はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません   作:何を書けばいいんだ

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思い出を君に

 さて、それじゃあ記憶を取り戻すか~となったのでやり方を考えていきたいと思います。

 アスランからのアドバイスでは心に強い芯、つまり支えとなるものを考えてからやってみろと言われたね。

 しかし私にそんなものがあるのだろうか。

 生体CPUとして暴れ散らかしてた記憶が大半なんだけど。

 

 頭を捻って考えてみるもイマイチこれだってものがない。

 なんにも考えずに流されながら生きてきたツケがここにきて牙を剥いてきたね。

 

 ……私はメリー・ゴーランドとして結構な数の戦場を渡り歩いてきた。

 不利な戦況も有利な戦況もあったけど毎回どうすれば生き残れるかを考えて戦ってきた。 

 死にたくないし、こんなところで終わりたくないという一心でここまで生き残ってきたんだ。

 

 ただ生きて明日を迎えたい、私はそんなことを望んでいたんじゃないだろうか。

 心の支えなんて別に特別なことである必要なんてないんだし、こんなもんでいいんじゃないかな、人間やってるうちにやる気が湧いてくるってのもあるし。

 よし、そうしよう、私は生きるんだ、どういう形であれ。

 だから生き続けるために記憶を取り戻す、そこから先の望みとかはその時に考えればいいでしょ。

 

 では覚悟が決まったところで協力者を募ろうか。

 一人でやらないのかと思われるかもしれないが冗談じゃないよ、せめて発狂したときに取り押さえてくれる人がいないとやってられないし、心細いじゃん。

 

 てなわけでまた准将に話を通しておいた。

 コンパスに来てまだ全然日にちが経ってない私だけど、准将に頼みごとをしている回数なら割と上位に入るのではないのだろうか。

 プラウドディフェンダーの調整で大変なのに非常に申し訳ないことをしている自覚はあるが……やっぱりキラさんの人望と権限を考えるとどうしてもね。

 

 ちなみに頼みの内容は手隙のコンパス職員を借りるってものだ。

 私用に付き合わされる皆様には悪いけど……まあ私ってまだ子供なわけでして、ちょっとぐらい我儘に付き合わせてもいいでしょ。

 

 そういうことで今私の目の前にいるのがアグネス・ギーベンラートさんです。

 すごくめんどくさそうな顔でこっちを見てる。

 なんでアグネスを呼んだかって言うと心が痛まないからだ、なんか雑に扱ってもまあいいかってなるのがアグネスなのよね。

 

「ハァ、なんで私がこんな野良犬の面倒なんか……」

 

 取り繕うこともなくぼやくアグネスの前で私は息も絶え絶えとなっていた。

 見守ってもらいながら以前の記憶を掘り起こしてるんだけど……やっぱつれぇわ。

 今の気分は洗濯機の中に放り込まれてぐるぐるかき回されてるような気分だね。

 

「ひっどい顔ねえ、そんなにキツイの?」

「口から内臓が飛び出してきそうです」

「ちょっと、気色悪いこと言わないでよ、デリカシーってもんがないわね」

 

 ひどい、あっちから聞いてきたのに。

 あ~もう今日はやめだやめ、私は無理しない性格なんだ。

 アグネスと適当に雑談をしてカウンセリングをしてもらうことにする。

 

「アグネスさんは確か月光のワルキューレの異名を持ってるらしいですね」

「へ~、ブルーコスモスの癖によく知ってるじゃないの。そう、私はあの月戦線で華々しい戦功を上げたのよ」

「さすがはザフトレッドですね」

 

 こんな感じで適当にアグネスをおだてていったら目に見えて上機嫌になった、ちょろい。

 少し褒めただけで警戒心が消え去るのは他人を見てるようで見てないからだろうか。

 

