はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
「おい、嬢ちゃん。起きてるか、そろそろ時間だぞ」
ムウさんの声で私は微睡から覚醒する。
ここは宇宙、私は今オーブのイズモ級戦艦クサナギと共に月面のダイダロス基地へと航行している。
そう、お察しの通り私はレクイエム攻略組ってことだね。
ちなみにムウさんはアカツキに乗って一足先にレクイエム直上まで向かってるよ。
ミラージュコロイドによるステルス行動をしているってこともあって移動はゆっくり、正直暇なので昼寝をして体力を温存してたってわけだ。
一流の軍人ってのはどんな状況でどんな場所でも眠れるもんだからね。
今回コンパスとオーブは戦力を三つに分散して同時に作戦を展開することになっている。
私たちレクイエム攻略組とファウンデーション主力艦隊を陽動するミレニアム、そしてアルテミス要塞に囚われた総裁の救出組だ。
ただでさえ少ない戦力が更に減って各個撃破のリスクが増えるけどファウンデーションもブラックナイツの七人が戦力の大半ってことを考えるれば、向こうにも不利を押し付けられる戦術ではあるね。
敵の対応能力を飽和させつつ連合やザフト正規軍との挟撃を図るのは中々いい案だと思う。
それ込みでギリギリの作戦だけどね、レクイエムによる戦略的有利はやはり莫大だ。
「なあ嬢ちゃんよ。俺が言えたことじゃないかもしれんが、絶対に生きて帰るんだぞ。お前さんには帰りを待ってる人がいるんだからな」
ムウさんからの優しい言葉に思わず私は笑いそうになってしまった。
だってこの人、これから戦略級兵器をMS一機で受け止めるんだよ? ホントに死ぬななんて言えた立場じゃないよ。
彼を送り出す時はクサナギの船員一同で見送りもしたけどその時の空気は完全に生前葬のソレだった。
オーブ軍のみんなも一人で出撃するムウさんに敬礼をして貴官の勇気と献身に感謝いたしますとか言ってむせび泣いてたぐらいだ。
もう完全に死ぬものだと思われてる。
さすがに縁起でもないことすんなと怒ってたけど、こればっかりはねぇ。
私はムウさんならやれると信じてるし、実際にやれたってことを知っているけど……常識的に考えたら無理でしょこれ、いくらヤタノカガミとはいえレクイエムを跳ね返すなんてとても想像がつかない。
ムウさんのパイロット技能はとても高い。
准将やお兄ちゃん、それとアスランとかの影に隠れ気味ではあるけど普通に世界最高峰のパイロットだ。
そしてこの計画はそのぐらいの技能が前提として求められた上で成功するかどうかは神のみぞ知るってものになる、分の悪い賭けってレベルじゃないね。
ただムウさんって運の強さだけなら上記の三人を明確に上回ってるんじゃないかと個人的に思っている。
だからこれは彼のツキとレクイエムとの勝負だ、何としてでも勝って欲しいところだよ。
「フラガ大佐こそ、アカツキは高価なMSなので壊したら弁償するのが大変ですよ。気を付けてくださいね」
「ちょっと勘弁してくれよ。俺の安月給で弁償って、何年かかると思ってんの。こりゃあ慎重にやらなくちゃだな」
私の冗談にも余裕で受け答えをしてくれてる、これが不可能を可能にする男の胆力か。
まあでもムウさんばっかりを心配してるわけにもいかないんだけどね。
横っ面から奇襲を仕掛けるとはいえクサナギ一隻とその艦載機であるムラサメが十数機、あと私しかいないんだから。
対するザフトのクーデター部隊とファウンデーションの護衛艦隊はどれぐらいだろうか……でも少なく見積もってもこちらの数十倍の数はいるわけでして。
正面から進撃してくる連合の残存艦隊たちと合流するのを前提に作戦は計画されてるけど、下手したら合流を待たずに一瞬でクサナギが轟沈してもおかしくない状況なんだよね、数の差を考えると。
これはもうそれだけ私に期待が寄せられてるって前向きに考えておくしかないね。
なあに合流までの時間はそう長くはないんだ、持たせてみせるさ。
さて、准将やお兄ちゃんの方はどうなってるかな。
ミレニアムは陽動として動いている、既にレクイエムを一発囮として受けていて宇宙まで上がってきているよ。
戦術リンクは構築済みだからここからでも戦況は見えている、今はファウンデーション艦隊とぶつかってるね。
うーん、ミレニアムの動きがおかしいな、機動力特化のMAみたいな動きをしてる、これが海賊戦法ってやつか~、比喩表現無しで暴れ散らかす戦艦を見るのは初めてだよ。
陽動のはずなのにコイツ一隻で敵を全滅させんとばかりの勢いだから、事情を知っているはずの私でもこっちが本隊だったっけとなってしまっている。
そしてお兄ちゃんたちの方はやはりというか機体を乗り換えている。
デスティニーにインパルスの識別が見えるね。
ゲルググにはヒルダの姐さん、イモータルジャスティスにはアグネスが乗ってるらしい、念願が叶って良かったね、私もジャスティスに乗ってみたかったな。
ちなみに最初は姐さんとアグネスのどっちがジャスティスに乗るのかでちょっとお話合いがあったらしいけどあっさりと姐さんが譲ったらしい、ベテラン故の余裕かそれとも戦死したマーズさんとヘルベルトさんと同じ機体で意趣返しを狙っているのか。
