と重なる経験をすることで以前の記憶を完全に取り戻した、アークエンジェルへの着艦とタンホイザーを受け止めたアレだね。
つまり私が以前の記憶を取り戻すとしたらマユ・アスカだった頃のようにMSの砲撃を食らって死にかけたり肉体の強化処置を受ければいいわけだ。
アホか、できるかそんなもん。
いちおうシン・アスカとの思い出を追体験するって手もあるけどそっちは望み薄なんだよね、原作だとそっちの描写がほとんどないから今の私だとあんまり戻りそうにないんだよなぁ、なまじ現状に納得しているっていうのがよろしくない。
もし私が記憶を取り戻すとして、突破口があるとしたら原作知識と照らし合わせて自分の立ち位置を客観的に見ることができるという所にあると思っている。
まあつまり自分はマユなのだと強く意識した上でマユからメリーに作り変えられた経緯を無理やり思い出すのだ。
原作においてマユ・アスカはオーブ解放作戦で死亡していた、それを私は知っている。
だがここでは死んでいなかった、だからこの場面の知識を起点にその先の記憶を手繰り寄せる。
果たしてそれができるのかどうかは知らないけどそれ以外の方法がイマイチ思い浮かばないからしょうがない。
それじゃあ早速、善は急げの精神でやってみよう。
消灯時間になってからベッドに潜り込んで記憶を掘り起こしていく。
虫の息の状態で回収され最低限死なない程度の延命処置を施される。
けれど苦痛を和らげるような思いやりはない、全身の皮がめくれ上がったような痛みに苦しんで……苦しんで……。
うん、一旦やめよう……これ以上は頭がおかしくなる。
思った以上にハードな作業だねこれは……全身脂汗まみれだし吐き気と寒気がひどい。
それになぜか全身がピリピリと痛む感覚がある、これは幻肢痛みたいなものだろうか、私の頭が全身を切り刻まれていると誤認して危険信号を発しているのかもしれない。
暗い場所ってのもダメだ、自分でも異様だと自覚できるぐらいに強い恐怖心と孤独感に襲われる。
……こういう記憶は今までも薄ぼんやりと思い返すことはできたんだけど、それはただのスプラッター映画でも眺めている感じだった。
見たくないものは目と耳を塞げばそれで流せるものだった。
だが記憶と同調して自身の血肉とするとなれば話は別なようだ、私は映画の視聴者ではなく劇中で全身をグロテスクに弄ばれる登場人物へと早変わりする。
私が本当の意味でマユに戻るためには、過去と今とを地続きにするための記憶を取り戻さないといけないわけだけど……。
うーんどうしようかな、これ無理に戻る必要ないのでは? こんな辛い思いをしてまで戻りたいって欲求があんまり……シン・アスカには悪いんだけどさ。
こういう時に一人でグズグズ悩んでいてもしょうがない、誰かに相談するのが一番である。
私は戦ってる時、よく味方に敵を押し付けて無理やり援護をもらってたからね、これが私のやり方ってやつだ。
そういうわけで准将の元へとやってきた。
「えっと、僕に相談があるんだって?」
忙しい中すみませんね、ほかの人に相談するのはなんか怖かったから一番優しそうな相手を考えたら准将だなってなったからしょうがない。
ちなみにシン・アスカは論外だ、絶対平静を保てないであろう相手に相談なんてできるわけないからね。
それで私はここに来た経緯を彼に説明する。
記憶を思い出そうとしたけどすごく辛くて正直迷っていますうえ~ん、って感じ。
あんまり深刻そうに話してプレッシャーを与える必要もないので世間話ぐらいの温度感だ。
「難しい質問だね……僕は君のやりたいようにするのが一番だと思うけど、それを迷ってるんだよね」
「はい、自分でもどうするのが正しいのかわからないです」
「う~ん……やっぱり君自身が色々なことを経験して、考えて、それから決めてみるのがいいんじゃないかな」
そこらへんが妥当なところか~。
ただこれからしばらくするとファウンデーションを中心とした事件が起こるわけだ。
だからあんまり悠長にやるっていうのもよろしくないんだよなぁ……できれば尻を叩いて貰いたいという気持ちはあったんだけども……。
まあキラさんよっぽどのことじゃないと全肯定BOTみたいなところあるしね、それに何よりなんか私に遠慮してる雰囲気がある、私がオーブ戦で死にかけてこうなったから負い目でも感じてるのかな? もしそうなら年単位も前のことで律儀なものだ、フリーダムの戦闘記録は見たことがあるけどあれだけ活躍してるならボク頑張ったも~んって感じで開き直っててもいいと思うけどなぁ。
しかしまぁ、期待した答えは貰えなくてもこうやって他人と悩みを共有するだけでそれなりに勇気が湧くってものだ、他人に頼るハードルも下がったし准将の元に来た価値はあったと思いたい。
とりあえずはこの調子で色々な人に聞いてみて踏ん切りをつけるとしよう、このままメリーとして生きていくのか、マユに戻るのか。
で、次に相談する人だけど……どうしよっか、色んな人に聞くとは言ったけどあんまり脈絡もなく聞いて回ってもしょうがないし、しっかりと人選は考えていきたい。
一瞬ラクス総裁のことを考えたけどさすがに迷惑すぎるか、それに私は迷ってこそいるけどこうしたいってビジョンを持ってないからちょっとね。
心の奥底でやりたいと願った上で迷ってるなら、しっかりケツを蹴り飛ばしてくれる人なんだろうけど。
いま求めているのは舵取りをしてくれる人である。
根っからの道具なもんでどうしても他人に行く末を決めてもらいたくなってしまうもんでして。
私の身になってどうすれば正しいのかを提示して同調させて欲しいというのが本音だ、他力本願すぎるし贅沢すぎるかな?