 ただそうやって機嫌を良くしたら、なんかやたら自慢をし始めた。

 やれ自分はこれだけの実力があるだとか、やれ優秀な能力を持つ男を魅了してしまっただとか、それとその程度の男じゃ自分には釣り合わないから振ってやったとかね。

 今は准将を狙っているということも教えてくれたよ、ちょっといい顔しただけで何でも話してくれるな……いや、これは私にマウントを取っているのかな、お前とは格が違うんだよって視線が言ってる。

 

 でもアグネスの自慢話は結構面白い、聞いてる分には。

 良くも悪くも常人とは思えない破天荒さがあるから退屈しないのだ、ちょっとしたドラマの朗読劇を聞いてる気分になるし単純に話上手である、さすが赤服。

 でも私がそうやって楽しく聞いてると、調子に乗って舌が止まらなくなるのがアグネスなんだよね。

 

 結局その日はアグネスの武勇伝をずっと聞く羽目になっちゃったよ。

 

 そして後日、今度は別の人に協力してもらっていた、アグネスだって仕事してるわけだしね。

 

「君があのシン・アスカの……。ほぅ、確かに顔立ちが似ているね」

 

 今回はミレニアムのコノエ艦長に手伝ってもらっている、元教師ってこともあって優しそうだったので声を掛けた次第。

 いや~聞いていて安心感が湧く声だね、いかにもベテランって感じである。

 しかもコンパス最年長で大佐だからかなり偉い人だ、なんか気後れしちゃうね、当方は一兵卒であるがゆえ。

 

「ふむ、こんな子供を生体CPUとして戦わせるとは……ブルーコスモス……いや、人間の執念というのは斯くも恐ろしいものか」

 

 私はひとしきりうんうん唸ってギブアップしたところだが、コノエ艦長はやけにこちらを観察してくる。

 そりゃあナマの生体CPUなんて早々見る機会なんてないしね~。

 

「おっと、不躾な視線を向けてしまったかな」

「いえ、慣れてますので気にしなくて結構です」

「不思議なものだ、君は決して恵まれた境遇とは言えないのに随分と精神的に安定しているように見える」

 

 はて、言うほど私は安定しているのだろうか。

 ブロックワードとかであっさり発狂しちゃうんだけどな。

 

「その顔はピンと来ていないようだね。君の、あ~……アスカ大尉に関することだが、彼の経歴は華々しいものだ、ザフト士官学校を上位成績で卒業し当時最新鋭のMSインパルスのテストパイロットに選抜、数多くの戦果を挙げネビュラ勲章を授与され更にはFAITHに就任、デュランダル元議長の後押しがあったとはいえ絵にかいたようなエリート街道を歩んでいた」

 

 改めて聞くとバケモノみたいな経歴だなシン・アスカ。

 ある程度仕組まれていたとはいえ強敵にぶつけられまくってたからなぁ。 

 

「だが私の見る限り彼の精神面は非常に脆いように見える。どうも己の能力や在り方に不安と焦りを抱いているようだ、若さゆえの繊細さとも言えるが」

 

 まあこれまでにも色々あったし、コンパスでも思う存分に力を振るえてるかって言うとなぁ……アグネスもバカにしてるようだし。

 

「その点、君は対照的だ。己の領分を弁え、困難だと判断すればすぐに他者の力を借りる。現に私のところに来ているようにね」

 

 う~ん……独力でやり切るのが大変そうだから他人に頼っちゃおうっていう割と怠惰な動機がなんだけど……。

 シン・アスカの場合、責任感や使命感が悪い方に働いてしまっているのだろうか、彼も何かと背負い込む人生を歩んできてるわけだし。

 

「図々しかったですかね」

「いいや、そんなことはないとも。確かに我々も暇というわけではないが、やはり自発的に頼ってもらえるというのはこちらとしても助かるものだよ。できればアスカ大尉やヤマト准将もできうる限り周りには頼って欲しいものだが……これが中々どうして、難しいものでね」

 

 コノエ艦長も苦労してるな~、年長者だし教師だったから色々と目に付く部分もあるんだろうね。

 

