はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユはお話できません。
最近お兄ちゃんが妙に引っ付いてきて流石に鬱陶しくなってきたから適当に理由を付けて逃げ回ってるからね、次の口実も考えとかないと。
まったく、悪い気こそしないけどもう少しぐらい妹離れしてもいいんじゃないかなぁ?
お兄ちゃんは私のことをまだ背中をついてくだけの子供だと思ってるのかもしれないね、でもそれはちょっと勘違いしてる。
確かに私が抱えていた問題は前進した……そう、前進だ、昔の家族四人で暢気に生きていた頃に戻ったわけじゃない。
あくまで私は私のまま、自分がマユなんだということを思い出したとしても、代わりにブルーコスモスで経験した事が消えたりするわけじゃない。
つまりこの数年間でお兄ちゃんが変わったように私も変わったんだ、精神的にも肉体的にもさ。
だから今までの経緯を考えると酷かもしれないけど、やっぱり適切な距離感ってのは大切だと思うのよね!
というかそれ以上にルナの姉御を放っておいて私に構うのが気に食わん、姉御は私のお姉ちゃんになってくれるかもしれない人なんだから邪険にするのは許さないよ。
そんなわけもあって今はアグネスと一緒にいる。
アグネスのことをお兄ちゃんは苦手としているからね、いい虫除けだ。
ただその代償として私はアグネスのお話を聞かされることになるんだけども。
「で、結局フレグは私のことを選んだってワケ。ま、ルナマリアも悪くないけど、どう考えても私の方が魅力的だもの、当然よね」
「アハハ……」
やっぱり人の彼氏を奪うのは良くないと思いますよ。
アグネスの話は自分の実績自慢とか身に着けてるアクセサリや私用品のブランドに関することばかりで胸やけしちゃうよ。
化粧品のあーだこーだなんてまるで呪文の詠唱や准将の早口OS設定か何かと見紛うレベル。
ただ目を回すだけなのも悔しいので私の唯一得意なMSの兵装とかの兵器トークを仕掛けるも、こいつ終わってんなみたいな目で見られながら互角のトークを繰り広げられて格の違いを分からされてしまった、やっぱすげえよアグネスは。
大人しく負けを認めて何が凄いのかもわからないまますごーいって言い続けていたら些か疲れたのでアグネスとサヨナラバイバイしてミレニアムの中を散歩する。
記憶を取り戻す過程で色々な人と交流したので周りから声を掛けられることもしばしば。
ちなみに私が元通りになったことはもう周知の事実だよ。
コンパスぶっちぎりの最年少として何かと便宜も図ってもらっていたりもする。
そうやってのほほんと闊歩していたら休憩スペースで缶コーヒー片手に煤けた様子で黄昏ているお兄ちゃんを発見。
「どうしたのお兄ちゃん」
なんだか可哀そうだから声を掛けてあげる。
「あ、マユ。いや、ちょっとさ」
ちょっとは顔色が良くなったけど端切れの悪い返事だ。
なんか隠し事してるなこれは、ムッとしたような顔で睨んで吐かせてやる。
お兄ちゃんは私が言外に要求したら大抵のことを受け入れてくれるんだ、こんなに甘かったっけとも思ったけど……思い返したら割とこんなもんだった。
「ルナと一緒にいるときにマユの話ばっかしてたら部屋を追い出されちゃってさ」
この、馬鹿野郎! 恋人の前で他の女の話をするやつがあるか!
そんなんだから姉御にシンのバカ、ガキって言われるんだよ。
「お兄ちゃん最低~」
「うっ、マユまで。そりゃあ俺だって……でもしょうがないだろ、大体なんでマユはアグネスなんかと」
「言い訳無用。お兄ちゃんは女心を学び直してね」
「そんな~」
私ももっとお兄ちゃんに構ってあげたいし構って欲しいとも思ってるけどねえ。
今は情勢が情勢だ、ブルーコスモスのテロはとどまるところを知らないしこの後にファウンデーションだって控えてる。
私だってやることをやらないといけないよね。
そういうわけで准将に面会を申請した、今日も図々しくお願いしていこうと思います。
「えっ? コンパスのパイロットとして働きたいって?」
「はい、このまま何もせず置いてもらうのも気が引けるので」
「いや……でもそんなこと……させられないよ」
さて、生体CPUとしての経験を生かしてコンパス所属のパイロットとして使ってもらえないか打診してみたが……やはり准将は渋面を浮かべてるね。
まあ私って十二歳なわけだからそりゃいかんでしょってなるか、常識的に考えて。
でもそこを泣き落としで何とかするのが私だ、准将は優しすぎるからそこに付け込むことで揺らす。
「でも、ここに置いてもらえないと私お兄ちゃんと会えない……」
「うっ……それは、そうかもしれないけど……」
「ご迷惑をおかけしてるのは分かってるんです。けど、たとえ迷惑だったとしてもお兄ちゃんから離れたくないんです」
