はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユはお話できません。
ファウンデーションの夜会でご飯をモリモリ食べるのに忙しいからね、デスティニープランで選ばれたシェフが作っているだけあってどれもとても美味しいよ。
それにこういうビュッフェスタイルの食事は初めてなもので中々楽しい、でも楽しんでばかりじゃなくてこの後の事について考えていかなきゃならない。
直近の出来事としてはやはりエルドアの惨劇だろう。
ミケール捕縛の為にエルドア地区で行われた軍事作戦だが、紆余曲折あってイシュタリアが核兵器で吹き飛ばされた上に作戦に参加したコンパス部隊が壊滅するという惨憺たる結果に終わった。
しかしこれらは全てファウンデーションの思惑によって進められた自作自演の虐殺行為に過ぎない。
とりあえずはこれにどう対処していくかだけど、実は既にある程度の方針は固めているんだよね。
まず大前提として惨劇を防ぐのは不可能だと思っている。
よく言われる言葉だけど戦いは準備の段階で八割は決まってしまっている、ファウンデーションはこの自作自演の為に長い長い準備を重ねてようやくコンパスを捕らえて実行する段階に移ったわけだ、まあつまりこの時点で私たちはもう八割負けてる状態ってことだね、ここから逆転は無理です……。
一応私は向こうの裏切りを知っているのだからそれでひっくり返せないのかと思われるかもしれないけどそれも無理、なにせ証拠がないんだから。
私の知識は悪し様に言えばただの妄想に過ぎないからね。
仮にコンパス全員に私の知識を話したとしても良くて推察扱い、悪ければ精神的ストレスによるパラノイア扱いを受けることになるだろう。
個人が思い込みで勝手に動くならともかくコンパスのような国際的組織の方針に影響を及ぼせるわけがないので、私の知識は大局的な面においては無力ってわけだ。
しかもファウンデーション側が裏切れない理由だってあるんだからどうしようもない。
実際は裏切るのにどうして裏切れない理由があるのかと疑問に思われるかもしれないが、この作戦ではユーラシア連邦の将校を招致することになっている。
まずこの時点であちらは下手なことができない、そしてイシュタリアに寄港しているミレニアムの存在だってある、明確にコンパスと敵対すればミレニアムだって対抗措置を取るんだからファウンデーションには二重の首輪が着けられているに等しい状況だ。
元々コンパスのメンバーだって腹に一物抱えてそうなあちらを素直に信用なんてしてないんだ、ただ現実的に考えて裏切れない確証があるから背中を預けているってだけでさ。
それこそ作戦地域が謎のジャミングで一切状況不明になったうえに、そこで起こったアレコレの追及と検証が不可能になるようなとんでもない事態が起きて有耶無耶にできる算段が付かない限りファウンデーションが行動を起こすことはできない、だからNJダズラーを実用化して核兵器をぶっ放す必要性があったんですね。
これも一種の我に秘策ありってやつだ、情報戦で負けてるとこうなっちゃうんだ。
というわけで向こうは確実に奇襲を決められる段取りを組んできているってこと、何か新しい情報が手に入ればこっちの警戒を高められるんだけどそんなものが都合よく見つかるはずもなく。
なにせアスランとメイリンというプロですら尻尾を掴み切れなくて状況証拠から判断していたんだ、私じゃ無理に決まってるよ。
なので私は次善策、エルドアでの戦闘介入の方向で動いていくことになる。
負けるとしてもより良い負け方を選ぶってことだ、私が行って事態が好転するかは未知数だけど一般には戦力は多ければ多いほど戦いを優位に進められるようになっている。
知識だと別に私抜きでもかなりの人数が脱出に成功するわけだが、それで楽観視できるような性格だったら私はもっと昔に死んでる、それに知識の中でも綱渡りな戦いなんだから少しでもみんなの生存確率は高めたいところだ。
ちなみに捕縛作戦はこれから詳細を詰める段階だが隊員の大体の配置などが決まった叩き台は完成していて、そこでの私の配属はミレニアムでの後方待機となっている。
つまりルナの姉御と仲良くお留守番ってことだね、嬉しいけど嬉しくないぞ、ここからどうにかして前線に配置転換してもらわないといけないな~。
もぐもぐとルナの姉御の隣で飯を食らいながら考え事に浸る。
こうやって食事を摂りながら色々気を回すのはブルーコスモス時代を思い出すな~。
視界の端では准将にお誘いを掛けて玉砕したアグネス、中央では余所行きのお綺麗な顔でオルフェと踊っている総裁、お仕事してます感がアリアリですな。
そして戻って来たアグネスを姉御が窘めているね、この後アグネスは准将にこっぴどく振られて傷心状態になるんだよね……ふ~む、これはイケるか……?
