はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません   作:何を書けばいいんだ

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いつもの日常

 私マユ・アスカの朝は早い。

 朝の五時に起床して身だしなみとベッドメイクをササっと済ませる、もうこの辺はファントムペイン時代からのルーチンだ。

 カロリーバーと一緒に軍医から処方された薬を摂取して軽くフィジカルトレーニングをこなす。

 

 脈拍と血圧の数値に異常なし、筋肉の調子もいい感じだ。

 こう見えて元ヤク中なもんで肉体を維持する努力を欠かすとあっという間に体が弱ってしまうのよね。

 まったく生体CPUってのも楽じゃないよ、こればっかりは時間を掛けて体を戻していくしかない。

 でも私は恵まれている方だ、正規のエクステンデッドは私が改造された年齢よりもっと幼い頃からずっと調整と教育を受けている、少なめに見積もっても私の数倍の期間を掛けて体を蝕まれてるわけだね。

 まだ碌に体も出来上がってなかった彼らと違って私はまだ最低限とはいえ体が成長していたから体力も残ってたしこうやってリハビリだってできるわけ。

 

 さっくりと運動を済ませたら義手が劣化していないかも確認しないと、私の義手は保護用の薄いシールを張り付けた如何にもメカメカしい外見をしている。

 鉛色のフレームにケーブル、疑似筋肉繊維が露出していて見ていて気分のいいものではないだろう、実際やんわりと人口皮膚を被せればと言われたりもしたぐらいだ。

 

 でも分厚い皮膚を被せるとほんのちょっとだけとはいえ動作が悪くなるからな~、厚手の軍手をはめて指先が動かしづらくなる程度のものだけどその差で生きるか死ぬかの仕事をやってるわけでして、中々ままならないものだよ。

 

 そんなこんなで朝やることが終わったら寝坊助のお兄ちゃんを叩き起こしに行く。

 

「んぅ……むにゃ……ステラぁ……」

 

 お兄ちゃん……。

 見るに忍びないので布団を丸め、顔面にぶつけて解放してあげよう。

 

「ぅわ!? え? マ、マユ……!?」

「朝だよお兄ちゃん、早く起きなよ」

「こ、このぉ~! もっと優しく起こせー!」

 

 無事にイタズラが成功したら次は朝食だ、肉と豆、それと米をガッツリと食べていく。

 私の体は一見細身で華奢に思えるが身体能力はコーディネーターと比較してもかなり高い。

 この筋力や代謝を支えるために大量のタンパク質とカロリーが必須となるわけだね、脳の処理能力だってドーピング済みだ。

 コンパスに保護されてすぐの頃は合成栄養ブロックでの高効率の食事に慣れていたせいかお腹が苦しくなるまで食べてもカロリー不足でぶっ倒れたりしてたもんだ。

 

「今日もよく食べてるわね」

「たくさん食べることに体を慣らさないといけないので」

 

 ルナの姉御が隣の席に座ってきた、食事の量的には私の半分だけどこれが通常の分量だ。

 ここ最近は大食いにも身体がついてくるようになってお腹いっぱいに食べれば問題なく動けるまでにはなってきた。

 ただ成長分までは補えないので腹九分に収めて、残りはバータイプの高栄養食で賄う。

 

「あなたはよく頑張ってるわ。ほら、うりうり~」

「ふにぃ~」

 

 私の頬を入念に揉み解してくる姉御、なんだか他人とは思えないと言って何かと距離の近いスキンシップを行ってくる。

 まあ私もよくわからないシンパシーを感じてるから悪い気はしないのだけれども。

 

 こちらが食事を終えるころにようやく寝ぐせ気味の頭をしたお兄ちゃんとメイクをバッチリ決めてきたアグネスがやってきた。

 軍人としてどうなんだと思う部分はある、ブルーコスモス内部でもザフトのアカデミーのレベルが下がっていることはよく揶揄されていたし。

 ナチュラルの多い連合軍は生まれの時点で能力的に劣っているのを埋めるために厳しい訓練が課されている、私はそっちで過ごしてたからザフトの色が濃いコンパス流には馴染み切れないんだよね。