で、ザっと見た感じあからさまに数で負けてるけど機動戦に持ち込むことで敵の連携を阻止してる感じかな、正念場だけあってかみんな動きがキレキレで頼もしい。
それとアルテミス要塞の方はアスランの乗るストライクフリーダムがシヴァと交戦中か……ああいや、ズゴックが要塞内から出て来てる、総裁の救出は成功したらしい。
これにはオルフェ閣下もお冠だろう、だとすればそろそろ。
「月内部に高エネルギー反応を検知」
来たか、アカツキは現着済みだからオーブの命運はフラガ大佐の力量次第だ。
ここからなら直接カメラで視認できる距離なのでクサナギクルーのみんなと固唾を呑んで見守る。
ステルス機能の付いたコンテナから解放されたアカツキはゼウスシルエットを構えてレクイエムの第一偏向リングに狙いを付けた。
「垂直軸線、誤差修正、射出電圧臨界……! いけぇーっ!!」
ゼウスシルエットによって発射された陽電子砲弾は無事にリングを破壊、碌に見えもしない標的によくやるよ、おかげでオーブの命脈は保たれた。
後はアカツキがレクイエムの照射を受けきれるかだけど……。
レクイエムから発射された大出力ビームはまっすぐアカツキに向かい直撃、機体全体を呑み込まんとするエネルギーの濁流がそのままヤタノカガミに吸い込まれていく。
そして金色のアカツキが暁色に染まりながらビームを反射させレクイエムとその護衛艦隊にメギドの火が牙を剥く。
「おぉ……!」
すごく神々しい光景だ、アカツキがレクイエムを押し返して光の雨が月面に降り注いでる……宗教画か何かに描かれるような場面が現実に起きている。
発射口付近にいたザフト艦隊はビームの乱反射に巻き込まれてかなりの数が轟沈、レクイエムも外殻を破壊されて被害を受けてる。
これでしばらくは時間が稼げるね、エネルギーのチャージに八分、そこにプラスして偏向リングの用意とレクイエム自体の修復、そう長くはないけど賭けに出るには十分だろう。
さっすがムウさんだ、完璧にやり遂げてくれた。
通信も歓声でお祭り状態だ、雄叫びだったりむせび泣く声が響きまくって凄くうるさい、なんかこっちは戦闘に入ってすらいないのに祝勝ムードすら漂ってるよこれ。
でもまあ……月並みな言い方になるけど、私もムウさんの活躍に感動してしまった、傍から見てるだけではあったけどアレを冷静に受けきる姿には人間の可能性的なものを感じたね。
まさに英雄が生まれた瞬間だ、オーブの歴史にも残りそうな偉業だよ。
戦闘が終わったらサインを貰わないと。
「総員傾注!」
クサナギの艦長、アマギ一尉が号令をかける。
大はしゃぎしていたオーブの無線が静まり返った。
「本艦はこれよりファウンデーションおよびザフト艦隊との交戦に入る。目標はレクイエムの制圧、または完全破壊である。全機! 武器使用自由! オーブに死の刃を向けたものを決して許すな!」
ドスの入った命令と共にクサナギのステルス偽装が解除され、ムラサメ隊が発進していく。
現時点での戦況は不利……いや、圧倒的に不利。
もうレクイエムの次弾を防ぐ術は使い切ったし敵の数はこちらを圧倒している、戦力で勝る相手をわずかな時間で突破できなきゃ自動的に負けが確定する。
いや~、後手後手とはいえひどい状況だよこれは。
それでもオーブ軍の士気は高い、それはもう高い、みんなやる気マンマンで「カガリ様万歳!」とか「オーブの為に!」とか言いながら数十倍の相手に臆することなく突っ込んでいってる、頼もしい限りで実に結構。
やはりムウさんの活躍が兵士に与えた影響は大きい、なにせ士気の高さは部隊の戦闘力に直結する。
どれだけ潜在的な戦闘力が高くとも士気が低ければそれを発揮することは出来ないからね、味方を鼓舞するっては大事なことだ。
目の前で不可能を可能にした男の姿を見たんだからみんなも後に続け―ってなるのもまあ自然なことなのかも知れない。
ふ~む、もうすぐムラサメも展開し終わる頃かな、私もボチボチ行こう。
そっと操縦桿を撫でる、これはちょっとした願掛けだよ、オーブには付喪神信仰って文化があるからね。
パイロットが想いを込めればMSの方も応えてくれるかもしれない、非科学的だけど軍ではよくある験担ぎと思ってちょうだいな。
この子はオーブに地下深くに眠っていたどこかの誰かが乗っていた機体だ。
いったいどこから拾ってきたのかは定かでないけど、これも一つの運命ってやつなのかもしれない。
本来なら埃を被って押し込められていたはずの所を引っ張り出してあげたんだからどうか私に力を貸して欲しい。
オーブを……故郷を守る力を。
いやでもコイツに守る力って言うのも少し変な話かも……。
まいっか、せいぜい上手く使ってあげるよ、だから頑張って。
首筋にジェットインジェクターを押し当ててオーブ謹製のγ-グリフェプタンを投与する。
生体CPU、リンケージ良好。
「マユ・アスカ、デストロイ発進します!」
クサナギとデストロイを繋ぐ牽引用ワイヤーを分離させスロットルを押し上げる。
この重さ……なんとも懐かしい気分だ。
さて、アコードの計画もレクイエムもぶっ壊しにいくとしようか。