「う~ん、君の気持ちはわかるけど……困ったな」
私はコンパス預かりと言う身分ではあるけど、じゃあコンパスの艦に乗っけて一緒に行動しても問題ありません、とはならない。
本来は当人の状態などを確認しつつコンパス加盟国の市井に戻すのが常道なのだ、まぁどこの国も私の受け入れは渋ってる……というより二の足を踏んでるけどね。
なにせデュランダル議長の暴露で地球連合軍が生体CPUを運用していたということは周知の事実となったわけだけど、当の連合勢力は一貫してこれを否定して生体CPUなんて存在しないって言い張ってる。
そりゃあ戦災孤児を攫って改造した上で戦わせてましたなんて、例え確固たる証拠があろうが絶対に認めるわけにはいかないしそれはしょうがない。
しかし事実使ってたわけで、生体CPUを他国が保護するのはコンパス加盟国でもある大西洋連邦を刺激することになってしまう、世界随一の力を誇る勢力をね……じゃあ大西洋が責任もって面倒見ろよってなるけど、そっちはそっちでそもそも生体CPUなんて存在しないんだから自国民でもない人間を優先的に受け入れる道理は存在しないって話になる。
私の場合はシンが血縁かつ保護者ってことで彼の自宅などで待機するというのが基本になるのかな、だから真っ先にプラントが引き取り先としての責任を被ることになる。
でもプラント送りは少し困る、なにせ私はブルーコスモスで戦っていたから普通に気まずいし怖い、一応誰でもウェルカムなオーブに送るって選択肢もありはするけどあの国も私も別に好き好んで火種を持ち込みたくないので、どういう選択を取っても誰も得しないという面倒な状態が今なのだ。
それに何よりコンパスから離れてしまったら私とお兄ちゃんが会える機会は激減するわけでして、だからせっかく会えた兄妹が離ればなれになりたくないと涙ながらに訴えるってわけですよ。
お兄ちゃんはコンパスの活動では欠かせないぐらい優秀でコンパス自体も超激務、これの意味するところがわからない准将ではあるまい。
「でもやっぱり君のような子をこれ以上戦わせるのはちょっと……いや、でも二人を引き離すのも……それに君の体も……」
効いてる効いてる、キラさんの心が揺らいでいるのが手に取るようにわかるよ、というか顔に出すぎである。
ここで最後の一押しとして、お兄ちゃんと一緒にいたいだけで別に前線で戦いたいわけではないということを伝える。
コンパスの任務特性を考えれば後方支援や救助活動でだって働けるし。
しつこく食い下がる私の熱意が伝わったのか准将は難しい表情ではあったけどラクスに相談すると言ってくれた。
やったね、これは実質准将の了承を得たようなものだ。
そもそも彼にパイロットの任命権なんてないからね、こういう人員の移動は総裁を通してコンパスの後援国に報告しなくちゃならない。
つまりラクス総裁がOKを出さないとどうにもならないのだ。
なら総裁に直談判したらと思われるかもしれないけど、面識のない私のお願いじゃダメですってされる可能性が高いと判断したので外堀を埋めるために准将に話を通したってわけ。
生体CPUを使うとなると色々と批判もありそうではあるけど……そこは総裁に頑張ってもらおう、私道具、政治わからない。
あ、ちなみにこの話はお兄ちゃんとかには伝えてないよ、反対されるし。
一度要求を通してさえしまえば後はズルズルなあなあと既成事実を積み上げて、ある程度こっちの好きに動けるよう駄々をこねるつもりだから最初が肝心ってことでここら辺は気を使わせていただいた。
堅実に戦艦のオペレーターの業務とかを学んでもいいんだけどそれだと勉強のし直しとかが必要だしねえ、やっぱり今持ってる技能を生かしたいのが人情よ。
それじゃ、果報は寝て待てってことでのんびり待つとしますか。
「本日よりヤマト隊に配属となりました。世界平和監視機構コンパス所属、臨時少尉のマユ・アスカです、よろしくお願い致します」
そう言って私はビシッと連合軍仕込みの敬礼する。
「え、なな、なんでマユが……?」
「うそでしょ……!?」
「ふぅ~ん……」
むふふ、みんな驚いてるね。
私の懇願は届いたようでちょっと時間はかかったけど無事にコンパスのパイロットして雇ってもらえたよ。
階級は臨時少尉、文字通り臨時徴用かつパイロットして最低階級ってこと、他のパイロットに従いつつも最低限の自己判断が許される階級……妥当なとこかな。
臨時でわかると思うけどこれは典型的な野戦任官のやり方だね、そしてこれは出撃時にだけ付与される階級なので平時にそこらへんを歩いている下士官に威張ったりはできない。
なので出撃する時以外はただのお子様扱いのままである。
ちなみにヤマト隊所属なのは私の希望だ。