 

 ルナの姉御に髪を梳かされている不肖の兄を尻目に食器を片付けたら腹ごなしに体幹トレーニングをする、隙間時間も有効活用するのが私なのだ。

 いい時間になったらお兄ちゃんたちに混じって課業をこなしていくよ~。

 

 今回の課業は戦術論議ってやつだ、部隊の指揮官として状況に対応するってやつだね。

 私なりに無い知恵を絞って考えていく、手を抜くつもりは勿論ないけどコノエ艦長が採点してくれるのでより一層気合を入れなくちゃならない。

 これは競争ってわけではないのでお互いに切磋琢磨のために回答を見せ合うのも認められてる、それでいいのかな……。

 まあせっかくいいって言うんだから遠慮なく見せてもらうべきか、私だってこの手の教育は受けてないからザフトレッドの答えを参考にできるのは助かるし、そもそも私がそういう事情だからってのを想定してるのかもしれないし。

 

 てなわけで早速お兄ちゃんのを見せてもらおう、これは別に身内だからどうとかでなくてシンプルに一番階級が高くて実戦経験が豊富そうだからって判断だ。

 それで見てみたわけだが……うーん、これはひどい。

 お兄ちゃんの戦術は一言で表すならこれだろう、俺が何とかする……これのどこが戦術だよ。

 意外なことにルナの姉御も似たような内容だ、お兄ちゃんよりはマシな内容なんだけど一騎当千思考が滲み出ているのを隠しきれていない。

 

 理由を考えるとしたら彼らがミネルバ組だったからなのかなぁ、少数で戦局を変えるってのを何度も繰り返してきたからそういうやり方が染みついているのかもしれない。

 知識と経験どちらに重きを置くのかは人によるからね、お兄ちゃんみたいな実戦で戦果を挙げてきた叩き上げ組は自分の戦い方を戦術に落とし込もうとするんだろう。

 それにしたって個人技を重視しすぎるのは考え物だけど。

 

 ちなみにアグネスのは大変分かりやすくて参考になった。

 こういうのを教本通りと言うのかな、私が交戦したザフト部隊の連携にも似たような動きを見た覚えがある。

 

 で、コノエ艦長に見てもらったところお兄ちゃんと姉御はでっかいバッテンを貰ってアカデミーの基礎を学び直せというコメントが書き込まれている。

 アグネスは所々修正をされているものの及第点といったところ。

 私はそれはもうびっしりと修正に意見、見解が赤文字で書き込まれていて真っ赤な状態だ、柔軟性に欠ける、確実性に欠ける、安全性に欠ける、欠ける欠ける欠ける……。

 自分を棚に上げてお兄ちゃんたちを腐していたが私もこんなもんである、とほほ。

 

 ゲッソリとしながら昼食を貪っていたらミレニアムの副長、アーサーが慰めに来てくれた。

 コンパスきってのムードメーカーなことだけあって人の機微には聡いらしい。

 

「君の気持ちはよ~くわかるよ、やっぱり色々と訂正されると心に来るよね。僕もミネルバに乗ってた頃……というより今もだけど、よくやられてたから、アハハ」

 

 よく喋ってよく笑う、一見頼りなさげではあるがいい士官だと思う。

 指揮官には部下の先頭に立って率いるタイプと部下が自発的に支えたくなるタイプの二つがあるけど彼は後者なんだろう。

 

「でも大丈夫! コノエ艦長は教え好きだから、こうやってたくさん指摘されてるってことはそれだけ君に見込みがあって期待してるってことなんだよ!」

「だといいんですけどねえ……」

 

 正直半信半疑である。

 だってさ、アーサーなんだよ? 彼の能力を疑うつもりはないけど、こうね、人を納得させるような覇気に乏しいのは否めないのだ。

 でも……うん、今の私はネガティブになってるから懐疑的になってしまってるのかもしれないね。

 アーサーのくれたチョコレートを食べながら反省だ、こんな良い人を疑うだなんて私が間違っていた。

 