「何の話してるんだルナ? ほらマユ、うまそうなケーキ取って来たぞ~」
「何でもない! ほら、行くわよ!」
「うわぁ!? ちょ、待てよルナ~!」
ケーキの皿だけ受け取って、姉御に連行されるお兄ちゃんを見送る。
とりあえず夜会が終わるまでは大人しくしときますかね。
な~に時間はあるんだ、少なくとも甘いケーキを食べる時間ぐらいはね。
さてさて美味しい夜会の時間はもう終わりだ、早速行動に移るとしよう……と思ったら目の前にフラフラと歩く不審な女が現れた。
うん、アグネスだね。
メソメソ泣いているせいでマスカラがドロドロに溶けてお化けみたいな顔になっている、正直怖いよ。
「マユぅ!!」
「ひぇっ……」
アグネスが縋りついてきた、このまま冥界まで引きずり込んできそうな迫力だ、まだ死にたくないんですけど……。
「ねえっ!! 私、綺麗じゃない? 魅力ない? そんなはずないわよね!? そう言ってよマユ!?」
「ぬあ~」
頭一個分でかい女からガクガク揺さぶられるのは中々辛いもんだ。
うーん、しかしアグネスの魅力ねえ……適当に君は美しい、月光のワルキューレとか言ってご機嫌取りをしてもいいんだけど、なんだかんだお世話になってるし真面目に考えてあげるか。
……まあハッキリ言って性格はアレだね、あまりに自己中心的かつ傍若無人でとても褒められたもんじゃない。
ただ逆に言えばアグネスの良くない点はそのぐらいなんだよね~、人格以外はとても優秀で能力良し、見た目良し、愛想も良いし家柄も良い、気遣いも上手いし向上心に溢れている。
これらを勘案すると……プラマイちょいプラス、よし魅力的だな!
なにより人格を貶しこそしたけど私はもっと致命的で他害的な思想集団の中で過ごしていたのでアグネスのアレなんてかわいいもんなんだ。
とりあえずアグネスの良いとこ探しで見つかった点をつらつらと挙げて魅力的ですよ~と伝えてあげるか、これで満足してください。
「そうよね!? やっぱり私って魅力あるわよね!? なのになんでダメなの! こんなのおかしいじゃない!」
めんどくさい拗らせ方してんな、魅力があろうがなかろうが准将は総裁しか見えてないんだから靡くわけないじゃんね。
「え~と……アグネスさんの魅力に気づいてないとかじゃないですかねー。あ、そうだ、そもそもアグネスさんはアグネスさんってだけで魅力的な人なんですから、一々男の人にアプローチなんて掛けなくてもいいじゃないですか」
「へぇ……! 私は私ってだけでねぇ……ふふん、そりゃあ確かに私は家柄も良いし、そこらのバカと違って賢いし顔も他の芋女とは比べ物にならないぐらい綺麗だけど~、やっぱりイイ人と繋がりは持ちたいかな~って」
大胆な論点ずらしで自尊心を満たしてあげたら案の定食いついてきたね、このままごり押しで誤魔化しちゃおう。
「別にアグネスさんの方からがっついていく必要なんてないと思います。アグネスさんは高嶺の花のような存在なんですから本当の価値をわかってくれる人を待ってみるべきですよ。そもそもアグネスさんの魅力に気づけない男性なんて節穴みたいなもんですし、その時点でアグネスさんとは釣り合わないのでは?」
「私が高嶺の花……そうよ! その通りよマユ! 人を見る目のない男なんて最低よ! 今度は本当の私を分かってくれる人を待ってみるわ! きっとそんな人こそがこの私に相応しいんだわ!」
すっかり調子を取り戻してルンルン気分で帰っていくアグネスを見送る。
世の中には割れ鍋に綴じ蓋って言葉もあるんだ。
アグネスみたいな人でも受け入れてくれる人が現れるでしょ、それが今日じゃないってだけで。
これで少しは男漁りも落ち着けばいいんだけど……まあ無理だろうね、アグネスは自身の装飾品として男性にアプローチを仕掛けてるけどそれと同時に惚れっぽい性格でもあるから。
よさげな男の人が甘い態度で接してきたらコロッといっちゃうんじゃない?
