はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユはお話できません。
なにせ人生初の宇宙だからね、ある程度オートで動くとはいえ慎重にやらないと事故って死にかねないよ。
そして今回乗ってるのはお馴染みのザクウォーリア。
ザフトの主力MSでウィザードシステムという武装換装システムを用いることで様々な戦況に一機で対応できる優秀な機体だね。
ゲルググやギャンといった新型の登場で最新鋭機とはいかなくなったけど、依然としてザフトの中核を担っている頼れる奴だ。
ザクってことは当然任務の内容に応じたウィザードを装備してきてるわけだけど、私のザクが付けてきたのはホスピタルウィザードってやつである。
ちなみにホスピタルウィザードは武装の代わりに病院としての機能を果たすユニットを背中にくっつけるという人命救助に特化した装備だよ。
果たしてこれほど兵の心情を慮る機体が他にあるだろうか……いや、ない。
不謹慎かもしれないが一度このホスピタルザクってのを操縦してみたくて准将に頼み込んだんだよね、前線には出ない機体ってのもあって申請があっさりと通った。
まああんな頼み方しといてバリバリの戦闘機体に乗りたいなんて抜かしたら絶対コンパスに所属することなんて認められなかったしね、都合がよかったというか……とにもかくにも願ったり叶ったりってところだ。
それと当たり前だが戦闘能力は皆無である、だから隊の最後尾につく必要があるんですね。
この子は大気圏突入用の特殊塗装、機体各部への推進器の増設、それと既存のスラスターにも燃費と整備性の悪化を引き換えに出力強化を施したカスタム仕様だ。
通常のザクよりちょっとお高くなってるけどテロで破壊の限りを尽くされている街に病院が出張できるって考えれば十分合理的な出費だと我ながら思ってる。
おっと、バリュートが開いたね。
降下作戦なんてシミュレーターでしかやったことないけど機械に任せとけば問題ないでしょ。
ガタガタ揺れる機体に無重力感と重力に引かれる感覚のせめぎ合いが不安を煽るけどパイロットは度胸だ。
久々の戦場に深呼吸をしていたら轟々と燃え盛る街が見えてきた、心臓の鼓動が高鳴る、この戦場の緊張感、なんだか久々の感覚だ。
いや、今日は戦いに来たんじゃないんだ、准将がブルーコスモスに戦闘の停止を勧告するのを尻目に後方に降りるよ。
そして防衛軍の司令部に通信を繋ぐ。
「こちらコンパス所属のザクです、当機はホスピタルウィザードを装備しています。病院ユニットの設営可能エリアの提示を要請します、どうぞ」
『ホスピタルザクだと……!? いや、助かる。戦術マップに座標データを送ろう、そこには野戦病院があるが機材も物資も足りていない状況だ、急行してくれ』
「了解」
ふむふむ、どうやらその野戦病院があるのは学校のグラウンドのようだね。
こういう戦場だと一秒の遅れで命が一つ消えるなんてよくあることなのでスラスターを噴かして急ごう。
ヤマト隊の戦術データリンクを見るに防衛軍はかなり押されてるようだ、コンパス機が前線を押し上げようとしてるけど戦線自体が広いからなぁ。
敵主力はウィンダムとダガー、デカいのはいないけど逆に敵軍全体の機動力が高くて手数不足って感じか。
ま、そこは私の気にするところではない、軍ってのは分業なのだ。
そろそろ指定座標に到着ってところでレーダーに二つの機影、うわ、ザフト機だ!? と一瞬身構えたが味方だった、染みついた感覚ってのは怖いもんだね。
モニターの方に目をやると丁度ジンが見えた、どうやら私を迎えに来てくれたらしい。
『こっちだコンパスのパイロット! 急いでくれ! 怪我人が大勢いる!』
ジンに守られながら少ししたら目的に到着。
うーんこれはひどい、言ってた通り死体袋と怪我人が並んでるよ。
地面にマークが描かれているのでそこに移動し、ユニットの設営を開始する。
サブカメラと誘導員の振るライトスティックを見ながら荒れた地面にサクサクと降ろしていく。
設営が済むと医療従事者たちが中に負傷者を運び込むのとユニット内の備品を運び出して軽傷者の手当を平行して始めた。
やっぱり最前線に先端医療機器を持ち運べるのはいいね、最大稼働できれば死者を三桁単位で減らせるらしいがこれに関してはお医者さんたちの頑張り次第だ。
さて、ユニットのバッテリーが切れる前にザクから電力を供給しなくちゃね。
コネクタを接続したらもう私の仕事は終わりだ。