 

 

 

 

 あれから月日が流れた。

 色々な人と面談ついでに協力してもらいつつ記憶を掘り起こしていった。

 アーサーにはひどく同情され、マリューさんは元大西洋連邦所属ということで謝罪され、ムウさんとはお互いお通夜ムードになったりした。

 ヒルダの姐さんには値踏みするようにねっとりと見られたし、アグネスにはちょくちょく捕まって自慢話を聞かされたりもしたね。

 で、今面談してるのはルナの姉御だ。

 

「最近行き詰まってるんですって?」

「ええ、まあ」

 

 そうなのだ、記憶は粗方引きずり出したのだがあともう少しのところで苦戦している。

 その記憶はDESTINY冒頭、つまりマユ・アスカが死ぬ場面のものだね。

 体をザクザク改造された記憶はオエーッとなりながらもどうにかモノにしたんだけどあの記憶だけはどうもうまくいかないのだ。

 こう心が忌避するというかね、正直思い出したくないという気持ちが強い。

 

 理由を何となく推測してみたけど……多分ブロックワード絡みだと思うんだよね。

 これまで記憶はあくまで私が痛い目に遭うだけのものだったわけだけど、この記憶は私にとっては家族を失うという内容のものになる。

 そしてブロックワードっていうのはその本人のメンタルに一番ぶっ刺さる単語がチョイスされるわけで……これも私がかなりマユとなってきている証拠なのかな。

 

「ねえマユ……それなら一度でもいいからシンと話してみたらどうかしら、無理にとは言わないけど……」

「いや、私が会いに行ったらシンさんの方が大変なことになるんじゃないかと思いまして」

「……あ~……」

 

 心当たりがあるように相槌を打つルナの姉御。

 私は記憶を取り戻すのに当たってシン・アスカには一度も相談をしていない。

 これはシン・アスカの精神状況を踏まえて会うべきではないと判断したからだ。

 

 でもこれは理由の半分。

 

 残りの半分は私自身があまりシン・アスカと会いたくないと思ってしまっているということ。

 姉御に言われて気づいたけど、私は今までシン・アスカから無意識に距離を取って逃げ出そうとしてしていたんじゃなかろうか。

 ブロックワードを鑑みると彼は文字通り私の心の傷となっているらしいしね。

 ……過去からは簡単には逃げ切れないか。

 

 

 

 

 

 ルナの姉御にスケジュールを組んでもらってシン・アスカと面談することにした。

 今私の目の前には彼がいる。

 

「マユ……」

 

 シン・アスカ……いや、シンの顔を見るだけで体がこわばる。

 私の動揺を感じ取ったのかシンが顔を背け、私もあっちの顔を見てられずに床に目を向けた。

 今まではDESTINYの主人公、シン・アスカとして認識していたわけだが、彼は私の■■■■■なのだ、それを自覚しなくてはいけない。

 

「その、マユがやろうとしてることをルナから聞いた。それで辛い思いもしてるって」

 

 シンが近寄ってきて肩に手を置いた。

 置かれた手からは温もりより寒さを感じる、これは……我ながら重症だね。

 ブロックワード……心の急所、私の精神を安定させるにあたって封じ込めざるを得なかった記憶。

 やっぱりここが核心みたい、すごく嫌な気分、だけど心の壁を破ってその中身を受け入れられたなら……。

 

「マユ、辛いなら別に無理しなくても……」

「平気です。ただ見守ってください」

 

 まあ全然平気じゃないんだけどね。

 でもそれが記憶を取り戻さない理由にはならない。

 どれだけ見たくなかろうが……向き合うと決めたんだ。

 ここで克服してやる、ブロックワードを。

 

 あの日の出来事、今の私の原点を思い返していこう。

 