でもそこはアグネスの人生なんだし私が気にしてもしょうがないか、管轄外だよ。
ついでにマスカラでぐちゃぐちゃの顔を指摘するのも管轄外だ、せいぜい笑われるといいさ……これアグネスがシュラにたぶらかされずに済むんじゃない?
……まあいいか、流れに身を任せる、ひとまず承認欲求モンスターをやり過ごしたんだし私は私の目的を果たしに行こう。
これから向かうのはブラックナイトの格納庫、そこで作業をしているであろうシュラに用事があるんだ。
そして用事と言うのは単純、私が総裁たちにエルドアの作戦への参加打診をした際に後押ししてもらうことである。
私は本来ルナの姉御と一緒に後方で待機をするわけだけど、同じ待機でも意味合いは全く異なるんだよね。
姉御は何か不測の事態が起こった時にミレニアム側の即応部隊として配置されているので必要不可欠な役割だけど、私は機体の特性が作戦に適していなくてやれることがないのでミレニアムで留守番を命じられているってわけ。
まあこれは私が戦闘に参加しないってことを免罪符にコンパスのパイロットやらせてもらってるってのもあるんだけどね。
もし今回が普通の作戦だったとしたら私の参加はどうあがいても認められなかっただろう、だけどミケールの捕縛となると話が別でしょ。
少しでも成功確率を高めるために遊兵を作るべきでないことは総裁たちも分かっているはずだし失敗の可能性にプレッシャーを感じてもいるはず。
ただそれ込みで考えても私を戦わせるべきではないという良心が働くかもしれないと私は見ている、そこでファウンデーション側からも総裁たちの説得をしてもらうようお願いしに行くってこと。
総裁はあっちに後押しされたのを言い訳に准将の負担を減らせる、私は戦闘に参加できる、ファウンデーションだって張った網に掛かる魚が増えると三方よしの提案だ。
いや~、私の悪党っぷりにも磨きがかかってきたねえ、お兄ちゃんにはこんな姿見せられないよ。
おっとシュラの後ろ姿が見えてきた。
気軽なノリで来てしまっているがこれは一種の賭けだ。
なにせ相手はアコード、心を読んでくる。
昼間の私は准将たちのおまけだったからこそ大して内心を覗かれたりはしていなかっただろうが、面と向かって話をするならそうもいかないと思う。
間違いなく真意を確認しようとしてくるでしょこれ、ここで私が対アコードを見据えていることがバレたら終わりだよ。
だから口は当然として内心もしっかり誤魔化せるものにしないといけない、取って付けたようなものだったら疑われて心の奥底まで見られちゃうからね。
必要なのは納得させること、アコード側がああそういうことかと理解して追及を止めるようなことを考えていないといけない。
「誰だ?」
「どうも、マユ・アスカ臨時少尉です」
「君は昼間の……」
シュラは怪訝な表情を浮かべながらこちらを見ている。
どうせ探りを入れて来てるんだろう、ボロが出ないように早めに終わらせたい。
「昼間の件で謝罪に伺いました、銃を向けるようなことをしてしまい申し訳ありません」
「……あれはこちらにも問題があったことだ。謝罪は不要だよ……それと、もしかしてだが他にも何か要件があるんじゃないかい?」
アコードとの会話はある意味で楽だ、私の内心を見て勝手に話を促してくれるからね。
じゃあ本題に移ろっと、別に口で伝えること自体はテキトーでいい、向こうが察してくれるんだから。
平和を守るために私もエルドアでミケール捕縛に参加したいでーす。
だから私が総裁たちを説得するときに手伝って~、みたいなことを神妙な口調と態度で言うだけの簡単なお仕事だ。
ここで大事なのは私の内心よ、シュラに不審に思われない本物の想いを抱かないといけないというのは中々の難題である。