でも自分のことを自分の責任で何でも決めるなんて主人公だからこそのやり方だ、私にそんな強さを求められても正直困る。
で、あれこれ考えた結果もう一度准将の元に戻ることにした。
「え? アスランと話がしたいって?」
「はい、キラさんなら連絡が取れるのではないかと思って」
「アスランかぁ、とりあえずやってみるけど……アスランのことはシンから聞いたりしたのかな?」
「……まぁ、そんな感じです」
できるかはわからないけどアスランに相談してみるかと考えてみた。
あのアスラン・ザラなら「逃げるな! 生きることは戦いだこのバカヤロー!」って感じで指図してくれるかもしれない、ちょっと怖いな……早まったかも。
「アスランとの連絡がついたよ」
ひぇ、まだ心の準備ができてないんですけど。
「君がシンの……たしかマユと言ったな」
「初めまして、アスランさん」
実は初めましてじゃないんだけどね。
ちなみにサウンドオンリーの会話だ、顔を合わせなくていいってだけでかなり肩の力が抜けるよ。
カクカクシカジカと事情を説明して沙汰を待つ。
「なるほど、つまり君は自分で決められないから他人に決めてもらいたいと、そういう認識でいいのか?」
「そうなります」
「……はぁ」
こわい、アスランすごいため息ついてるよ。
「あまりこういうやり方は良くないと思うんだが……まず俺としてはやはり記憶を取り戻した方がいいと思う……過去から逃げ続けるのはそう簡単なことじゃない」
ふむふむ、アスランがそういうならやっぱり記憶を戻す方向で頑張ってみようか。
一度やると決まればあとは地道にやっていくだけだね。
「だが」
うん?
「君の話を聞く限り無鉄砲にやって上手くいくものではないと思う、対策を考える必要があるだろう」
対策ってなんだよ、私は自分で物事を考えるのは苦手なんだ。
まったくこれだから何でもできるスーパーマンは……。
「こういう問題に立ち向かうには心に強い芯を持つことが大切だ」
「はぁ、芯ですか」
人生経験がほとんどない生体CPUに無茶をおっしゃる。
流され続けた人間に芯なんてあるわけないじゃんね。
黙ってたら私が困っていることが伝わったのか、アスランがなんか例を教えてくれるらしい。
「そうだな、詳しく言うことはできないが俺はそれなりに危険な任務に従事していてな」
ターミナルでしょ、ズゴックと戦ったから知ってるよ。
「俺は任務に就いている間はいつも恋人のことを考えているんだ」
おや? なんか話の流れがおかしいぞ?
「ハッキリ言ってこんな任務より恋人と一緒に過ごしていたいと思うこともよくある。だが俺はカガリと一緒に今日より良い明日を迎えたいと考えているんだ、だから俺はどんな困難な任務にも絶対に生きてカガリの元に帰ると強い決意を抱いて臨むことができている」
…………。
「いいか、つまり君も俺にとってのカガリのようにこの世の何よりも大切に思えるものについて考えてみるんだ。やってみたいことや好きなものでもいい、過去と戦うのはそれからでも決して遅くは――」
「はい、アスランさんがカガリさんとラブラブなのはわかりました」
「おい待て! 俺が言いたいのはそういう――」
通信を切った。
まさか惚け話を聞かされるとはね。
ただ一つ気づかされたことはあった、アスランが言った過去から逃げるのは難しいという言葉。
私は特に根拠もなく処理された記憶は自然と甦ったりしないものだと考えていたけど、再処理をせずに放置を続けた場合そうなる保証が何もないことに気づいた。
所詮、消すといっても記憶の奥底に押し込めているだけに過ぎないんだ、何かの拍子でうっかり漏れ出すこともあるだろう。
だから下手をしたら勝手にあの記憶が甦ってきて発狂する可能性を失念していたわけだ。
なので……まあはい、この爆弾が爆発する前に処理するしかないね、しょうがないしやるか~。