この機体がどれだけここで働くかはわからないけど病床が不足している限りは貴重な最新医療設備となる。
バッテリーを節約するために最低限の機能以外は落としておこうか。
戦術マップを見るとヤマト隊は散開して順調に敵を打ち減らしてるようだね。
この分なら――
『そこのザク! ブルーコスモスの一隊が防衛線を抜けてこちらに向かってきている、警戒しろ!』
む、咄嗟にマップを見ると確かに防衛線が破られて穴が空いてる。
ここの守りはジンが二機だけ、これはちょっとよろしくない。
「敵は何機ですか」
『三だ! 三機! ウィンダム二とダガーが一!」
ジンじゃ無理だな、私も迎撃しないと抑えられないか。
非常事態だし……いいよね、別に戦っちゃっても。
「当機も援護に加わります」
『いや、だがそのザクでは……』
ジンのパイロットが渋ってるけど、どっちにしろ此処の二機がやられたら私一機で戦うことになる。
なら最初から三機で当たった方が生き残れる可能性は高い、相手の動き的にジェットストライカーを付けていることを考えると尚更だ。
「戦力を集中させなければ各個撃破されます」
『……ならコイツを使ってくれ』
そう言ってジンが重突撃機銃を渡してきた、旧式ながらバイタルパートに命中すればウィンダムも撃墜できる武装だ。
果たしてこれを受け取るべきか。
ライフルのないジンは重斬刀で格闘戦を挑むしかないわけだが……ジンは大気圏内での飛行能力はなく、相手は装備的に空を飛べる。
彼我の機動力差を考えるとジンはマト同然の存在に成り下がるだろう。
とはいえザクがライフルを持つメリットも大きい、優れた機体により優れた武器を持たせるのは基本だろう。
それにこの機体の電源コネクタが破損したら病院稼働の為の電力を供給することができなくなる、そうなったら本末転倒というものだ。
ふむ、私が持つべきかな。
最悪ジンを囮にしてでもザクは守らないとね。
こっちに向かってくるブルーコスモスの迎撃に向かう道すがら、隊長にも通信を入れておくか。
「ヤマト准将、防衛線を突破され野戦病院に敵が向かってきています、援軍をお願いします」
「なんだって……!?」
敵に飛び込んで大暴れしてるところ悪いけどこういう判断も隊長の仕事だ。
「隊長ッ! 俺が行きます」
お兄ちゃんが気合の入った声で志願してるね、確かにお兄ちゃんが来てくれるんなら百人力ではあるんだけど……。
「……いや、ダメだ。シンは引き続き政府施設の防衛を。防衛線にはアグネスが向かってくれ」
「えっ? わ、私ですか……?」
「君が一番近いんだ、ルナマリアはアグネスが抜けた穴のフォローをしてくれ」
「はい隊長!」
「……了解しました! 待ってなさいマユ、すぐ行くから」
防衛線のフォローにはアグネスが来てくれるみたいだ、まあお兄ちゃんの任務はかなり重要だから持ち場を離れられないのはわかり切ってることである。
アグネスの方は前線で戦果を上げたいのか不承不承って感じだけど、少なくとも勤勉を装って仕事はちゃんとやってくれるからそこは安心できるはず。
じゃあこっちはこっちでやるとしますかね。
ジンが前で私が後ろ、遠目に見えるウィンダムら相手に陣形を組む。
手頃なビルに身を隠してミサイルとビームの脅威から逃れる、落ち着いて有効射程に入るまで引き寄せてから攻撃を仕掛ける。
ただ実弾攻撃は飛んでる相手だとあまり当たらない、やっぱりちょっと弾速が遅いし弾頭のサイズ故に重力と風の影響も強く受けてしまう。
ビームも地上じゃ弾道がブレやすいとはいえあの威力と弾速は羨ましいよ。
とはいえ何発か撃ったらデータに反映しきれないライフルの癖も掴めたし、偏差撃ちでウィンダムを落としていこうか。
ライフルを持ってる方のジンに合図をして射撃をしてもらい、回避で動きが単調になったウィンダムを撃ち落とす。
まずは一機、ただ近寄られたな。
ビームサーベルを抜いて突っ込んでくるダガーにライフルを撃ち込むけどシールドで受けられる、いやなことしてくるな~。
『ぐああッ!?』
ライフル持ちのジンがコックピットを貫かれてやられた。
伏せてもらってた重斬刀持ちもすかさず切りかかるけどダガーと相打ちになってしまう。
これであちらがウィンダム一機でこっちがザク一機、性能面ならこっちが僅かに上だけど武装も加味すると若干不利か。
うん、逃げよう。
こういう時は無理しちゃいかんよ、まだいけるはもう無理ってことだ、新兵ほどこういう状況で引き際を見誤って戦死するってのは訓練でよく教えられた所なんだ。