でもあるんだよね、私にしかできない秘策ってやつが……。
いま私の頭の中を埋め尽くしている思考は二つ、強烈な敵意と戦いへの渇望だ。
前にもチラッと触れたが、私は即席の生体CPUとして積極的に戦いに参加してナチュラルやコーディネイターに関係なく自陣営と敵対する者を望んで殺すように精神的な改造を受けている。
これは幼少期から少しづつ認識を改変されているエクステンデッドとは違う突貫的な処置だから普段は理性で無理やり押さえつけているものだが、それを解放して生体CPUの本能で心を満たしているってわけだね。
この状態はとにかくストレスが貯まる、典型的な狂気に染まった生体CPUはこういう心理状態なんだろう、敵と戦って暴れまわれないことにイライラするなんて人間として終わってるよ。
そういうわけでシュラが今見ているものはこうなる、口では平和だのなんだの言いながら内心では敵を殺したくてウズウズしている生体CPUが戦わせてくれと頼みこんでいる姿……これでは道化だよ、でもそれでいい。
そしてやはりというべきか、この滑稽な姿はシュラには愉快に映ったらしい、彼はその甘いマスクを冷酷な笑みに歪めた。
「なるほど……君の言いたいことはよくわかった。私は君を前線任務に推せるだけの権限を有してこそいないが……君の平和の為に尽力したいと願うその心意気には胸を打たれたよ、タオ閣下や陛下には私の方から是非にと伝えることを約束しよう。君と戦える時が来ることを楽しみにしているよ」
「ありがとうございます、サーペンタイン国防長官」
ぐぬぬ、随分と直球な皮肉を飛ばしてきたな。
何が心意気に胸を打たれただよ、全部分かってる癖に。
でもまあこんな物言いをするってことは私の本心をご理解して頂けたんだろう、お礼にお兄ちゃんを悩殺する妹スマイルも付けといてあげるよ。
これで話はおしまい、後は総裁たちが許可してくれるかどうかだし急いでお暇しよっと。
格納庫から離れたあと私は呼吸を荒げながらそこら辺の壁に体を預ける、さすがにちょっと疲れちゃったな。
それに頭の中で暴れまわる破壊衝動で気分が悪い……この自分がわからなくなる形容しがたい不快感はいつまで経っても慣れない。
無理やり刷り込まれた本能と今まで培ってきた常識とのギャップで自己認識にズレが生じているんだろう。
戦いなんて嫌いだ、痛いし怖いし危ない、得られるものなんて何もない負けの確定した不毛なギャンブルのようなものだ。
でも……それを楽しみにしている自分がいる、もしかしたら作戦に参加できて戦えるかもしれない、そんな期待が胸の中で膨れ上がりまるでプレゼントを開ける子供のように口角が上がり心地の良い多幸感が体に染み込んでくる……。
あぁだめだ……気が変になってしまう前に抑え込まないと、これに身を委ねるようになったらいよいよ終わりの時だ。
まったく嫌な本能を植え付けてくれたもんだよブルーコスモスは。
ヘロヘロになりながらミレニアムまで戻ってきたらお兄ちゃんが甲板に座り込んでるね、あららルナの姉御に追い出されちゃったか。
気の毒だけど私には都合がいい状況だ。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「うん? マユか? どこ行ってたんだよこんな時間に」
素知らぬ顔でお兄ちゃんの隣に座り込んで肩にもたれかかる、この暖かさは精神を安定させてくれる。
「ちょ、へへ、なんだよマユ。くすぐったいぞ」
「別にいいじゃん……」
頭をぐいぐい押し付けて甘えちゃうよ。
こうしてお兄ちゃんと触れ合っていると自分が生体CPUだということを忘れられる。
ずっと前の、誰も殺さなくて良かったあの頃に戻れるような気がするんだ。