 私は家族と一緒に避難をしていた。

 モルゲンレーテに所属していた両親は機密保持の為の作業で逃げるのが遅れてビーム飛び交う戦場を走ることになったんだ。

 オーブ軍はアストレイを導入して苛烈に抵抗していたけど連合のダガー軍団には多勢に無勢だった、瞬く間に防衛線はこじ開けられて戦場が広がったんだよね。

 

 お母さんに励まされながら必死に走っていたけど……大切にしていた携帯を落としてしまって……。

 それでそれを……うん、そうだね……私のお兄ちゃんが拾いに行ってくれたんだけど、そのすぐあと流れ弾で私たちは吹き飛ばされた。

 

 全身がぐちゃぐちゃになったみたいな苦痛と大量出血に伴う酷い寒気。

 自分が終わりに向かっていて、全てが閉ざされていくあの無力感……でもそれだけじゃなかったはず……。

 

 ああそうだ、私はお兄ちゃんが心配だったんだ。

 あの時お兄ちゃんは私たちの傍にいなかった。

 一人離れたところにいた彼だけでも助かったのだろうかと。

 ずっとそれだけが心残りだった、私の大好きな、いつもそばにいて守ってくれていたお兄ちゃんが痛い思いをしていないかって。

 

「――――ユ――――マユ――――」

 

 私は知るのが怖かったんだ、お兄ちゃんの生死の結果を、だから目の前のシン・アスカから目を背けてメリーとして振る舞い続けた。

 お兄ちゃんはちゃんと生きてるっていうのに、私の恐れが現実を受け入れず現状維持に甘んじていた。

 

「マユ! もういいんだ! 頼む、泣かないでくれ!」

 

 体を揺さぶられて我に返る。

 気づけば私は床に蹲って涙を流していた。

 顔を上げるとそこにいたのは

 

「お……兄ちゃ……ん」

「っ! マユ……今……?」

 

 私は知識で知ってるんだから……何も怖がることはない、私のお兄ちゃんはそこにいる。

 

「お……兄ちゃん……大丈夫だった?」

 

 そう言ってお兄ちゃんの頬に手を這わせる、温かいな。

 支離滅裂なことを言われてお兄ちゃんは困惑してるみたいだね。

 私はお兄ちゃんが無事だったってことを確かめたいだけなんだけど。

 

「お兄ちゃん、ずっと一人で……辛かったよね……」

 

 あの日、家族を失ってからお兄ちゃんはそれを引きずり続けてきた。

 その苦悩の日々を私は断片的ではあるが知っている。

 あぁ、ほんとにすごいよお兄ちゃんは、何もわからないままたった一人で前に進み続けてこれたんだから。

 

「マユ……! そ、そんなことない! 俺なんかより、マユの方がずっと……!」

 

 あらら、お兄ちゃんが泣いちゃった。

 妹の前なんだからカッコつけて欲しいんだけどな。

 

「お兄ちゃん……」

「どうした……マユ……」

「オーブの建国祭、また一緒にいこ……」

「……! あぁ! 行こう……! 約束する!」

 

 ギュッと抱きしめられてちょっと苦しいけど……なんだか懐かしくて、たまにはこういうのもいいよね。

 

「あ、そうだ! マユ……これ」

 

 なにさせっかくしんみりしてたのに。

 お兄ちゃんが恐る恐るポケットから取り出したピンク色の物体、それは私にとっては大切な思い出の一品。

 

「これ私の携帯?」

「ああマユの携帯だ……! ずっと持ってたから、返すよ」

 

 お兄ちゃんが渡してきた携帯を眺める。

 なんだか感慨深いな、これがある意味でお兄ちゃんを救ってくれたんだよね。

 少し考えてみて私はこれをお兄ちゃんに返すことにした。

 

「え? マユ? なんで……」

「お兄ちゃんにあげる、お守りだよ」

「……ッ! マユっ!」

 

 情けない顔してるな~まったく。

 そのあと私はお古の携帯をあげる代わりにハイエンドの最新携帯をねだってやった。

 

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