ハーケン隊は人数が少なすぎて私も前に出ざるを得ないし、ちょっと失礼な物言いだけど准将と同じ隊の方が安全ではと主張して通してもらった、屁理屈もいいとこだ。
でも准将だって自分の目の届くところに私を置いておきたい気持ちはあるだろう、彼の疲労しきっている顔を見れば何でも背負い込むフェーズに入ってるのは薄々と想像がつく。
これ以外にも私が受領した機体の特性も関係あるけどさ。
「マユ! どういうことだよ!」
お兄ちゃんが掴みかかってきた、心配性だなぁ。
「私もコンパスのパイロットして働くってことだよお兄ちゃん」
「そんなこと……ダメだ……ダメダメ! 兄ちゃん許さないぞ!」
ダメって言われてもね、やはりお兄ちゃんに黙ってたのは正解だった。
妹の自主性をちょっとは尊重して頂きたいものである。
生体CPUとして培ってきた鋭い視線で睨むとお兄ちゃんは後ずさりした。
はい、私の勝ち。
あとでまた突っかかってくるだろうけどヤダヤダ攻撃で黙らせればオッケーだ。
「お兄ちゃん、私だって結構やれるんだから大丈夫だよ」
「うぅ、でもさぁ」
正直な話、お兄ちゃんの言い分もわからないわけではないよ。
私は生体CPUとして否応なく戦いに放り込まれたんだからこれ以上戦いに関わる必要なんてないっていうのはね。
ただまあこれはちょっとした償いのようなものだ、暴れた分世の中の為に働くってだけ、あとはお兄ちゃんたちのことも心配だし。
特に今のような情勢で力があるなら有効活用すべきだ、お兄ちゃんたちがそうしたように。
それに……私は生体CPUとして使い物になるよう精神的な処置を受けている、そのせいか時折どうしようもなく戦場が恋しくなり体が疼くことがある……殺し合いが好きなわけじゃない、これはハッキリと断言できるけど……そういう気持ちに関係なく酷いむずがゆさのような物を感じることがあるんだ。
勿論誰にも言うつもりはないよ、面倒な衝動ではあるけど抑えつけようと思えば抑えられる程度のものだからね、言わぬが花ってことで素知らぬ顔をしとけばひとまず安泰に過ごせるのだ。
さて私の内なる本音を隠したまま挨拶が終わった。
で、解散したら各々が職務に戻ったりシミュレーターで訓練をするわけだが……。
私には特にそういう職務は割り当てられていない、階級は一応少尉だけどこんなの名ばかりだしね。
コンパスが連れ回す為の方便みたいなもんだ、でも何もしないのはさすがにアレなのでやれることを探していこう。
と言っても、私の本分はMSのパイロットなわけだからそっちの能力を伸ばすように動くべきだよね。
なので今はお兄ちゃんとシミュレーターで模擬戦をやっている。
「むう、さすがネビュラ勲章持ちってとこだねお兄ちゃん」
「へっへっへー、兄ちゃんは強いからな~、マユには負けないぞ」
さっき反対してたのはなんだったのか、ノリノリで私の相手をするシン・アスカ十七歳。
こいつゲーム感覚でやってるんじゃないだろうな。
ただお兄ちゃんはホントに強いね、知ってはいたけどいざ戦ってみるとヤバい。
隙あらば殺しに来るからプレッシャーがすごいし、戦闘機動が良い意味で無秩序かつ予測不能なのだ。
あんな動かし方したらパイロットの消耗も激しいのだろうがシンは異様にタフなのもあって先に相手がへばって削り殺せるってわけだね。
しかし全戦全敗とはいかないけどさあ……数少ない勝利も相手がお兄ちゃんだから私がまぐれ勝ちを拾えるだけの実力があるのか単純に手加減されてるのか判断に迷うのよね。
所詮は訓練だからか実戦で見たようなあの鬼気迫る攻勢もあんまり仕掛けてこないし、あくまで冷静に戦ってるってことなんだろうが。
それにこうも勝てないとなかなかに……いや、かなり悔しいものである、言い訳するならザフトの操作系に慣れてないってのはあるけどさぁ、戦うしか能がないのにこれじゃあ私のほんの僅かに残された自尊心が吹き飛ぶんだけど。
とりあえずマニュアルを読み込んで地道に努力するしかないか~と模擬戦を終えた後も勉強していたらコンディションレッドが発令された。
ふーんと思いながらマニュアルに意識を戻そうとして自分がコンパス所属だったことを再確認。
もうブルーコスモス時代と違って一々呼び出しが来て連れていかれるわけじゃないんだった。
スタコラと突っ走って準備を終えてコックピットに飛び乗る。
今回もやっぱりブルーコスモスのテロ、プラントの経済特区を攻撃されて防衛軍と市民に大きな被害が出ているとのこと、つまりいつもの手口ってことだね。
コンパス所属となって初出撃ということでしっかり指差し確認をしながら機体の起動シーケンスをこなしていく。
私の発進は最後で時間にはそこそこ余裕があるから焦らずにね。
フリーダムの出撃を確認したらいよいよ私の番だ。
じゃあいっちょやってきますか。
「マユ・アスカ、ザク行きます!」