ただ病院ユニットの内蔵バッテリーはそう長くは持たないから早めに打開策を考えないとね。
敵の射線を目で見て推測しながらスラスターによる急加速で回避していく、幸いウィンダムが持ってるビームライフルの射撃間隔は体に染み込んでいるのだよ。
逃げながらどこかに味方がいないかと探すと後方で援護を務めていたザウートを発見……ザウートかぁ……。
ザウートは最初期のMSでザフトの数的不利を埋めるべく量産された機体だけど如何せん性能面がちょっとねえ。
贅沢言っててもしょうがない、そこは私がフォローすれば問題なし。
あっちのパイロットに援護を要請しながら敵の動きを誘導する。
ライフルを投げ捨て少しでもザクを軽くしてから突進、取っ組み合いに持ち込む。
ザフトのOSは連合製の物より動きに自由が利くから人型を生かした殴り合いならこっちが有利だ。
まず顔面を殴りつけて頭部のCIWSを潰す、胸の二門も突進時の衝撃で破壊済みだ。
至近距離の射撃手段を失ったウィンダムはサーベルを抜いてこっちに振るおうとするが、その腕を押さえつけて膠着状態を作り上げてやるとウィンダムの背後に回ったザウートの機銃が火を吹いた。
まあこんなところか、ザクの装甲は凹んでマニピュレーターも傷んでしまったが一先ず生き残れた。
ジンのパイロットたちは残念だったけどこれも戦いってやつだ、味方が墜とされる光景なんてもう見飽きる程に見てきたしね。
彼らに何か弔いをできるとしたら、私のザクで一人でも多くの人命が助かるようにすることだろう……いや、これは私の感傷か。
もし私が戦闘用の機体で来ていればあの二人を助けるぐらいはできただろう、ただその場合ホスピタルウィザードによる人命救助はできない。
どうにもならない二者択一ってやつだ、戦いってのは空しいものだよねえ。
少し硝煙臭くなった機体で野戦病院に戻るとみんなホッとした様子でこっちを見ている、色んな意味でこの機体はみんなの命綱なわけだしそりゃそうなるか。
病院ユニットとザクを再接続して前線の状況を見てみるともうブルーコスモスは壊滅状態に追い込まれているみたいだ。
ほんの数時間程度に渡る長い戦闘も、もうじき終わるみたいだね。
ブルーコスモスの掃討が終わる頃、朝日を背にアークエンジェルが到着した。
敵との戦闘は終わったが野戦病院は未だに戦場の様相を呈している。
混乱が収まったからこそ街全体の怪我人が続々と搬送されてきてもう滅茶苦茶だ。
直ちに処置が必要な患者が病院ユニットに運び込まれ、一命を取り留めたら一旦ユニット外の仮説ベッドに移されて別の患者が入れ違いで処置を受ける。
見てるだけで目が回るような勢いだよ。
お医者さんたちの戦いはここから本番って感じか。
しばらく待っていたらジャスティスが来た、私のお迎えだ。
このザクはここで暫くは病院として働かなきゃいけないからね。
互いにコックピットを開いてお兄ちゃんの元に飛び込む。
「マユ、大丈夫だったか? 兄ちゃん心配したんだぞ……!」
「平気だよ、私は何ともないって」
不測の戦闘があったからか凄く心配されてる。
適当に宥めすかすとお兄ちゃんも追及することはやめたようで、ジャスティスが飛ばしてアークエンジェルへと向かった。
眼下には未だ火の手の止まぬ街並みが広がっている。
今回の作戦はブルーコスモスを撃滅した上で彼らの作戦目標も頓挫させることができた、単純に勝ち負けで考えるなら私たちの勝利と言えるだろう。
ただこの見るも無残に破壊された街と痛みに喘ぎ咽び泣く市民の姿を見ると、とても勝ったとは言えないね。
以前の私は破壊する側だった、その時はこんないたずらに兵力を喪失するだけの作戦なんて無駄なのではと思っていたが、守る側になると見方も違ってくるもんだ。
正に勝利者のいない戦いというやつだね、お兄ちゃんや准将はずっとこんな光景を見てきて消耗してきたのかな。
「マユ……よく頑張ったな」
跡地を眺めていたら不意にお兄ちゃんが労わってきた、優しいお兄ちゃんだよまったく。
「偉いぞ、あんなに大勢の人を助けたんだからな。自慢の妹だ」
「お兄ちゃんも頑張ってたよ、あんなに沢山の敵が来てたのに司令部を守り切ってたでしょ」
「そうかな……でも、俺に力があれば……もっと大勢の人たちを守ってやれたんだけどな……」
「せっかちだな~。少しづつやってけばいいでしょ? ね? お兄ちゃん」
お兄ちゃんは私に薄っすらと笑みを浮かべるだけだった。
やれやれ、やっぱり軍人に向いてないよ、心が。