 午後からは整備ドックに向かう、人手不足で応援を頼まれてたからね。

 専門家ではないとはいえエクステンデッドがやるような破壊工作の教育も受けているから多少の機械操作はできる。

 力も強いから重い機材だって楽に運べるし、作業用重機の操縦もへっちゃらだ。

 

 整備班のおっちゃんに顎で使われながら働いた後はまたお兄ちゃんたちと合流してMSのシミュレーター訓練を積む。

 

 ザクの操縦系は使いやすいとよく言われるように私もかなり操作に慣れてきたが、やはりお兄ちゃんは色々な意味で厄介な相手だ。

 単純に強くて勝てないってのもあるけどそれ以上に動きが才能任せすぎてまったく参考にならない、アレと戦っても伸びる能力は反射神経とかそこらへんぐらいだろう。

 

 逆にルナの姉御とアグネスは大変参考になります。

 姉御の戦いは基本理詰め系だがそこにエースパイロットの技量に任せた踏み込みを混ぜてくるから中々お強い。

 こういう柔軟な立ち回りをしてくる相手は自分でも気づいていなかった隙に気づけるから良い学びが得られるんだ、お兄ちゃん? あいつは隙とか関係なく強引に切り込んで来るから当てにならないよ。

 

 そしてアグネスは基本に忠実だ。

 変に荒っぽい動きもしないし目新しさこそないけどお手本通りの綺麗な戦闘機動をするので非常に勉強になる。

 型を破るにもまず型を身につけないといけないからね、ザフトのMS戦術を知るにはいい相手なのだ。

 

 ただこうやってヤマト隊のメンバーと訓練をしていると准将の異様さが身に染みる。

 基本的に准将は訓練ではなく開発系の仕事をやっているが、時たまOSの調整と称してシミュレーターを使うことがある。

 その時に相手をしてもらったわけだが、まあこれが勝てないのなんの。

 

 准将は最初こそ理詰めで確実にこちらを追い詰めるように動くのだが、こちらがそれを崩そうとすると急に我流むき出しになってお兄ちゃんのようなわけのわからない動きで殺しにくるのだ。

 攻撃も回避も正確無比、悪い意味で人間味がないので戦ってて正直怖い。

 かなりの回数戦ったけど引き分けが一回だけで他は全部負けちゃった、ちなみに引き分けに持ち込んだ手段は追い詰められた後やけくそで相手に組み付いてからの自爆だ。

 ムキになって攻撃衝動任せに戦ったせいでついやってしまったけどみんなドン引きしてたね、普段は冷静にやってるんだからお目こぼし頂きたい。

 

 さて、あとは夕食と食後のトレーニングをするだけだ。

 ただ今日はちょっとした用事があるので食事の分量は控えめにしておく。

 食べ終わったら隊のみんなと組み手をするよ。

 

 手加減するから全力でこいと生意気なことを抜かす兄の腕を捻り上げる。

 やめてよね、本気で組み手をしたらお兄ちゃんが私に敵うはずないでしょ、さすがに生体CPUを舐めすぎだ。

 そしてメイクが崩れるからと露骨にやる気のないアグネスも入念に投げておく。

 

 ルナの姉御はさすがに強敵だが筋力なら私の方が上なのでそこを突きたいのだけど……普通に投げられてしまう。

 これはもう体重の問題だから仕方がない、私も見た目や身長の割りには重いがそれでも姉御ほどではないからね。

 なんてことを反省会で言ったら強烈なアイアンクローを食らった、超痛い。

 

 

 

 

 

 今日はラクス総裁のご自宅にお邪魔している。

 忙しそうだから会うのを避けてたわけだけど、そろそろお礼の一つや二つ言っておかないと後が怖いので准将におねだりしたってわけだ。

 

「今日はよく来てくれましたね。私はラクス・クラインです、マユさんとお会いできてとても嬉しいですわ」

「いやそんな……今日は押しかけるようなことをしちゃってすいません」

「ふふふ、マユさんのようなお客様ならいつでも大歓迎ですわ。今日はいつも以上にたくさんご飯を作りましたので、いっぱい召し上がってくださいな」

 

 総裁は私みたいな子供にも丁寧に接してくる、緊張しちゃうなぁ。

 とりあえずお手製の唐揚げを口に詰め込んで誤魔化そうか、口さえ塞がってれば黙ってても失礼じゃないのだ。

 旨いけどちょっと味が濃い、私の舌は依然として薄味に適応している模様。

 

「あらあら、そんなに慌てると喉を詰まらせてしまいますわ」

「……ふぁい」

 

 う~む、お礼を言いに来たんだけどもどう切り出そうか。

 なんか身に纏うオーラが違うから迂闊に話しかけられないよ。

 

「そう固くならなくともよろしいですのよ? うふふ、お兄様とそっくりですわね」

「あ、その、はい……」

 

 くっ、お兄ちゃんも総裁にやられたのか。

 ここはお隣の准将に目配せをして援護を貰おうとしたけど彼は和やかに笑ってるだけだ。

 実は准将には私の付き添いって名目で今日は早く帰ってきてもらったのだ、総裁の圧を一身に引き受ける盾役を任せたかったのだけど……当てが外れたみたいだね。

 

 とりあえずニュースでも見て共通の話題でも作るか、と考えていたらテレビ画面に先日救援しに行った街が映った。

 復旧こそ進んでるみたいだけど画面に映るのは瓦礫の山ばかり。

 おっと、私のザクがいるね、コンパスのマークがペイントされてるから分かりやすい。

 まだまだ病院として頑張ってるのを見るに市内の医療施設はまだ機能していないようだ。

 

 ちなみにコンパス内のホスピタルザクの評判はあまりよろしくない、ああいう使い方をするウィザードじゃないからね。

 本質的に足の生えた病院みたいなもので、重量やスラスターの干渉など諸々の事情でかなりノロマな機体だから戦場に強行突入させるのはあまりにもリスキーってことだ。

 仮に私が前線の兵士の立場になって考えてみるなら確かに邪魔だと思う、気合の入りっぷりは評価するけど自衛能力のない味方なんて援護の手間が増えるだけだし……いや、コンパス内の不評はもっと別の意味なんだからこれじゃあちょっと的外れかな?

 

 ふ~む、ニュースを見る総裁と准将の表情は硬い、犠牲者は出ているし住人たちの思い出が詰まった街は見るも無残な状態なのだからしょうがない。

 ただそれでも……守れたものに目を向けてもいいんじゃないだろうか、戦いなんてうまくいく方が珍しいんだから。

 

「私のザクは良く働いてくれてるみたいですね、出撃した甲斐がありました」

「……そうですわね。マユさんのおかげで多くの人が救われましたわ」

 

 さり気なく戦果をアピールしておく、私自身ああいうコンセプトの機体は気に入っているので危険だからやっぱり無しとされたくはない。

 それにコンパスは平和の敵を倒すだけではないと、より強く主張できるのも良いことだと思う。

 やっぱり人間リスクを冒してでも助けてくれた相手のことは記憶に残るものでして、不合理に思えるようなあの運用方法にも一抹の合理性があるんだよ。

 それはさておき、総裁のサラダうまーと舌鼓を打っていたら准将の箸が進んでいないことに気づいた、これはよろしくないので釘を刺しておかないと。

 

「食べないんですか? キラさん」

「えっ? いや」

 

 ブルーコスモスのせいで暗いニュースも多く食欲も湧かないだろうけど、無理してでも食べないと後が続かないよ。

 それに軍人ってのは食べるのだって仕事だしね、准将が真っ当な軍人なのかは知らないけど。

 

「せっかくラクスさんの愛が詰まってるのに。キラさんが食べないなら私が独り占めしちゃいますからね」

「それはちょっと、困るかな」

「まあ、キラったら」

 

 適当に煽れば准将は私に対抗するように食べ始めた。

 ふっふっふ、キラさんがラクスさんにゾッコンだってことは知っているのだよ。

 はぁ……准将の軍歴は中々華々しいものだけど精神性はやっぱり普通の兄ちゃんって感じだ、こりゃ確かに総裁も早く楽にさせてあげたいって思うわけだよ。

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